行政機関

Q41:海外の著作権法の所管省庁ってどうなっているの?

:オレ、誰でも知っているコンピュータ機器メーカーに勤めてんだけど、ずっと納得行かないことがあるんだよなあ。

それは「私的録音録画補償金制度」。音楽のデジタル録音で作曲家だか作詞家だかが著作権を侵害されているという難クセのせいで、オレ様の会社が作っている内蔵型音源ダウンロード機器に著作権料を課金するとかって言ってんだよ。ただでさえ、製品の値引き合戦が激しいこのご時勢にさあ。補償金制度なんかなくたって、画期的な課金システムを整備しているんだから、いらねーんだしよ。

文化庁はこんな愚策を法制化しようとしている日本の著作権法の所管官庁なわけだが、はっきり言ってよ、文化庁なんて文化財保護やら宗教法人制度なんていう古臭いものを扱っている官庁なんだから、著作権なんていう先進的な法律を扱えるわけはないんだよな。

ちゅうことでさあ、オレ様としては、日本の著作権法の所管省庁を文化庁から、どこかふさわしい省庁に移管すべきであると考えているところだ。そこで先進国ではどこの省庁が著作権法を所管しているのかを教えてほしい。文化庁が所管しているのは日本くらいなんだろうなあ、きっと。

:まずは、てめえの会社がどれだけボロ儲けしているのか、そして課金システムとやらがどのようなからくりで機能しているのかを情報公開してから、質問してほしいものだな。

著作権制度の諸外国の所管省庁についてだが、「先進国」だなんてケチなことを言わずに、全世界を見る必要があるだろうな。以下に、可能な範囲で確認できた国・地域の所管省庁名と、著作権関係の法律名(確認できたもののみ)を、国名のアルファベット順で列記するので見てほしい。なるべく原典に当たる必要があることから、できる限り当該国のURLをリンクした。もちろん言語は英語が基本だがCRIC(著作権情報センター)の邦訳がある法律については付記)、なかにはフランス語・スペイン語・アラビア語・中国語などもある。その点は、お前らの語学能力で克服してほしい。

アフガニスタン 情報文化省

アルバニア  観光文化青少年スポーツ省著作権局

アルジェリア 著作権・著作隣接権事務局

アンドラ 商標事務局 著作権・著作隣接権法案

アンゴラ 文化省文化産業国家委員会エンタテインメント・著作権理事会

アンティグア・バーブーダ 知的財産権・通商事務局

アルゼンチン 司法・治安・人権省総務登録局著作権課 1933928日知的財産法 (WIPO英語版

アルメニア 経済省知的財産庁著作権・著作隣接権局 2006年著作権・著作権隣接権法

オーストラリア 司法省民事司法・法務グループ分類・人権・著作権課著作権法担当 1968年連邦著作権法 (CRICサイト)

オーストリア  法務省民事局第1部第4課  1936年4月連邦著作権・著作隣接権法

アゼルバイジャン 著作権庁 著作権・隣接権法


 

バハマ 登録官事務局 

バーレーン 情報省報道・出版担当副長官事務局 2001年著作権・著作隣接権法案

バングラデシュ 文化省著作権登録局 

バルバドス 企業・知的財産局 1998年著作権法

ベラルーシ 国家知的財産センター 1998年8月11日著作権・著作隣接権法

ベルギー 法務省立法・自由基本法統括局民事・資産法担当 1994年著作権法WIPO英語版サイト

ベリーズ 知的財産庁

ベニン 文化省手工芸・観光・著作権局 Law No. 84-008, March 1984

ブータン 経済省知的財産局著作権課 2001年著作権法

ボスニア・ヘルツェゴビナ 知的財産庁 著作権・著作隣接権法

ボツワナ 通商産業省企業・ビジネスネーム・商標・特許・意匠登録局

ブラジル 文化省著作権調整担当局 著作権法

ブルネイ 司法長官事務局 ブルネイ・ダルサラーム憲法第83条3項に基づく1999年著作権緊急令

ブルガリア 文化省著作権課

ブルキナ・ファソ 文化・コミュニケーション省長官官房著作権課

ブルンジ 青少年・スポーツ・文化省芸術・文化部 1978年5月著作権制度令

カンボジア 文化芸術省 著作権・隣接権法

カメルーン 文化省法務局WIPO調整官

カナダ 産業省カナダ知的財産局 著作権法

カーボベルデ 文化省

中央アフリカ 観光・芸術・文化省中央アフリカ著作権局

チャド チャド著作権局

チリ 図書館・文書館・美術館管理局知的財産登録官

中華人民共和国 国家版権局(新聞出版総署) 中華人民共和国著作権法(CRICサイト)
香港特別行政区政府 知識産権署
中華民国(台湾) 経済部智慧財産局著作権組 著作権法(英訳) 著作権法(CRICサイト) 

コロンビア 内務司法省特別行政局国家著作権管理官

コモロ連合 内務省情報出版局

コンゴ共和国 文化芸術観光省コンゴ著作権局

コスタリカ 国家著作権・著作隣接権登録局

コートジボワール フランス語・文化省象牙著作権局

クロアチア 国家知的財産局

キューバ 文化省国家著作権センター

キプロス 通商産業観光省企業登録・財産管理局

チェコ 文化省著作権局

朝鮮民主主義人民共和国 発明局・リョンソン特許事務所

コンゴ民主共和国 文化芸術省

デンマーク 文化省著作権局 2006年著作権統合法(英語版)

ジブチ コミュニケーション・文化省郵便通信担当広報官

ドミニカ国 企業知的財産局

ドミニカ共和国 産業通商長官国家著作権局 2000年8月21日著作権法 2001年3月14日著作権施行令

エクアドル 知的財産局

エジプト 文化省最高文化評議会著作権保護常設局

エル・サルバドル 国家登録センター Legislative Decree No. 808 of 16 February 1994 on Books

赤道ギニア 大統領府科学技術研究会議

エリトリア 情報・文化省文化局

エストニア 文化省

エチオピア 知的財産局著作権管理官

フィジー 司法長官事務局

フィンランド 教育省文化・スポーツ・青少年局文化政策課著作権室 著作権法(FINLEX英語版)FINLEXフィンランド語版

フランス 文化・コミュニケーション省事務総局法制官付著作権室 知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律(CRICサイト)フランス語版:LEGIFRANCE)(英語版:LEGIFRANCE

ガボン 文化芸術省国家芸術文化促進庁

ガンビア 芸術文化国家センター著作権局

グルジア 国家知的財産センター 著作権・著作隣接権法

ドイツ 法務省第3局ⅢB3    1965年著作権及び隣接権法(CRICサイト)ドイツ語版:ドイツ法務省

ガーナ 文化省著作権局

ギリシア 文化省著作権局  1993年著作権・著作隣接権・文化事項法(英訳)

グレナダ 最高裁判所事務局登録局

グアテマラ 知的財産登録局著作権・著作隣接権課

ギニア 青少年・スポーツ・文化省著作権局

ギニアビサウ 青少年・文化・スポーツ省文化・スポーツ管理官著作権局

ガイアナ 捺印証書登録所

ハイチ 文化・コミュニケーション省著作権局

バチカン市国 バチカン市国法制局

ホンジュラス 知的財産事務局

ハンガリー 特許庁法制国際局著作権課 1999年著作権法

アイスランド 教育科学文化省 1972年著作権法

インド 人的資源開発省中等高等教育局 1957年著作権法CRICサイト

インドネシア 法務人権省知的財産権局 2002年第19号著作権法(英語版)

イラン 文化イスラム指導省著作権登録官

アイルランド 企業・貿易・雇用省科学技術・知的財産局知的財産ユニッ 2000年著作権法(WIPOサイト)

イスラエル 法務省顧問 1911年著作権法

イタリア 文化財・文化活動省文化財書籍財著者部局Ⅳ課 著作権および著作隣接権の保護に関する法律(1941年4月22日の法律第633号)CRICサイト

ジャマイカ 産業投資通商省知的財産局 著作権法

日本 文化庁長官官房著作権課・国際課 著作権法

ヨルダン 文化省国立図書館局著作権課 

カザフスタン 司法省知的財産権委員会

ケニア 司法長官府登録局

クウェート 情報省

キルギス 国家特許庁 著作権・著作隣接権法(英語版)

ラオス 情報文化省国家委員会

ラトビア 文化省著作権著作隣接権局

レバノン 経済貿易省知的財産保護局 文芸芸術財産保護法

レソト 法律憲法省

リベリア 財務省著作権局 1972年特許・著作権・商標法

リビア   人民委員会科学研究局

リヒテンシュタイン 貿易交通知的財産局 1999年著作権著作隣接権法

リトアニア 文化省著作権局 

ルクセンブルグ 経済海外通商省知的財産局

マダガスカル 情報・文化・コミュニケーション省著作権局 文芸芸術財産法

マラウイ マラウイ著作権協会 1989年著作権法

マレーシア 国内取引消費者行政省知的財産公社 1987年著作権法

マリ 文化・コミュニケーション省著作権局

マルタ 財政経済投資省通商局産業財産権登録課 2000年著作権法

モーリタニア 文化イスラム指導省文化局文化協力・知的財産部

モーリシャス 教育文化人的資源省文化局 モーリシャス著作者協会 1997年著作権法

メキシコ 公共教育省国家著作権局 連邦著作権法

モナコ 財政経済省経済拡大局知的財産課 

モンゴル モンゴル知的財産局

モロッコ 政府広報官(コミュニケーション省所管下の民間団体)

モザンビーク 文化省書籍・文書記録局著作権課

ミャンマー 内務省

ナミビア 情報放送省著作権局

ナウル 司法省特許商標著作権登録局

ネパール 文化・国家再建省著作権登録局 2002年著作権法

オランダ 法務省立法局 1912年著作権法 (オランダ法務省非公式英訳)

ニュージーランド 経済発展省知的財産局 1994年著作権法

ニカラグア 通商産業振興省市場競争透明化局知的財産登録課著作権著作隣接権室 著作権法(WIPOサイト)

ニジェール 青少年・スポーツ・文化省著作権局

ナイジェリア 情報・文化省著作権委員会

ノルウェー 文化・教会省 1961年文芸学術芸術著作物財産権関連法

オマーン 通商産業省

パキスタン 内閣府知的財産庁著作権局 1962年著作権令

パラオ 資源発展省

パナマ 教育省著作権局

パプア・ニューギニア 司法長官事務局

ペルー 産業・観光・統合・国際貿易取引省競争・知的財産保護局

フィリピン 大統領府知的財産局 知的財産法典、権限・機能の付与、その他の目的のための知的財産局設立を命じる法律(共和国法第8293号)

ポーランド 文化・国家遺産省法制部

ポルトガル 文化省著作権著作隣接権局

カタール 経済通商省著作権局

大韓民国 文化体育観光部文化コンテンツ産業室著作権政策課(日本語版) 著作権法(CRICサイト)

モルドバ 知的財産庁 著作権著作隣接権保護法

ルーマニア ルーマニア著作権局

ロシア 知的財産・特許・商標庁 著作権著作隣接権法

ルワンダ スポーツ・文化省 

セントクリストファー・ネイビス 最高裁判所登録官

セントルシア 企業・知的財産権登録局

セントビンセントおよびグレナーディン諸島 通商・知的財産登録局

サモア独立国 法務裁判運営省

サンマリノ 外務省経済社会局

サントメ・プリンシペ 教育・文化・青少年・スポーツ省

サウジアラビア 文化・情報省著作権総局 著作権法(日本貿易振興機構リヤド事務所 和訳:2003年8月)

セネガル 文化・遺産・歴史・国語・フランス語圏省著作権局

セルビア 知的財産庁著作権著作隣接権局 2004年著作権著作隣接権法(英訳)

セーシェル共和国 芸術・スポーツ・文化省芸術・文化局国家遺産課国際協力ユニット

シエラレオネ 文化観光省文化局知的財産課

シンガポール 法務省知的財産局

スロバキア 文化省メディア・著作権局 2003年著作権著作隣接権法

スロベニア 経済省知的財産局

ソロモン諸島 警察司法省登録官事務局

南アフリカ 貿易産業省企業・知的財産登録局 1978年著作権法

スペイン 文化省知的財産局 1996年著作権法

スリランカ 知的財産庁 2003年知的財産法(第1章:著作権 第2章:著作隣接権

スーダン 文化・青少年・スポーツ省文芸芸術作品最高委員会

スリナム 知的財産局

スワジランド 司法憲法省登録官事務局

スウェーデン 法務省知的財産・交通法局 1960年著作権法

スイス 知的財産局法制・国際部著作権法担当 1993年4月26日著作権・著作隣接権保護に関する指令

シリア 文化省著作権局

タジキスタン 文化省著作権著作隣接権庁

タイ 通商省知的財産局 1994年著作権法日本語版 ジェトロ・バンコクセンター

マケドニア旧ユーゴスラビア 文化省著作権著作隣接権保護局

トーゴ 文化・青少年・スポーツ省著作権局 1991年著作権・フォークロア・著作隣接権保護法

トンガ 労働通商産業省 2002年著作権法

トリニダード・トバコ 法務省知的財産局

チュニジア 著作権保護局

トルコ 文化観光省著作権・映画総局著作権課 知的財産美術作品法

ウガンダ 司法憲法省登録局

ウクライナ 教育科学省著作権著作隣接権庁  1993年著作権著作隣接権法

イギリス ビジネス・イノベーション・技能省知的財産庁 1988年著作権・意匠及び特許法CRICサイト

タンザニア 経済貿易省ビジネス登録・ライセンス庁著作権局

アメリカ合衆国 議会図書館著作権局 1976年著作権法 (CRICサイト)

ウルグアイ 教育文化省著作権委員会 

ウズベキスタン 著作権庁 (英語版ポータルサイト)

バヌアツ 金融サービス委員会 (音が出るので注意)

ベネズエラ 司法省知的財産自治総局著作権管理官

ベトナム 科学技術省著作権局 ベトナム著作権関連法(英語版) ベトナム知的財産法典(抄)(CRICサイト) ベトナム社会主義国民法典(抄)(CRICサイト)

イエメン 文化省

ザンビア 情報放送省著作権局

ジンバブエ 司法法制議会省特許商標意匠局 著作権著作隣接権法(Chapter 26:08)

WIPOウェブサイト"Member States"などを参照】

以上の各国(180カ国2地域)の所管省庁を分類別に集計すると、下記のようになる。

①文化・教育・科学技術・著作権系 84カ国

②産業・通商・知的財産系 53カ国2地域

③法務・司法・裁判所・登記所系 31カ国

④内務・情報出版統制系 5カ国

⑤通信・放送系 3カ国

⑥財務・金融系 2カ国

⑦外務省 1カ国

⑧国会 1カ国

見てのとおり、断然に①の教育・文化系が多くなっている。いっとき、デンパ行政の官僚が、放送免許制の問題点をそっちのけにして、放送と通信の融合をわめいた上に、議員に働きかけて著作権法も所管する「情報通信省」なる省庁再々編をぶちあげていたが、いかにそれがくだらないことが分かるだろう。再々編が実際された場合に、図書館員からのマニアックな電話相談に親身に乗る覚悟ができていれば、別だがな。

ちゅーことで、残念ながら、諸外国を参考にして著作権制度の所管省庁を決めようとする場合には、現状維持にならざるを得ないだろうな。

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Q40:朝刊のスクープ記事が、他紙の夕刊にも掲載されていたのですが…

:こんにちは。ぼくは都内の有名私大法学部に通学する大学生です。ネットが好きで、ピリ辛もよく読んでいます。きっかけは大学で履修している著作権法の夏休みレポートを書くときに、テーマがピリ辛にアップされていたものと同じだったのでコピペ(コピー&ペースト)して提出したことでした。そのおかげで、余計な時間をかけることなくバイトや海外旅行とかしてエンジョイできたのですが、その講義の先生もピリ辛マニアだったため速攻でコピペ工作がばれてしまい、単位を落とすことになりました…。そのときに先生から、レポートを書くときの引用・出典の明示の重要性や、他の人が作った文章、画像などの作品をコピーするときには著作権が及ぶことを教えてもらいました。それ以来、コピペには注意するようになりました。

 そこでふと思ったのですが、ある新聞の朝刊に特ダネ記事が出たときに、その日の夕刊から後を追うようにして似たような記事が載ることがありますよねえ?これって、パクっていることにならないのですか?レポートのコピペと同じことが新聞では許されるのですか?ぜひ教えてください!

==========================

:ピリ辛のご愛読ありがとな!おかげさんでブログ開設から2年弱で、アクセス4万件を突破する寸前まで来たぜ。来訪者も大学生・法科大学院生はもとより、大学研究者、官公庁、裁判所、国会関係機関、大企業、ベンチャー企業、大手法律事務所、教育委員会(小中高含む)、シンクタンク、図書館、マスコミ、海外の有名大学など、ありとあらゆるところからアクセスしていただいているぜ★。もはや日本の著作権法の情報源の一つとなっている言っても過言ではないな。

 大学のレポートで俺様のブログからコピペしたのがばれて気の毒だったなあ。似たようなことを新聞がやっているのを見て癪に障ったということだな。今回は著作権法上、マスコミがどういう特別扱い、すなわち著作権制限規定の適用がなされ著作物を権利者に無断で使える場合があるのかを考えてみよう。

 他紙の特ダネを新聞社が追いかけることについては、「○○が発表した」「○○は明らかにした」というふうに官公庁などの当局のリアクションによりかかる形をとれない場合には、「○○ということが、わかった」と書くとの慣行が新聞業界にあるという指摘がある(河野博子「『正確な引用』が競争のルール 他紙を追いかける米紙のたたずまい」Journalism No.22[2008.12]38頁)。具体例として下記の4つの記事を比較してみよう。

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共同通信2003年12月25日宗教法人の財務情報を開示 鳥取県が異例の判断 文化庁は非開示求める 鳥取県が宗教法人から提出された財務情報を県情報公開条例に基づき全面開示していたことが二十五日分かった。文化庁は一九九八年『信教の自由を害する恐れがある』などとして原則非開示を求める通知を各都道府県に出しており、同県の判断は異例。宗教法人をめぐる情報公開に影響を与えそうだ。〔以下略〕」(同月26日付『日本海新聞』『山陰中央新報』に掲載)

読売新聞2003年12月26日夕刊寺社のフトコロ見せます 鳥取県が情報公開 鳥取県が県情報公開条例に基づき、寺社二法人が二〇〇二年度分の財産目録や収支計算書に記載された財務情報を、全面開示していたことが二十六日、わかった。〔以下略〕」

朝日新聞〔大阪版〕2003年12月26日夕刊宗教法人財務を開示 鳥取県 文化庁通知に反し 鳥取県が宗教法人から提出された文書について県情報公開条例に基づき、財務情報を開示していたことが26日、わかった。文化庁は都道府県に対し『信教の自由を害する恐れがある』として、代表者名などを除いて開示しないように通知していたが、同県は『県の責任で宗教活動に支障はないと判断した』としている。こうした情報の公開は異例。〔以下略〕」

毎日新聞〔鳥取県版〕2003年12月26日夕刊宗教法人の財務情報を全面開示 鳥取県が宗教法人の財務情報を、県情報公開条例に基づき全面開示していたことが、26日明らかになった。宗教法人の情報開示を巡っては98年、文化庁が『信教の自由を害する恐れがある』などと、原則非開示を都道府県に通知している。〔以下略〕」

※最高裁平成19年(2007年)2月22日判決により、鳥取県による上記方針に基づく公文書開示決定(日香寺事件)は同県情報公開条例に違反するものとして取り消されるべき旨確定した(鳥取県公式サイト「宗教法人から提出された書類の情報公開に係る訴訟の判決の確定について」参照。宗教法人の書類提出制度については、文化庁ウェブサイト「所轄庁への書類の提出」参照。なお、宗教法人は信者等の利害関係者から財産目録等の閲覧請求があったときは、原則として閲覧させなければならない(宗教法人法第25条第3項))。

*************************************************

 以上の4つの記事から分かる事実としては、(所轄庁に提出される)宗教法人の財務情報について、1998年に文化庁が「信教の自由を害するおそれがあるため」情報公開請求があっても原則として非開示とするようにとの通知を各都道府県に出した、①があったにもかかわらず、鳥取県は(当時の県知事の英(珍?)断により?)宗教法人から提出された財務情報に対する情報公開請求に応じて全面開示した、ということである。

 そして上記の河野博子氏の記事によれば、読売・朝日・毎日の各記事は、共同通信が発信した記事を掲載した日本海新聞・山陰中央新報の26日付朝刊を読んで「抜かれた!!」と焦燥感にかられ、関係当局に電話取材するなどして、同日夕刊に間に合わせたということが「26日、分かった(明らかになった)」という文末で読み取れることになる。もし出典を明示するのならば「鳥取県が宗教法人の財務情報を、県情報公開条例に基づき全面開示していたことが、共同通信25日発の記事で分かっ。」ということになるだろう。

 では報道倫理はともかくとして、著作権法上もこのように抜かれたネタを利用する場合に出典等を明示しなければ著作権法違反となるのか?他人の著作物を利用して自己の著作物を作成するときに適用される典型的な著作権制限規定として引用の規定(著作権法第32条第1項)がある。これが適用されるためには、(1)利用される著作物が公表されたものであること、(2)引用する著作物と引用される著作物が明らかに別物と認識できるだけの区別がなければいけない(明瞭区分性)、(3)利用する側の著作物が主で、利用される側の著作物が従たる関係になくてはならない(附従性)、(4)出所明示(著作権法第48条第1項第1号参照)の要件を満たす必要があるとの判例がある(最高裁判所第三小法廷昭和55年03月28日判決(昭和51(オ)923)(パロディ事件判決))。

 しかし事実の伝達にすぎない雑報や時事の報道は著作物に該当しないと規定されている(著作権法第10条第2項)。著作物が「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定(同法第2条第1項第1号)されていることからして、当然の帰結だろう。また現実問題として、緊急性のある事実(事故の発生など)について一々先に報じた報道機関の許諾を得なければならないとするのは不可能だろう。

 このほか報道機関については、時事の事件の報道のためにその目的上正当な範囲内において著作物を利用すること(同法第41条)、時事問題に関する論説の転載(同法第39条)、国、地方公共団体等で行われた公開の演説、陳述を報道の目的上正当と認められる範囲内での利用(同法第40条2項)において著作権制限が認められている。

 他紙が抜いたスクープ記事の利用に関して言えば、例に挙げた宗教法人の情報公開ネタにおいては、共同通信が初めて報じたの事実をモチーフに、新聞社それぞれが独自の取材をして記事を書いたのであれば、単なる事実には著作物性はなく、それを利用しても記事という著作物を創作的に作成したということで、引用の要件を満たさなくても著作権侵害ということにはならないだろう。

 しかし問題となるのは、コラム、論説や大学入試問題の掲載「Q21:大学入試問題をニュースサイトに掲載したいのですが」参照)のように、事件の単なる伝達というよりも文章の中身に着目して記事を作成する場合であろう。このような場合には著作権法第10条第2項は適用されないため、引用などの著作権制限規定が適用されないか注意を払うことになる。場合によっては、著作権者の許諾が必要になることもあるだろう。

 要は、レポートを作成する場合も報道の場合も、他人の著作物を利用する場合にはある一定の目的の場合には例外的に許諾を得なくてもよい場合があるが、そうでない場合には著作権者の許諾を得るか、自分で考え抜いて創作しろや、ってことだな。もっとも著作権法上出典の明示が必要ない場合であっても、学術の発展、情報源のアクセスへの配慮や自分の能力を示すため(まともな文献を読んでレポートを作成していることを教員にアピール)に必要な場合もあるから、著作権法だけに頼らずに勉強するこったな。

【参考文献】谷井精之助・豊田きいち・北村行夫・原田文夫・宮田昇『クリエイター・編集者のための引用ハンドブック』(太田出版、1998年)

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Q39:100%正しい著作権の答えがほしいのですが…

:こんにちは。私はITベンチャー企業の経営者です。子どものときからパソコン好きだったのが高じて会社を立ち上げたのですが、でっかい組織の歯車になるよりもずっとやりがいがあると思っています。

 これからやろうとしている事業としては、インターネットを通じたコンテンツ送信サービスを考えています。規制がいっぱいある地上波放送に比べると、チャンスがいっぱいありそうですからね。ところがベンチャー仲間から聞いたところによると、著作権の規制がたくさんあって何も知らずに事業を始めると著作権者から苦情が来ると聞きました。

 もちろんコンプライアンス重視なので法を守って事業をしたいと思っていますが、何が正しくてどうすれば100%確実に訴えられることなく、しかもコストをかけずにビジネスができるのかを真剣に考えています。特に著作権法では、私的に使う場合などには無断で利用できると聞いたことがありますので、そういう制度を十二分に活用したいと思っています。

 そこでお願いなのですが、どこに著作権法のことを聞けば確実な答えがもらえるのでしょうか?裁判は絶対いやなので(この前通知が来た裁判員候補者も拒否したいくらいですw)裁判所には聞けず、また余計なお金は払えないので弁護士にも聞けませんが、やっぱ所管省庁なのでしょうか?それとも著作権法学者や電話相談室などでしょうか?ぜひ教えてください!

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あるわけねぇ~だろ!(爆)。てめえのような甘ちゃんが多いんだよな。ネットの掲示板で著作権のスレッドを見ても、教えて君ばかりだしよ。今回は著作権に関して示される見解の意義や生かし方を考えてみよう。

 そもそも論として、お前が言っている「100%正しい著作権の答え」とはいかなる場面で効果を発揮するのか?規制行政に飼いならされた世間の大方のやつらは、所管省庁に「あ~、それは大丈夫ですよ」って答えてもらって、それをてめえに文句をいう奴に対して、水戸黄門の印籠のごとく「○○省(庁)は俺が正しいと言っている」と誇らしく主張して、自分の思い通りに事を運ぼうと期待しまくっている。

 だがなあ、このブログで何度もなんどもしつこく言っているように、著作権法は行政規制法ではない著作権はあくまでも私権であり、著作権行使による文句の矛先は所管省庁(文化庁)ではなく、権利者に向けなければ問題は解決しない。「政府規制の問題であれば、政府ないしは官庁が自己の有する権限を手放せば済む場合も多いが、著作権の場合は、著作権という私権の内容をどのように再構成するか、あるいは既得権となっている著作者・著作権者の権利をいかに制限するかという問題」というわけだ(中山信弘「著作権法と規制緩和」西村あさひ法律事務所西村高等法務研究所編『西村利郎先生追悼論文集 グローバリゼーションの中の日本法』(商事法務、2008年)386頁)。したがって所管省庁(文化庁)に電話して、自分が有利に進めたい著作権の質問事項について「愛していると言ってくれ~!(むかし、そんなドラマがあったなあ…)と求愛するが如く、電話に応対しているやつに「イエス!」と言ってもらえるまで粘るのは無意味というものだ。まして「それはケース・バイ・ケースで、裁判しないと分かりませんねえ…」と回答されたときに「ざけんじゃねぇ、俺が裁判できるわけねーだろ!!」と逆ギレするのは愚の骨頂というべきである。

 ここで「裁判しないと分かりません」と書いたが、どういうことなのか?これは正に憲法で規定する三権分立の問題だろう。国家の立法・行政・司法の権限のうち、立法権は国会(日本国憲法第41条)に、行政権は政府(同第65条)に、司法権は裁判所(第76条)にそれぞれ属している。したがって著作権に限らず、自分の身に起こっている揉めごとを相手方との交渉ではまとめきられず、国家に公的に介入してもらって解決したい場合には、弁護士を雇うなど身銭をきって裁判に臨む必要がある。

 国家の権限が三権に分かれている結果として、それぞれの機関の見解が異なることがありうる。その典型例が、映画「シェーン」事件最高裁判決(最判平成19年12月18日民集第61巻9号3460頁)だろう(吉田利宏・いしかわまりこ「法令読解心得帖 法律学習はじめの一歩 第25回 法律の解釈権」法学セミナー第649号[2009.1]58-61頁)。この事件は、映画の著作物の著作権保護期間(著作権法第54条第1項)を公表後50年から70年に延長した「著作権法の一部を改正する法律(平成15年法律第85号)」は平成16年1月1日から施行されることになっていたが(同法附則第1条)、同法附則第2条において「改正後の著作権法(次条において「新法」という。)第54条第1項の規定は、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従前の例による。」と規定されていたことから、改正前の規定によれば平成15年12月31日には著作権が存在するが平成16年1月1日は著作権が消滅している昭和28年公表の映画の著作物の保護期間も20年間延長されたのかどうかが争点となった。

 この点、原告からは次のように、平成15年法改正における文化庁、内閣法制局の立法作業経緯、国会の立法者意思から見て、20年間延長していると主張している(東京地裁平成18年10月6日判決(平成18(ワ)2906)12頁)。

「 平成15年4月に,内閣法制局第2部において,著作権担当の参事官が担当の部長に,本件改正法における映画の著作物の著作権保護期間についての経過措置の内容を説明することになっていたが,文化庁は,その説明のための資料として,「平成15年法改正法制局第2部長説明資料」と題する書面(以下「本件資料2」という。)を作成し,実際に,内閣法制局第2部では,著作権担当の参事官が本件資料2を示して担当部長に説明を行った。本件資料2には,「第54条の映画の著作物の保護期間延長の規定が来年(2004年)1月1日に施行される場合,本年(2003年)12月31日まで著作権が存続する著作物については,12月31日の午後12時と1月1日の午前0時は同時と考えられることから,『施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存するもの』として保護期間が延長されることとなる」と明確に記載されているが,本件資料2に記載された「映画の著作物の保護期間についての経過措置」の原案がそのまま第156回国会において「著作権法の一部を改正する法律案」として提出されていることから,内閣法制局が平成15年12月31日の午後12時と平成16年1月1日の午前零時は同時である,すなわち,昭和28年に公表された映画の著作物は,改正著作権法の適用を受けると考えていたことは明らかである。
 そして,上記「著作権法の一部を改正する法律案」が第156回国会による審議を経てそのまま成立していることから,立法者である国会も,平成15年12月31日の午後12時と平成16年1月1日の午前零時は同時である,すなわち,昭和28年に公表された映画の著作物は,改正著作権法の適用を受けると考えていたことも明らかである

 少し補足すると、著作権法などの法律案を政府が作成して国会の審議にかける場合、各省庁が法律案原案を作成した上で、内閣法制局からその内容が憲法に違反しないか、他の法令に抵触しないかなどの法令審査を受ける必要がある。上記の主張にあるように、参事官や部長のOKをもらう必要があるわけだ。この審査を通過すれば事務次官等会議、閣議決定を経て国会に提出されることになる(内閣法制局ウェブサイト「法律ができるまで」参照)。したがって、保護期間の延長について昭和28年公表の映画の著作物も保護期間延長の対象になるという見解は、法制局審査を通過したことから、正式な政府解釈であるということができる。

 しかし上記最高裁判決では「『この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例による』と定めているが,これは,本件改正法の施行日において既に保護期間の満了している映画の著作物については,本件改正前の著作権法の保護期間が適用され,本件改正後の著作権法の保護期間は適用されないことを念のため明記したものと解すべきであり,本件改正法の施行の直前に著作権の消滅する著作物について本件改正後の著作権法の保護期間が適用されない」「本件映画を含め,昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は,本件改正による保護期間の延長措置の対象となるものではなく,その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅したというべきである。」として、保護期間の延長を否定した。

 このような裁判所の判決については批判もあり(作花文雄「映画『シェーン』事件知財高裁判決―引き続く混迷の様相」コピライト2007年5月号51-64頁、同「『シェーン』事件最高裁判決の残した課題」コピライト2008年2月号40-48頁)、また「『小津安二郎作品の保護期間をつなげるために法改正するんです』と、私は何百人もの国会議員に説明した」としこのような本来の法改正目的が国会質問されなかったことを嘆く声もある(岡本薫「特別講演 『WIPO新条約と利用可能化権の創設』(抄)」『2007年度 ALAI JAPAN国際研究大会講演録~シンポジウム「権利の制限と3-step-test」』(ALAI JAPAN 事務局、2008年)20-21頁)。しかし、立法者意思についてはあくまでも一つの解釈の材料、根拠という位置づけであり、司法判断を受けたものではない政府解釈については裁判所で誤ったものであると判断されることがある旨の指摘がなされているところである(杉浦正樹「最近の著作権裁判例について」コピライト2007年2月号20頁)。

 一方で過去の裁判例では、図書館等の複製に係る著作権法第31条で規定する著作物の単位が争点となった多摩市立図書館複写拒否事件(東京地判平成7年4月28日判時1531号129頁)や、北朝鮮・台湾の国民が作成した著作物が日本の著作権法で保護されるかどうかを争った北朝鮮テレビ放映事件(東京地判平成19年12月14日 平成18(ワ)5640 平成18(ワ)6062(「Q9:台湾人の著作権って、日本で保護されるの?」、「1万アクセス突破だぜ!!」参照)などではいずれも文化庁の見解を採用しており、政府解釈と司法判断の関係については注意する必要があるだろう。

 以上のように、著作権の解釈に対する評価は、私人間の交渉、行政との関係、裁判所との関係など、場面によって異なるといえるだろう。したがって、著作権に関する「正しい答え」を所管省庁、著作権法学者、電話相談室などの誰かに寄りかかって解決することはできないだろう(そういう奴に限って、期待する結果を得られなかったときに責任をなすりつけようとするんだよな)。要は自分が主体となって、どの機関を利用するかをケース・バイ・ケースで考える必要があるというわけだ。場合によっては、身銭を切って弁護士に法律相談する必要もあるだろうな。

 自分で何とか考えたいと改心した奴は、著作権法を解釈するための「よりどころ」として、①裁判所の示した見解、②政府の見解、③著作権法の立案作成者の見解、④著作権法の学者の見解、⑤権利者団体から示された見解、などに沿って、結論を導くことも考えられる(南亮一「マイクロフィルム及び電子媒体の著作権問題 第12回(最終回) 著作権の解釈を行う方法について」月刊IM Vol.48 No.2[2009.2]19-22頁)。確かに、このように法解釈の見解をリサーチして、それによって問題を解決することは、ある程度は有効であり、恣意的な出鱈目解釈よりはずっとマシだろう。しかし、やはり他人の権威を笠に着ていることに変わりはなく、新しい問題や、図書館の問題のようにまともな裁判例がなく、多くの法律家から放置されている領域については、有用ではないおそれもあるだろう。

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Q38:店内でテレビをつけていたら、WTOに提訴するぞと言われたのですが

:こんちは。おれ、ラーメン屋を経営しています。知ってるかもだけど、家系ラーメンで有名な店で何年か修行してから、親分に暖簾分けしてもらって、今は国道沿いに店を構えています。秘伝のダシがきいてうまいと大評判で、週末は列ができるほどになっています。

 この前の水曜のことだったんだけど、昼飯どきにヨーロッパ系っぽい中年のおっさんが来たんだけどさあ。店に置いてあったテレビを見て、番組でドイツのロックバンドの曲が流れたら、いきなり「この曲の著作権の許諾契約はとっているのか!」って流暢な日本語でおれに問いただしてきました。おれは「そんなのしてねえよ。つか、求められたことなんてねーけど」って言ったら「私はこのロックバンドの日本での著作権代理人だあ。著作権侵害として、お前に著作権使用料を請求する!」って大声で言われました。

 「なんだ、このおっさん」と思っていたところ、後ろで味噌ラーメンを食べていた常連さんが「おじさんさあ、日本ではテレビ番組を店でつけるのは、著作権と関係ないってきいたことあるよ」って助け舟をだしてくれたんです。「恩にきるよ、今日のラーメン代、タダでいいぜ」って心の中でつぶやいたところ、「なぬ?それだったらWTOに提訴してやる~!」と息巻いて店のパンフレットを持って、店を飛び出しました。

 この話の流れが全然読めないんですが、俺の店は著作権侵害しているのでしょうか、そして著作権使用料を払わないといけないのでしょうか?またWTOの提訴って何なんでしょうか?分からないことだらけなので、ぜひ教えてください。

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:家系ラーメンかあ。俺様はあいにく行列が嫌いだが、平日の昼間に行けるようになったら行ってもいいかなあ~

 質問だけど、日本においてはテレビ番組をラーメン屋などの営利目的の店で流すことについて著作権法上問題ないというのは、常連が言ったとおりだ。どういうことかってーと、テレビ番組を店内のテレビを通じて不特定または多数の客どもに見せるという行為は、原則として公衆送信(テレビの電波発信)によって送信されてきた番組等の流れて行く先をコントロールする権利である公の伝達権が働く(著作権法第23条第2項)。しかし、同法第38条第3項において、営利を目的とする場合でも通常の家庭用受信装置を用いて行う場合には公の伝達権は制限され、ラーメン屋などの店でも著作権に関係なく普通のテレビを使って番組を客どもに見せることができるようになっている。その趣旨としては「まだ我が国では、そこまで著作権を及ぼすことに社会的・心理的抵抗が強いと考えられるからでございます。」と説明されている(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、平成18年)276頁)。

 ラッキーって思うかもしれねえが、ここで注意する必要があるのがベルヌ条約著作権に関する世界知的所有権機関条約のような著作権の国際条約だ。何度もこのブログで言っているが、著作物ってーのは作成された国内だけではなく、世界中にホイホイ流通するものだから、世界の国々でお互いに保護しましょうぜって協定を結ばないことには、法制度を作る意味がないから、そういう国際条約をこしらえているわけだ。iPodやパソコンへの著作権課金をするときに問題になる私的録音録画補償金問題の議論で、「iPodやパソコンにも補償金を認めなければ、ベルヌ条約のスリーステップ要件(同条約第9条第2項)を満たせず、日本が条約違反を冒してしまうことになる」と金切り声を叫んでいる団体がいるだろ。あれだよ、あれ。

 ふんじゃあ、日本の著作権法がそのベルヌ条約を破っているとした場合、日本の政府なりユーザーは、どこかの国際的な裁判所で賠償命令が下されたり、国際刑務所に収容されたりするのだろうか?実はそんな規定はベルヌ条約には何もない(爆)。各条文を見ると「排他的権利を享有する」「保護される」という文言がいっぱい並んでいるが、世界のどこかの偉い人が条約違反した奴らを制裁することはどこにも規定されていない。いわば小学校の「廊下を走るのはやめましょう」という張り紙に近い効果しかないわけだわな。

 しかし、それでは世界の知的財産権は破られ放題でやったもん勝ちになってしまう。そこで登場したのが、WTO設立協定(世界貿易機関を設立するマラケシュ協定 )だ。WTOとは世界貿易機関なわけだが、その附属書1Cとして「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)を作成し、「加盟国は、1971年のベルヌ条約の第1条から第21条まで及び附属書の規定を遵守する。」(同協定第9条第1項)として、著作権についてはベルヌ条約を守れやってーことになっている。そして注目されるのが、このTRIPS協定に違反した場合には、当事国が違反した国に対して紛争解決に係る規則及び手続に関する了解(WTO設立協定附属書2・DSU)に則って訴えを提起し、紛争解決を図れるという点だ(DSU附属書1(B)、TRIPS協定第64条)。その背景としては、「先進国は…ベルヌ条約など既存のWIPO所管の知的財産権条約はその違反に対して有効な制裁措置を課すことができないことから、実効的な履行確保手段を欠いていると考え、知的財産権保護の約束をGATTの一部に取り込むことで、違反に対するGATT第23条第2項の貿易制裁措置の発動を可能にし、もって協定の履行を確保しようとした」とされている(尾島明『逐条解説 TRIPS協定』(日本機械輸出組合、1999年)268頁)。

 なおDSU第3.1条では、「加盟国は、1947年のガットの第22条及び第23条の規定の下で適用される紛争の処理の原則並びにこの了解によって詳細に定められ、かつ、修正された規則及び手続を遵守することを確認する。」と規定され、WTO加盟国が従来のGATT(関税及び貿易に関する一般協定)手続の基本原則を踏襲すべきことを定めているところである。

 DSUにより紛争を解決するに当たっては紛争解決機関(DSB、DSU第2.1条)により手続が進められるが、その流れは下記の通りとなる(尾島・前掲281頁)。

協議の要請(提訴国)⇒協議⇒(相互に満足のゆく解決:終了)⇒パネル設置要請(提訴国)⇒パネルの設置(DSB)⇒パネルへの付託事項及びパネリスト決定⇒パネル審理(意見書提出・口頭弁論)⇒パネル報告書⇒(上訴する場合 上訴申立(敗訴国)→上訴審理(常設上訴期間)→上訴審報告書)⇒パネル(上訴審)報告書採択(DSB)⇒勧告履行のための合理的期間の決定(仲裁)⇒(勧告の履行)⇒制裁措置発動許可の要請(勝訴国)⇒制裁措置発動認可(DSB)⇒制裁措置の量の決定(仲裁)⇒制裁措置発動(勝訴国)

 今までにWTOでどんな紛争が提起されたのかを知りたければ、WTOウェブサイトの"Chronological list of disputes cases "を見れば分かる。2008年12月7日現在(確認)で1995年1月以来、383件提訴されていることが分かる。

 日本が著作権に関連して提訴された案件に関して言えば、DS28DS42でそれぞれアメリカ、ECから1996年に提訴されたものがある。何が問題になったのかというと、日本では昭和45年までは旧著作権法(明治32年法律第39号)が適用されていたが、そこでは実演家の権利やレコード製作者の権利の保護期間は死後又は公表後30年とされていた(同法第3条~第8条)。その一方で、1994年に採択されたTRIPS協定では、第14条第5項で「実演家及びレコード製作者に対するこの協定に基づく保護期間は、固定又は実演が行われた年の終わりから少なくとも50年とする。」とされ、同条第6項ただし書きで「1971年のベルヌ条約第18条の規定は、レコードに関する実演家及びレコード製作者の権利について準用する。」と規定されていたことから、著作隣接権である実演家とレコード製作者の権利についてどれだけ遡及的に保護期間の延長を図るのかが問題になった(TRIPS交渉等の国際動向などに伴う平成3年改正前は、著作隣接権の保護期間は実演等の後30年間。加戸・前掲577頁参照)

 この点、日本政府はベルヌ条約第18条第3項の「前記の原則の適用は、これに関する同盟国間の現行の又は将来締結される特別の条約の規定に従う。このような規定がない場合には、各国は、自国に関し、この原則の適用に関する方法を定める。」の解釈について、どの程度過去の実演等まで保護する必要があるのかは各国の合理的な裁量に委ねられると考えた上で、著作隣接権制度が日本に導入された昭和46年1月1日(改正当時から見て25年前のものまで)以降に行われた実演、放送、同日以降にその音が最初に固定されたレコードのうちWTO加盟国に係るものを新たに保護対象に加えることとされた(加戸・前掲769-772頁、著作権法第7条第7号・第8条第5号・第9条第4号、附則旧第2条第3項参照)。ところがアメリカとECは日本の著作権法改正の措置では不十分である(50年前のものまで保護すべきである)として、WTO提訴をしたというわけだ。

 日本政府としては話が違うぞゴラァーって感じだったが、ほかの先進諸国では著作隣接権を50年前まで遡及して保護しており、国際的な調和を図る観点から、米国等の主張を受け入れ、平成8年に再度法改正したという経緯がある(加戸・前掲770頁、作花文雄『詳解著作権法(第3版)』(ぎょうせい、2004年)540-541頁参照)。

 では、お前んちのラーメン屋にどなりこんだ外国人のおっさんが言ったことはどういうことなのか?これはおそらくWTOのDS160を念頭に置いて言ったものと考えられるな。内容はだなあ、アメリカの著作権法第110条(5)では、ラジオやテレビで放送される音楽を、一定の条件の下で、飲食店や小売店舗において、著作権者の許諾を要することなく、またロイヤリティの支払もなく、流すことを許容するというものである。この条項が例外として許容しているのは、ひとつは"homestyle exemption"(同第110条(5)(A):家庭利用に関する著作権免除)であり、もうひとつは"business exemption"(同第110条(5)(B):商業利用に関する著作権免除)と言われるものだが、これらがベルヌ条約第11条等に違反するとして、ECが1991年1月にアメリカをWTOに提訴したというものだWTO法研究会『米国著作権法第110条(5)に関するWTOパネル報告書の日本語訳と解説(WT/DS160/R, 2000年6月15日付)』(日本機械輸出組合ウェブサイト)。結論としてはパネル報告書69頁で、"homestyle exemption"はベルヌ条約に適合するが、"business exemption"については適合しないということになった。この規定は、さっき言ったわが国の著作権法第38条第3項、すなわち店内のテレビによる伝達に係る著作権制限規定にも係ることから、日本が第三国としてこの紛争に参加したところだ著作権審議会国際小委員会(第4回議事要旨)(平成12年6月30日)参照)。もっとも、アメリカ著作権法第110条(5)の規定は今も相変わらず改正されていないようだが。国力があって、ドラえもんのジャイアンみたいに「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」って具合に、人には突っ込みを入れるのに、手前のことになると開き直るという態度をとる国はそんなもんなんだろうがな。

 ちゅーことで、家系ラーメンの経営者としてはわが国の著作権法第38条第3項を盾にとって著作権侵害でないことを主張できるが、国際的な問題については日本政府がんばってねー、ってことになるだろう。外国政府からのWTO提訴がこわかったら、先回りして著作権法改正で同項を削除するのも手かもしれねえがな。

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Q37:著作権譲渡のおいしい投資話が来ているのですが…

:タイゾーさん、こんばんは。おれは六本木ヒルズ族になることを夢見ている投資家です。そんでもって、儲け話には結構敏感なんすよねえ~♪

 そんなおれっちに、最近おいしい話が来たんすよ。これ、いつもタダで著作権情報を教えてくれるタイゾーさんにだけの秘密なんすけど、とある有名な音楽アーティストから、その人が作った楽曲の著作権をまるごと破格の値段で譲渡してくれるっていうんすよ。彼によれば「JASRACに登録している楽曲の著作権は全部ぼくの手元にあります」「ぼくは音楽出版者とはインディペンデントなんで完全な著作権者です」と言ってから、「いまは節税するためにぼくの関連会社に著作権を預かってもらっていますが、この通りちゃんと文化庁で同社へのパーフェクトな著作権譲渡の登録をしています。」と著作権登録原簿の謄本を差し出しました。確かに謄本には1番目の権利者はそのアーティストで、2番目が彼の関連会社となっています。お金を振り込んだら、おれへの著作権譲渡の登録を文化庁でしてくれるそうです。

 おれはすっかり信用したんで、銀行やサラ金から借りてでも、このまるごと著作権を買い付けようと思ってんだけど、著作権のことよく分かんないんで、何か重要な点や注意すべき点があったら教えてくれや。儲けが出たら、ちょっとは分けてやっからよ!

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:儲け話か。俺様は1日に1回、吉野家の牛丼を食えればそれでハッピーだから、とんと興味はねえな。つか、手形や株券みたいに、音楽著作権の流通を投資の対象にするって言うのは、日本では聞いたことがねえなあ。

 秘密の話か。信用してくれてありがとな。つっても、このブログに書いた時点で、日本全国のピリ辛マニアに周知の事実となっているのだが(爆)。なんでかってーと、この話はかなりうさんくさいからだ。俺様の疑問点としては主に2点ある。

 第1に、「JASRACに登録している楽曲の著作権は全部ぼくの手元にあります」というのはありえないということだ。「Q36:ユーザーフレンドリーな音楽著作権管理会社を作りたいのですが…」で言ったように、JASRACは作詞家・作曲家又は音楽出版者(著作権者)との間で著作権徴収について裁量がある信託契約の受託者をしているのであり、単なるパシリ君ではない。そして著作権は名義上JASRACに移転している(いわば預かっている状態)から、著作権者(委託者)といえども信託法上、勝手に著作権を他人に移転することはできない信託法第146条第1項では「委託者の地位は、受託者及び受益者の同意を得て、又は信託行為において定めた方法に従い、第三者に移転することができる。」と規定しているように、著作権者はJASRACの同意を得ない限り移転できないわけだ。この点、JASRACの著作権信託契約約款では次のように規定されている。

(著作権の譲渡)
第10条 委託者は、第3条第1項の規定にかかわらず、あらかじめ受託者の承諾を得て、次の各号に掲げるときは、その著作権の全部又は一部を譲渡することができる
(1) 委託者が、社歌、校歌等特別の依頼により著作する著作物の著作権を、当該依頼者に譲渡するとき。
(2) 委託者が、音楽出版者(受託者にその有する著作権の全部又は一部を信託しているものに限る。)に対し、著作物の利用の開発を図るための管理を行わせることを目的として著作権を譲渡するとき。

 したがってこの約款によれば、てめえのような単なる投資家にはJASRACは著作権譲渡を同意せず、有名アーティストから著作権を譲渡されても無効ということになる。

 第2の疑問点は、文化庁の著作権登録についてである。だいぶ前に「Q2:著作権登録して大儲けをしたいのですが」でも答えたが、著作権法では著作権を取得するための登録制度はない。何度もいうが、登録せずに著作権が発生する(無方式主義)のが著作権の特徴だからだ(著作権法第17条第2項参照)。この点で特許権、実用新案権などの産業財産権と大きく違う。

 著作権登録には主に5つの登録制度がある。実名の登録、第一発行(公表)年月日の登録、(プログラム著作物の)創作年月日の登録、著作権・著作隣接権の移転等の登録、出版権の設定等の登録である。これらはいずれも事実の推定や権利変動の表示を登録するものである。詳細は文化庁ウェブサイト「著作権の登録制度について」を参照することだな。なおたまに著作権登録は複雑であるため活用されず著作物流通に支障が生ずるという誤報があるが、『登録の手引き』を読めば小学生でも申請書を作成して提出できるレベルとなっている。逆にこれを読んでも分からなければ、小学生やり直し!確定だがな。また登録費用(登録免許税額)は1件当たり、①で9000円、②で3000円、④のうち著作権の移転の登録で18000円となっており(登録免許税法別表第一)、それほど高額というものではない。

 これらのうち③を除いた登録の一部については、「登録状況検索」を利用して、登録番号・登録年月日・著作物の題号・著作者の氏名を調査することができる。ためしに、今話題の「小室哲哉」を検索してみると、52件ヒットする(2008年11月6日現在)。同じ著作物の題号が1曲につき作詞した分と、作曲した分の2つある場合(著作物の題号が同じもの)を含むことから、(著作物の種類はこの検索結果では分からないが)おそらく同氏が作詞・作曲したものが34曲分あると考えられる。登録年月日は、平成17年10月27日・平成17年11月25日・平成17年11月29日・平成18年7月5日・平成20年5月15日と5回分ある。

 しかし、小室哲哉氏のような超メジャー級アーティストが文化庁の著作権登録をするのはごくまれだろう。なぜならば、楽曲の著作権の状況は、JASRACなどの著作権管理団体でデータベース管理され、著作者等が使用料を受け取る分には、文化庁に登録しなくても支障はないからだ。ネットでも、前に紹介したMusic Forestや、JASRACJ-WID(作品データベース検索サービス)[JASRACサイトトップページの右下にバナーあり]がある。

 今回はJ-WIDで、小室氏の曲のうちかつてJR東日本のCMで使われた"DEPARTURES"について検索してみよう。作品タイトルに「DEPARTURES」、権利者名に「小室哲哉」と入力する。すると1件ヒットしクリックすると、権利者情報として「小室哲哉:作詞・作曲」「エイベックス・グループ・ホールディングス 株式会社:出版者」「全信託 JASRAC」と記載され、演奏から通信カラオケまですべてJマークが入っている。これは、著作権が小室哲哉氏から音楽出版者のエイベックスに移転され、JASRACがエイベックスからすべての著作物利用について著作権信託を委託されていることを意味する。ここで注意の欄の「未確定」マークに注目する必要がある(2008年11月6日現在)このマークは次の意味を有する

現在は権利が未確定な状態です。
未確定は大きく分けて以下の場合があります。
1)利用者情報で権利者からの届出がない作品
2)権利者からの届出が作品の一部についてであり、その他の権利が未確定の作品
3)複数の権利者からの届出で、権利者によって主張が異なり権利が確定できない作品

 したがって、この楽曲を利用したり権利移転するときは要注意ということになるだろう。

 今回の儲け話で関係あるのは、④の著作権の移転の登録だな(著作権法第77条第1号)。この登録の効果は、著作権の変動を登録することによって、その事実を第三者に対抗することができるということだ。これはちょうど、不動産に関する物権の変動の対抗要件として、民法第177条が「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と規定しているのと同じことだ。

 このような権利の対抗関係は、著作権の二重譲渡がある場合に実力を発揮する。つまりだ、今回てめえが著作権の移転登録をめでたく受けた場合、登録を受けていないもうひとりの譲受人(音楽出版者)に対して著作権を主張できるということを意味する。民法の通説では、対抗できる「第三者」の意味としては、「登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者」、具体的には、権利の二重譲渡があったことを単純に知っていた場合(悪意)も含むが、悪意を超えて相手方を害するなどの目的を有する背信的悪意者は自由競争の範囲を逸脱して保護に値しないとされている(大判明治45年6月1日など)。ちゅうことで、今回儲け話を持ってきた奴が著作権を二重譲渡していたとしても、著作権の移転の登録を先回りして済ませあんたが善意又は単純悪意者に該当すれば、もう一人の譲受人に勝てるということになる。

 もっとも、JASRAC等の管理楽曲について文化庁で著作権移転登録を済ませたからといって、二重譲渡の場合に著作権登録していない音楽出版者等に対して優位に立てるとは俺はあんまり思えない。なぜならば、さっきの小室哲哉の"DEPARTURES"のように二重譲渡などの権利の不確定要素があればJ-WIDなどのデータベースで「未確定」マークがつき、JASRACが利用者から徴収してきた使用料を、文化庁登録上の権利者(対抗関係の勝者)に素直に渡すとは考えられないからだ。権利が確定してから払いマースということになるだろう。そうなると、二重譲渡になるような曰くつきの著作権を買い取っても著作権料をゲットすることはできず、溝に金を捨てるに等しいと言える。せーぜい、裁判所に著作権登録の謄本を持参して差止仮処分の申立をし、JASRACから利用許諾を得たユーザーども(カラオケ店、レストラン、放送局など)の楽曲利用を一時的にストップさせられる可能性があるくらいだわな。

 なお、文化庁の著作権登録事務では、J-WIDで未確定マークがあろうが業界でやばい噂が流れていようが、原則として関係なく事務をすすめることになる。不動産登記と同じように、法律上書面審査だけで済ます形式的審査権しか与えられていないからだ。

 こんなこというと、「法律の不備だ!」「法改正だ!」あげくのはてにはユビキタスネット社会の制度問題検討会『ユビキタスネット社会の制度問題検討会報告書』(平成18年9月)のように、著作権の発生・延長・消滅を国の登録制度と結びつけようというデンパな主張が出てくることが容易に想像される。

 しかしそういう考えは、そもそも論として「方式主義」となり「無方式主義」を採用する国際著作権条約(ベルヌ条約、ローマ条約、WCT、WPPTなど)に反するおそれが高い。また国の著作権登録に実質的審査権を付与するためには、特許法のような権利審査制度・登録不服申立制度などを整え役所の組織や人員を拡充する必要があるが、それは現在の行政改革の流れに反するだろう。それにJ-WIDなどの民間業界の集中管理体制で十分な場合があるだろうしな。(吉田大輔「ネット時代の著作権56 『著作権に登録制』???」出版ニュース2006.10/中 20-21頁参照)。まあ、文化庁の著作権課が著作権庁に組織再編されたときに初代長官や審判長になるのもわるくはないかもしれねえがなw。

 ちゅーことで、今回の話に乗らないほうが、身の安全というものだぜぃ。

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Q31:国会事務局に情報公開請求したいのですが…

:はじめまして。私は環境保護を守る市民運動に参加しているものです。実は活動の中で法律に係ることが問題になりましたので、メールいたしました。

 いま監視している環境破壊のターゲットは、東京の都心の真ん中にある森林地帯です。そこは周りが高層ビルやオフィスばかりなのですが、幸い偶然が重なって環境保全されているところで、野鳥が住み着いています。周辺の人間にとっても癒しの場となっています。

 ところが最近、この森に国会のある院が新しい国会施設を建設するということで、大騒ぎになっています。私が所属する団体や周辺住民の方々がこの院の事務局に対して反対するのはもちろんのこと、どのような建物を建てるのかが分かる資料の要求をしているのですが、いろいろ言い逃れをされて、満足な説明を受けていません。

 そこで行政省庁と同様に情報公開請求をして資料を入手しようと思うのですが、どうすればいいのか教えてください。あと気になったのが、著作権です。建設会社などが作成した設計図などの複写を求める場合、著作権を理由にコピーを断られることはないでしょうか?ぜひご教示ください。

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:国会事務局かぁ。そんなマニアックな役所のことを聞かないでくれよーって言いたいとこだが、むかし国会議員の秘書をやっていたんで、答えてやるよ。それに情報公開については、以前にも「Q10:公立高入試問題を情報公開請求される前にネットで公開したいのですが」でも回答したが、今回のテーマは別の観点で著作権法が問題になるから、ついでに教えてやるよ。

 まず情報公開の根拠法についてはあんたも知っているかもしれないが、国の行政省庁については、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律42号・情報公開法)が適用される。その第2条第1項では、以下の行政機関を対象に情報公開を行うとしている。

一  法律の規定に基づき内閣に置かれる機関(内閣府を除く。)及び内閣の所轄の下に置かれる機関
二  内閣府、宮内庁並びに内閣府設置法 (平成11年法律第89号)第49条第1項及び第2項に規定する機関(これらの機関のうち第4号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。)
三  国家行政組織法 (昭和23年法律第120号)第3条第2項 に規定する機関(第5号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。)
四  内閣府設置法第39条及び第55条並びに宮内庁法 (昭和22年法律第70号)第16条第2項の機関並びに内閣府設置法第40条及び第56条 (宮内庁法第18条第1項において準用する場合を含む。)の特別の機関で、政令で定めるもの
五  国家行政組織法第8条の2の施設等機関及び同法第8条の3の特別の機関で、政令で定めるもの
六  会計検査院

 これを読んで気づくのは、国会(衆議院、参議院など)や裁判所は情報公開法の適用外であるということが分かる。したがって、これらの機関に情報公開法に基づいて情報公開請求しても「うちは法律の適用外です★」といって門前払いをできるというわけだわな。職員は「余計な仕事が増えなくてラッキー☆」っと思っているかもしれないな。
 しかしそれではマスコミからの突っ込みや世間体が悪いと思ったためか、最高裁判所では最高裁判所の保有する司法行政文書の開示等に関する事務の取扱要綱 などを、衆議院では衆議院事務局の保有する議院行政文書の開示等に関する事務取扱規程などを定めて、法律によらない情報公開制度を始めたようだ。最高裁判所は開示対象文書を「司法行政文書」とし、衆議院は「議院行政文書」と規定している。両者の大きな違いは、議院行政文書においては「事務局の職員が行政事務の遂行上作成し又は取得した文書、図画及び電磁的記録のことをいいます。したがって、立法や調査に係る文書すなわち本会議や委員会等の会議の運営や立法活動・調査活動に関わる文書は、この規程による開示対象文書に含まれていません」と文書の範囲をかなり限定していることだ。これは情報公開法第2条第2項で規定する行政文書と比べても限定していると言えるだろう。

 ちなみに、情報公開の対象にならない「国会議員の活動に支障を来すものというものは具体的にどういったものがあるのか」という篠田陽介衆議院議員の質問に対して、駒崎衆議院事務総長は「先生方が特定のだれかとお会いになっていたというような、特定の政治活動を明らかにするような情報があれば、会派または議員の活動に支障を及ぼすおそれがあるものに当たるのではないか」と国会で答弁している(第169国会 衆議院予算委員会第一分科会 平成20年02月27日)。つうことは、議員さえ特定できなければ、例えば衆議院調査局がどういうくだらない仕事をさせられているのか(葉書書き、支援者の子どもの宿題の作成等)、業務内容自体を開示請求することは可能なのかもしれないな。

 また最高裁判所や衆議院が行った、情報公開請求に対する開示決定・不開示決定の性質がよく分からない。行政機関においては、その開示決定等は行政庁の公権力の行使に当たる行為として行政不服審査法や行政事件訴訟法の対象となり、不服申立てや行政訴訟の対象となるところ、最高裁や衆議院の決定について不服がある場合の取扱いが問題となる。司法・立法権力の行使なのか、広報活動の一環なのか、はたまた裁判官様・国会議員様のお情けなのか…。一応、最高裁も衆議院も文句の持ってきどころ(苦情処理機関)を設けているがな。ただ、更に文句がある場合に裁判所(司法機関)に持っていくことができるかどうかはわからないが・・・。
 この点、自由人権協会が2002 年11月15日付けで最高裁判所長官に宛てた申入書によれば「法廷傍聴などを通じていわゆるロッキード事件の真相究明に関し司法機関が果たした役割を研究してきた当協会会員が、最高裁判所に対し、ロッキード事件において最高裁判所宣明書が出された件に関する4点の司法行政文書の開示を請求したところ、最高裁判所が、それらの大半を不開示とした事例があります。同会員は、この不開示を不服としつつも、それらの文書の開示自体を求める手だてがないため、国家賠償請求訴訟の提起という方法しか採ることができませんでした。」と書かれているように、やっぱり開示決定を求める不服申立を司法機関で争えないようにするのが、立法化しない狙いのようだな。この中で触れられている裁判は、東京高判平成17年02月09日(平成16(ネ)3752)として判決が出されているが、その裁判要旨は「最高裁判所が裁判官会議の議事録のうち意見表明や議論等の議事の過程が記載されている部分について法令に別段の定めがあるときは開示しない旨を定める最高裁判所の保有する司法行政文書の開示等に関する事務の取扱要綱の規定及び裁判官会議は公開しない旨を定める最高裁判所裁判官会議規程(昭和22年最高裁判所規程1号)8条により上記部分を不開示とした措置は,同条が裁判官会議の非公開にとどまらず同会議の議事録のうち意見表明や議論等の議事の過程が記載されている部分及びこれを推知させる部分について公にしない趣旨をも含むものであって,国家賠償法1条1項にいう違法があるとはいえない。」となっている。ほんとはもっと、司法行政もその政策形成過程について、国民にもっとオープンにしないといけねえんだろうがな(新藤宗幸『司法官僚 裁判所の権力者たち』(岩波新書、2009年)211-225頁参照)。

 だがなあ、立法化しないとやばい問題がある。それが著作権の問題だな、これが(笑)。何が問題かってーと、このブログの「行政機関」カテゴリーで再三言っているように、役所が持っている著作物の中に第三者(民間人など)が著作権を有するものが含まれる場合には、当然そいつの著作権が原則として働く。それは情報公開請求であっても同様だ。
 そこで「Q10:公立高入試問題を情報公開請求される前にネットで公開したいのですが」でも説明したように、情報公開請求の開示決定に基づいて役所以外の者が著作権を有する著作物を利用する場合には、著作者人格権(法第18条第3・4項、第19条第4項)や著作権(法第42条の2)を制限することができる旨、著作権法で規定されている。
 「ふ~ん、じゃあ問題ないじゃんww」って言われそうだが、ここで問題になるのが、これらの規定が適用される役所の範囲なんだな、これが。

 著作権法の条文を読んでみると、第18条第3項で次の機関による情報公開について適用する旨規定されており、同条第4項、第19条第4項、第42条の2もそれにならっている。
①行政機関の保有する情報の公開に関する法律第2条第1項に規定する行政機関
②独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律第2条第1項に規定する独立行政法人等
③地方公共団体又は地方独立行政法人
これだけだ。最高裁や衆議院が①に該当しないのは既に述べたところだ。キャツラの情報公開決定があえて著作権法の権利制限規定に盛り込まれなかった理由としては(1)著作権を理由に不開示決定をしたかったから、(2)単純に忘れていた、(3)私的複製などの他の権利制限規定によって許諾がなくても利用できると考えた、の3通りが考えられるだろう。
 理由が(1)の場合は、役人的には「あったまいい!」と言えるかも知れねえな。ただ、どちらの機関も「情報公開法の趣旨を踏まえ,国民に対するアカウンタビリティ(説明責任)を果たすために」(最高裁衆議院)情報公開の運用を行っている以上、著作物の利用について情報公開法と違いを設けた理由を説明する必要があるだろう。また、誰が作ったのか、著作権を持っているのか分からない資料の場合にはリスクが残るだろう。
 理由が(2)の場合は、明日から1ヶ月間、著作権行政を担当する省庁の係員のところに毎日通い詰めて「しゅいません、次の著作権分科会で著作権法を改正するように至急決めてください」と土下座をしにいくしかねえな(笑)。すでにやっちまったー、ってものがあるかもしんねえから、必死にやらんとな。そのためには、著作権制限の適用対象となっている行政機関の情報公開法が法律になっていることの並びから考えると、国会事務局の情報公開に関する法律を立法化することが大前提だ。事務総長決定なんていうちゃらい規定なんかで著作権制限をしてもらえるほど、世間はスウィートじゃないぜw
 
 こんなこと言うと「行政機関だって、裁判所だって国会だって同じ国の機関なんだから、類推できんじゃねーの?」って言われそうだが、神奈川県公文書公開条例事件(東京高裁平成3年5月31日判決)では、「著作権法の公表権は、著作者人格権に属するものであり…法律の明文の規定がないのに、みだりに類推解釈により公表権を制限すべきではなく、まして、法律の授権に基づかない条例の規定の解釈運用によって、著作権法により与えられた公表権を制限するような結果をもたらすことは許されないものといわなければならない。したがって、条例五条一項二号の『明らかに不利益を与えると認められる』の解釈により、著作権者に重大な損害が生じないからとして、公表権の侵害を容認する結果を認めることは許されないものである。」として、原告による設計事務所の建築物設計図の開示請求の訴えを退けた。当時は著作権法に情報公開条例に関する権利制限規定がなかったからな(参照:多賀谷一照「50 情報公開と著作権 -神奈川県公文書情報公開条例事件」別冊ジュリスト『著作権判例百選(第3版)』[斉藤博・半田正夫編](2001年)102-103頁)。著作権の権利制限規定は厳格に解釈するのが基本だしな。

 理由が(3)である可能性としては、「衆議院事務局の情報公開について」で「開示の実施方法は、原則として閲覧又は謄写です。謄写は、窓口内に設置されたコインベンダー付き複写機を利用して行っていただきます。」と説明しており、開示請求者を複製の主体と構成した上で私的複製規定(法第30条第1項)により著作権者の許諾が不要になるから国の機関以外が著作権者である資料をコピーしてもOK!とも読み取れるが、開示請求者にコピーさせたことを以って衆議院事務局が著作権法上の責任を免れないことは、「Q20:図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…」でも説明したとおりである。
 この点、衆議院事務局が参考にした(前出の国会答弁で駒崎衆議院事務総長は「裁判所において実施されている情報公開の制度を参考にいたしまして、衆議院事務局の保有する議院行政文書の開示等に関する事務取扱規程を事務総長決定で制定した」と発言)最高裁判所の運用によれば、「裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の基本的取扱いの実施の細目について(依命通達)(平成13年9月14日付)」で次の方法によると規定している。
(ア)当該裁判所の庁舎内において開示申出人が持参した複写機等を使用させる方法
(イ)当該裁判所の庁舎内に設置された複写機(コインベンダーが装着されたものに限る。)を使用させる方法
(ウ)当該裁判所の庁舎内の謄写業者に謄写を委託させる方法
また必要に応じて、裁判所が指定する当該裁判所の庁舎外の謄写業者に謄写を委託させる方法によることもできるということだ。ただ、部分開示すべき文書(文書中に個人情報が含まれているものなど)について、どうやってセルフコピーや、業者に委託複写をしているのかは分からんがな。黒塗りする前の状態だったら不開示部分が見えちまうだろうにw
 このような複写の方法は、裁判所などの国の機関が作成した資料だけを開示の対象としている場合には特に著作権法上の問題は生じないが、民間人が作成した資料を開示した場合には次のような問題が生じると考えられる
 (ア)は開示申出人による私的複製という言い逃れができる可能性はあるかもしれないが、(イ)と(ウ)は法務局と民事法務協会(コピー受託業者)が著作権侵害の責任を問われた「土地宝典事件(東京地判平成20年1月31日〈平成17年(ワ)第16218号〉最高裁HP掲載)」とほとんど同じではないのか。このような著作物の利用について著作権侵害の責任を認めたカラオケ法理(物理的な利用行為の主体とは言い難い者を、「著作権法上の規律の観点」を根拠として、①管理(支配)性および②営業上の利益という二つの要素に着目して規範的に利用行為の主体と評価する考え方であり、クラブ・キャッツアイ事件(最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁)において採用されたもの(上野達弘「いわゆる『カラオケ法理』の再検討」紋谷暢男教授古稀記念『知的財産権法と競争法の現代的展開』783頁(発明協会、2006)を形成したのは裁判所自身ではないのか。カラオケ法理の主な論者である高部眞規子判事MYUTA事件(東京地判平成19年5月25日(平成18年(ワ)第10166号)最高裁HP掲載)などを担当)や、前出の土地宝典事件を担当した設樂隆一判事に聞いてみたいとこだな。
 

 ちなみに衆議院では、「『衆議院所蔵絵画一覧及び永年在職表彰議員一覧』(平成20年5月16日付衆庶発第306号)の開示についての件」について衆議院事務局情報公開苦情審査会に諮問したところ、同年7月2日付けで「『衆議院所蔵絵画一覧及び永年在職表彰議員一覧』につき、その一部を不開示としたことについては、別表1に掲げる部分は不開示が妥当であるが、その余の別表2に掲げる部分については、行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条1号、2号及び4号に該当するとして、衆議院事務局の保有する議院行政文書の開示等に関する事務取扱規程3条3号により不開示としたことは妥当でなく、開示すべきである。」との答申が出された旨、公表されている。衆議院が所蔵している絵画の掲揚場所や購入金額などの項目の開示について争われたようだ。よかった、よかった。絵画そのものを複写提供しなくて。

 ちゅーことで、役人は毎日、文化庁の「著作権テキスト」や愛媛大学法文学部・法学特講・JASRAC寄附科目「現代社会と著作権」でも読んで、著作権法のセンスを絶えず磨く必要があると言うことだわな。というか、なんで情報公開に関する規定を法律で定めないのかを百万回問い詰めたいとこだが…。早く立法化して著作権法の権利制限規定を置かないと、やばいっちゅーに(爆)。(社)自由人権協会が「国会の保有する情報の公開に関する法律案」をわざわざ作成してくれているんだから、速攻で作れるだろうに(笑)。

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Q30:審議会議事録メモをブログに掲載したら、勝手にコピペされていたのですが

:こんにちは。Q8Q24で回答していただいた法人職員です。ご丁寧な回答文、ありがとうございました。著作権法上気をつけなさいというアドバイスを戴きましたが、やはり行政の責任追及に対する思いを絶つことはできず、審議会の発言内容をパソコンにかちゃかちゃ入力してブログにアップする日々が続いています…。

 さてQ24でもお伝えしたとおり、私が書いた審議会議事概要の速報版はID認証によってアクセスを制限していますが、ユーザーさんによってはその内容を自分のブログに引用して転載することがあります。もちろん、行政省庁の責任追及に役立つなら全然かまわないと思っています。

 ところが、実はそのユーザーさんの中に裏切り者がいるのか、あるいはユーザーさんが引用した文章を見て書いたの知りませんが、私が批判する省庁を「○○課長、マンセ~!!」「審議会事務局が提案する■■政策は即時承認されるべきだ!」などと賛美し、我々批判者のことを「△△省を批判する奴らは逝ってよし!」「平日の昼間から審議会を傍聴する暇があったら、ちゃんと働け!w」などと、私が書いた審議会議事メモを引用して誹謗中傷していました…

 そこで何とかこいつを懲らしめたいと思っているのですが、よく考えてみれば、私の審議会概要には著作権が発生しますよねえ?審議会の内容はもっと長いところ、私が内容を整理・吟味し、オリジナルな構成をしたことにより、著作物としての創作性が認められるからです。

 私が記載した文章の転載部分が多いことから、著作物の引用(著作権法第32条第1項)は成立しないと考えています。

 そこで、この誹謗中傷野郎のブログを著作権によって削除要求できないか、ぜひ教えてください。

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:オッス!久しぶりだな。てめえはまだ懲りずに役所の審議会の議事メモを書いているんだな。

 議事メモから著作権が発生するかどうかは、それが「事実の雑報」(法第10条第2項)に過ぎないのか、あるいは誰かが何を言ったのか、どういう行動をとったのかという事実の記述についての選択や配列に創作性が認められて「編集著作物」(法第12条第1項)となるのかどうかにかかっていると言えるだろう。つまり、文章にお前の思想又は感情が現れて著作物(法第2条第1項第1号)として認められるかどうかということだ。

 この点、ブログに掲載した裁判傍聴記の著作物性を争ったライブドア裁判傍聴記事件判決(知的財産高等裁判所平成20年7月17日判決・平成20年(ネ)第10009号)によれば、

①傍聴記における証言内容を記述した部分については、「証人が実際に証言した内容を原告が聴取したとおり記述したか,又は仮に要約したものであったとしてもごくありふれた方法で要約したものであるから,原告の個性が表れている部分はなく,創作性を認めることはできない。」として著作物性を否定

②証言内容を分かりやすくするために書いた大項目や中項目等の短い付加的表記については「大項目については,証言内容のまとめとして、ごくありふれた方法でされたものであって,格別な工夫が凝らされているとはいえず、また、中項目については、いずれも極めて短く,表現方法に選択の余地が乏しいといえるから、原告の個性が発揮されている表現部分はなく、創作性を認めることはできない。」として著作物性を否定

③証人の経歴部分を裁判の主尋問と反対尋問から抽出し、傍聴記の証言順序を実際の証言順序そのままではなく時系列に沿って順序を入れ替え、さらに固有名詞を省略する等、傍聴記には分類と構成の創意工夫が認められるから創作性が認められるべきである(これって要は編集著作物なんだって主張しているに等しいよな)とという原告の主張に対しては「原告の主張する創意工夫については、経歴部分の表現は事実の伝達にすぎず、表現の選択の幅が狭いので創作性が認められないのは前記のとおりであるし、実際の証言の順序を入れ替えたり、固有名詞を省略したことが、原告の個性の発揮と評価できるほどの選択又は配列上の工夫ということはできない。」として著作物性を否定

ということで、裁判所は結論として原告傍聴記を著作物であると認めることはできないとして、請求を棄却している。

 ブログの強みは速報性といわれるが、お前はわざわざ審議会に傍聴に行って、その会議が終わってから間をおかずに手数かけてメモを作成しブログに入力していることから、その苦労を著作権として認めて欲しいのかもしれないな。だがなあ、このブログで何度も行っているように、入力作業やメモ作成などをして「ぼく、がんばったよ★」と思ってもそれだけでは著作権は発生しない。著作物として認められるには、作成者の思想又は感情が現れていることが大原則だ。著作権は作成者の個性を保護するものだからな。事実を大量に収集してスピーディーに多くの人に伝達しても、それだけでは著作権法上、保護には値しない

 ほいでお前の場合はどうかというと、Q8,Q24で述べたように確かに審議会の証言や資料を無断で利用したことについては著作権侵害の可能性があるが、編集著作物の成立においては「仮に無許諾で編集物に収録したとしても、その素材の著作物の権利を侵害したという問題はあるが、編集著作物としては別途保護される」(作花文雄『詳解 著作権法(第3版)』(ぎょうせい、2004年)117頁)ことから、その限りで考える必要はないだろう。

 だがなあ、お前がQ8で「公正を期するため、特に論評や説明等は、加えていません(そんな時間もないし)」と言っているように、特に自分の考えや文章を書き加えているわけではなく、議事の内容を要約して掲載しているに過ぎない。順序も多少は変えているかもしれないが、それはブログ入力の都合であって(さすがに全部書くことはほぼ不可能だろうしな)、特にお前の個性が現れていることと考えることは困難だろう。

 つうことで、お前がブログの無断掲載者に著作権を根拠に削除を要求することは難しいだろうな。

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Q28:公立図書館で特許手続に必要な文献のコピーを入手したいのですが

:タイゾーさん、はじめまして。私はとあるメーカーに勤務する研究員です。普段は商品開発にたずさわっております。

 商品開発の部署では、特許取得に向けて仕事をすることがときどきあります。そんなときは、特許権をゲットするために、会社がお世話になっている弁理士さんに出願書類を書いていただいて特許庁にオンライン経由で特許出願します。その後、特許庁の審査官が素直に特許査定をすれば特許権が登録され、見事に特許権をゲットできるという流れになります。

 先日もある商品に係る発明について特許出願をし、その審査の結果を今か今かと待っていたところ、審査官から出願書類のうち明細書(特許法第36条第3項)で引用された非特許文献(特許公報以外に掲載された文献すべて。論文、書籍、パンフレット、マニュアル、新聞など)を速やかに提出しろという通知が来ました。要は、お前の発明は特許権ゲットの要件となる新規性・進歩性(特許法第29条)などを満たすかどうかをあやしいから、もってこいということです。

 発明を見る眼がない審査官だなあと思いつつも、求められた資料は孫引きしたものでしかも購入がほぼ不可能な資料だったので、ネットで調べてその資料を所蔵する公立図書館にコピーをもらいに行くことになりました。

 図書館に着いたら早速、複写申込書を書いてカウンターでコピーをお願いしました。その資料は論文集に所収されたもののうちの一編だったのですが、審査官からの指示で全頁コピーする必要がありました。その旨記入したところ、窓口の司書さんから「図書館では著作権法上、一つの著作物の半分までしか複写できません」と言われてしまいました。

 「えっ、他の利用者と違って個人的な調査研究が目的なのではなくて、国の指示で必要なんですよ」と反論したのですが、「私たちも複写したいのですが、著作権法上の規制がありますので…」という理由でその日は全頁のうち半分のコピーしかできませんでした。

 せっかく足を運んだのに無駄足になってしまったのですが、本当に著作権法上、非特許文献を公立図書館で全部分を複写することはできないのでしょうか?また図書館でコピーできないのでしょうか?国の手続でやっていることなのにできないなんて納得行かないので、宜しくお願いします。

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:特許出願か。今回はQ2の町の発明家のじじぃと違って、出願だけでなく審査請求の段階まで進んでいて、さすがに企業ということだけあってまともなようだなあ。

 さて回答だけど、結論からいうと特許手続で提出する非特許文献を全ページ複写しても著作権侵害にはならないということで、あんたに対応した図書館員は著作権法について誤った説明をしたことになる。「半分しかコピーできません」という説明は、公立図書館等において調査研究を目的とする図書館利用者の求めに応じてコピーする場合(著作権法第31条第1号)のことを言っていると思われる(なお、「半分」というのは同号中の「一部分」を図書館の運用で判断しているものである)。

 「Q22:議員立法の資料をウェブにアップしたんだけど…」でも多少説明したが、特許庁が行う特許審査の手続で必要となる場合には、必要と認められる限度で複写を行うことができる著作権法第42条第2項第1号)。この規定は平成18年改正(平成18年法律第121号)により新たに設けられたもので平成19年7月1日から施行されている。あんたに対応した司書さんはこれを知らなかっただけかもしれないなあ。この規定があるおかげで、著作権法第31条が適用される公立図書館等だけでなく、同条が適用されない企業図書館などのいわゆる専門図書館(特定の限定された目的をもつ各種の組織体によって、その所属構成員を利用対象として、組織体の目的実現に必要な施設として設置される図書館」(日本図書館協会図書館ハンドブック編集委員会編『図書館ハンドブック 第6版』(日本図書館協会、2005年)6頁))でも必要な範囲内で複写できるということになる。

 もっとも、多摩市立図書館複写拒否事件(東京地裁平成7年4月28日判決、著作権法判例百選[第3版]No.78)でも著作権法第31条第1号について「一定の要件のもとに図書館において一定の範囲での著作物を複製することができるとしたものであり、図書館に対し、複製物提供業務を行うことを義務付けたり、蔵書の複製権を与えたものではない。・・・この規定をもって、図書館利用者に図書館の蔵書の複製権あるいは一部の複製をする権利を定めた規定と解することはできない。」と判示しているように、同号の複製の主体を公立図書館等と位置づけた上で、著作権侵害を問われないとしているに止まるものだ。図書館利用者は同規定によっていわば「たまたまラッキー」な思い(法律的には反射的効果)をしているだけであり、積極的に著作権法に基づいて権利を主張することはできない。したがって、図書館側が複写をすることについて「メンドクサー」「そんなことをする知恵も勇気も金もありません」ということであれば、利用者のコピーの要求を断ることはできる。

 では図書館側が特許手続のための非特許文献を利用者のために複写することについて乗り気である場合はどうか。一著作物の全部分を複写することは可能か?

 この点、著作権第42条第2項を厳格に解釈して「著作物の利用者自らが…著作物を複製することができることを規定しているだけであり…これを根拠に、図書館等が図書館資料である著作物全部を複製して図書館等利用者に交付することができると解するのは困難ではないでしょうか。という見解がある(早稲田祐美子「Q&A 図書館等の複写と42条(他の制限規定)との関係」コピライト566号(2008年6月号)57頁)。だがこれには、さすがの俺様でもちょっと待ったー、って思うぜ。

 公立図書館等での利用者の求めに応じた複写が著作権法第31条第1号に基づき一著作物の一部分の範囲内で行うべきという原則がうざったいと思って、図書館内でのセルフコピーを利用者を複写の主体と捉え私的複製(同法第30条第1項)だから著作物の全部分を複写できるという言い逃れはカラオケ法理によって封じられるという話は「Q20:図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…」でしたよな。上記の論者もこの脱法行為を気にして、著作物の利用者が直接複写する場合に限定しているのかもしれねえな。

 だがなあ、図書館内で利用者が自らの調査研究目的で図書館資料をセルフコピーするのと、利用者が特許手続で提出するためにこの資料をコピーするのとでは意味がちがうのではないだろうか。

 つまり、前者は著作権法第31条第1号の複製の主体は図書館等であっても、調査研究を目的とする図書館利用者への提供が目的であるから、権利制限のメリットは利用者がゲットすることになる。一方で利用者が図書館資料を館内でセルフコピーすることについて利用者を主体として私的複製と法的に構成する場合も、利用者がコピーを使う目的で複写しており最終的にメリットをゲットするのは利用者だ(むしろこっちの方が、複製主体とメリットを受ける者が一致するから、理屈の上ではストレートでスッキリする)。こんな場合には、実質的に同じ目的であるにもかかわらず私的複製だから全部分複写OKとすれば、法31条で図書館資料の複製について要件を定め権利保護と利用のバランスをとったことを無意味にすることから、カラオケ法理を援用して、利用者のセルフコピーを実質的に支配する図書館を複製の主体と構成することは合理性があるといえる。

 一方で、特許手続のために行う非特許文献の複写は図書館利用者が著作物を利用する目的ではない。平成18年法改正の前に出された「文化審議会著作権分科会報告書」12頁(平成18年1月)でも述べているように「知的財産法の柱である特許法において,特許要件を満たしたものでなければ特許を与えないという非常に強い公益的な要請があり,的確・迅速な審査手続の確保の観点から非特許文献の複製について,権利制限を行うことが適当である」ことによる。図書館で非特許文献をゲットできないばかりに、新規性・進歩性がないことを確認できず、くだらない発明にまで特許を与えかねないということだな。なおこれに対しては、特許手続は出願人の私利私欲でやっているだけだから私的複製と変わりねーだろーという突込みが予想されるが、複製した著作物は直接的には特許審査のために用いられることから、あてはまらないだろう。

 したがって、法第42条第2項第1号に基づき特許手続を目的とした図書館資料の複製の主体は法第31条とは異なり図書館利用者であり、直接コピーする図書館側はここでは図書館利用者の手足を見るべきだろう。つまり法31条に基づくセルフコピーでは図書館側が主体で利用者がその手足でコピーしているのとは逆のパターンであるということになる。よって、特許手続に必要な範囲内であれば一著作物の全部分を複写しても著作権侵害を構成しないといえるだろう。それに、もし上記の論者の言うとおりであるとすれば、特許の出願人は非特許文献を購入しない限り複写できないということになり、そもそも論として法目的を達成することはほぼ不可能に近いだろう。これは特に著作権法第31条が適用されない企業図書館等で非特許文献を複写する場合と対比すればよりハッキリする。この複写は図書館や同施設の利用者の調査研究のために行うものではなく、特許審査という行政手続であり公益性の高い行為に利用されるものであり、複写場所である施設の性質は権利制限の要素ではないからだ。

 直接利用者が複写しなければ法第42条第2項は適用されないという論者の発想は、著作権の権利制限規定は著作権侵害訴訟における抗弁(言い訳)だという考え方が根強いことを裏付けるものだろう。特に侵害訴訟の当事者をお客とする弁護士さんにとってはな。権利制限規定を根拠に権利を主張することもできず、権利制限規定を根拠に身を守るしかない利用者はボクシングのサンドバック状態なのかも知れねえな。

 しかしカラオケ法理などによって著作権侵害の範囲を拡張する代わりに、著作権の権利制限規定の適用範囲を必要以上に縮小すれば、その副作用として「録画ネットやMYUTA等と関係すると思います…やり過ぎると権利制限規定に全く大穴があいてしまって空洞化してしまうことがあるのではないか」ということになってしまうだろう(奥邨弘司「第Ⅱ章 今日的主題 1 著作権の間接侵害」『法的環境動向に関する調査研究 著作権リフォーム -コンテンツの創造・保護・活用の好循環の実現に向けて- 報告書』(財団法人デジタルコンテンツ協会、平成20年3月)25-26頁)。権利制限の脱法行為は許されないが、利用目的に応じて、利用の主体の法的構成を柔軟に考えることは必要だろう。

 なお図書館現場においては、国立国会図書館が国立国会図書館資料利用規則第31条第2項第2号ハにおいて「行政庁の行う特許、意匠若しくは商標に関する審査、実用新案に関する技術的な評価又は国際出願(特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律(昭和五十三年法律第三十号)第二条に規定する国際出願をいう。) に関する国際調査若しくは国際予備審査に関する手続」の場合には図書館資料を用いて複写を行うことができるとしている。

 つうことで、図書館現場でも徐々に新しい規定に基づき運用されていくのだろうが、著作権の権利制限規定の本質論はまだまだ開拓の余地がありそうだな。著作権法学会の2008年度研究大会のテーマはフェアユース・権利制限規定であったようだが、いくら法改正で新たに権利制限規定を熱い期待をこめて設けたとしても、権利制限自体の本質や効果をまともに議論しないまま置いた場合には、窓を全開にしたままバルサンを焚いたときと同じように、マヌケな結果となることだろう。

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Q22:議員立法の資料をウェブにアップしたんだけど…

:やあみんなぁ、こんにちは!!ぼくは元気はつらつにがんばっている国会議員だよ。今は野党に属しているけど、正々堂々、政権奪取に向けて党の仲間とともに毎日がんばってるぞー★

 ぼくは国家のことを大事にするけど、もちろん地元選挙区も大事にするぞ。先週末に地元に戻って畑を歩いていたら、養豚場があってそこにいた豚さんたちに「地元名産品になってくれてありがとう。黒豚さん、ぼくがんばっているよ!」とかろやかに声をかけたところ、そこの農家の方が「先生、今のような地方格差時代にわが県が再生するには、もうこの黒豚たちを全国に売り込むしか道がありません。どうかこの子達が全国で売れるようになる法律を作ってください」とお願いをされました。

 さっそく地元後援会と相談したところ、最近では黒豚料理が一部のグルメな方に人気のようで、黒豚さんに対する経済的期待が高まっているそうです。そこでぼくは、「黒豚販売促進特別措置法案」を作成することに決め、地元の畜産農家、JAをはじめ、東京に戻ってからは政府、国会事務局に資料を請求しまくりました。そうしたら、かなり役立つ資料が集まりました。

 国民に対する情報公開を第一義とするぼくとしては資料を独り占めするよりは、みんなにオープンにしたいと考えています。そこで地元の皆さんも御覧になれるように、ぼくのウェブサイトにPDF化した資料をどんどんアップしました。そしたらメールBOXに意見が多く寄せられるようになりました。

 そのうち、意見の一つとして「そんなに資料をウェブに著作権者に無断でアップしまくっていたら、著作権侵害で訴えられますよー」というメールが寄せられました。早速、著作権に詳しい友達に聞いたところ「うーーん、でも著作権法では立法目的のためならOKという規定があるからねえ」と言いましたが、よく分からないということでした。

 法律を作るために集めた資料をウェブにアップすることは立法目的でも許されないのでしょうか。政府に質問主意書で聞いてもいいのですが、今日はたまたまいつも質問を書いてくれる人が海外に遊びに行っているので回答をよろしくです。

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:あんたが法案作成に情熱を注ぐのは、政府への資料要求でテレビのバラエティー番組出演前のネタ集めや子どもの宿題回答や、知り合いだか支援者だかのガキが提出する大学の中間レポートや博士論文を書かせるといった立法行為以外の私用に使う奴に比べればずっとましだが、くだらないことで質問主意書を提出するのはやめろや。せめて質問議員が自腹で担当職員の主意書作成のためにかかった労働時間の超過勤務を払うぐらいの法律は制定されるべきだな。今流行の「応益負担」というやつだが。とは言いつつも、俺様も議員秘書のときは、政府控室に支援者からのしょうもない頼みごとを押し込んだり、議院調査室に地元支援者へのハガキ書きを頼んだものだが(爆)

 質問だけどなあ、結論から言うと「著作権者にバレないようにがんばってねえ(笑)」としかいいようがねえな。検索サイトが発達した今日においては、権利者に見つかるのも時間の問題だが。

 著作権を論じる前提として、政府が作った資料に著作権が認められるか問題になるが、ほとんどの場合には著作権があることは、Q8で言ったとおりだ。

 あんたの友達が言っていた立法目的のためならいいという規定は、著作権法42条第1項(裁判手続等における複製)のことなんだろうな。これは、裁判手続のために必要と認められる場合及び立法又は行政目的のために内部資料として必要と認められる場合に、著作権者の複製権の制限が認められる(要は、無断でコピーできる)というものである。これは国家的な見地から認められた権利制限規定といえる。

 この立法目的というためには、「法律案審議のために使う場合だけでなく、予算案審議とか国政調査とか国会又は議会の機能を行うために必要な場合を含むとしている(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、2006年)290頁)。しかし、これをブログにアップロードして一般人が閲覧できる状態にすることは、もはや「内部資料」とは言えないため、法42条は適用されない。ここで「内部資料」として取扱うことに限定しているのは、同条ただし書の趣旨が「著作物の経済的市場における利用と衝突するようなケース、あるいは、著作物の潜在的販路に悪影響を与えるようなケースでは、たとえ内部資料であっても複製物を作成できないということ」になる(加戸・前掲291頁)としているように、行政・立法機関の閉鎖的な範囲内で利用することを条件にすることによって、著作権者の経済的利益を確保しているためである。

 この点、社会保険庁LAN雑誌記事無断掲載事件判決(東京地判平成20年2月26日〈平成19年(ワ)第15231号〉)においては、電気通信回線に接続している社会保険庁LANシステム(社会保険庁内部部局、施設等機関、地方社会保険事務局及び社会保険事務所をネットワークで接続するネットワークシステム)の掲示板用の記録媒体(サーバー)に雑誌記事をアップロードしたことについて、被告側(社会保険庁)が「社会保険庁職員が複製しているところ,この複製行為は42条1項本文により複製権侵害とはならず,その後の複製物の利用行為である公衆送信行為は,その内容を職員に周知するという行政の目的を達するためのものなので,49条1項1号の適用はなく,原告の複製権を侵害しない,また,複製物を公衆送信して利用する場合に,その利用方法にすぎない公衆送信行為については,42条の目的以外の目的でなされたものでない以上,著作権者の公衆送信権侵害とはならない」旨主張したところ、裁判所は「社会保険庁職員による本件著作物の複製は,本件著作物を,本件掲示板用の記録媒体に記録する行為であり,本件著作物の自動公衆送信を可能化する行為にほかなら」ないことから複製権を制限する法第42条は適用されず、「42条1項は,行政目的の内部資料として必要な限度において,複製行為を制限的に許容したのであるから,本件LANシステムに本件著作物を記録し,社会保険庁の内部部局におかれる課,社会保険庁大学校及び社会保険庁業務センター並びに地方社会保険事務局及び社会保険事務所内の多数の者の求めに応じ自動的に公衆送信を行うことを可能にした本件記録行為については,実質的にみても,42条1項を拡張的に適用する余地がないことは明らかである」と判断している。

 つまり法42条1項により、行政機関や立法機関の議員・役人が内部利用する場合にだけコピーを無断できるというわけだ。それ以外の場合には役所が関与しても適用されない。これは民間人が法律に基づき役所に提出ための資料(車庫証明するために提出する住宅地図)を複写する場合も同様だ。法42条1項では「裁判手続のために必要と認められる場合」及び「立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合」と分けて書かれているように、裁判手続においては一般私人が同項の複製の主体になることを認められるのに対して、立法又は行政のための複製については複製の主体が役所又はその職員に限定されている(加戸・前掲290頁参照)。

 しかし行政手続のうち特許審査手続と薬事行政手続については、わが国の国際競争力の確保及び医薬品等の品質、有効性及び安全性を確保する観点から、平成18年著作権法改正(平成18年12月22日法律第121号)により、法42条2項でこれらの手続のために行政庁に提出し、あるいは行政庁が提供する文献の複製について、例外的に無許諾で行えることとされた(文化庁 著作権法の一部を改正する法律の制定について 問7 「特許審査」手続等における文献の複製と「薬事行政手続」における文献の複製について、例外的に無許諾で行えることとする趣旨を教えてください。(第42条第2項) 参照)。

 つうことで、議員立法のために集めた資料をブログに公表することについては法42条1項は適用されず、許諾を得ないと著作権侵害(公衆送信権侵害)ということになる。国家のための行為でも、オールマイティーではないっちゅーことだな。

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Q18:JIS規格って著作権で保護されるの?

:おはようございます。私は石油精製会社の石油プラントで配管の保全をしている技術者です。普段は、海っぺりの工業地帯で石油コンビナートの高い鉄塔に登ったり、配管工事をしたりしています(最近は若い人の間でこういう現場を「工場萌え」という人もいるみたいですね)。過去に爆発事故で亡くなった同僚もいるので、安全第一を心がけています。

 さて、配管をするときには、それぞれの製品の材質、形状などを知るために、国家規格であるJIS(日本工業規格)の規格票を見ることが多いです。JISは業務の上で不可欠な技術文書です。仕事をするうちに、このような規格は自分の職場だけではなく、全国にいる同業の技術者が事故を未然に防ぐために知るべきではないのかと考えるようになりました。

 そこで、いまある自分の個人Webサイトのコンテンツに、JISの石油分野の規格票を掲載しました。念のために、著作権法上の問題がないか確かめるべく日本図書館協会著作権委員会編『図書館サービスと著作権 改訂第3版』(2007年、日本図書館協会)を読んだところ、「国または地方公共団体が定めるものについては、法13条2号が適用されるものと考えられますから、国が制定した」国家規格のJIS規格については「自由に利用することができると思われます」(同書23-24頁)と記載されていました。また「ただし、規格の解説や、国、地方自治体または独立行政法人以外の者が作成したその外国語訳については当てはまりません」(同書24頁)と書いてありましたが、規格票の解説を掲載するつもりはありませんので、特に問題はないと考えました。

 ところがJISをWebサイトで公開してから3ヶ月したころ、メールで匿名の方から「おれが作った規格を勝手にインターネットに公開するのは著作権侵害だぞ!」というクレームが来ました。その人によりますと、業界の利害関係者としてJIS原案を自主作成し日本工業標準調査会に審議・答申されて制定された規格については、原案作成者に著作権が帰属されるとのことです。また、JISはISO(国際標準の一つ)をもとに制定していることがあるが、ISO本部は規格が著作権であることを主張しており、JISに著作権を認めなければ世界の潮流に反すると説明していました。

 この匿名の方が言っていることは本当なのでしょうか?宜しく御教示ください。

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:オッス!石油コンビナートか。この前羽田空港の搭乗口の辺りに座っていたら、ひ弱そうな(にもかかわらず、最近は「制服」のように茶髪にしているんだよなw)若者たちが窓から見える、白煙を上げている京浜工業地帯(川崎)の石油コンビナートの鉄塔を見て「萌え~萌え~」と言っていたが、現場の大変な話を聞いたことがある俺様にとってはまっぴらだな。あんたを少し尊敬しちゃうよ。

 質問についてだけど、JIS規格は経済産業大臣が制定する、つまり国が作成するものだが、Q8でも言ったように著作権があるものとないものがあるので、それが今回問題になるな。Q16と同様に技術的な問題になるので、専門用語を解説しながら説明するぜい。

 JISについては工業標準化法(昭和24年6月1日法律第185号)で規定されている。この法律では、日本工業規格(JIS)を「主務大臣により制定された工業標準」(法11条、17条1項)、工業標準を「工業標準化のための基準」(同法第2条)、工業標準化を「鉱工業品の種類、型式等、工業標準化法第2条各号に掲げる事項を全国的に統一し、又は単純化すること」(同法第2条)としている。

 この工業標準化の意義は自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化してしまう「もの」や「事柄」について・・・技術文書として国レベルの「規格」を制定し、これを全国的に「統一」又は「単純化」することであると言える」と説明されている(日本規格協会編集「JISハンドブック 56 標準化」(財団法人日本規格協会、2002)389頁)。JISは工業標準化法に基づく手続によって制定される技術文書であり、その性格により①基本規格、②方法規格、③製品規格に区分される(日本規格協会・前掲文献 391-392頁)

 ではJISの制定プロセスはどういうものかというと「工業標準化法に基づき、主務大臣がJIS原案を日本工業標準調査会(以下、調査会という。)に付議し、調査会による調査審議を経て主務大臣に答申されたJIS原案を主務大臣が官報に公示してJISとして制定するものである。」と説明されている(日本規格協会・前掲文献 398頁)。主務大臣が制定するのであれば、著作権法13条2号の「国、地方公共団体、独立行政法人等の機関が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの」に該当し、権利の目的とならない著作物となりそうではある。

 ところがだ。先ほどの制定プロセスの説明文は次のように続く。「工業標準原案(JIS原案)の作成は、これまでは工業標準化法第11条による国主導のJIS原案の作成が主であったが、民間団体等利害関係者の積極的な関与を促すため、平成9年に工業標準化法を改正し、工業標準化法第12条による利害関係者からのJIS原案の申出手続きが簡素化された(日本規格協会・前掲文献 398頁)。ぶっちゃけ言えば、国だけではJISを作りきれなくなったので、現場の民間企業も一緒に規格を作りましょう、ということだわな。

 こういうことに備えて、財団法人日本規格協会では「国内標準化支援業務」を行っているとのことである。具体的には、日本規格協会が「JIS原案作成公募制度」で募集し、企業などの原案作成団体が日本規格協会に原案を作成し、その後経済産業省産業技術環境局基準認証ユニット(日本工業標準調査会事務局)に提出の上、日本工業標準調査会(JISC)に付議し、答申を得るという運びとなっている。

 では、民間の原案作成者にはどのようなメリットが与えられるのか。この点、日本工業標準調査会『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書』(平成12年5月29日)は、民間主導のJISの原案作成の更なる推進を提言した上で、「我が国では、規格原案作成を専業として行っている民間団体はなく、規格作成・普及だけで独立に採算を立てられる状況にはほとんどないものと考えられる」ことから「今後規格作成における民間の役割を更に強化するためには、引き続き民間における規格原案作成を支援していく一方、民間提案((工業標準化法:著者追加)12条提案)に係る規格原案作成者に著作権を残す等、規格作成に係るインセンティブを高める方策を探る」としている。そして著作権を残さなければ「電子媒体からの複写は紙媒体からよりも容易であるため、著作権による保護がない場合には、規格原案作成者が想定していない者による規格販売等の可能性が増すこととなる」としている(同報告書44頁)。

 このJISにおける民間団体作成の規格の著作権法上の取扱いを明確にするため、平成14年に『日本工業規格等に関する著作権の取扱方針について』(日本工業標準調査会標準部会・適合性評価部会議決)が定められた。

 このようにしてJISC(経済産業省)は、著作権保護という「ご褒美」を原案作成者に与えることにより、JISを維持しようと考えたようだ。

 では、民間団体が原案を作成した規格については、役所が原案を作成した場合と異なり、著作権法13条2号は適用されず「権利の目的となる著作物」となるか

 確かに国の審議会などで利用される著作物の中でも、民間企業などの第三者が作成した資料があれば著作権の対象となることはQ8で説明した。しかし、JISでは原案をもとにして更にJISCという審議会で審議し答申され国の機関で取扱われ、その成果が国家規格たる統一基準として主務大臣により制定され官報公示されるものである以上、国が一般周知を目的として作成する広報資料、調査統計資料、報告書等(著作権法32条2項参照)とは一線を画し、法令・告示等と同様に権利の目的とならないと解するべきであろう

 仮に民間団体の原案が何の修正もなくJISCの審議を通過したとしても、主務大臣がJISを制定することから、民間団体は主務大臣(国)の手足として作成したに過ぎず、規格の著作者は主務大臣(国)と見るべきである。原案作成者に対する「ご褒美」は著作権保護ではなく、工業標準化制度上の補償金などにより別途処理する必要のあるものであろう。原案作成者の利益を保護するために電子媒体からの複製を抑制することを目的にするのであれば、地形図について測量法、海図・航空図について水路業務法で規制しているのと同様に、行政上の規制を課すことにより達成することも可能であり、あえて著作権法による保護にこだわる必要はないと考えられる(日本図書館協会著作権委員会・前掲書 147-149頁参照)。

 なお、ISO(国際標準化機構)がその規格について著作権を主張していることは『ISOの知的財産権保護に関する指針及び方針』(理事会決議 42/1996で承認・(財)日本規格協会国際標準化支援センター訳)で確認することができる。ISOは各国の代表が集まる非政府機関であるため、著作権法13条2号は適用されず、日本においても保護されると解される。もっとも、ISOの規格が主務大臣が制定するJISの内容に取り込まれた場合には、アイデアレベルのものはもちろんのこと、そのJISと別個の著作物と認識されない限り、JISとして扱われる限度で権利の目的となる著作物とはならないだろう(田村善之『著作権法概説 第2版』(有斐閣、2001年)257頁、加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、2006年)138頁参照)。

 こういうことを言うと「世界のほかの国はみんな著作権を認めているぞー」と言われそうだが、著作権国際条約であるベルヌ条約第2条(4)では「立法上、行政上及び司法上の公文書並びにその公的な翻訳物に与えられる保護は、同盟国の法令の定めるところによる。」と規定しているので、特に条約違反となるものではない。

 また、JISの規格票のうち解説については、「本体及び附属書(規定)に規定した事柄、附属書(参考)に記載した事柄、並びにこれらに関連した事柄を説明するもの。ただし、規格の一部ではない。」(日本規格協会・前掲文献 61頁)とされていることから、規格とは別個の著作物でありかつ主務大臣が制定したものではないことから、著作権は認められるといえる。

 民間団体が規格を制定する場合はともかく、主務大臣が国の統一基準を制定するというプロセスを経る以上、日本の現行著作権法で保護することは困難だろう。

 以上のことから、JIS規格本体については著作権の目的となる著作物ではないことから、インターネットにアップロードしても、原則として著作権侵害とはならないと考えられる

【参照】鳥澤孝之「国家規格の著作権保護に関する考察 ―民間団体が関与した日本工業規格の制定を中心に―」知財管理 Vol.59 No.7 [2009.7]793-805頁

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