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Q33:図書館の海賊版所蔵資料を廃棄しろと言われたのですが…

:こんばんは。私はとある大学図書館に勤務する者です。このブログに時々登場する公立図書館とは違って利用者が限定されているため、言いがかり的なクレームは少ないですが、利用者のレベルが高いため、学術論文のデータベースの整備や、当大学の研究者の機関リポジトリ(institutional repository; 大学、研究機関が主として所属研究者の学術論文等の研究成果を収集、蓄積、提供するシステム。機関が主体となって、収録する文献の種類や範囲を決める。科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会『学術情報基盤の今後の在り方について(報告)』(2006年)72-73頁の構築などで忙しい日々です。

 当館でも小説は収集しているのですが、ある日のこと、本学に所属しない、ある高名な文学賞を受賞したことがあると名乗る初老の男性が怒った感じで利用者入口にやってきました。何でも当館が著作権を侵害している資料を所蔵しているので、その廃棄を求めに来たということです。

 さっそく事務室に御案内し、上司と2人で話を聞きました。男性曰く、

「私は、名門高校を学生運動で中退した後、大検で有名大学に入学し、作家としての道を歩むまでの自伝を綴った『俺って、何様?』を書いた。ところが最近、バラエティー芸人の野郎が、暴走族で捕まって高校を中退した後、大手芸能プロダクションのスクールに通って芸人になるまでの過程を著した自伝『ワテって、なんやろ?』を出版した。タイトル、筋書き、内容があまりにも似ており、また自分をおちょくった感じで書かれていて著作者としての人格権も侵害されているので、その芸人とプロダクションを相手に著作権侵害訴訟を起こした。それと並行して全国の図書館にどれだけ所蔵しているか、インターネットの所蔵検索システムで調査している。その結果、この大学の図書館にあることが分かった。ぜひその本を廃棄して欲しい。」

とのことでした。

 その男性の気持ちは分かりましたが、当館には図書館としての資料保存の責任があります。それにもし要求どおりに廃棄すれば、「船橋市西図書館図書廃棄事件最高裁判決」(最判平成17年7月14日民集第59巻6号1569頁)で示されたように、今度は廃棄をした(本当に著作権侵害をしたかどうかも分からない)資料の著者から人格的利益を侵害したという理由で訴えられかねません。正に「前門の虎、後門の狼」といった状況です。

 そこで上司からは「御事情は分かりましたが、当館では資料保存義務があり、また裁判所のように著作権を侵害しているかどうかを判断することができません。当館の内規で、裁判で著作権侵害が確定した場合か、当事者で話し合いがついてから廃棄を決定することになりますので、それらのいずれかが決まってから、再度お越しください。」と伝えました。

 すると男性は「そんなチャライ内規なんて関係ないねぇ。裁判の判決がなくても、著作権を侵害しているのは一目瞭然なんだよ。書いた人間が言っているんだから間違いない。あんたら、著作権侵害の書籍であることを知ってしまった以上、そのまま資料を持っていたら著作権侵害になるんだよ。言うこと聞かないと、今度はこの図書館を訴えてやるからな!」と半分脅し気味に大声を出しました。

 このまま書籍を利用者に提供した場合には、本当に著作権侵害の責任を問われるのでしょうか?まだ著作権侵害であるかどうかを確信できない状態なのに。ぜひ御教示ください。

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:オッス!また図書館ネタか。ニュース、学会や、(既に大失敗した新会社法や新信託法の制定に続けと言わんばかりに)著作権「規制」緩和(著作権を規制と考えている時点で、既にデンパだが…)の象徴として企業やお抱え弁護士が情熱をこめて論じているフェアユース議論において、図書館はほとんど話題に上らないが、著作権の本質に迫る上では意外と重要かも知れねえぞ~

 著作権侵害した資料による図書館サービスって、まさに「Q27:平成20年度新司法試験科目の著作権法の問題解説をしてください」で解説した平成20年の新司法試験の知的財産法の問題(第2問・設問3)を地で行っているよな。もっとも、「平成20年新司法試験論文式試験問題出題趣旨(11-12頁)の中では、これから論じる、みなし侵害(法第113条第1項第2号)の論点には触れていないがな。ただ法学セミナー編集部編『新司法試験の問題と解説2008』別冊法学セミナーno.198(2008年)の356頁に書かれている模範解答例(駒田泰土上智大准教授が解説)の中では、ちゃんとみなし侵害の論点が書かれているぜ!

 小説家のおっさんが言った「著作権侵害の書籍であることを知ってしまった以上、そのまま資料を持っていたら著作権侵害になるんだよ」という脅しは、いま言った著作権のみなし侵害規定が適用されるのではないのか、ということだろうな。法第113条第1項第2号では、著作者人格権、著作権等を侵害する行為によって作成された物を、情を知って、頒布し、若しくは頒布の目的をもって所持、輸出、輸出目的で所持した場合には当該著作者人格権、著作権等を侵害する行為とみなすと規定している。このうち特に問題となるのは「情を知って」とは何をどこまで知った場合をいうのかということである。

 この点著作権法立法担当者の加戸守行氏は、法113条1項1号の著作権侵害作成物の輸入行為については故意・過失の有無を問わずに著作権侵害とみなされるのに対して、同項2号の頒布行為については、「ひとたび権利侵害によって作成された物であればそれを取り扱う人が全部権利侵害とすることには問題がありますので、『情を知って』という要件を付加した」と説明している(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、平成18年)654頁)。

 その上で、「情を知って」の内容については「権利を侵害する行為によって作成された物であるということを知りながら頒布し、又は頒布する目的で所持することでありまして、誰が、いつ、どこで、どのようにして作成したかということまでも知っている必要は」ないとだけ説明している(加戸・前掲654頁)。もしこのとおりだとすると、図書館側は、著作権者と名乗る者が著作権侵害を主張した場合には「情を知って」しまったことになり、著作権侵害を確信できないため廃棄を保留したい場合に訴訟等を提起された場合には、ぶっつけ本番で裁判所の判断(真に著作権侵害なのかどうか)にしたがって廃棄するかどうかを決せられることになるだろう。

 ただこれでは図書館側は、やっかみ程度の著作権侵害の主張に対しても正面から対応せざるを得なくなる状態になり、かつ廃棄資料の著者からの人格的利益の主張のリスクにも晒され、図書館運営を正常に行えない可能性が高くなるだろう。この点、中山信弘氏は、みなし侵害規定が刑事罰も課せられていることを勘案した上で、「単に侵害の争いがあるとか警告を受けたというだけでは情を知っているとまではいえないだろう」としている(中山信弘『著作権法』(有斐閣、2007年)509頁)。

 なおプログラムの著作権を侵害する行為によって作成された装置の頒布等について差止請求した裁判例(システムサイエンス事件(東京地判平成7年10月30日判時1560号24頁))においては、「『情を知』るとは、その物を作成した行為が著作権侵害である旨判断した判決が確定したことを知る必要があるものではなく、仮処分決定、未確定の第一審判決等、中間的判断であっても、公権的判断で、その物が著作権を侵害する行為によって作成されたものである旨の判断、あるいは、その物が著作権を侵害する行為によって作成された物であることに直結する判断が示されたことを知れば足りると解するのが相当である」と判断して、差止請求を認容している。

 この判決をもって、作成行為が著作権侵害であることについての判決確定、仮処分決定、中間的判断等の裁判所による公権的判断があったことを知らなければ、「情を知つて」には該当せず、みなし侵害規定は適用されないという見方が考えられる。しかし、上記判決は、著作権侵害の確定判決がなくても、別件高裁決定の告知を受けた時点において「情を知っ」たという要件を満たすことを述べたに過ぎず、著作権侵害に係る公権的判断がなければみなし侵害規定が適用されないと考えるのは早計だろう。

 思うに、加戸氏が述べているように、頒布行為について「情を知って」要件が付加されたのは、作成物の流通過程に係る人々を全部権利侵害とするのを防ぎ、そのうちみなし侵害と評価するに値する者についてだけ罰則を含むみなし侵害規定を適用することを目的とする。

 そうするとだなあ、頒布行為の流通に係る奴らというのは、いわば著作権侵害作成物の管理人的な地位にあると言えるだろう。そいで、取り扱っている最中に著作権侵害であることを認識した場合には著作物の利用を中止し、侵害作成物の流通を食い止めるべきである。一方で、管理人として著作権侵害状態を知ったにもかかわらず著作物利用を継続した場合には、みなし侵害規定が適用されると解するべきである。

 法第113条第1項第2号と同様の規定としては、国外頒布目的商業用レコードの輸入(いわゆる還流レコードの逆輸入)に関するみなし侵害規定(法第113条第5項)がある。この規定においても著作権等の侵害とみなされるためには「情を知つて」が要件となるが、その内容については「日本における販売を禁止されるレコードであるということを知っていたという意味でありますから、実質的には、これは日本における販売を禁止している旨の表示がその商業用レコード、音楽レコードにあった、あるもの、それを輸入する行為というものが該当する」との政府答弁がなされている(第159回国会・衆議院文部科学委員会議録第23号・平成16年5月28日・4頁・素川政府参考人答弁)。例えば、音楽CDで平井堅の「SENTIMENTALovers」には、ソニーからのライセンスを受けて台湾で生産されているものがあるが、ジャケットには「日本販売禁止(この作品は指定諾地域での限定発売を条件に権利者から許諾を受けています。従って日本での発売は禁止されています)」と記載されている。この記載があるCDを輸入する場合には「情を知つて」輸入したことになる、というものである。輸入する奴はこの記載を見れば国内販売禁止CDであることが分かるし、また通常の注意を払えばそのように認識できるということだな。実務上においても、権利者が関税定率法に基づいて、音楽レコードの還流防止措置を行使するために税関に申し立てる際には、「日本販売禁止」といった表示がなされていることを示す資料を提出しなければならないこととされている(『還流防止措置を行使するに当たっての実務上の留意事項等について(通知)』(平成16年12月6日付け16庁房第306号社団法人日本レコード協会会長あて文化庁次長通知)、加戸・前掲662-663頁)。そのような表示がなければ入者等が「情を知つて」を行っていることについて立証することは困難だしな。

 同じことが、著作権侵害作成物の頒布等行為についても言えるだろう。著作権侵害の確定判決、仮処分命令等の公権的判断をはじめ、当事者間の侵害の有無の合意、その他違法作成物の管理人として著作権侵害により作成されたとの善管注意義務を果たさずに通常であれば侵害物と認識できる状況にある場合には「情を知つて」いたということになるだろう

 「情を知つて」という文言を素直に読めば、事実の認識の有無だけが問われそうだが、前述した中山氏の説明にあるように、著作権侵害に係る単純な事実(著作権侵害のでっち上げ、言いがかりなど)の認識を「情を知つて」から排除するには、利用者に注意義務を課して判断せざるを得ないだろう。

 なお本件でクレームを訴えているおっさんは自分の小説と内容が似ていると主張しているが、完全なデッドコピーではないことから、複製権侵害ではなく翻案権侵害(法第27条)の問題となるだろう。すなわち複製とは「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」(法第2条第1項第15号)をいうが、既存の著作物に新たな創作性が付加されても元の著作物の内面に具体的に存する思想・感情の具現物が利用されている限りにおいては、原著作物の権利者の翻案権が及ぶことになる。そのような翻案行為の認定は、「基本的な構成やストーリー、プロットの類似性の認定、及び原著作物へのアクセスの可能性、並びに著作物の享受者が被告著作物から原告著作物の存在を感得し得るか否かという観点から判断される。」という説明がある(作花文雄『詳解 著作権法(第3版)』(ぎょうせい、2004年)214頁)。この認定に関連する裁判例としては、名古屋地裁平成6年7月29日判決判時1540号94頁(「NHK大河ドラマ・春の波濤」事件)〔内面的表現形式の維持の観点〕、東京高裁平成8年4月16日判決判時1571号98頁(「テレビドラマ・悪妻物語/妻たちはガラスの靴を脱ぐ」事件)〔基本的内容の同一性の観点〕、最高裁平成13年6月28日判決判時1754号144頁・判タ1066号220頁(「江差追分」事件)〔原著作物の本質的特徴の感得性の観点〕などがある。このような翻案権侵害により作成された違法著作物であることについて「情を知つて」という要件を満たすには、単なる複製権侵害(デッドコピー)の場合よりもハードルが高くなると考えるべきであろう。

 以上から本件においては、図書館として本件書籍が著作権侵害作成物であること(無断で翻案したことを加味した上で)の判断について善管注意義務を払っていれば(小説家の言い分が単なるやっかみのレベルである場合など)みなし侵害規定は適用されず、小説家の主張が著作権侵害作成物であることを十分に根拠付けるものであるにもかかわらず、利用してしまった(利用者に対する書籍のコピー提供、館外貸出し)場合には、著作権侵害作成物であることについて「情を知つ」たことになり、翻案権侵害(法第27条)とみなされることになるだろう。

 補足すると、仮に所蔵資料が海賊版でみなし侵害規定が適用されるケースでも、資料の館内閲覧については著作権は及ばない。したがって、資料が海賊版かはっきりしないときに図書館が無難にやり過ごしたいと考える場合には、ほとぼりが冷めるまでコピー・館外貸出利用だけを停止することも考えられるだろう。

追記

「北朝鮮の極秘文書」図書館蔵本事件(第1審)
東京地方裁判所平成22年2月26日判決(平成20(ワ)32593損害賠償等請求事件)

「北朝鮮の極秘文書」図書館蔵本事件(控訴審)
知的財産高等裁判所平成22年8月4日判決(平成22(ネ)10033損害賠償等請求控訴事件)

※いずれも原告の請求を棄却

【参考文献】鳥澤孝之=今村哲也「第8回 図書館における著作物の活用と制度」高林龍編著代表 『著作権ビジネスの理論と実践Ⅲ』〔2011年度JASRAC寄付講座早稲田大学ロースクール著作権法特殊講義5〕(RISOH, 2013)86頁

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