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2008年8月

Q31:国会事務局に情報公開請求したいのですが…

:はじめまして。私は環境保護を守る市民運動に参加しているものです。実は活動の中で法律に係ることが問題になりましたので、メールいたしました。

 いま監視している環境破壊のターゲットは、東京の都心の真ん中にある森林地帯です。そこは周りが高層ビルやオフィスばかりなのですが、幸い偶然が重なって環境保全されているところで、野鳥が住み着いています。周辺の人間にとっても癒しの場となっています。

 ところが最近、この森に国会のある院が新しい国会施設を建設するということで、大騒ぎになっています。私が所属する団体や周辺住民の方々がこの院の事務局に対して反対するのはもちろんのこと、どのような建物を建てるのかが分かる資料の要求をしているのですが、いろいろ言い逃れをされて、満足な説明を受けていません。

 そこで行政省庁と同様に情報公開請求をして資料を入手しようと思うのですが、どうすればいいのか教えてください。あと気になったのが、著作権です。建設会社などが作成した設計図などの複写を求める場合、著作権を理由にコピーを断られることはないでしょうか?ぜひご教示ください。

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:国会事務局かぁ。そんなマニアックな役所のことを聞かないでくれよーって言いたいとこだが、答えてやるよ。それに情報公開については、以前にも「Q10:公立高入試問題を情報公開請求される前にネットで公開したいのですが」でも回答したが、今回のテーマは別の観点で著作権法が問題になるから、ついでに教えてやるよ。

 まず情報公開の根拠法についてはあんたも知っているかもしれないが、国の行政省庁については、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律42号・情報公開法)が適用される。その第2条第1項では、以下の行政機関を対象に情報公開を行うとしている。

一  法律の規定に基づき内閣に置かれる機関(内閣府を除く。)及び内閣の所轄の下に置かれる機関
二  内閣府、宮内庁並びに内閣府設置法 (平成11年法律第89号)第49条第1項及び第2項に規定する機関(これらの機関のうち第4号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。)
三  国家行政組織法 (昭和23年法律第120号)第3条第2項 に規定する機関(第5号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。)
四  内閣府設置法第39条及び第55条並びに宮内庁法 (昭和22年法律第70号)第16条第2項の機関並びに内閣府設置法第40条及び第56条 (宮内庁法第18条第1項において準用する場合を含む。)の特別の機関で、政令で定めるもの
五  国家行政組織法第8条の2の施設等機関及び同法第8条の3の特別の機関で、政令で定めるもの
六  会計検査院

 これを読んで気づくのは、国会(衆議院、参議院など)や裁判所は情報公開法の適用外であるということが分かる。したがって、これらの機関に情報公開法に基づいて情報公開請求しても「うちは法律の適用外です★」といって門前払いをできるというわけだわな。職員は「余計な仕事が増えなくてラッキー☆」っと思っているかもしれないな。
 しかしそれではマスコミからの突っ込みや世間体が悪いと思ったためか、最高裁判所では最高裁判所の保有する司法行政文書の開示等に関する事務の取扱要綱 などを、衆議院では衆議院事務局の保有する議院行政文書の開示等に関する事務取扱規程などを定めて、法律によらない情報公開制度を始めたようだ。最高裁判所は開示対象文書を「司法行政文書」とし、衆議院は「議院行政文書」と規定している。両者の大きな違いは、議院行政文書においては「事務局の職員が行政事務の遂行上作成し又は取得した文書、図画及び電磁的記録のことをいいます。したがって、立法や調査に係る文書すなわち本会議や委員会等の会議の運営や立法活動・調査活動に関わる文書は、この規程による開示対象文書に含まれていません」と文書の範囲をかなり限定していることだ。これは情報公開法第2条第2項で規定する行政文書と比べても限定していると言えるだろう。

 ちなみに、情報公開の対象にならない「国会議員の活動に支障を来すものというものは具体的にどういったものがあるのか」という篠田陽介衆議院議員の質問に対して、駒崎衆議院事務総長は「先生方が特定のだれかとお会いになっていたというような、特定の政治活動を明らかにするような情報があれば、会派または議員の活動に支障を及ぼすおそれがあるものに当たるのではないか」と国会で答弁している(第169国会 衆議院予算委員会第一分科会 平成20年02月27日)。つうことは、議員さえ特定できなければ、例えば衆議院調査局がどういうくだらない仕事をさせられているのか(葉書書き、支援者の子どもの宿題の作成等)、業務内容自体を開示請求することは可能なのかもしれないな。

 また最高裁判所や衆議院が行った、情報公開請求に対する開示決定・不開示決定の性質がよく分からない。行政機関においては、その開示決定等は行政庁の公権力の行使に当たる行為として行政不服審査法や行政事件訴訟法の対象となり、不服申立てや行政訴訟の対象となるところ、最高裁や衆議院の決定について不服がある場合の取扱いが問題となる。司法・立法権力の行使なのか、広報活動の一環なのか、はたまた裁判官様・国会議員様のお情けなのか…。一応、最高裁も衆議院も文句の持ってきどころ(苦情処理機関)を設けているがな。ただ、更に文句がある場合に裁判所(司法機関)に持っていくことができるかどうかはわからないが・・・。
 この点、自由人権協会が2002 年11月15日付けで最高裁判所長官に宛てた申入書によれば「法廷傍聴などを通じていわゆるロッキード事件の真相究明に関し司法機関が果たした役割を研究してきた当協会会員が、最高裁判所に対し、ロッキード事件において最高裁判所宣明書が出された件に関する4点の司法行政文書の開示を請求したところ、最高裁判所が、それらの大半を不開示とした事例があります。同会員は、この不開示を不服としつつも、それらの文書の開示自体を求める手だてがないため、国家賠償請求訴訟の提起という方法しか採ることができませんでした。」と書かれているように、やっぱり開示決定を求める不服申立を司法機関で争えないようにするのが、立法化しない狙いのようだな。この中で触れられている裁判は、東京高判平成17年02月09日(平成16(ネ)3752)として判決が出されているが、その裁判要旨は「最高裁判所が裁判官会議の議事録のうち意見表明や議論等の議事の過程が記載されている部分について法令に別段の定めがあるときは開示しない旨を定める最高裁判所の保有する司法行政文書の開示等に関する事務の取扱要綱の規定及び裁判官会議は公開しない旨を定める最高裁判所裁判官会議規程(昭和22年最高裁判所規程1号)8条により上記部分を不開示とした措置は,同条が裁判官会議の非公開にとどまらず同会議の議事録のうち意見表明や議論等の議事の過程が記載されている部分及びこれを推知させる部分について公にしない趣旨をも含むものであって,国家賠償法1条1項にいう違法があるとはいえない。」となっている。ほんとはもっと、司法行政もその政策形成過程について、国民にもっとオープンにしないといけねえんだろうがな(新藤宗幸『司法官僚 裁判所の権力者たち』(岩波新書、2009年)211-225頁参照)。

 だがなあ、立法化しないとやばい問題がある。それが著作権の問題だな、これが(笑)。何が問題かってーと、このブログの「行政機関」カテゴリーで再三言っているように、役所が持っている著作物の中に第三者(民間人など)が著作権を有するものが含まれる場合には、当然そいつの著作権が原則として働く。それは情報公開請求であっても同様だ。
 そこで「Q10:公立高入試問題を情報公開請求される前にネットで公開したいのですが」でも説明したように、情報公開請求の開示決定に基づいて役所以外の者が著作権を有する著作物を利用する場合には、著作者人格権(法第18条第3・4項、第19条第4項)や著作権(法第42条の2)を制限することができる旨、著作権法で規定されている。
 「ふ~ん、じゃあ問題ないじゃんww」って言われそうだが、ここで問題になるのが、これらの規定が適用される役所の範囲なんだな、これが。

 著作権法の条文を読んでみると、第18条第3項で次の機関による情報公開について適用する旨規定されており、同条第4項、第19条第4項、第42条の2もそれにならっている。
①行政機関の保有する情報の公開に関する法律第2条第1項に規定する行政機関
②独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律第2条第1項に規定する独立行政法人等
③地方公共団体又は地方独立行政法人
これだけだ。最高裁や衆議院が①に該当しないのは既に述べたところだ。キャツラの情報公開決定があえて著作権法の権利制限規定に盛り込まれなかった理由としては(1)著作権を理由に不開示決定をしたかったから、(2)単純に忘れていた、(3)私的複製などの他の権利制限規定によって許諾がなくても利用できると考えた、の3通りが考えられるだろう。
 理由が(1)の場合は、役人的には「あったまいい!」と言えるかも知れねえな。ただ、どちらの機関も「情報公開法の趣旨を踏まえ,国民に対するアカウンタビリティ(説明責任)を果たすために」(最高裁衆議院)情報公開の運用を行っている以上、著作物の利用について情報公開法と違いを設けた理由を説明する必要があるだろう。また、誰が作ったのか、著作権を持っているのか分からない資料の場合にはリスクが残るだろう。
 理由が(2)の場合は、明日から1ヶ月間、著作権行政を担当する省庁の係員のところに毎日通い詰めて「しゅいません、次の著作権分科会で著作権法を改正するように至急決めてください」と土下座をしにいくしかねえな(笑)。すでにやっちまったー、ってものがあるかもしんねえから、必死にやらんとな。そのためには、著作権制限の適用対象となっている行政機関の情報公開法が法律になっていることの並びから考えると、国会事務局の情報公開に関する法律を立法化することが大前提だ。事務総長決定なんていうちゃらい規定なんかで著作権制限をしてもらえるほど、世間はスウィートじゃないぜw
 
 こんなこと言うと「行政機関だって、裁判所だって国会だって同じ国の機関なんだから、類推できんじゃねーの?」って言われそうだが、神奈川県公文書公開条例事件(東京高裁平成3年5月31日判決)では、「著作権法の公表権は、著作者人格権に属するものであり…法律の明文の規定がないのに、みだりに類推解釈により公表権を制限すべきではなく、まして、法律の授権に基づかない条例の規定の解釈運用によって、著作権法により与えられた公表権を制限するような結果をもたらすことは許されないものといわなければならない。したがって、条例五条一項二号の『明らかに不利益を与えると認められる』の解釈により、著作権者に重大な損害が生じないからとして、公表権の侵害を容認する結果を認めることは許されないものである。」として、原告による設計事務所の建築物設計図の開示請求の訴えを退けた。当時は著作権法に情報公開条例に関する権利制限規定がなかったからな(参照:多賀谷一照「50 情報公開と著作権 -神奈川県公文書情報公開条例事件」別冊ジュリスト『著作権判例百選(第3版)』[斉藤博・半田正夫編](2001年)102-103頁)。著作権の権利制限規定は厳格に解釈するのが基本だしな。

 理由が(3)である可能性としては、「衆議院事務局の情報公開について」で「開示の実施方法は、原則として閲覧又は謄写です。謄写は、窓口内に設置されたコインベンダー付き複写機を利用して行っていただきます。」と説明しており、開示請求者を複製の主体と構成した上で私的複製規定(法第30条第1項)により著作権者の許諾が不要になるから国の機関以外が著作権者である資料をコピーしてもOK!とも読み取れるが、開示請求者にコピーさせたことを以って衆議院事務局が著作権法上の責任を免れないことは、「Q20:図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…」でも説明したとおりである。
 この点、衆議院事務局が参考にした(前出の国会答弁で駒崎衆議院事務総長は「裁判所において実施されている情報公開の制度を参考にいたしまして、衆議院事務局の保有する議院行政文書の開示等に関する事務取扱規程を事務総長決定で制定した」と発言)最高裁判所の運用によれば、「裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の基本的取扱いの実施の細目について(依命通達)(平成13年9月14日付)」で次の方法によると規定している。
(ア)当該裁判所の庁舎内において開示申出人が持参した複写機等を使用させる方法
(イ)当該裁判所の庁舎内に設置された複写機(コインベンダーが装着されたものに限る。)を使用させる方法
(ウ)当該裁判所の庁舎内の謄写業者に謄写を委託させる方法
また必要に応じて、裁判所が指定する当該裁判所の庁舎外の謄写業者に謄写を委託させる方法によることもできるということだ。ただ、部分開示すべき文書(文書中に個人情報が含まれているものなど)について、どうやってセルフコピーや、業者に委託複写をしているのかは分からんがな。黒塗りする前の状態だったら不開示部分が見えちまうだろうにw
 このような複写の方法は、裁判所などの国の機関が作成した資料だけを開示の対象としている場合には特に著作権法上の問題は生じないが、民間人が作成した資料を開示した場合には次のような問題が生じると考えられる
 (ア)は開示申出人による私的複製という言い逃れができる可能性はあるかもしれないが、(イ)と(ウ)は法務局と民事法務協会(コピー受託業者)が著作権侵害の責任を問われた「土地宝典事件(東京地判平成20年1月31日〈平成17年(ワ)第16218号〉最高裁HP掲載)」とほとんど同じではないのか。このような著作物の利用について著作権侵害の責任を認めたカラオケ法理(物理的な利用行為の主体とは言い難い者を、「著作権法上の規律の観点」を根拠として、①管理(支配)性および②営業上の利益という二つの要素に着目して規範的に利用行為の主体と評価する考え方であり、クラブ・キャッツアイ事件(最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁)において採用されたもの(上野達弘「いわゆる『カラオケ法理』の再検討」紋谷暢男教授古稀記念『知的財産権法と競争法の現代的展開』783頁(発明協会、2006)を形成したのは裁判所自身ではないのか。カラオケ法理の主な論者である高部眞規子判事MYUTA事件(東京地判平成19年5月25日(平成18年(ワ)第10166号)最高裁HP掲載)などを担当)や、前出の土地宝典事件を担当した設樂隆一判事に聞いてみたいとこだな。
 

 ちなみに衆議院では、「『衆議院所蔵絵画一覧及び永年在職表彰議員一覧』(平成20年5月16日付衆庶発第306号)の開示についての件」について衆議院事務局情報公開苦情審査会に諮問したところ、同年7月2日付けで「『衆議院所蔵絵画一覧及び永年在職表彰議員一覧』につき、その一部を不開示としたことについては、別表1に掲げる部分は不開示が妥当であるが、その余の別表2に掲げる部分については、行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条1号、2号及び4号に該当するとして、衆議院事務局の保有する議院行政文書の開示等に関する事務取扱規程3条3号により不開示としたことは妥当でなく、開示すべきである。」との答申が出された旨、公表されている。衆議院が所蔵している絵画の掲揚場所や購入金額などの項目の開示について争われたようだ。よかった、よかった。絵画そのものを複写提供しなくて。

 ちゅーことで、役人は毎日、文化庁の「著作権テキスト」や愛媛大学法文学部・法学特講・JASRAC寄附科目「現代社会と著作権」でも読んで、著作権法のセンスを絶えず磨く必要があると言うことだわな。というか、なんで情報公開に関する規定を法律で定めないのかを百万回問い詰めたいとこだが…。早く立法化して著作権法の権利制限規定を置かないと、やばいっちゅーに(爆)。(社)自由人権協会が「国会の保有する情報の公開に関する法律案」をわざわざ作成してくれているんだから、速攻で作れるだろうに(笑)。

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