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2010年6月

Q45:JIS規格に著作権を認めないと、国際標準化戦略に乗り遅れると思うのですが…

:こんにちは。私はとあるメーカーのエンジニアです。著作権なんて全然興味がないのですが、タイゾーさんのブログで「Q18:JIS規格って著作権で保護されるの?」のご回答を見たので、一言を申し上げたいと思い、メールを出しました。

 はっきり言いますが、なんでJISC(日本工業標準調査会)が審議・制定するJIS(日本工業規格)の規格票に著作権を認めないといけないのか、ご存じないのですか?JISって、国内で作成するものだけではなく、国際的な標準化機関で作成されたISO(国際標準化機構)/IEC(国際電気標準会議)などを翻訳して規格にしたものが多いのですよ。ISO/IECは、規格の文章について著作権を強硬に主張しているので、各国で使う場合には、著作権を主張しないといけないことになっています。

 ISO/IECやITU(国際電気通信連合)で国際規格にしてもらうために、各国の政府・産業界はしのぎを削って自国の規格を国際規格に採用してもらうと努力しています。「標準を制する者が、市場を制する」からです。日本は残念ながら、国際標準化で負けこんでいるため、政府が国際標準化戦略などを立ち上げて、音頭取りをしています。
 2009年にはNHKのテレビ番組「追跡! A to Z」「ニッポンは勝ち残れるか 激突 国際標準戦争」(2009年8月8日 土曜 午後8時〜8時43分)で特集されています。日本の技術が世界を制したのは過去の栄光で、現在いかに苦しい立場に立たされているのかが分かると思います。 

 その意味で、タイゾーさんが唱えられる「JISに著作権なんか認められるわけねーだろw」という御見解は、わが国の産業振興に水をさすことになりかねません。政府は最近、知的財産戦略本部「知的財産推進計画2010」(2010年5月21日)や、「新成長戦略 ~「元気な日本」復活のシナリオ~(2010年6月18日)21頁で、やっと国際標準化戦略に本腰を入れているところなんですから!

 どうか御見解を撤回してくださるよう、よろしくお願いします!

:回答を撤回しろってか!初めてだなあ~、そんな質問(つか陳情?)w 気にしてくれて、ありがとうなあ。確かに、お前さんが心配する気持ちは分かるが、所詮は政府(経済産業省)の見解を鵜呑みにしただけってことを、これから立証してやるぜ。

 JISに著作権は認められないことは、前回のブログ(Q18:JIS規格って著作権で保護されるの?)で述べたところだ。しかし、国際規格では著作権を主張しているから、JISも著作権を認めないといけないって、質問している奴が言っている。これはどういうことなのか?

 実は、各国の国家規格は、国際規格であるISO/IEC/ITUの規格に合わせて作成しないとWTO協定違反となるんだ。具体的には、貿易の技術的障害に関する協定(WTO/TBT協定)によって、各加盟国で規格がバラバラだと、技術面のスムーズな貿易の邪魔になるので、国内である規格を作ろうとしたときに、すでに関連する国際任意規格が存在している場合には、その規格を基礎にして、国内規格を作成しなければならなくなったのだ。だから、日本でJISを作成する際に、英文のISOをそのまま翻訳することが多くなったんだ。各国の政府が備品、設備等を入札する場合も、WTOの政府調達に関する協定によって、やはり国際規格を採用したものを対象にしないといけなくなっている。これらに違反した場合は、「Q38:店内でテレビをつけていたら、WTOに提訴するぞと言われたのですが」でも教えたように、外国からWTO提訴されるおそれがあるわけだ。

  そいでもって、国際規格の ISO/IECなどが規格のマニュアルである規格票のコピー、ネット送信などについて著作権を主張し、使用料を請求している『ISO/IEC専門業務用指針 第1部 専門業務の手順 第8版 英和対訳版』(2011年8月29日)29頁参照)。英語の規格票を日本語に翻訳するときには翻訳権が働くので、わが国もISO/IEC/ITUの許諾を得て、政府は国際規格をJISの原案として、審議会での審議・答申や主務大臣の制定を経て、利用されている。
 ここでまた問題になるのが、国の法令・通達等と同様に、大臣が制定したJISに著作権が認められるのかということだ。著作権法第13条第2号で官公庁の通達は著作権の目的とならない著作物としているが、経済産業省はJISには著作権が認められるという見解を相変わらず採っている。その根拠としては著作権を主張するISO等を原案として JISを作成していたり、ISOにロイヤリティーを払っているからとしている。例えば、「JISQ14001は国際標準化機関 ISOの 著作の翻訳規格ですが,所管課(筆者注:経済産業省産業技術環境局基準認証政策課は、 ISOに規格使用のロイヤリティを支払っているから翻訳規格JISQ14001 に著作権を主張させるのは 当然だ」とほざいているようだ全国規制改革及び民間開放要望書(2006あじさい)【要望管理番号:5009】

 念のために言っとくが、いくら経産省がISO/IEC/ITUなどの国際規格の団体に頭を下げて「日本人に無断コピーなどさせて、著作権を侵害させな い」という約束で、それらの規格を翻訳してJIS規格を作成してもだなあ、民法の基本原則である「契約は第三者を拘束しない」ことから、経産省の立場に関係なく、俺たち一般国民は自由に使えるわけだw

 ここにきて、経済産業省はJISに著作権が発生しないとする意見に対して、次のような反論をしている(なお当然のことながら、文中の「第13条第2項」は「第13条第2号」の誤りだ)。

産業技術環境局基準認証ユニット(一橋大学イノベーション研究センター 江藤学編)『標準化実務入門(試作版)』(平成22年7月)184頁〔長谷亮輔執筆〕

1「著作権法第13条第2項でいう告示とは、立法行為、司法行為、行政行為として権限のある者が作成し、その内容を公表することによって国民に知らしめ、また国民が自由に知るべきものであると性格づけることをいうものである。これに対して、JIS規格の官報への公示は規格の名称及び番号のみで、内容についてまで掲載されているわけではない。」
2 「JIS規格の原文は、原案作成者や利害関係人などの民間団体において作成されているものである。著作権法第13条第2項の対象となるのは、官公庁自身が創作し国民に知らしめることが目的であるような場合に限定されるものであり、JIS規格のように利害関係者が原案を作成して申し出たり、原案を委託によって作成した者がいる場合には、著作権法第13条第2項を適用するのは不適当である」

 だが1については、官報の内容に絞って検討している時点で終わっている。2については、JISの原案作成者が役人だろうが民間人だろうが、国民様からすればお上からお達しされたJISで著作権を行使されて利用できなくなるのはたまったものではないことから、誰が作ろうが問答無用で著作権は否定される。この回答内容から、いかに著作権の素人が作成したのかが分かるだろう。

 しかもだなあ、海外では同様の事例がドイツ(連邦通常裁判所連邦憲法裁判所)や米国(第5巡回区連邦控訴裁判所連邦最高裁判所)の判例では各国の国家規格の著作権が認められなかった。しょうがねーから、ドイツでは2003年の著作権法改正で、国家規格に著作権を認めるために「法律、命令、布告又は官公庁の公示が、私的な規格文書について文言を再録することなく参照を指示する場合には、その私的な規格文書に関する著作権は、前二項によって妨げられない。この場合において、著作者は、出版者のいずれに対しても、相当なる条件のもとに、その複製及び頒布に関する権利を許与する義務を負う。複製及び頒布に関する排他的権利の保有者が第三者である場合には、この保有者が、第2文に基づいて、使用権の許与について義務を負う。」(第5条第3項・本山雅弘訳『外国著作権法令集(43) ―ドイツ編―』(著作権情報センター、2010年)2-3頁との特別規定を置いたんだ!

 こういうことを含めて、経済産業省による立法の不備が下記の文献や俺様のブログですでに指摘されているところだ。

鳥澤孝之「国家規格の著作権保護に関する考察 ―民間団体が関与した日本工業規格の制定を中心に―」知財管理Vol.59 No.7 [2009.7]793-805頁

 経済産業省にいいなり君の企業や研究所の奴らは、しぶしぶ規格票の著作権料を支払っているが、正確な著作権知識があれば、「著作権ありませんが、何か?」と言って、著作権を気にすることなく、堂々とJIS規格票の本文をコピーすることができる。現に「国立国会図書館 リサーチ・ナビ JIS規格」では、JISの規格票について「JISの本文は、全文複写ができます。ただし、各規格票の後ろについている解説や、英訳されたJISの本文は、著作権法の制約により、複写できる範囲は半分までです。」と説明されており、少なくともJIS規格票の本文部分は国立国会図書館でコピーしまくれる取扱いとなっているぞ!

 こんなこと言うと「ISO/IECがこわくて、規格票の著作権料を日本国民から搾り取っているのなら、いっそのこと、JISCを民営化したらどうなの?」という声が聞こえそうだな。ご名答!実は、さっさとJISCを民営化すればいいだけのことなのだ。規格票の著作権の主張は、民間ビジネスを前提にしてはじめて成り立つものだからな!

 ところがどっこい、そうは問屋が卸さない!実は問題の核心は、WTO/TBTによって、国家標準化機関が世界の標準に合わせて民間団体にならなければならないにもかかわらず、日本だけ先進国の中で唯一、国家標準化機関を国営化しているという点なのだ。

 たとえば米国・カナダ・英国・ドイツ・フランスを見ると、米国国家標準協会(ANSI)カナダ標準委員会(SCC)英国規格協会(BSI)ドイツ標準協会(DIN)フランス規格協会(AFNOR)なんかはいずれも民間団体か、政府から独立した連邦公社となっている。いわんや、ISO/IECもスイス民法第60条を根拠に設立された民間団体だ。
  それでは日本ではどうか?標準化の学者さんからは「日本の国家標準化機関も民営化しないと、国際競争力がぼろぼろになってヤバイ」という指摘が昔からあったが(高橋茂「情報技術標準化について の私見」情報処理学会 情報規格調査会 NEWSLETTER No.39 (1998-09)4-7頁)、経済産業省の担当官は相変わらず、国営化でないとダメだと、国士官僚を気取っている山中豊「事業仕分けと標準化」情報処理学会 情報規格調査会 NEWSLETTER No.85 (2010-03) 2-3頁)。

 職員個人のコラムのみならず、日本工業標準調査会という政府審議会や、国民からの改革提案に対してすら、経済産業省は繰り返し著作権に対する誤解を暴露しているところだ。

経済産業省基準認証ユニット「アジア太平洋地域との新たな連携のあり方の検討について」(2010年2月26日)【日本工業標準調査会 第70回標準部会 資料4】
「我が国の環境対応力や安全性などに優れたJISを国家規格として採択したいというアジア諸国からの要望に応え、JISの普及を図 るため、JISの著作権の運用の見直しなど必要な施策を検討してはどうか。」

日本工業標準調査会標準部会(第70回) 議事要旨(平成22年2月26日)
委員:JISをアジア諸国に国家規格として提供 したいということだが、著作権の取り扱い方法の見直しとはどのようなものか。日本のJIS関係者にはアジア諸国に国家規格として採用してもらうことは非常 に喜ばしいことだが、国際標準との整合化の観点はどのように考えるのか。
事務局JISの著作権は国がすべて持っている訳ではな く、原案作成団体が所有する著作権も多数ある。現在の運用では、著作権所有者と個別に調整するしかないが、アジアへの展開やその他著作権に関する案件が増 えていることもあり、包括的な仕組みを考える必要があると考える。また、国際標準との整合化は重要と考えているが、他方、国際標準となっていない日本が強みを有する分野のJISについて、アジアへの展開が出来るのではないかと考えている。

「国民の声」

「規制・制度」回答ファイル(提案事項管理番号:30001285)【「国民の声集中受付月間(第1回)(平成22年1月18日~2月17日受付分)」資料1 検討要請に対する各省庁からの回答】

国民の指摘:法令、通達、告示については著作権法で保護されないが、政府が主体となって作成されるJISも同様であり、著作権が規格作成のインセンティブにな るとした上記報告書(筆者注:『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書』(平成12年5月29日)) は誤ったものである。」

経済産業省の回答:「ご指摘の著作権については、民間団体等が原案の作成を行った場合には原案作成者として当該団体がJISの著作権者となる制度となっており、御指摘 のような問題はないと認識しています。」

【コメント:JISに著作権があると答えるのは勝手だが、せめて根拠条文を示すのが役所の良心だと思うぜ。「認識しています」という文言からして、根拠がないことを自覚しているようだが…】

新たな「知的財産推進計画(仮称)」の策定に向けた意見募集(2010年2月)
個人からの意見 No.49 国際標準化戦略の推進方策について

国際標準化戦略の推進方策について
【意見事項】日本工業規格(JIS)の制定主体の、政府から民間組織への完全移管
【意見要旨】日本工業標準調査会(JISC)が制定主体となっている日本工業規格の制定主体を民間組織に移行するなど、国家規格の標準化体制を見直し、標準化の作成過程への政府の関与を撤廃すべきである。
【意見全文】 JIS を制定するに当たり、主務大臣はJIS 原案を工業標準化法に基づいてJISC に付議し、JISC はJIS 原案について調査審議を行い、当該JIS 原案がJIS として適切であると判断した場合、その旨を主務大臣に答申し、主務大臣は当該JIS 原案をJIS として制定する旨官報に公示する、という手続きが行われている。
 国際標準化競争が生じている現在、わが国から国際標準を提案するためのJIS 原案の作成の促進が望まれ、国の審議会であるJISC 主導の標準化体制では国際競争に耐えられないことから、民間への規格制定を求める声があった。この点、平成12 年にJISC 標準会議が公表した『21 世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書』では、民間提案に係る規格原案作成者に著作権を残す等、規格作成に係るインセンティブを高める方策を探るとしつつ、JIS の規格制定主体は引き続き政府とすると報告された
 しかし欧米先進国では、ほとんどの国がJIS 同様の国家規格の作成を覚書や契約により民間に委ね、政府は、作成された規格の利用に関して政策的な活用を図る立場となっており、日本のように政府が規格制定の主体となる例が見当たらない。また法令、通達、告示については著作権法で保護されないが、政府が主体となって作成されるJIS も同様であり、著作権が規格作成のインセンティブになるとした上記報告書は誤ったものである。なお、ドイツや米国では法令に準じるとして、国家規格の著作権を否定した判例があり、このうちドイツでは2003 年に国家規格に著作権を認めるための著作権法改正がなされたところである。なお国際標準化機関のISO/IEC については、民間機関であることから、規格に著作権が認められ、多くの先進国の国家規格についても制定主体が民間団体であることから、著作権が認められている
 また、JIS の制定が国主導であった背景には、終戦直後の生産の遅れと荒廃から立ち直るためという目的があったものの、現在では制度疲労化したとの指摘が企業・業界団体からなされているところであり、国主導の弊害が著しくなっており、早期の民間主導体制が望まれるとの意見が、既に10 年前になされている(日本工業標準調査会標準会議21 世紀に向けた標準化課題検討特別委員会事務局「『21 世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書案』に対する意見募集の結果について 頂いた御意見及び御意見に対する対応」(平成12 年6 月)4-7 頁 参照)。
 以上から、政府主導の標準化体制では国際標準化競争に乗り遅れ、また規格に認められるはずの著作権が世界の中で日本だけ否定され、わが国が誇る高度な科学技術を国際標準化することは困難となり、「新成長戦略(基本方針)」が掲げる「アジア経済戦略」の達成から遠のくことは必至である。したがって、JISC を速やかに廃止して、民間団体(例えば財団法人日本規格協会)主導による新たな標準化体制の基盤を整備し、国際標準化を推進すべきである。
【関連法令】工業標準化法第3 条・第11 条、著作権法第13 条第2 号

このように、経済産業省が国家標準化機関の国営化維持に必死となっているのは、現在のJISCの組織体制の根拠にも関係がありそうだ。実はJISC事務局は今でこそ経済産業省本省に置かれているが、平成13年の省庁再編前には、旧通商産業省工業技術院の付属機関で、事務局は同院標準部標準課が行っていたんだ(通商産業省『通商産業省組織の移管先一覧』(平成12年12月)19-20頁参照)。

平成13年の省庁再編の際には、工業技術院が独法化(産業技術総合研究所)することから、行政組織の減量・効率化の観点からJISCの位置づけが問題になったが、結局、中央省庁等改革大綱で「通商産業省の工業技術院標準実施部門について、一部民間で対応できない規格作成等を除き、民間移譲する。」とされ、規格制定部門については国営を維持することになったのだ。『21 世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書』もこの頃に出されたが、国家標準化機関が国営のままでも「民間人が規格を作成すれば、そいつが規格票の著作権をゲットする」というへんてこな結論を出したのも、こういう省庁再編が背景にあるようだ。

 ちゅーことで、経済産業省JISC事務局は、日本国民が著作権の知識について赤ちゃん並みであることをいいことに、制度不備により著作権保護ができていないことをISO/IECに気づかれて制裁決議をされるまで、著作権を誤解したまま強行突破するつもりのようだな(爆)

Q44:iPad、Kindleに出版社の著作権料が課金されるって、聞いたんだけど…

:タイゾーさん、お久しぶりです。「Q14:プロポーズでラブソングを歌ったのですが」と「Q29:生演奏のピアノバーで歌ったのですが…」の質問でお世話になったサラリーマンです。あれからお蔭様で彼女と結婚し、今は妻になっています。新婚気分を楽しんでいる毎日です。

 実はもうすぐ、妻の誕生日が来るのですが、新しい物が好きなので、いま話題のiPadKindleを彼女にプレゼントしようと考えていました。
 さっそく彼女に提案すると、「いいわねえー。持ち運びが便利になるし、新作小説だけでなく、映像や音楽も楽しめるようになるから、とても楽しみ★」と喜んでくれました。
 「やった…」と左脳の片隅で喜んでいたところ、「でも、コンテンツの使用料はどうなるの?高くないの?」って聞かれて「紙の本よりずっと安いってことだから、全然心配ないよ」と答えたところ、「なんかねえー、そういう電子書籍に新しい著作権ができて、書いた作家だけでなくて、出版社にも使用料を払わないといけなくなるって、ネットで話題になっているんだよ」って、神妙に言ってました。
 続けて「私たちが結婚するときに言ったよね。早くお金を貯めて、マイホームの購入費と子どもの学資金を作ろうって。iPadを買って、お金がかかるようになったら、困るわあ。買わないほうがいいかなあ…」とブツブツ言い始めました。

 iPadにそんなボッタくりみたいな権利ができるなんて、初めて聞きました?ほんとなんですか?プレゼントを渡す日が迫っているので、ぜひ教えてください!

:iPadか。今はやりだよな。新作小説やら売れ筋本だったら、すぐに手に入るし音楽・映像などのメディアを一緒に楽しめていいだろうが、俺様みたいに、一般書店や公共図書館にないような本や雑誌しか読まないような人間には用がないんだろうがな。

 質問だけどなあ、奥さんが心配しているとおり、実は日本では出版界が電子書籍という外国からの黒船勢力の進出に慌てふためいて、電子書籍のための出版社の権利を創設しようと、もくろんでいるところなんだ。

 なぜそんな権利が必要なのか?確かに電子書籍のユーザーはコンテンツを購入するたびに使用料を支払うが、そのお金がどこに行くのかが問題になる。常識的に考えれば、作品を書いた著者と、電子書籍のプラットフォーマー(コンテンツ送信の基盤の管理をしている業者) だろうなあ。そうするとだなあ、出版社は電子書籍ではおまんま食い上げになって困るかもしれないということだ! 特に売れっ子作家がアップルやらアマゾンなんかの電子書籍プラットフォーマーと直接契約し、出版者が「中抜き」されることを恐れている。

 欧米の出版社も困ってんじゃないのかって?それが大丈夫なんだなあ。欧米で本・雑誌を出版する場合は、出版社は作家から本・雑誌記事の著作権を買い取る契約をするのが通常であるため、電子書籍になっても使用料のゲットで困ることがない。ところが日本の出版慣行では作家の手元に著作権を残すことになっているため、悲劇が起きるわけだ。

 また日本の出版流通は、取次会社に甘えてきたという特殊事情も関係するだろう。取次会社とは出版社と小売書店の中間にあって、書籍・雑誌などの出版物を出版社から仕入れ、小売書店に卸売りする販売会社のことで、本の問屋である。現在の体制は、第2次世界大戦中の紙不足と情報統制などを目的とした出版物配給統制機関を起源とし、現在に至っても影響が及んでいるとされている「社団法人日本出版取次協会 創立の経緯」参照。特に、書籍の定価販売を強制する「再販制度」や、書店で売れ残った本を取次会社を通して出版者への返還することを許す「委託制度」に弊害があるとの指摘が、出版社からもなされている三和書籍「未来はあるかのか出版流通 ヨムサンワ―営業部篇― 本の流通改善をめざして(委託制度・再販制度の問題点)」(2009年11月24日)参照)。図書・雑誌といった物流の時代には出版社・書店・読者にとってWIN-WINの関係にあったのだが、ネットワーク流通の電子書籍にとっては、こういう取次制度は無用の介となるわけだ!

 また出版社からすれば「形式上は作家が著者で著作権者だけど、ほんとは俺たちだって創作に貢献してるんだぜ」という思いが昔からある。どういうことかってーと、本を出版する場合は普通は出版社が作家と話し合って出版の企画を立て、作家に資料を届けたり、出版社の意向や方針、さらに売れ筋に沿うようにアドバイスをし、さらに営業活動をしたりと、社員(編集者)が作品の創作に多大な貢献をしている。下手すると、作家以上に著者として創作している可能性もある。出版物に名前は出ないが。

 そういう編集者の思いが爆発して訴訟になったのが「智恵子抄」事件(最高裁判所第三小法廷平成5年3月30日判例時報1461号3頁(平4(オ)797))だ。詩人・高村光太郎が妻・智恵子について書いた多数の詩の中からセレクトして集め、編集した詩集『智恵子抄』の編集著作権をゲットしたのは、光太郎(詩人)か出版社のどちらなのかが問題になった。結論としては、著作権をゲットする編集著作者は、現実に詩等の選択・配列を確定した光太郎であり、収録候補とする詩等の原案を光太郎に提示して詩集の編集を進言をした出版社ではないと判決を下した。

 でも出版社だって貢献しているのになあ、って思いは積み重なっていた。その現れとなった典型例が「版面権」構想だろう。言っとくが「版面教師」ではないぞ(爆)。版面権とは、出版物の複写利用者に対して報酬を請求できる出版者の権利のことで、著作隣接権的なものであるとも言われている。この権利の創設については、平成2年6月に著作権審議会第8小委員会(出版者の保護関係)報告書で提言されたところであるが、複写の増大によって出版者がどれくらい損しているのか、欧米みたいに作家から著作権をもらえばいいだろうというツッコミ、国際的・国内的な合意が得られていないことなどを理由に、未だに具体化する目途が立っていないと指摘されている(作花文雄『詳解 著作権法(第4版)』(ぎょうせい、2010年)475頁)

 しばらくはナリを潜めていたが、さっき言ったように、電子書籍という黒船襲来で、また出版者が騒ぎ始めている。電子書籍にこそ、出版社の著作隣接権(版面送信権)を作ってくれ!という要望だな。やれ文化庁は版面権を創設するという宿題を果たしていない、やれレコード会社(製作者)には著作隣接権があるのに、レコードと同じように著作物を記録している出版社に著作隣接権を認めないのはずるいぞ、とホザイているようだな。

【参考】
村瀬拓男「出版社の立場から見た、デジタル出版物の流通に関する問題点」(「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用に関する懇談会 出版物の利活用の在り方に関するワーキングチーム」第2回・資料利2-1)(平成22年5月17日)
平井彰司「出版の現在」(文化審議会著作権分科会基本問題小委員会平成22年第2回・資料1)(平成22年5月10日)

 だがなあ、俺様からすれば、版面権の創設を答申した文化審議会第8小委員会の報告書を今さら持ち出すのは「20年前の彼女からのラブレターを根拠に、交際を求めるストーカー男に等しい」としか言いようがないな(爆)。またレコード会社にだけ認めてずるいというホザキには「レコード条約と同じような出版条約締結の国際運動をしてから、またやって来い!」と言ってあげたいな!

 このように実情としては電子書籍について出版社の著作隣接権が認められる望みはほとんどないのだが、大手出版社は尻に火がついた状態で冷静にいらないことから、2010年3月に「日本電子書籍出版社協会」を立ち上げ、総務省・文部科学省・経済産業省合同の「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」で検討されていたところだ。しかし2010年6月に出された報告書では、「出版者に何らかの権利を付与することについては…更に検討する必要がある」とされる方向であり、まずは一安心というところだ( 「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会報告」18-19頁(デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会 平成22年6月28日)。しかし、今後も出版社側が著作隣接権を求めていくことは必至であり、議論の動向への注意が必要だろう。

ちゅーことで、奥さんにiPadやKindleを買ってあげても、当面は家計への心配をかける必要はないと思うぜ。

【参照】鳥澤孝之「電子書籍の著作権制度上の課題 ―出版社と図書館の視点から―」パテント64(7) (通号 735) [2011.5]57~64頁

Q43:公立図書館で貸し出す本の表紙をコピーしたり、ウェブにアップしたいんだけど…

:こんにちは。私は、とある公立図書館ではたらく図書館員です。図書館員とはいっても公務員ではなく、図書館サービス専門の民間企業から派遣されてお仕事をしています。憧れの図書館員になって、司書資格も生かせているので、とてもやりがいを感じています。

 実は、仕事で問題になっている著作権のことで教えてほしいのです。それは本を紹介するために、本の表紙をコピーしたものを配布したり、図書館のウェブサイトに載せることです。今まで当たり前のようにしていたのですが、ある日利用者の方から、著作権侵害ではないのか、という御指摘があったのです。

 著作権については職員研修も受けて知っているつもりだったのですが、本当に著作権が問題になるようなことなんでしょうか?教えてください!

:指定管理事業者の図書館員さんか。「公務員でなければ、図書館員はできない」という奴らもいるけど、雇用の確保につながるし、利用者にとってはどっちでもいいような気がするがなあ。

  質問だけど、本を紹介するために表紙(書影)のコピーの配布や、ウェブサイトへのアップロードについては、今までは勝手にできるかどうか、??だったが、2010年1月からの新しい著作権法で、可能になったんだ。

 著作権法上、絵や写真などの著作権があるものをコピーする場合には複製権(第21条)が、ウェブサイトへのアップロードについては公衆送信権(第23条)というものが発生し、絵や写真の著作権者は、他人様が利用することについて「勝手に使うんじゃねー!」と突っ込みを入れて権利を主張することができ、使わせる条件として使用料をゲットすることができる。しかし、図書館での利用者へのコピーの提供など、ある一定の公益的活動などについては、例外的に無断でできて、ラッキーな思いをすることができるようになっている。これから紹介する著作権法の新しい規定も、そのラッキーなことができることの仲間というわけだ。 

 著作権法の条文で言えば、第47条の2(美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等)というやつだな。この規定では、美術の著作物(絵画など)と写真の著作物(写真、デジカメ画像など)である商品の所有者が、それらを譲り渡したり、貸し出そうとする場合に、その商品を紹介するためであれば、コピーやネットへのアップロードを、ある一定の範囲内の大きさや画素で表示していれば、例外的に著作権者の許諾を得なくてもできるようになったんだ。念のために言っとくと、無断コピーしたりして作成した、海賊版の図書・雑誌を紹介するときは、ラッキーな思いすることはできない。

 図書館で貸し出す図書・雑誌について言えば、確かに図書・雑誌自体は「言語の著作物」で物自体は「美術の著作物」でも「写真の著作物」でもないが、表紙自体は何らかの絵だったり、漫画キャラクターだったり、あるいは写真だったりで、「美術の著作物」や「写真の著作物」となるものがある。もちろん、単なる文字やデザインの場合のように、著作権が発生する「著作物」になりえないものについては、著作権はないので著作権法上の問題は発生しない。立法担当者の池村聡文化庁著作権調査官も「音楽CDや映画DVD等のジャケット画像や書籍等の表紙画像の掲載についても、…適用になるものと解される」(池村聡『著作権法コンメンタール別冊 平成21年改正解説』(勁草書房、2010年)64頁)と言っているぞ。

 また、表紙画像の掲載を無断で行うためには、図書・雑誌の貸出しが適法である必要がある。確かに通常は貸与権(著作権法第26条の3)がはたらくが(商売でやっている貸本屋など)、非営利目的で無料で貸し出せば貸与権は制限され、著作権者の了解を得なくても、適法に貸し出せることになっている(著作権法第38条第4項)。普通の公立図書館であれば、この条件は楽々パスするから、心配する必要はないだろう。

 「ある一定の範囲内の大きさや画素で表示していれば」OKと言ったが、具体的には著作権法関係の政令(著作権法施行令)や省令(著作権法施行規則)で決められている。それらによれば、コピーについては、カタログやチラシでやる場合には50平方センチメートル以下、デジタル・コピーの場合には32,400画素以下などとされている。ネットにアップロードする場合は、コピーガードしているかどうかにより、分かれている。コピーガードしていない場合は32,400画素以下で、コピーガードしているときは90,000画素以下と決められている。ただしいずれの場合も、取引態様その他の事情に照らして必要最小限度であることや、公正な慣行に合致することなどが求められている。

 ちゅーことで、今まで図書館員どもを悩ませていた、貸出資料を紹介するための表紙コピーやウェブサイトへの掲載について、手間が一つなくなったということだな。

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