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2007年2月

Q4:映画盗撮って何ですか?

:タイゾーさん、私はQ3で御質問しました乙女です。ご親切にお答えくださってありがとう。

 さてすいませんが、また質問です。先日、楽しみにしていた映画を観に、映画館に行きました。映画館に行くと上映前に、必ず「ビデオカメラによる映画の録画録音禁止!」という映像が出ます。私は大画面で観るのが好きなので映画館に行くのですが、わざわざ上映中にビデオ録画する物好きな方っているのでしょうか。そもそも著作権法で禁止されているんですよねえ?教えてください。

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:またまた質問ありがとう。24歳の乙女だったら、毎日でもメールで質問を受け付けてもいいくらいだぜ。まずは、メールアドレスの交換をw

 さて、映画盗撮についてだけど、上映中の映画を著作権者に無断で録画録音することは、著作権法では複製権(21条)の違反となる。だから、映画館は映画を盗撮したやつについては、著作権法違反で捕まえられるはずだ。

 ところがだ。ここで映画館スタッフを泣かせるのが「私的複製」の規定だ。私的複製は何かってーと、個人的・家庭内で使用することを目的として著作物を利用する場合には、例外的に著作権者に無断で複製することができるという、金を惜しむユーザーが一番当てこんでいる規定だ(30条1項)。例えば、家にあるビデオデッキで好きな時間にテレビ番組を観るためにタイマー予約録画するのは、この例に当たる。

 この規定が最近、映画館で槍玉にあがっている。近ごろハンディカムなどの小型カメラで、きれいなデジタル画像で録画することが簡単になっている。そのよう機器を使って上映中の映画を録画する「カムコーディング(camcording)」が問題となっている。まあ、おうちの中だけで見るのならいいのだが、真の目的は海賊版販売だ。繁華街でよく売られている。おれも観たことあるが、ブレなどもなく、本物DVDと見まごうほどだ。上映と同時に映画入場料より多少安く販売されるので、上映中の配給→DVD販売→テレビ放映という二次利用を当て込んで製作している映画ビジネスにとっては大打撃だ。ユーザー、特に(親などの)他人の褌で飯を食っている学生やニートにとっては早くそして安く(又は無料で)観られれば映画ビジネスのプロセスなんてどうでもいいのだろうが、映画でおまんまを食べている業界人にとっては、たまったものではない。

 海賊版販売目的のカムコーディングは、現行の著作権法でも当然違法だ。しかし、映画館スタッフが捕まえると、10中8,9「いえ、これは家で見るために録画している私的複製で合法です」と言い訳されて、泣く泣く犯人を逃がしている、というのが映画業界の言い分のようだ(『産経新聞』平成19年1月27日付け 1,3面参照)。

 ここで日本の映画業界人は、著作権法改正に(勘違いして?)立ち上がり、政治家に泣きついたようだ。具体的に言うと、「悪の根源」である私的複製規定によるユーザーのメリットを抑制し、映画館での上映中映画の録音録画を私的利用目的であろうがなかろうが、著作権侵害として違法化するということである。報道によっては、DVDを販売する期間までの間に限定するという案も上がっているとのことである。

 また映画業界人を勇気付け(勘違いを助長し?)ているのが、アメリカの" Family Entertainment and Copyright Act of 2005"だ。この法律の2319B条(a)においては、「著作権者の許可なく、動画表示機器から、視聴覚記録機器を用いて著作権法で保護された映画その他視聴覚作品の複製を故意に作った者、あるいは作ろうとした者は、3年以下の懲役、ないし罰金、あるいはその両方を科される。違反が2回目以上の者は、6年以下の懲役、ないし罰金、あるいはその両方を科される。」と規定され、映画館内のカムコーディングを抑制する内容となっている。

(三井情報開発株式会社 総合研究所『知的財産立国に向けた著作権制度の改善に関する調査研究』48-49頁(平成18年3月)参照)

 以上のような経緯を経て、平成19年2月23日の自民党政調・知的財産戦略調査会での審査を経て、「映画の盗撮の防止に関する法律案」が議員立法として、著作権法の特別法として今通常国会に提出される予定とされている(第166回国会衆議院公報 第20号 平成19年2月21日付 318頁参照)。

 だがなあ、俺の意見として言わせてもらえば、カムコーディングって制度改正するほどのものなのだろうか。海賊版販売目的のカムコーディングは現行著作権法でも違法だ。ただ「私的複製」という言い訳に反論できずに犯人を逃がしている現状を改めたいというのが、今回の改正動機だ。しかしそれだったら、映画館は建物所有者又は占有者として、管理権を行使して、私的複製であってもやめさせることはできる。本屋での図書の携帯カメラ撮影の禁止はこれによる(決して「マナー違反」に止まる問題ではない)。また刑罰であれば、無断で映画館に入場したとして、刑法130条の住居侵入罪に問える可能性はある。中学生がガムを万引きしたときに「トイレに行くだけだった」と言い訳したときと状況が似ていると思うのだが…。

 なお、アメリカは著作権法の世界では、グローバルどころかローカル(あるいは亜流)なので、参照にはなっても、参考にはならんw。

*参照:文化庁ウェブサイト 映画の盗撮の防止に関する法律について

Q3:星の王子さまの新訳本ブームの背景

:タイゾーさん、はじめまして。私は昨年4月に大学の仏文科を卒業して就職した24歳の乙女です。

 この前、職場の休み時間にフランス語の資料を読んでいたら、職場の先輩から、「フランス語を読むんだったら、星の王子さまの翻訳もしたのかなあ?」「それの昨年の新訳本ブームって、著作権法によって作られたものだからねえ」っておっしゃっていました。

 私は昨年、新潮社から出た「星の王子さま」の文庫本を買いましたが、確かに昨年はいろんな出版社から「星の王子さま」の本が出ましたね。そもそもフランス語の本の翻訳って、勝手にしてはいけないのですか?また先輩が言っていた、ブームが著作権法によって作られた、とはどういう意味なのか、教えてください。

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:新人さんに、薀蓄を垂れる先輩かあ。俺もそんな環境に身を置きたいものだな。

 質問に入るけど、外国語作品の翻訳については、著作権者の権利の一つである翻訳権(著作権法27条)が働く(こういう利用の形態に応じて働く権利を「支分権」という)。だから「星の王子さま」を創作したサン=テグジュペリまたはその相続人の許諾を得る必要がある。でも、著作権は有体物(自動車、野菜、パソコンなど)とは異なり、永久に続くものではない。ある一定の保護される期間を経過すれば消滅する。これを「保護期間」という。

 日本の著作権法では、著作者の死後50年経過したときに著作権が消滅すると規定されている(52条1項)。これはサン=テグジュペリのようなフランス人が書いたものについても適用されるんだ。日本国内ではね。

 これを「星の王子さま」について単純に当てはめる。サン=テグジュペリが死亡したのは、1945年9月10日(認定死亡時)。著作権法では、保護期間の起算点は死亡日の翌年の1月1日から計算するので(57条)、1995年12月31日まで著作権が働き、その翌日の1996年1月1日から自由に使えることになる。出版社にとっては、著作権者の許諾を得なくてもベストセラーの翻訳本を出せるので、一大ビジネス・チャンスだよね。

 でも新訳本ブームは、1996年には起こらなかった。それはなぜか?

 その原因は著作権保護期間の「戦時加算」だ。戦時加算とは、日本が第2次大戦後の連合国軍占領状態から主権回復するためのサンフランシスコ平和条約の締結に当たり、太平洋戦争中で著作権を行使できなかった期間を戦時中の外国の著作物の保護期間に加算するというものである。太平洋戦争前から存在する著作物については、戦争開始時から平和条約発効前日まで、戦時中に発生した著作物については、著作権発生時から平和条約発効前日までの期間が加算される(連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律第4条1・2項)。

 「星の王子さま」はどうかというと、創作されたのが1943年4月6日(初版発行時)と仮定した場合、フランスに対して平和条約が発効したのは1952年4月28日(昭和27年内閣告示第1号・外務省告示第10号(昭和27年4月28日官報号外第51号))なので、戦時加算期間は3310日となる。これを本来の保護期間終了時である1995年12月31日に足し算すると、最終的な保護期間終了時は、2005年1月22日ということになるんだ。よって、同月23日以降が翻訳が自由になる日になると一般的に解されている。かくて「新訳本ブーム」が起きたというわけだ。

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