Q7:大学の学内共有サーバーにソフトを溜め込みたいと言われているのですが
Q:タイゾーさん、はじめまして。ぼくはとある地方の国立の理系大学で仕事をする、しがない事務職員です。毎日、天才と思い込んでいる研究者どもから膨大な研究費要求をはじめとした無理難題を押し付けられ、発狂しそうな毎日です。
さてさて、とある日のこと、事務室にある研究室のメンバーがやってきて、教授から「学内のそれぞれの研究室にあるソフトウェアをみんなで共有して研究環境を飛躍的に改善したいので、でかいサーバーを買ってくれ」と言われました。うちの研究員が作ったものだけでなく、市販ソフトも入れたいとのことです。
そこで「先生、そんなのまずいですよ。某国立大学なんて、違法ソフトをコピーしたということで著作権団体から裁判所から処分をくらっているんですよ。」と言ったところ、
「けしからん!それは憲法で保障された大学の学問の自由を侵害するものだ。第一、ソフトウェアを作った技術者は大学で使われることに誇りを持つはずであり、文句を言うわけがない。クレームを言っているのは、裏で儲けている著作権団体だけであって、真の権利者であるクリエーターの意向に反している」と、理系人特有の屁理屈で反論されました。
さらに、教授の後ろにいた助教が「大学のような教育現場では、教育のために使うのであれば、ソフトウェアのような著作物をコピーするのは例外的に許されているんですよ」と言われました。
研究者のやつらが言っていることは本当なのでしょうか。辞職願を書くか、ソフトウェア著作権団体のBSA(ビジネス ソフトウェア アライアンス)に不正として通報するかで悩んでいる今日このごろです・・・
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A:辞職するくらいだったら、先にBSAに通報して謝礼をもらった方が得だぜ(笑)
あんたが教授たちに言った裁判所の処分とは、次のことだよなあ?
リリース記事 2005/09/15 中国地方の国立大学に証拠保全を実施(BSAウェブサイト)
これは、てめえんとこの教授どもと同じように、大学でアドビやら一太郎やらを「違法」にコピーしたところ、裁判所の手入れが入ったというものだ。教授たちが言うように、コピーをすることが憲法上保障されるとか、著作権法上例外的に許されている、というのであれば、この「中国地方の国立大学」とやらが、BSAからの証拠保全請求に屈することはなかったはずだ。それではどの点が違法だったのか?
大学の研究のためにコピーすることが、憲法上の学問の自由(憲法第23条)で保障されるか?研究自体は保障されるだろう。だが一方で、コピーのもととなるソフトウェアを創作した者は、著作権という財産権を有し、憲法第29条第1項で保障されることになる。ここで2つの憲法上の権利が対立することになるが、その場合は人権相互の抑制均衡が働くことになる。学問の自由と言えども、「公共の福祉」に服して権利が制限される場合があるということだ。どうしてもコピーを禁止する著作権法の規定が憲法違反だと教授どもが主張するなら、著作権者から差止請求されたときに憲法訴訟を起こすことだな。
次にゴマスリ助教が言っていた著作権法上の例外だが、おそらく著作権法第35条第1項(学校その他の教育機関における複製等)のことを言っているんだろうなあ。
だがなあ、Q6でも言ったように、この権利制限の適用を受けてラッキーな思いをするには条件がある。この場合は、次の条件を満たす必要がある。
1.学校その他の教育機関において
2.教育を担任する者及び授業を受ける者
3.その授業の過程における使用に供することを目的とする場合
4.必要と認められる限度
5.当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数、態様に照らし著作権者の利益を不当に害することがないこと
大学で教授が行うという点では、1,2の要件を満たすだろう。だがなあ、大学での研究自体は授業じゃないよなあ。少なくとも、大学内の教員、研究員が自分の研究のために利用することは授業ではない。また、学内共有サーバーにソフトウェアをインストールして学内の研究者が使えるようにすることは、5の要件を満たさない。ソフトウェアは、一台につき一つずつインストールして利用することを想定して販売されることが通常だからだ。
よって、ソフトウェアを学内サーバーにインストールしてみんなで使えるようにするには、ソフトウェアの著作権者の許諾を得なければならない(ここがポイント。逆に言えば、許諾さえゲットすれば、済む話ではある。結構忘れがちだが…)。
なお教授が「ソフトウェアを作った技術者は大学で使われることに誇りを持つはずであり、文句を言うわけがない。」と言っているが、これは民事法上の契約で言えば、単なる許諾の推測であって、著作権者の意思表示は何も表示されていない。許諾の意思が表示されていないのに勝手に利用すれば、著作権法上違法と言うことになる。確かに著作権は事後許諾がOKではあるが。
著作物の利用ではそんな「作ったやつは利用してよいと思っているはずだ」という思い込みが横行しているが、それは片思いの女性に「あの子は俺のことを好きなはずだ」と考えて行動するのと等しいだろう。
つうことで、以上のことを教授たちに言ってみろ。それでもだめなら、BSAに通報するか、転職するか、省庁への転進希望を出して何十年か後に大学理事として学内規律を正してくれや。
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