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2010年7月

Q47:国の審議会報告書をウェブにアップしたいんだけど…

 タイゾーさん、お久しぶりです。「Q8:国の審議会の情報公開を進めたいのですが」、「Q24:ログインとパスワードが必要なウェブサイトにファイルをアップしても大丈夫?」、「Q30:審議会議事録メモをブログに掲載したら、勝手にコピペされていたのですが」で質問させていただいた法人職員です。タイゾーさんには「もういい加減にしろ!」というご趣旨のことを言われましたが、ある行政分野の政策に対する情熱は未だ冷めていない状態です。

 実は今度、監視している行政分野の審議会が、新たな報告書を公表することになっています。審議会と偉そうに言っても、所詮は事務局である政府官僚による作文なので、もちろん批判キャンペーンを展開したいと考えています。
 それでふと「Q8: 国の審議会の情報公開を進めたいのですが」の御回答を思い出しました。国の報告書等を、説明の材料として新聞雑誌等の刊行物に転載することは著作権の例外としてできるけど、「説明の材料として…転載」という以上原資料をコピーすることはその例外に当てはまらないって言ってましたよね?
 でも今回は、私の政策批判論文の中で、審議会報告書の内容全文をパソコンのタイプで打ち込んで、ウェブにアップしたいと考えています。これだったらOKですよねえ?念のために聞いているだけですけど、ぜひ「YES!」の回答を聞かせてください★

:またお前か!性懲りもなく、お役所に楯突いているんだな。そんなことして、お前の法人に天下り官僚を受け入れないと、補助金がなくなったり、政府調達の入札への参加もできなくなるぞww

 質問だけどなあ、残念ながら答えはNO!だ。お前が引き合いに出している著作権の例外は、著作権法第32条第2項の「国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。」のことだと思うので、今回はこの規定の中身について考えてみよう。

 審議会報告書のウェブへのアップは「転載」に当たるのか?試しに「広辞苑第五版」(岩波書店、2005年:電子辞書版)を引いてみると「既刊の印刷物の文章・写真などを他の印刷物に写し載せること」と書かれている。しかし、ここで印刷物に限っているのはウェブがない時代に考えついただけのことであり、今時代はウェブへの写し載せもありだろう、と考える余地はあるだろう。

 この点について、著作権関係の政府審議会で検討されていないのか?ちゃんとあるぞ!著作権審議会第1小委員会のまとめ(平成12年12月 著作権審議会第1小委員会)では、「著作権法制定当時は、CD-ROMやDVDといった電子媒体は存在しなかったことから、権利制限の対象となる著作物の利用は印刷物等の紙媒体への掲載のみを想定して規定されたと考えられる」が、現在においては「第32条第2項の『刊行物』にCD-ROMやDVD等の電子媒体が含まれると解しても差し支えないと考えられる」として、パッケージ系の電子資料への「転載」つまりコピーを認めている

 ではウェブサイトへの「転載」はどうなのか?これについて同報告書は「インターネット上での利用については、複製権のほか、公衆送信権も働くこととなり、『転載』に公衆送信も含めて考えることは困難であること、インターネット上での利用を含む著作物利用に係る権利制限規定の在り方については現在著作権審議会で検討を行っているところであること等から、他のインターネット上での著作物利用に係る権利制限規定とのバランス等に留意しながら、さらに慎重に検討する必要がある」として、国の報告書等のウェブへの無断転載を否定したんだ。著作権審議会第1小委員会の第19回会議(2000年10月20日)なんて、事務局(文化庁著作権課)が「『転載』に公衆送信を含めて考えるには無理があるので、もしインターネットへ載せることも含めるのであれば、条文修正が必要となる。」とまで言っているぞ!

 吉田大輔『明解になる著作権201答』(出版ニュース社、2001年)271-272頁や、渋谷達紀『知的財産法講義Ⅱ〔第2版〕』(有斐閣、2007年)270頁も、「転載」は紙への複製に限られるとして、ウェブへのアップについては否定的だ。

 CD-ROMやDVDに比べて、同じくデジタル関係のウェブサイトへの政府報告書のコピーに冷たいのは、ウェブ掲載認めると、新聞社・出版社・放送局などの既存の報道機関への脅威になるからだろうな。こいつらは「ウェブなんて、どの馬の骨の奴が書いているのか分からねー」と思っているからな。

 例えば、時事問題に関する論説の転載等についての著作権の例外を定めている著作権法第39条第1項なんて「新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説(学術的な性質を有するものを除く。)は、他の新聞紙若しくは雑誌に転載し、又は放送し、若しくは有線放送し、若しくは当該放送を受信して同時に専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行うことができる。」としており、ウェブアップを認めていない。要は、まともな報道機関様のための著作権例外規定というわけだ。このことは、著作権審議会第1小委員会の第19回会議(2000年10月20日)で、事務局側が「公衆送信を認めると誰でも報道目的であると強弁されてしまう可能性がある。」と発言していることも、このことを裏づけるだろう。

 ちゅーことで、政府報告書のウェブへのアップは、おみゃーの書き物の説明の材料として利用する場合であっても、著作権の一般的な見解からは認められないだろう。せいぜい著作権法第32条第1項の引用の範囲内で利用することだな。「そんなの、時代遅れだぜ!」と思ったら、政府の「国民の声」に投稿することだな!

Q46:特許公報って自由にウェブにアップできるの?

:はじめまして、こんにちは。私はあるメーカーの特許部に勤務するサラリーマンです。毎日、特許情報をリサーチする日々です。

 リサーチするのに、ウェブサイトの特許電子図書館(IPDL)で検索した特許公報(明細書、特許請求の範囲、図面、要約書など)を使うことが多いのですが、この特許公報を社内に配布するのはもちろんのこと、ウェブにアップして技術情報を業界で共有できたらいいなあって、考えています。
 特許電子図書館に掲載されているくらいですから、特許公報に掲載された書面の著作権者に無断で、企業がアップしてもOKですよねえ?でも社内の法務部から著作権法上の根拠を聞かれたので、それが分からないとアップできない状態です。

 特許公報を無断でウェブにアップできる根拠をぜひ教えてください! 

:特許公報か。IPDLは工業所有権情報の検索では便利だわな。もっとも、著作権専門の俺様にとっては、せいぜい受け狙いで、ドクターなんとかのくだらない発明や、商標を検索するくらいで、仕事でまともに利用したことがないがな。

 質問していた特許公報がIPDLにアップできることの根拠だけどなあ、著作権法上にはなーんもない(爆)

 特許公報の内容に著作権があるかどうかについて考えると、著作物に当たるかどうかが問題になる。著作物とは「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術美術または音楽の範囲に属するもの」をいうが、特許公報に掲載されている明細書、図面、要約書などは、これに当たると言っていいだろう。

 次に、特許公報は国が発行したものだから、それに掲載されている明細書などは、ハナから著作権なんてねーんじゃねーの?ってことが問題になる。著作権をちょっとは知っている奴だったら、国の法令、通達などには著作権なんかねーって定めている著作権法第13条を思い出すかもしれないな。「Q18:JIS規格って著作権で保護されるの?」でもしつこく言ったように、JIS(日本工業規格)のように国が定めた規格とかの原案を企業などの民間人が下働きで作っていたとしても、問答無用で著作権が発生しないからな。
 でも残念ながら、特許公報にはこの規定は適用されない。著作権法第13条に「特許公報」が列挙されていないことはもちろんのこと、JISとは違って、「国…が発する」(同条第2号)ものではないからだ。特許公報はあくまで、特許庁長官が特許権の設定の登録をお知らせしているに過ぎない(特許法第66条第3項参照)。また特許明細書などには出願人などの名前が明記されていて、国の名義で公表しているものでもないから、官公庁名義で発行した白書、統計資料について刊行物への転載を認める規定(著作権法第32条第2項)も適用できない。

 この点、東京大学名誉教授の中山信弘氏は、『著作権法』(有斐閣、2007年)43頁で、特許公報に掲載される特許明細書を特許庁以外の第三者が利用することについて
無断で特許明細書を複製すると、形式的には著作権侵害となる可能性がある。…現行法では…例外は認められていない。と説明しているぜぃ。

 こんなこと言うと「え~、法律で決められていることにしたがって役所に文書を提出するのに、著作権がどうとか言われる筋合いはないよ」って愚痴が飛んでくるのが目に浮かぶように聞こえるが、はっきり言って、官公庁がどんな命令をして著作物を国民どもから持って来させようが、著作権法にとっては関係ないことなんだ!コピー、ウェブへのアップなど、著作権で権利者に無断でできるのは、図書館で調査研究目的の利用者に対して渡す場合のように、あくまで著作権法で列挙された利用行為だけだ。

 例えば、警察署に届ける車庫証明など、官公署に提出する「許認可申請書類・届出書類」に住宅地図のコピー添付する場合には、地図コピーに住宅地図会社が販売している「複製許諾証」の貼付が必要だと説明されているゼンリン:地図複製等利用のご案内。警察に車庫証明するために必要な文書をコピーすることについては、著作権法で権利を制限する規定がないからな。

 では特許公報についてはどうなのか?この点かつての「特許電子図書館利用上のご案内国立国会図書館インターネット資料収集保存事業により収集したもの)では、「特許電子図書館で提供する公報等の情報は著作権の対象となっておりますが、原則、特許電子図書館から取得した情報であるとの出典を明記していただくことにより、改変しない限り引用及び複製を行うことができます。」と説明していた。一見もっともらしいが、どこかヘンテコだ。何でかってーと、特許公報に掲載される特許明細書などを書いているのは弁理士など出願関係者であるから、そいつらが著作権をゲットしているはずである。だから、その利用について特許庁や独法が指図する権限はない。引用は著作権法上の規定の範囲なら言われるまでもなく可能であり、複製も私的利用目的の範囲なら同様だ。「出典を明記」すれば特許公報を利用できるなんて、著作権法のどこにも書いてないぞ。そんな風に俺様がこのブログでわめいたところ、その後の「特許電子図書館利用上のご案内」では、そんな能書きが削除され、「特許電子図書館で提供する公報に掲載されている特許請求の範囲、明細書、要約書の文章等や図面に掲載されている文章や図面等は、通常、その創作者である出願人等が著作権を有していますので、転載する場合には許諾が必要になることがあります。」とシンプルに説明されている(下記のとおりすがり氏のコメント参照)

 一応念のために言うと、特許審査手続で非特許文献(特許公報等に掲載された特許文献以外の論文、書籍、パンフレット、マニュアル、新聞等)について、出願人に送付するための審査官の複製や、審査官からの求めに応じるための出願人による複製については、著作権法第42条第2項で著作権が制限されている(文化庁 著作権法の一部を改正する法律の制定について 問7 「特許審査」手続等における文献の複製と「薬事行政手続」における文献の複製について、例外的に無許諾で行えることとする趣旨を教えてください。(第42条第2項) 参照)。しかしこの規定の目的は、あくまで出願特許の拒絶査定で、発明がすでに誰かによって開発されていることなどが書かれ、特許をゲットするための要件を満たさない「ゴミ発明」であることが、文献の著作権者の許諾が得られないばかりに判断できず、その結果「ゴミ発明」にも特許権が与えられて、日本の国際競争力を損なうことを防止するためのものだったんだ(文化審議会著作権分科会「特許審査手続に係る権利制限について」『文化審議会著作権分科会報告書』(平成18年1月)7-12頁参照)。だから審査ではなく、世間に公開することを目的とした特許公報とは関係がないものなんだ。そもそも「非特許文献」の利用について検討したものであり、特許公報などの「特許文献」を除いていることからして、それは明確だ(もっとも、この法改正を要望した特許庁が、特許公報の掲載物の著作権が問題になることを認識していたのかどうか不明だが)

 結局特許公報に掲載された、弁理士などが作成した明細書等を特許電子図書館でアップすることは、出願時に明確な許諾を得ていたり、「出願者は、その著作権を放棄しているあるいは複製の黙示の許諾を与えていると擬制」(中山・前掲43頁)してはじめて正当化されるものであり、それがなければフライング状態ということになるだろう。もっとも、弁理士たちが監督官庁の特許庁に対して、特許公報による著作権侵害訴訟を起こすとは考えにくいが。いざとなったら「お前らの弁理士免許、誰のおかげで持っていられるんだ?」と国家権力を発動すればいいだけのことだろう。

 ちゅうーことで企業や個人は、引用や私的複製などの著作権制限規定をうまく利用して、特許公報を利用することだな!

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