Q12:著作権ってどうしたら放棄できるの?
Q:私は国会議員だ。いまさっき議会の委員会で大臣に質問したら、おかしな答弁をされたのでとまどっているところだ。
内容はだなあ、ある省のウェブサイトの外注について一般競争入札ではなくて、競争原理が働かず政府の調達価格を高くする随意契約がなぜずっと続いたのかと質問したところ、ウェブサイトの作成者が持つ著作権という排他的権利を保護するために、会計法第29条の3第4項(契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合及び競争に付することが不利と認められる場合においては、政令の定めるところにより、随意契約によるものとする。)に基づき随意契約にしたという答弁が返ってきた。
だが、実は私が昨年の臨時国会でこのウェブサイトの随意契約について質問して半年経った今年になって、いきなり一般競争入札に切り替わっている。そこで「一般競争入札にできるんだったら、なぜ始めからしなかったんだ。そもそもこれでは排他的権利の保護にはならないではないのか」と質問したところ、「ウェブサイトを作成した法人に著作権を放棄してもらいました」と大臣が答弁した。
私は「??」となった。著作権はいつ発生するのか、そしてどういう形で放棄することができるのか、書面が必要なのか。
いま委員会が休憩に入っているが、再開後にこの点を突っ込んで質問したいので、これに関する資料を、院内(国会議事堂)の控室にまで至急FAX回答してくれたまえ。
A:なぜお前から給料やギャラをもらっていないのに、至急FAX回答しなくちゃいけないんだよ。サービス残業しまくりの中央省庁の官僚(+研修生の法人職員 or 地方自治体職員)や議員のパシリの国会職員ならともかく。まあ、今回貸しをつくってやるから、その代わり俺が考えている著作権新法を議員立法として提出することを条件に答えてやるよ。
著作権は著作物を作成した時点で発生し、そのために特許のように登録をしたり、書面を作成したりする必要はない。法律では「著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない」(著作権法第17条第2項)と規定されている。無方式主義というやつだな。
このように登録もせずに一旦発生した著作権を放棄することはできるのか。一般的には著作権は財産権である以上、著作権者は放棄できると解されている。例えば、元内閣法制局参事官の作花文雄氏は「著作権法では、特に権利の放棄については規定していないが、財産権をその権利主体の意思で放棄することは、著作権の担保権者等の利益を害しない限り、禁止されるべきものではないと考えられる」(作花文雄『詳解 著作権法[第3版]』(ぎょうせい、2004年)419頁)と説明している。なお昭和41年10月に公表された『著作権及び隣接権に関する法律草案(文部省文化局試案)』では第76条第1項で「著作権は、その全部又は一部を放棄することができる。」と規定され、同条2項で放棄した著作権は消滅するとされていたが、「解釈に委ねるべきだとされ最終的に削除され」ることとなった(作花・前掲419頁)。
質問にあったウェブサイトの著作権について言えば、ウェブサイトが完成した時点で著作権は登録も何もせずにそのまま発生し、放棄についても著作権者が政府に「ぼく、著作権を放棄したのでよろしく★」と電話一本など意思表示を一旦すれば完了し、消滅することになる。元権利者(放棄者)と利用者が分かっていれば、著作権の範疇ではそれで完了することになる。
ただここで問題なのは、著作権者が放棄したことを第三者からは分からず、また一旦は放棄しても登録制度や書面などの証拠がなければ、放棄者が一度言ったことを撤回して「ぼく、著作権者だよー」と再度主張しても著作権を否定することが困難であるということだろう。
この点を気にしてか、現行著作権法の立法担当者の加戸守行氏は「著作権を放棄することができるというのは、単に著作権を行使しないということではなくて、新聞広告その他によって著作権を放棄するという積極的な意思表示があった場合にだけ放棄の効果が発生すると解すべきであります。」(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、2006年)377頁)と説明している。著作権の放棄による消滅が第三者に不明であることを懸念しての記載と思われるが、「積極的な意思表示があった場合にだけ放棄の効果が発生する」ことについての根拠規定がない以上、苦しい説明と思われる。中山信弘東大教授も「他の一般的な財産と比較して著作権だけにこのような厳しい要件を課す理由はなく、要は放棄の意思があったか否かという証明の問題にすぎない。」と批判している(中山信弘『著作権法』(有斐閣、2007年)349頁注9))。このような結果は、無方式主義による帰結だろう。
これに対して、特許権は設定の登録によって発生し(特許法第66条第1項)、放棄することはできるが(同法第97条)登録をしなければ効果は発生しない(同法第98条第1項第1号)。権利の発生・消滅について登録を要件としていることから、第三者のリスクは低減されることになるだろう。
以上のように、著作権があるかどうか、どこにあるのかいう利用者の不安は権利発生の要件となる登録制度がないことによると考えられる。権利者が不明の著作物の問題(アメリカの" Orphan Works "問題)や保護期間の延長によるその不安の増幅の懸念はその延長上にある。最近では(著作権の意味を理解しているかどうかはともかく)、みんなに利用してほしい、ネットで流してほしいから著作権はいらないのに、勝手に著作権が発生して扱いに困っているという若手クリエーターもいるようだ。
著作権を放棄するわけではないけれどもインターネットを通じた利用を促進させたいクリエーターにとっては、著作権者が利用条件を明示するための仕組みを決めているクリエイティブ・コモンズは注目されるものであろう。また、それを超えて、著作権を放棄してパブリックドメイン(公有)にしたいという者については、著作権放棄の登録制度を設ける必要が出てくるかもしれない。
議員のあんたに対するファイナルアンサーとしては、たとえ血税の使い道を透明化すべき調達費用と言えども、著作権に係る権利処理は無方式が原則であり口約束でも権利が移転、消滅するものであるため、政府への追求は難しくなるということだな。どうしても「透明化」ということであれば、会計法でその仕組みをつくることだな。
ちなみに、「政府調達に係る著作権に限って、方式主義に変えればいいのではないのか」と言われそうだが、わが国が加盟するベルヌ条約を脱退しない限り、それは困難だな。ベルヌ条約第5条(2)で無方式主義が規定されており、加盟国の日本もこれを遵守しないといけないからな。
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