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2008年11月

Q37:著作権譲渡のおいしい投資話が来ているのですが…

:タイゾーさん、こんばんは。おれは六本木ヒルズ族になることを夢見ている投資家です。そんでもって、儲け話には結構敏感なんすよねえ~♪

 そんなおれっちに、最近おいしい話が来たんすよ。これ、いつもタダで著作権情報を教えてくれるタイゾーさんにだけの秘密なんすけど、とある有名な音楽アーティストから、その人が作った楽曲の著作権をまるごと破格の値段で譲渡してくれるっていうんすよ。彼によれば「JASRACに登録している楽曲の著作権は全部ぼくの手元にあります」「ぼくは音楽出版者とはインディペンデントなんで完全な著作権者です」と言ってから、「いまは節税するためにぼくの関連会社に著作権を預かってもらっていますが、この通りちゃんと文化庁で同社へのパーフェクトな著作権譲渡の登録をしています。」と著作権登録原簿の謄本を差し出しました。確かに謄本には1番目の権利者はそのアーティストで、2番目が彼の関連会社となっています。お金を振り込んだら、おれへの著作権譲渡の登録を文化庁でしてくれるそうです。

 おれはすっかり信用したんで、銀行やサラ金から借りてでも、このまるごと著作権を買い付けようと思ってんだけど、著作権のことよく分かんないんで、何か重要な点や注意すべき点があったら教えてくれや。儲けが出たら、ちょっとは分けてやっからよ!

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:儲け話か。俺様は1日に1回、吉野家の牛丼を食えればそれでハッピーだから、とんと興味はねえな。つか、手形や株券みたいに、音楽著作権の流通を投資の対象にするって言うのは、日本では聞いたことがねえなあ。

 秘密の話か。信用してくれてありがとな。つっても、このブログに書いた時点で、日本全国のピリ辛マニアに周知の事実となっているのだが(爆)。なんでかってーと、この話はかなりうさんくさいからだ。俺様の疑問点としては主に2点ある。

 第1に、「JASRACに登録している楽曲の著作権は全部ぼくの手元にあります」というのはありえないということだ。「Q36:ユーザーフレンドリーな音楽著作権管理会社を作りたいのですが…」で言ったように、JASRACは作詞家・作曲家又は音楽出版者(著作権者)との間で著作権徴収について裁量がある信託契約の受託者をしているのであり、単なるパシリ君ではない。そして著作権は名義上JASRACに移転している(いわば預かっている状態)から、著作権者(委託者)といえども信託法上、勝手に著作権を他人に移転することはできない信託法第146条第1項では「委託者の地位は、受託者及び受益者の同意を得て、又は信託行為において定めた方法に従い、第三者に移転することができる。」と規定しているように、著作権者はJASRACの同意を得ない限り移転できないわけだ。この点、JASRACの著作権信託契約約款では次のように規定されている。

(著作権の譲渡)
第10条 委託者は、第3条第1項の規定にかかわらず、あらかじめ受託者の承諾を得て、次の各号に掲げるときは、その著作権の全部又は一部を譲渡することができる
(1) 委託者が、社歌、校歌等特別の依頼により著作する著作物の著作権を、当該依頼者に譲渡するとき。
(2) 委託者が、音楽出版者(受託者にその有する著作権の全部又は一部を信託しているものに限る。)に対し、著作物の利用の開発を図るための管理を行わせることを目的として著作権を譲渡するとき。

 したがってこの約款によれば、てめえのような単なる投資家にはJASRACは著作権譲渡を同意せず、有名アーティストから著作権を譲渡されても無効ということになる。

 第2の疑問点は、文化庁の著作権登録についてである。だいぶ前に「Q2:著作権登録して大儲けをしたいのですが」でも答えたが、著作権法では著作権を取得するための登録制度はない。何度もいうが、登録せずに著作権が発生する(無方式主義)のが著作権の特徴だからだ(著作権法第17条第2項参照)。この点で特許権、実用新案権などの産業財産権と大きく違う。

 著作権登録には主に5つの登録制度がある。実名の登録、第一発行(公表)年月日の登録、(プログラム著作物の)創作年月日の登録、著作権・著作隣接権の移転等の登録、出版権の設定等の登録である。これらはいずれも事実の推定や権利変動の表示を登録するものである。詳細は文化庁ウェブサイト「著作権の登録制度について」を参照することだな。なおたまに著作権登録は複雑であるため活用されず著作物流通に支障が生ずるという誤報があるが、『登録の手引き』を読めば小学生でも申請書を作成して提出できるレベルとなっている。逆にこれを読んでも分からなければ、小学生やり直し!確定だがな。また登録費用(登録免許税額)は1件当たり、①で9000円、②で3000円、④のうち著作権の移転の登録で18000円となっており(登録免許税法別表第一)、それほど高額というものではない。

 これらのうち③を除いた登録の一部については、「登録状況検索」を利用して、登録番号・登録年月日・著作物の題号・著作者の氏名を調査することができる。ためしに、今話題の「小室哲哉」を検索してみると、52件ヒットする(2008年11月6日現在)。同じ著作物の題号が1曲につき作詞した分と、作曲した分の2つある場合(著作物の題号が同じもの)を含むことから、(著作物の種類はこの検索結果では分からないが)おそらく同氏が作詞・作曲したものが34曲分あると考えられる。登録年月日は、平成17年10月27日・平成17年11月25日・平成17年11月29日・平成18年7月5日・平成20年5月15日と5回分ある。

 しかし、小室哲哉氏のような超メジャー級アーティストが文化庁の著作権登録をするのはごくまれだろう。なぜならば、楽曲の著作権の状況は、JASRACなどの著作権管理団体でデータベース管理され、著作者等が使用料を受け取る分には、文化庁に登録しなくても支障はないからだ。ネットでも、前に紹介したMusic Forestや、JASRACJ-WID(作品データベース検索サービス)[JASRACサイトトップページの右下にバナーあり]がある。

 今回はJ-WIDで、小室氏の曲のうちかつてJR東日本のCMで使われた"DEPARTURES"について検索してみよう。作品タイトルに「DEPARTURES」、権利者名に「小室哲哉」と入力する。すると1件ヒットしクリックすると、権利者情報として「小室哲哉:作詞・作曲」「エイベックス・グループ・ホールディングス 株式会社:出版者」「全信託 JASRAC」と記載され、演奏から通信カラオケまですべてJマークが入っている。これは、著作権が小室哲哉氏から音楽出版者のエイベックスに移転され、JASRACがエイベックスからすべての著作物利用について著作権信託を委託されていることを意味する。ここで注意の欄の「未確定」マークに注目する必要がある(2008年11月6日現在)このマークは次の意味を有する

現在は権利が未確定な状態です。
未確定は大きく分けて以下の場合があります。
1)利用者情報で権利者からの届出がない作品
2)権利者からの届出が作品の一部についてであり、その他の権利が未確定の作品
3)複数の権利者からの届出で、権利者によって主張が異なり権利が確定できない作品

 したがって、この楽曲を利用したり権利移転するときは要注意ということになるだろう。

 今回の儲け話で関係あるのは、④の著作権の移転の登録だな(著作権法第77条第1号)。この登録の効果は、著作権の変動を登録することによって、その事実を第三者に対抗することができるということだ。これはちょうど、不動産に関する物権の変動の対抗要件として、民法第177条が「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と規定しているのと同じことだ。

 このような権利の対抗関係は、著作権の二重譲渡がある場合に実力を発揮する。つまりだ、今回てめえが著作権の移転登録をめでたく受けた場合、登録を受けていないもうひとりの譲受人(音楽出版者)に対して著作権を主張できるということを意味する。民法の通説では、対抗できる「第三者」の意味としては、「登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者」、具体的には、権利の二重譲渡があったことを単純に知っていた場合(悪意)も含むが、悪意を超えて相手方を害するなどの目的を有する背信的悪意者は自由競争の範囲を逸脱して保護に値しないとされている(大判明治45年6月1日など)。ちゅうことで、今回儲け話を持ってきた奴が著作権を二重譲渡していたとしても、著作権の移転の登録を先回りして済ませあんたが善意又は単純悪意者に該当すれば、もう一人の譲受人に勝てるということになる。

 もっとも、JASRAC等の管理楽曲について文化庁で著作権移転登録を済ませたからといって、二重譲渡の場合に著作権登録していない音楽出版者等に対して優位に立てるとは俺はあんまり思えない。なぜならば、さっきの小室哲哉の"DEPARTURES"のように二重譲渡などの権利の不確定要素があればJ-WIDなどのデータベースで「未確定」マークがつき、JASRACが利用者から徴収してきた使用料を、文化庁登録上の権利者(対抗関係の勝者)に素直に渡すとは考えられないからだ。権利が確定してから払いマースということになるだろう。そうなると、二重譲渡になるような曰くつきの著作権を買い取っても著作権料をゲットすることはできず、溝に金を捨てるに等しいと言える。せーぜい、裁判所に著作権登録の謄本を持参して差止仮処分の申立をし、JASRACから利用許諾を得たユーザーども(カラオケ店、レストラン、放送局など)の楽曲利用を一時的にストップさせられる可能性があるくらいだわな。

 なお、文化庁の著作権登録事務では、J-WIDで未確定マークがあろうが業界でやばい噂が流れていようが、原則として関係なく事務をすすめることになる。不動産登記と同じように、法律上書面審査だけで済ます形式的審査権しか与えられていないからだ。

 こんなこというと、「法律の不備だ!」「法改正だ!」あげくのはてにはユビキタスネット社会の制度問題検討会『ユビキタスネット社会の制度問題検討会報告書』(平成18年9月)のように、著作権の発生・延長・消滅を国の登録制度と結びつけようというデンパな主張が出てくることが容易に想像される。

 しかしそういう考えは、そもそも論として「方式主義」となり「無方式主義」を採用する国際著作権条約(ベルヌ条約、ローマ条約、WCT、WPPTなど)に反するおそれが高い。また国の著作権登録に実質的審査権を付与するためには、特許法のような権利審査制度・登録不服申立制度などを整え役所の組織や人員を拡充する必要があるが、それは現在の行政改革の流れに反するだろう。それにJ-WIDなどの民間業界の集中管理体制で十分な場合があるだろうしな。(吉田大輔「ネット時代の著作権56 『著作権に登録制』???」出版ニュース2006.10/中 20-21頁参照)。まあ、文化庁の著作権課が著作権庁に組織再編されたときに初代長官や審判長になるのもわるくはないかもしれねえがなw。

 ちゅーことで、今回の話に乗らないほうが、身の安全というものだぜぃ。

Q36:ユーザーフレンドリーな音楽著作権管理会社を作りたいのですが…

:タイゾーさん、こんにちは。著作権の役立つ情報を掲載してくれてありがとです。ぼくはベンチャー企業を立ち上げて人生の一発逆転勝ち組を狙っている大学4年生です。

 ネットで音楽が無断で使用されてJASRAC(日本音楽著作権協会)がしゃしゃり出るときにいつも感じるのですが、著作権管理事業者っていつもユーザーに無愛想ですよねえ?「楽曲の無断使用は万引きと同じだぁ~」「人権侵害だあ!」とかって。でも、ユーザーってお客さんなんだから、店頭のスタッフの人みたいに「ありがとうございました(ペコリ)」とするのが筋だと思うんですよ。それを何でいつも偉そうに徴収するのかなあって、思うわけですよ!最近では有名なアーティストが今の著作権は厳しすぎてよくないって言っている人もいますしねえ。

 そこでぼくが今かんがえているのは、ユーザーに愛される音楽著作権管理会社です。かつての国鉄が民営化してJRに、図書館や美術館などの公共施設に指定管理事業者の民間会社を導入したことにより、窓口のサービスがよくなったというように、業界に革命を起こしたいと考えています。

 ただ僕は著作権については素人なので、設立方法や営業戦略などを教えてください。よろしくです!!

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:人生の一発逆転か。世の中、そんなに甘い話が転がっているんかなあ~

 結論から言うとなあ、おめえは大勘違い野郎というべきだな。音楽を含めた著作物の取引はコンビニや魚屋での買物とは違う。店先で多少愛想をよくしたから売上が伸びるというものではない。著作権法だけではなく、著作権等管理事業法信託法についても理解する必要がありそうだな。それは日本の著作権が厳しすぎるとほざくアーティストも同様だろう。てめえのおまんまがどうやって食えるようになっているのかをいかに理解していないかを証明しているからだ。

 著作権管理事業を理解するには、著作権等管理事業法を理解することが大前提となる。著作権等管理事業とは何かってーと「著作権又は著作隣接権(以下「著作権等」といいます)を集中的に管理し,利用者に利用の許諾を与え使用料を徴収し,権利者に分配する業務」をいう(文化庁ウェブサイト-文化庁-著作権等管理事業法について)。作曲家や作詞家が著作権を有する楽曲が無断で演奏、ネット送信などで無断利用された場合に、そいつら著作権者が自ら権利行使して「こらこら、お金払いなさい」とカラオケ屋やネットユーザーの家にまで徴収しに行くのはほぼ不可能であるため、JASRACのような専門的な著作権管理事業者がいろんなやつらの著作権を集中管理することにより効率的に著作権行使するというわけだ。このような著作権管理事業者は日本だけではなく、諸外国にSACEM(フランス)、GEMA(ドイツ)、ASCAPBMI(アメリカ)などがあり、日本だけにあるものではない。

 この著作権管理事業者になるには、文化庁への届出が必要だ。許可制でなく登録制であり形式審査があるだけだから、法律上の要件を満たす創設準備をした上で、日本語で文書を作成する能力と担当官庁の担当係員様と日本語で会話する能力があれば、とりあえず創設することはできるだろう。制度概要や手続などについては文化庁ウェブサイトの著作権等管理事業法のコーナーを見れば事足りる。

 次にお前が目指す著作権管理事業者が、どういう制度上のからくりで著作権を行使しているのかを説明してやるぜ。音楽の著作物で言えば、作曲家や作詞家は、JASRACのような著作権管理事業者との間で、ユーザーに対する利用許諾(利用条件となる使用料の額など)の仕事を任せる契約をする(著作権等管理事業法第2条第1項)。この契約の特徴は、著作権等の管理を委託された者(受託者)が、自らの意思により委託者の経済的利益を左右する権限を有することを内容とする契約に基づく事業を対象としていることだ(著作権法令研究会編『逐条解説 著作権等管理事業法』(有斐閣、2001年)46頁)。したがって、「おい、あのレストランから、俺の曲の演奏・1分当たり1万円徴収したれや」「へい、へい、ご主人さま~~」といったパシリ君は、この法律の対象とはならない。小林亜星級の著名音楽家であろうと、駅前のストリートミュージシャンであろうと、使用料金は、管理事業者が定めた使用料規程(同法第13条、例えばJASRACの使用料規程)に則って徴収するというわけだ。その代わり、確実に徴収するという信頼を委託する著作者どもから獲得しなければ、使用料額で不平が出てくることだろう。その意味で「JASRACの奇跡」と言えるかも知れねえな。「JASRACにお金を払える幸せ」というわけだ(岡本薫「著作権から学ぶ民主主義55 第3部『契約・ビジネス』の世界 コンテンツ流通を阻害する『1』の発想」時の法令1783号(2007年)55-56頁参照)。現に慶応義塾の安西塾長は「著作権上、JASRAC(音楽著作権協会)というのがありますけれども…音楽も音だけは許されております。ただ、映像が入るとできないということになっております。これは、結局JASRACという権利管理の団体がございますけれども、映像に関する権利管理の団体は整備されていないためにできない」と言って、JASRACに相当する映像著作権管理団体がないことを嘆いているほどだ(知的財産戦略本部・第13回知的財産戦略本部議事録(安西本部員発言)平成18年2月24日)。

 管理委託契約の方式としては次の2種類がある(同法第2条第1項第1・2号)。

信託契約:委託者が受託者に著作権又は著作隣接権を移転し、著作物等の利用の許諾その他の当該著作権等の管理を行わせることを目的とする契約

委任契約:委託者が受託者に著作物等の利用の許諾の取次ぎ又は代理をさせ、併せて当該取次ぎ又は代理に伴う著作権等の管理を行わせることを目的とする契約

 このうち信託契約は、信託法に基づく信託制度、すなわち財産を有する者(委託者)が自己または他人(受託者)の利益のために当該財産を管理者(受託者)に管理させる制度であり、①委託者から受託者に対して、対象財産をその名義も含めて完全に移転させてしまうこと(目的財産の完全移転性)、および、②移転された目的財産を、受益者のために管理・処分するという制約を受託者に課すこと(管理主体と受益主体の分離性と対象財産の目的拘束性)という2点にある(新井誠編『キーワードで読む信託法』(有斐閣、2007年)2頁)。したがって、信託による著作権等の管理の場合には、JASRACのような受託者自身が権利者であるので、当該権利を適切に保全するため、使用料を支払わない者に対する支払い請求や訴訟提起を自らの名で思う存分行うことができることになる(著作権法令研究会編・前掲47頁)。

 このような信託契約は、例えばJASRACでは委託者(作詞家・作曲家等)との間で「著作権信託契約約款」を締結しているが、著作権の信託の内容としては、次のように規定している。

 (著作権の信託)
第3条 
委託者は、その有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を、本契約の期間中、信託財産として受託者に移転し、受託者は、委託者のためにその著作権を管理し、その管理によって得た著作物使用料等を受益者に分配する。この場合において、委託者が受託者に移転する著作権には、著作権法第28条に規定する権利を含むものとする。
本契約における受益者は委託者とする。ただし、委託者は、必要やむを得ないときに限り、受託者の同意を得て、著作物使用料等の分配につき第三者を受益者として指定し、又はこれを他の第三者に変更することができる。
3 委託者は、前項ただし書の規定により第三者を受益者に指定したときであっても、受託者の同意を得て、その指定を取り消すことができる。

 また訴訟については、上記約款第15条で「受託者は、信託著作権及びこれに属する著作物使用料等の管理に関し、告訴し、訴訟を提起することができる。」と規定されており、委託者の著作権の侵害について自己の所有物と同様に訴訟できる仕組みとなっている。

 他方で委任契約を締結した場合には、受託者が利用許諾に際し得た経済的効果が委託者に直ちに帰属するという法的性質を有し、利用許諾契約における受託者の裁量が委託者の経済的利益を直接に左右するという関係になる。ただし、信託契約とは異なり受託者自身が権利者になるわけではないため、回収困難な取立、差止請求、訴訟提起など、争訟性が相当程度認められる業務を行うことができないと解されているところである(著作権法令研究会編・前掲48頁、弁護士法第72条参照)。

 信託契約においては、受託者には委託者から著作権が移転される上に、その取扱いについて広範な裁量があるため、信託法により様々な義務が課されている。具体的には信託事務遂行義務(信託法第29条第1項)、善管注意義務(同法第29条第2項)、信託事務の処理の委託における第三者の選任及び監督に関する義務(同法第35条)、忠実義務(同法第30条~第32条)、公平義務(同法第33条)、分別管理義務(同法第34条)、帳簿作成・報告等義務(同法第36条~第38条)だ(新井誠『信託法〔第3版〕』(有斐閣、2008年)242-243頁)。したがって、何らかの権利の受託者が、信託財産の中から何十億円もの巨額な資金を無利息で貸し付けたり(善管注意義務違反の可能性)、多数存在する受益者の中の1人に対してだけ有利な条件の貸付けをしたり(公平義務違反の可能性)、信託財産の会計から受託者の固有財産の会計(一般会計)に振り替えたり、信託財産からの貸付けで建設されたビルに受託者が入居すること(忠実義務違反の可能性)は、ありえないわけだわなw(新井・前掲255-257頁)。

 ここまで書いてきて気づいたやつもいるかもしれんが、著作権管理事業者というのは信託法で忠実義務やら善管注意義務やらが課されているように、委託者に対して著作権者の身代わりとして、まるでそいつら自身のように著作権行使のためだけに行動することが要求されている。著作権者のために己の200%以上の能力を発揮して、寝食忘れてでも著作権料の徴収や著作権侵害に対する訴訟提起することなどが要求されるハードな仕事であると言える。逆に言えば著作権者だけに目を向ける必要はあるが、利用者に愛想よくすることは制度上予定されていないだろう。著作権管理事業者の間で自由競争を促しても、委託者である著作者に気に入られるように使用料の値上げ合戦をすることはあっても、利用者のためにダンピング合戦をすることはないと推測される。著作権管理事業制度をユーザー本位にせよってどうしても主張するのであれば、明日から国会の議員会館を回って、管理事業者が認可制であったかつての「著作権に関する仲介業務に関する法律」(仲介業務法)に戻せってロビー活動をしないといけないわなあ~。

 たとえばだ、魚屋であれば

「へい、らっしゃい。奥さん、きょうはあじが油がのっていて、買い時だよ~♪」「あら~、でも高いわねえ。」「鰯はお値段いい感じっすよ」「じゃあ、今日は鰯にしとくわー」「へい、まいど~」

ってことはありえるかもしれねえが、レストランでBGMを流すときに店主と著作権管理事業者との間で

「洋風のうちの店の雰囲気に合う、出来立てのJ-POPの新曲をバンドで演奏したいんだけど」「すいません、その曲、○○協会に著作権信託されていて、うちは演歌か浪曲しかないんすけど…。その代わり、うちは使用料は○○の半分以下ですよー」「じゃあ、演歌△△を1日5時間分で利用許諾契約頼むよー」

ということがありえないように、魚とか自動車のような有体物の買物とは違い、著作物と言うのは代替性がきかないわけだ。したがって、著作権管理事業者の立場はユーザーとの関係では、信託・委任契約に基づきひたすら使用料徴収やら裁判などでの権利行使のみであり、一般の取引でいう営業活動というのはあまり必要とはいえない。せいぜい著作権思想の普及が営業活動に変わるかもしれねえな。楽曲などの著作物をユーザーの好みで使ってしまった以上、それに対して著作権を行使するのは至極まっとうな行為だ。レストランなどのユーザーから使用料を支払って「もらう」ために、ぺこぺこする必要がない代わりに、いきなり差止仮処分の令状をつきつけることができるわけだ。

 おまえが期待する、ユーザーに愛想をよくする役割を担っているのは、強いていえば音楽出版者だろう。音楽出版者とは「著作権者として、出版、レコード原盤への録音その他の方法により音楽の著作物を利用し、かつ、その著作物の利用の開発を図ることを業とする者」(日本音楽著作権協会定款第7条(1)ロ)であり、「一般に著作者と音楽出版者の間では、著作者への使用料の支払・分配、第三者への著作権譲渡の条件としての著作者の同意、契約違反の際の契約解除(権利の返還)等を定めつつ、著作者は音楽出版者にすべての著作権を譲渡するという内容の契約が結ばれている」とされている(著作権審議会権利の集中管理小委員会『著作権審議会権利の集中管理小委員会報告書』(平成12年1月) 著作権情報センターウェブサイト)。

 たとえばだ、テレビのドラマとタイアップしたポップスをエンディングで毎週聴いたり、ラジオやCMでやたらと流れる曲を聴いているうちに、何だか耳になじんだり友達との共通の話題になったりしてCDを買いたくなったり、iPodに録音したくなることがあるよなあ?音楽の場合にはそういう「顧客の購買意欲を刺激する仕掛け」(プロモーション)(烏賀陽弘道『Jポップとは何か』(岩波書店、2005年)186頁〔岩波新書〕)でいかにユーザーどもをその気にさせてヒットをつくり、消費行動に向かわせるのかが勝負といえるだろう。だからさっきの魚や自動車と違い、楽曲については特定のものを買う(または消費する)気になってしまった以上、代替性はなく、その目的物に向かってまっしぐらになるわけだ。そんでもって楽曲を演奏、ネット送信などで無体的に使ってしまったら、JASRACその他の著作権管理事業者がいけすの魚を網ですくうように、オートマチックにお支払いを待っているだけ、という状況になるんだわなあ。

 ちゅうことで、制度上ユーザーフレンドリーな著作権管理事業者というのはありえないわけだ。楽曲の営業活動をしたかったら、音楽出版者を目指すほうがいいかもしんねえな。もしその気になったら、まずは音楽出版社協会のウェブサイトを見たほうがいいかもだな。

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