« 2008年6月 | トップページ | 2008年8月 »

2008年7月

Q30:審議会議事録メモをブログに掲載したら、勝手にコピペされていたのですが

:こんにちは。Q8Q24で回答していただいた法人職員です。ご丁寧な回答文、ありがとうございました。著作権法上気をつけなさいというアドバイスを戴きましたが、やはり行政の責任追及に対する思いを絶つことはできず、審議会の発言内容をパソコンにかちゃかちゃ入力してブログにアップする日々が続いています…。

 さてQ24でもお伝えしたとおり、私が書いた審議会議事概要の速報版はID認証によってアクセスを制限していますが、ユーザーさんによってはその内容を自分のブログに引用して転載することがあります。もちろん、行政省庁の責任追及に役立つなら全然かまわないと思っています。

 ところが、実はそのユーザーさんの中に裏切り者がいるのか、あるいはユーザーさんが引用した文章を見て書いたの知りませんが、私が批判する省庁を「○○課長、マンセ~!!」「審議会事務局が提案する■■政策は即時承認されるべきだ!」などと賛美し、我々批判者のことを「△△省を批判する奴らは逝ってよし!」「平日の昼間から審議会を傍聴する暇があったら、ちゃんと働け!w」などと、私が書いた審議会議事メモを引用して誹謗中傷していました…

 そこで何とかこいつを懲らしめたいと思っているのですが、よく考えてみれば、私の審議会概要には著作権が発生しますよねえ?審議会の内容はもっと長いところ、私が内容を整理・吟味し、オリジナルな構成をしたことにより、著作物としての創作性が認められるからです。

 私が記載した文章の転載部分が多いことから、著作物の引用(著作権法第32条第1項)は成立しないと考えています。

 そこで、この誹謗中傷野郎のブログを著作権によって削除要求できないか、ぜひ教えてください。

==========================

:オッス!久しぶりだな。てめえはまだ懲りずに役所の審議会の議事メモを書いているんだな。

 議事メモから著作権が発生するかどうかは、それが「事実の雑報」(法第10条第2項)に過ぎないのか、あるいは誰かが何を言ったのか、どういう行動をとったのかという事実の記述についての選択や配列に創作性が認められて「編集著作物」(法第12条第1項)となるのかどうかにかかっていると言えるだろう。つまり、文章にお前の思想又は感情が現れて著作物(法第2条第1項第1号)として認められるかどうかということだ。

 この点、ブログに掲載した裁判傍聴記の著作物性を争ったライブドア裁判傍聴記事件判決(知的財産高等裁判所平成20年7月17日判決・平成20年(ネ)第10009号)によれば、

①傍聴記における証言内容を記述した部分については、「証人が実際に証言した内容を原告が聴取したとおり記述したか,又は仮に要約したものであったとしてもごくありふれた方法で要約したものであるから,原告の個性が表れている部分はなく,創作性を認めることはできない。」として著作物性を否定

②証言内容を分かりやすくするために書いた大項目や中項目等の短い付加的表記については「大項目については,証言内容のまとめとして、ごくありふれた方法でされたものであって,格別な工夫が凝らされているとはいえず、また、中項目については、いずれも極めて短く,表現方法に選択の余地が乏しいといえるから、原告の個性が発揮されている表現部分はなく、創作性を認めることはできない。」として著作物性を否定

③証人の経歴部分を裁判の主尋問と反対尋問から抽出し、傍聴記の証言順序を実際の証言順序そのままではなく時系列に沿って順序を入れ替え、さらに固有名詞を省略する等、傍聴記には分類と構成の創意工夫が認められるから創作性が認められるべきである(これって要は編集著作物なんだって主張しているに等しいよな)とという原告の主張に対しては「原告の主張する創意工夫については、経歴部分の表現は事実の伝達にすぎず、表現の選択の幅が狭いので創作性が認められないのは前記のとおりであるし、実際の証言の順序を入れ替えたり、固有名詞を省略したことが、原告の個性の発揮と評価できるほどの選択又は配列上の工夫ということはできない。」として著作物性を否定

ということで、裁判所は結論として原告傍聴記を著作物であると認めることはできないとして、請求を棄却している。

 ブログの強みは速報性といわれるが、お前はわざわざ審議会に傍聴に行って、その会議が終わってから間をおかずに手数かけてメモを作成しブログに入力していることから、その苦労を著作権として認めて欲しいのかもしれないな。だがなあ、このブログで何度も行っているように、入力作業やメモ作成などをして「ぼく、がんばったよ★」と思ってもそれだけでは著作権は発生しない。著作物として認められるには、作成者の思想又は感情が現れていることが大原則だ。著作権は作成者の個性を保護するものだからな。事実を大量に収集してスピーディーに多くの人に伝達しても、それだけでは著作権法上、保護には値しない

 ほいでお前の場合はどうかというと、Q8,Q24で述べたように確かに審議会の証言や資料を無断で利用したことについては著作権侵害の可能性があるが、編集著作物の成立においては「仮に無許諾で編集物に収録したとしても、その素材の著作物の権利を侵害したという問題はあるが、編集著作物としては別途保護される」(作花文雄『詳解 著作権法(第3版)』(ぎょうせい、2004年)117頁)ことから、その限りで考える必要はないだろう。

 だがなあ、お前がQ8で「公正を期するため、特に論評や説明等は、加えていません(そんな時間もないし)」と言っているように、特に自分の考えや文章を書き加えているわけではなく、議事の内容を要約して掲載しているに過ぎない。順序も多少は変えているかもしれないが、それはブログ入力の都合であって(さすがに全部書くことはほぼ不可能だろうしな)、特にお前の個性が現れていることと考えることは困難だろう。

 つうことで、お前がブログの無断掲載者に著作権を根拠に削除を要求することは難しいだろうな。

Q29:生演奏のピアノバーで歌ったのですが…

:タイゾーさん、こんばんは!「Q14:プロポーズでラブソングを歌ったのですが」で質問したサラリーマンです。あのときに教えていただいたことを彼女に説明したところ、お蔭様でプロポーズOKの返事をもらいました。春には結納も済ませて、あとは結婚式・披露宴を待つばかりとなりました。

 職場の同僚や上司からも祝福されました。そんなこんなで昨晩、課のみんなでお祝いに飲みに行こうということになりました。同僚の一人がこの街でちょっとしゃれた店ということで、生演奏で歌を歌えるピアノ・バーに行きました。入ったところ、店内が北欧風のしゃれたデザインになっていて、通信カラオケの代わりに、有名音大に在籍中でピアノ練習目的で店に来ていたピアニストの女性がピアノを弾き、その伴奏に合わせて歌うという形になっていました。店のオーナーはその音大の出身で、恩師からの依頼でピアノ専攻の学生が入れ替わりに演奏しているということでした。その代わり修行ということで無給で演奏しており、従業員でもバイトでもないということです。

 また例によって平井堅の「思いがかさなるその前に・・・」をピアノに合わせて歌いました。いっしょに店に来た職場の人のほか、そのほかのお客さんからも「結婚、おめでとう!」という歓声をいただき、久しぶりに感動してしまいました。

 歌い終わったとき、後ろから「チョッエーキ、ジュ~ネン(笑)!」という笑い声が混じった大声が聞こえました。聞き覚えのある、それでいて不吉な笑い声でした。

 後ろを振り返ると、Q14で絡んできたよっぱらいのオヤジでした。つるっ禿げで毛が一本しかないのでおっさんだったので、すぐに分かりました。「おまえ、久しぶりだなあ。あんだけ言ったのにまた著作権侵害したのかい。懲役10年だぞ!!」ぼくはさっきの笑い声で言われたことをようやく頭の中で漢字変換できました。

 「おまえ知っとるかい?この店はなあ、無断で楽曲をピアノ演奏して、客に歌わせているということで、JASRACから何度も警告を受けているんだ。それが証拠にこの店の入口にはJASRACの許諾ステッカーが貼られていないだろ、おれの通いのカラオケスナックと違ってなあ。」といい、続けて「つうことで、そんな店で歌ったお前さんは、この店と著作権侵害の共同正犯つうことで、警察にタイーホされるってことになるんだな(爆)」

 ぼくは呆然としました。職場のほかの人たちも「著作権って、最近ニュースで逮捕者がいるって話題になっているよねえ…」とヒソヒソ言って唖然としていました。

 「ふはははぁ。結婚直前に服役というのはめったにないわなあ。さてと、明日は会社の休暇をとって、地元のJASRAC支部の事務所に通報しに行くぞ!」とオッサンは人の不幸を喜び勇んでいる感じで、上機嫌でした。

 結婚直前に「ピーンチ」となってしまいましたが、ぼくはほんとに犯罪者なのでしょうか?すいませんが、教えてください。。。

==========================

:オッス!結婚オメだな。まあ、俺さまの言うことを聞いたからってーものだな。

 質問の件だけだとなあ、お前は禿げオヤジに大声で言われて動転しているのかもしれないが、慎重に考えれば著作権侵害をしていないのは、すぐにわかるはずだ。それをこれから一緒に考えてゆこう。

 本件で問題になるのは、JASRACの管理著作物(Q14参照)である「思いがかさなるその前に…」を利用したことについて著作権侵害が発生したのかどうかということだ。

 この点、有名音大の女子大生は不特定の来客の面前で(公に)ピアノ伴奏をしていることから、演奏権(法第22条)が働く利用をしている。また、あんた自身はやはり不特定の来客の面前で(この点で、Q14であんたが彼女の前だけで歌ったのとは異なる)その伴奏に合わせて歌っていることから、やはり演奏権が働く利用をしている。ちなみに、著作権法上の「演奏」には歌唱も含まれる(法第2条第1項第16号)。

 そんじゃあ禿げオヤジが言ったように「懲役10年!」(法第119条第1号)の罰則が科せられるかというと、即座にはそうならない。非営利目的で聴衆から料金を受けずかつ歌唱者や演奏者に報酬が支払われない場合には、法第38条第1項により著作権者(JASRAC)の演奏権が制限される。したがってピアノを弾いていた女子大生も、歌ったあんたも同項により著作権侵害の責任を問われることはない

 ではおっさんが「この店はなあ、無断で楽曲をピアノ演奏して、客に歌わせているということで、JASRACから何度も警告を受けているんだ」と言ったのはどういうことなのか?

 これは正にQ20(図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…)でも説明したカラオケ法理によりピアノ・バーに責任が認められた事例ということになる。カラオケ法理のポイントは、直接の著作物利用者に侵害責任が認められなくても、その利用者を支配しかつその利用によって儲けている黒幕がいる場合に「しめしめ、これで大もうけだわぃ」と言わせないように、その黒幕を著作物利用の主体と法的に構成し、著作権者からの損害賠償なり差止請求なりの主張を裁判所が認容することができるようにすることにある。

 この点、今回の質問と同様の事案であるレストランカフェ・デサフィナード事件(平成19年1月30日 大阪地裁 平成17年(ワ)第10324号 著作権侵害差止等請求事件)では、「ピアノ演奏は、通常のレストラン営業の傍らで定期的に行われるものであって、被告が本件店舗に設置したピアノを用いて行われ、スタッフと呼ばれている複数の演奏者が定期的に演奏を行っていたものであり、ウェブサイトにおいても『毎火・金・土曜日にはピアノの生演奏がBGMです』と宣伝していることからして、ピアノ演奏は、本件店舗の経営者である被告が企画し、本件店舗で食事をする客に聴かせることを目的としており、かつ本件店舗の『音楽を楽しめるレストラン』としての雰囲気作りの一環として行われているものと認められる。そうすると、ピアノ演奏は、被告が管理し、かつこれにより利益を上げることを意図し、現にこれによる利益を享受しているものということができるのであって、被告の主張するように、これをレストラン営業とは無関係にアマチュアの練習に場所を提供しただけであると見ることはできない。」とした上で、レストラン側が客から料金を取っていないし演奏者にも報酬を支払っていない旨主張したところ「ピアノ演奏を利用して本件店舗の雰囲気作りをしていると認められる以上、それによって醸成された雰囲気を好む客の来集を図り、現にそれによる利益を得ているものと評価できるから、被告の主観的意図がいかなるものであれ、客観的にみれば、被告がピアノ演奏により利益を上げることを意図し、かつ、その利益を享受していると認められることに変わりはないというべきである。」として、レストランをピアノ演奏の主体と認定している。

 なお、このカラオケ法理のように、第三者の著作物利用についてある者の著作権侵害の主体性を認定する際に注意しなくてはいけないのは「著作物利用=著作権侵害」ではないということだ。著作権者側から見ると無許諾に使われると著作物利用は悪に見えて、たまに非営利無料の演奏や私的複製の規定などの著作権制限規定が適用される利用に遭遇すると「ちっ、運のいい奴だなあ~」と思いがちだが、何のために著作権制限の規定があるのか(もちろん、単なる免罪符ではない)を考え直すべきだな。Q20で図書館内のセルフコピーについての説明でも言ったように、公益を促進するために設けられた著作権制限規定の主体として著作権侵害責任を問えない場合があるという考えもあっていいはずだ。逆に言えば、直接の利用者が著作権侵害していない利用についてまで侵害責任を問えるのは、裁判所にとっては便利なのだろうが。

 つうことで、たとえ店が著作権侵害で訴えられても、あんたが責任を問われることはないから、安心することだな。むしろ、「懲役10年!」って言ったおっさんを名誉毀損罪(刑法第230条第1項)で告訴したらどうだい(爆)

« 2008年6月 | トップページ | 2008年8月 »