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2007年8月

Q10:公立高入試問題を情報公開請求される前にネットで公開したいのですが

:こんにちは。私は教育委員会事務局に今年配属された新人公務員です。

 役所に入って初めて知ったのですが、情報公開請求って、される方って多いのですね。それも、単に職員の裁量ではなくて、県の情報公開条例にしたがって行政処分として情報公開の開示決定をしないといけないと知って、少し驚きました。

 部署で多い請求文書としては、公立高校の入試問題があります。件数的に多いので、結構大変です。請求があるたびに入試問題をコピーしないといけないし、上司や情報公開担当部署に説明して決裁をとらないといけないし。

 こんなに多いのなら、いっそのこと、入試問題をインターネットにアップロードして、請求される方の手間を省いたほうが、情報公開度を上げていいのでは、と考えるようになりました。

 でも入試問題は、普通の行政文書とちがって、小説とかエッセイのような小説家の文章が載っていますよね。こういうものを小説家の方々に断らないで情報公開請求のためにコピーしたり、インターネットにアップすることってできるのですか?教えてください。

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:おっす!情報公開制度って、ほんとは行政に対する市民の監視や行政の民主化・透明化を目的としているが、ほとんどがマスコミの取材活動やマニアックな市民の道楽に使われていて、悲しいことだな。入試問題の情報公開請求だって、てめえの子どものために私的につかっているだけだしな。

 さて、Q8の暇人が平日の昼間から国の審議会に傍聴に言って、議事録や配布資料を即日ネットにアップすることについては、著作権法的には厳しいと書いたが、お前のような行政の職員が情報公開条例に基づいて開示決定を行う場合は別だ。

 具体的には著作権法42条の2により、情報公開条例の規定により著作物を公衆に提供・提示することを目的として同条例で定める方法により開示するために必要と認められる限度で、当該著作物を利用することができると規定されている。

 したがって、情報公開請求に基づいて請求者に対して開示決定された入試問題を閲覧するために複写し、またその複写物を提供することは、同規定により著作権者に断りなく行うことができる。国語の入試問題のように、小説家の作品が掲載されていても、それは同じだ。

 では、請求される前に予めインターネットに入試問題をアップすることはどうか。情報公開制度は請求者の開示請求及びそれに対する開示決定により行われるのが基本である。したがって、情報公開を目的としていても、予めネットにアップすることについて、著作権法42条の2は適用されない。原則に戻って、著作権者の利用許諾が必要となる。もちろん、県の職員が作成した問題文については、職務著作(著作権法15条)として県がネットのアップロードについて決定することができる場合があるだろうがな。

 なお、入試問題に小説家等の他人の著作物を利用することは、著作権法36条1項により許諾が必要ないと規定されている。いちいち許諾を得ていたら、問題が漏洩しちまうからな。だが、その入試が終わった後に過去問題として利用することまでこの規定で許されているわけではないので、その際は原則に戻って、許諾が必要となる。

 前にも言ったよな。許諾がいらないというラッキーな思いをするには、条件があるんだって。同じ入試問題でも、条件を満たさない利用については、著作権法36条1項という権利制限規定は適用されないわけだ。

 「ふんじゃあ、過去入試問題の活用ができなくなるよー」っていう悲鳴が聞こえてきそうだ。しかしこれについては、東京私立中学高等学校協会の有志が中心となって「著作権利用等に係る教育NPO」が、平成16年12月から小説家の団体である社団法人日本文藝家協会との間で運用している「私立中学高等学校における包括的な補償金制度」による過去入試問題の著作権処理が参考になるだろう。

*参照:文化審議会著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第3回)議事録・配付資料1-2

 つうことで、役人には大変だが、入試問題をアップするときは権利関係をよく確認しないといけないな。情報公開制度を超えて過去問を活用したいと考えたときは、地道な著作権処理・運用を行うんだな。

Q9:台湾人の著作権って、日本で保護されるの?

:タイゾーさん、こんにちは!Q4の映画盗撮の話ではいろいろ質問に答えてくださって、ありがとうございます。すいませんが、またまた質問します。

 哈日族(ハーリーズゥ)って知ってますか?日本のアニメや文化などに興味のある若い世代をいい、台湾の漫画家で日本大好きな哈日杏子(ハーリーキョウコ)さんが作った言葉だそうです。私はこの哈日杏子さんの漫画が好きで、本も何冊か持っています。

 この前、ネットを見ていたら、漫画をスキャンしてアップしている掲示板があって、その中に私が持っている哈日杏子さんの漫画の画像がありました。

 さっそく掲示板の管理人の方に「それは著作権侵害に当たるので、すぐに削除してください」ってメールしました。すると管理人の方からの返信では「哈日杏子は台湾人で、台湾は日本政府と国交をしていない未承認国家。そういう未承認国家の著作権は守らなくていいって、政府が言っています。その例として北朝鮮がありますよ。」って書いてありました。

 これって、本当なんですか?著作権って人権なんだから、どの国の方でも守らないといけないんですよねえ?どういうことなのか、教えてください。

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:また来たんだな、Q4の乙女さん。あんたの質問だったら、ほかのしけた質問を飛ばして、すぐに答えてあげるよ。

 「著作権って人権」ってどっかで聞いたことがあるが、憲法の基本的人権とは違い、世界どこに行っても通用する権利じゃないぞ。あくまで、国の法律によってつくられた権利だ。そして原則として日本の法律は日本だけで、台湾(中華民国)なら台湾国内だけに効力が及ぶ。これをまずはおさえてほしい。

 その上で、わが国の著作権法で保護を受ける著作物(第6条)を確認しよう。

1.日本国民の著作物

2.最初に国内において発行された著作物(最初に国外において発行されたが、その発行の日から30日以内に国内において発行されたものを含む。)

3.前2号に掲げるもののほか、条約によりわが国が保護の義務を負う著作物

 哈日杏子の漫画が1.に当たらないとして、2.に該当することはありうるだろう。その限りでは掲示板の管理人が言っていることが当てはまらない場合があることになる。

 では、2.にも該当しない漫画についてはどうか?

 こういう場合がまさに、ベルヌ条約などの著作権国際条約の出番だろう。各国の著作権法は各国内でしか通用しないが、国外にも流通する著作物について国外に著作権を主張することができないとなると不都合であるため、そのような国際条約が多数国間で締結されているのだ。

 台湾について言えば、ベルヌ条約には加入していないが、WTO設立協定には2002年1月1日に加盟しており、これと一体となっているTRIPS協定第9条で「加盟国は、1971年のベルヌ条約の第1条から第21条まで及び附属書の規定を遵守する。」とされているため、台湾人の著作物は第6条第3号の「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」として、日本の著作権法で保護されることになる。

 では、掲示板管理人が「未承認国家の著作権は守らなくていいって、政府が言っています。」と言ったのは、どういうことなのか?

 これはおそらく、北朝鮮が2003年にベルヌ条約に加盟したときの政府の見解を元に言ったものだろう。このとき、日本と北朝鮮との間で著作権が発生するかどうかについて、

日本は北朝鮮を国家として承認していないため、北朝鮮がベルヌ条約に加盟しても、日本に対して法的な効果を一切及ぼすことはなく、日本との間で条約上の権利義務関係が生じることはない。」というコメントを文化庁が出している(『コピライト』20037月号13頁)。

 そうなると、日本の未承認国家である台湾に対してもまた、日本では条約上の権利義務は発生しないのか?

 ところがどっこい、台湾はWTO設立協定には、実は国家として加盟していない。2001年9月18日のWTOのプレスリリースで、"WTO successfully concludes negotiations on entry of the Separate Customs Territory of Taiwan, Penghu, Kinmen and Matsu"と報じているように、独立の関税地域(チャイニーズ・タイペイ)として加盟している。WTO設立協定では、国家だけでなく独立の関税地域も加盟でき(第12条)、内国民待遇など、「国」を含む規定において、国と同等に独立の関税地域にも適用されるのだ(注釈)。関税地域ということであれば、北朝鮮の場合とは異なり、国家承認をしているかどうかは条約の効力に影響を及ぼさない。

したがって、台湾人の哈日杏子の漫画は、日本の著作権法6条3号により著作権は保護されることになり、哈日が著作権侵害を主張すれば、さっきの管理人は責任を問われることになる、っつーことだな。

【追記】
北朝鮮映画テレビ放映事件
東京地方裁判所判決 平成19年12月14日

平成18(ワ)5640   平成18(ワ)6062

知的財産高等裁判所判決 平成20年12月24日

平成20(ネ)10011 平成20(ネ)10012

最高裁判所第1小法廷判決 平成23年12月8日

平成21(受)602

【参照】

台湾における著作権侵害対策ハンドブック2』(文化庁、平成23年3月)112-113頁

文化庁『著作権なるほど質問箱』「私は台湾人ですが、私の書いた絵画は日本で保護されますか。

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