行政機関

Q28:公立図書館で特許手続に必要な文献のコピーを入手したいのですが

Q:タイゾーさん、はじめまして。私はとあるメーカーに勤務する研究員です。普段は商品開発にたずさわっております。

 商品開発の部署では、特許取得に向けて仕事をすることがときどきあります。そんなときは、特許権をゲットするために、会社がお世話になっている弁理士さんに出願書類を書いていただいて特許庁にオンライン経由で特許出願します。その後、特許庁の審査官が素直に特許査定をすれば特許権が登録され、見事に特許権をゲットできるという流れになります。

 先日もある商品に係る発明について特許出願をし、その審査の結果を今か今かと待っていたところ、審査官から出願書類のうち明細書(特許法第36条第3項)で引用された非特許文献(特許公報以外に掲載された文献すべて。論文、書籍、パンフレット、マニュアル、新聞など)を速やかに提出しろという通知が来ました。要は、お前の発明は特許権ゲットの要件となる新規性・進歩性(特許法第29条)などを満たすかどうかをあやしいから、もってこいということです。

 発明を見る眼がない審査官だなあと思いつつも、求められた資料は孫引きしたものでしかも購入がほぼ不可能な資料だったので、ネットで調べてその資料を所蔵する公立図書館にコピーをもらいに行くことになりました。

 図書館に着いたら早速、複写申込書を書いてカウンターでコピーをお願いしました。その資料は論文集に所収されたもののうちの一編だったのですが、審査官からの指示で全頁コピーする必要がありました。その旨記入したところ、窓口の司書さんから「図書館では著作権法上、一つの著作物の半分までしか複写できません」と言われてしまいました。

 「えっ、他の利用者と違って個人的な調査研究が目的なのではなくて、国の指示で必要なんですよ」と反論したのですが、「私たちも複写したいのですが、著作権法上の規制がありますので…」という理由でその日は全頁のうち半分のコピーしかできませんでした。

 せっかく足を運んだのに無駄足になってしまったのですが、本当に著作権法上、非特許文献を公立図書館で全部分を複写することはできないのでしょうか?また図書館でコピーできないのでしょうか?国の手続でやっていることなのにできないなんて納得行かないので、宜しくお願いします。

A:特許出願か。今回はQ2の町の発明家のじじぃと違って、出願だけでなく審査請求の段階まで進んでいて、さすがに企業ということだけあってまともなようだなあ。

 さて回答だけど、結論からいうと特許手続で提出する非特許文献を全ページ複写しても著作権侵害にはならないということで、あんたに対応した図書館員は著作権法について誤った説明をしたことになる。「半分しかコピーできません」という説明は、公立図書館等において調査研究を目的とする図書館利用者の求めに応じてコピーする場合(著作権法第31条第1号)のことを言っていると思われる(なお、「半分」というのは同号中の「一部分」を図書館の運用で判断しているものである)。

 「Q22:議員立法の資料をウェブにアップしたんだけど…」でも多少説明したが、特許庁が行う特許審査の手続で必要となる場合には、必要と認められる限度で複写を行うことができる著作権法第42条第2項第1号)。この規定は平成18年改正(平成18年法律第121号)により新たに設けられたもので平成19年7月1日から施行されている。あんたに対応した司書さんはこれを知らなかっただけかもしれないなあ。この規定があるおかげで、著作権法第31条が適用される公立図書館等だけでなく、同条が適用されない企業図書館などのいわゆる専門図書館(特定の限定された目的をもつ各種の組織体によって、その所属構成員を利用対象として、組織体の目的実現に必要な施設として設置される図書館」(日本図書館協会図書館ハンドブック編集委員会編『図書館ハンドブック 第6版』(日本図書館協会、2005年)6頁))でも必要な範囲内で複写できるということになる。

もっとも、多摩市立図書館複写拒否事件(東京地裁平成7年4月28日判決、著作権法判例百選[第3版]No.78)でも著作権法第31条第1号について「一定の要件のもとに図書館において一定の範囲での著作物を複製することができるとしたものであり、図書館に対し、複製物提供業務を行うことを義務付けたり、蔵書の複製権を与えたものではない。・・・この規定をもって、図書館利用者に図書館の蔵書の複製権あるいは一部の複製をする権利を定めた規定と解することはできない。」と判示しているように、同号の複製の主体を公立図書館等と位置づけた上で、著作権侵害を問われないとしているに止まるものだ。図書館利用者は同規定によっていわば「たまたまラッキー」な思い(法律的には反射的効果)をしているだけであり、積極的に著作権法に基づいて権利を主張することはできない。したがって、図書館側が複写をすることについて「メンドクサー」「そんなことをする知恵も勇気も金もありません」ということであれば、利用者のコピーの要求を断ることはできる。

 では図書館側が特許手続のための非特許文献を利用者のために複写することについて乗り気である場合はどうか。一著作物の全部分を複写することは可能か?

 この点、著作権第42条第2項を厳格に解釈して「著作物の利用者自らが…著作物を複製することができることを規定しているだけであり…これを根拠に、図書館等が図書館資料である著作物全部を複製して図書館等利用者に交付することができると解するのは困難ではないでしょうか。という見解がある(早稲田祐美子「Q&A 図書館等の複写と42条(他の制限規定)との関係」コピライト566号(2008年6月号)57頁)。だがこれには、さすがの俺様でもちょっと待ったー、って思うぜ。

 公立図書館等での利用者の求めに応じた複写が著作権法第31条第1号に基づき一著作物の一部分の範囲内で行うべきという原則がうざったいと思って、図書館内でのセルフコピーを利用者を複写の主体と捉え私的複製(同法第30条第1項)だから著作物の全部分を複写できるという言い逃れはカラオケ法理によって封じられるという話は「Q20:図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…」でしたよな。上記の論者もこの脱法行為を気にして、著作物の利用者が直接複写する場合に限定しているのかもしれねえな。

 だがなあ、図書館内で利用者が自らの調査研究目的で図書館資料をセルフコピーするのと、利用者が特許手続で提出するためにこの資料をコピーするのとでは意味がちがうのではないだろうか。

 つまり、前者は著作権法第31条第1号の複製の主体は図書館等であっても、調査研究を目的とする図書館利用者への提供が目的であるから、権利制限のメリットは利用者がゲットすることになる。一方で利用者が図書館資料を館内でセルフコピーすることについて利用者を主体として私的複製と法的に構成する場合も、利用者がコピーを使う目的で複写しており最終的にメリットをゲットするのは利用者だ(むしろこっちの方が、複製主体とメリットを受ける者が一致するから、理屈の上ではストレートでスッキリする)。こんな場合には、実質的に同じ目的であるにもかかわらず私的複製だから全部分複写OKとすれば、法31条で図書館資料の複製について要件を定め権利保護と利用のバランスをとったことを無意味にすることから、カラオケ法理を援用して、利用者のセルフコピーを実質的に支配する図書館を複製の主体と構成することは合理性があるといえる。

 一方で、特許手続のために行う非特許文献の複写は図書館利用者が著作物を利用する目的ではない。平成18年法改正の前に出された「文化審議会著作権分科会報告書」12頁(平成18年1月)でも述べているように「知的財産法の柱である特許法において,特許要件を満たしたものでなければ特許を与えないという非常に強い公益的な要請があり,的確・迅速な審査手続の確保の観点から非特許文献の複製について,権利制限を行うことが適当である」ことによる。図書館で非特許文献をゲットできないばかりに、新規性・進歩性がないことを確認できず、くだらない発明にまで特許を与えかねないということだな。なおこれに対しては、特許手続は出願人の私利私欲でやっているだけだから私的複製と変わりねーだろーという突込みが予想されるが、複製した著作物は直接的には特許審査のために用いられることから、あてはまらないだろう。

 したがって、法第42条第2項第1号に基づき特許手続を目的とした図書館資料の複製の主体は法第31条とは異なり図書館利用者であり、直接コピーする図書館側はここでは図書館利用者の手足を見るべきだろう。つまり法31条に基づくセルフコピーでは図書館側が主体で利用者がその手足でコピーしているのとは逆のパターンであるということになる。よって、特許手続に必要な範囲内であれば一著作物の全部分を複写しても著作権侵害を構成しないといえるだろう。それに、もし上記の論者の言うとおりであるとすれば、特許の出願人は非特許文献を購入しない限り複写できないということになり、そもそも論として法目的を達成することはほぼ不可能に近いだろう。これは特に著作権法第31条が適用されない企業図書館等で非特許文献を複写する場合と対比すればよりハッキリする。この複写は図書館や同施設の利用者の調査研究のために行うものではなく、特許審査という行政手続であり公益性の高い行為に利用されるものであり、複写場所である施設の性質は権利制限の要素ではないからだ。

 直接利用者が複写しなければ法第42条第2項は適用されないという論者の発想は、著作権の権利制限規定は著作権侵害訴訟における抗弁(言い訳)だという考え方が根強いことを裏付けるものだろう。特に侵害訴訟の当事者をお客とする弁護士さんにとってはな。権利制限規定を根拠に権利を主張することもできず、権利制限規定を根拠に身を守るしかない利用者はボクシングのサンドバック状態なのかも知れねえな。

 しかしカラオケ法理などによって著作権侵害の範囲を拡張する代わりに、著作権の権利制限規定の適用範囲を必要以上に縮小すれば、その副作用として「録画ネットやMYUTA等と関係すると思います…やり過ぎると権利制限規定に全く大穴があいてしまって空洞化してしまうことがあるのではないか」ということになってしまうだろう(奥邨弘司「第Ⅱ章 今日的主題 1 著作権の間接侵害」『法的環境動向に関する調査研究 著作権リフォーム -コンテンツの創造・保護・活用の好循環の実現に向けて- 報告書』(財団法人デジタルコンテンツ協会、平成20年3月)25-26頁)。権利制限の脱法行為は許されないが、利用目的に応じて、利用の主体の法的構成を柔軟に考えることは必要だろう。

 なお図書館現場においては、国立国会図書館が国立国会図書館資料利用規則第31条第2項第2号ハにおいて「行政庁の行う特許、意匠若しくは商標に関する審査、実用新案に関する技術的な評価又は国際出願(特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律(昭和五十三年法律第三十号)第二条に規定する国際出願をいう。) に関する国際調査若しくは国際予備審査に関する手続」の場合には図書館資料を用いて複写を行うことができるとしている。

 つうことで、図書館現場でも徐々に新しい規定に基づき運用されていくのだろうが、著作権の権利制限規定の本質論はまだまだ開拓の余地がありそうだな。著作権法学会の2008年度研究大会のテーマはフェアユース・権利制限規定であったようだが、いくら法改正で新たに権利制限規定を熱い期待をこめて設けたとしても、権利制限自体の本質や効果をまともに議論しないまま置いた場合には、窓を全開にしたままバルサンを焚いたときと同じように、マヌケな結果となることだろう。

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Q22:議員立法の資料をウェブにアップしたんだけど…

Q:やあみんなぁ、こんにちは!!ぼくは元気はつらつにがんばっている国会議員だよ。今は野党に属しているけど、正々堂々、政権奪取に向けて党の仲間とともに毎日がんばってるぞー★

ぼくは国家のことを大事にするけど、もちろん地元選挙区も大事にするぞ。先週末に地元に戻って畑を歩いていたら、養豚場があってそこにいた豚さんたちに「地元名産品になってくれてありがとう。黒豚さん、ぼくがんばっているよ!」とかろやかに声をかけたところ、そこの農家の方が「先生、今のような地方格差時代にわが県が再生するには、もうこの黒豚たちを全国に売り込むしか道がありません。どうかこの子達が全国で売れるようになる法律を作ってください」とお願いをされました。

さっそく地元後援会と相談したところ、最近では黒豚料理が一部のグルメな方に人気のようで、黒豚さんに対する経済的期待が高まっているそうです。そこでぼくは、「黒豚販売促進特別措置法案」を作成することに決め、地元の畜産農家、JAをはじめ、東京に戻ってからは政府、国会事務局に資料を請求しまくりました。そうしたら、かなり役立つ資料が集まりました。

国民に対する情報公開を第一義とするぼくとしては資料を独り占めするよりは、みんなにオープンにしたいと考えています。そこで地元の皆さんも御覧になれるように、ぼくのウェブサイトにPDF化した資料をどんどんアップしました。そしたらメールBOXに意見が多く寄せられるようになりました。

そのうち、意見の一つとして「そんなに資料をウェブに著作権者に無断でアップしまくっていたら、著作権侵害で訴えられますよー」というメールが寄せられました。早速、著作権に詳しい友達に聞いたところ「うーーん、でも著作権法では立法目的のためならOKという規定があるからねえ」と言いましたが、よく分からないということでした。

法律を作るために集めた資料をウェブにアップすることは立法目的でも許されないのでしょうか。政府に質問主意書で聞いてもいいのですが、今日はたまたまいつも質問を書いてくれる人が海外に遊びに行っているので回答をよろしくです。

:あんたが法案作成に情熱を注ぐのは、政府への資料要求でテレビのバラエティー番組出演前のネタ集めや子どもの宿題回答や、知り合いだか支援者だかのガキが提出する大学の中間レポートや博士論文を書かせるといった立法行為以外の私用に使う奴に比べればずっとましだが、くだらないことで質問主意書を提出するのはやめろや。せめて質問議員が自腹で担当職員の主意書作成のためにかかった労働時間の超過勤務を払うぐらいの法律は制定されるべきだな。今流行の「応益負担」というやつだが。とは言いつつも、俺様も議員秘書のときは、政府控室に支援者からのしょうもない頼みごとを押し込んだり、議院調査室に地元支援者へのハガキ書きを頼んだものだが(爆)

質問だけどなあ、結論から言うと「著作権者にバレないようにがんばってねえ(笑)」としかいいようがねえな。検索サイトが発達した今日においては、権利者に見つかるのも時間の問題だが。

著作権を論じる前提として、政府が作った資料に著作権が認められるか問題になるが、ほとんどの場合には著作権があることは、Q8で言ったとおりだ。

あんたの友達が言っていた立法目的のためならいいという規定は、著作権法42条第1項(裁判手続等における複製)のことなんだろうな。これは、裁判手続のために必要と認められる場合及び立法又は行政目的のために内部資料として必要と認められる場合に、著作権者の複製権の制限が認められる(要は、無断でコピーできる)というものである。これは国家的な見地から認められた権利制限規定といえる。

この立法目的というためには、「法律案審議のために使う場合だけでなく、予算案審議とか国政調査とか国会又は議会の機能を行うために必要な場合を含むとしている(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、2006年)290頁)。しかし、これをブログにアップロードして一般人が閲覧できる状態にすることは、もはや「内部資料」とは言えないため、法42条は適用されない。ここで「内部資料」として取扱うことに限定しているのは、同条ただし書の趣旨が「著作物の経済的市場における利用と衝突するようなケース、あるいは、著作物の潜在的販路に悪影響を与えるようなケースでは、たとえ内部資料であっても複製物を作成できないということ」になる(加戸・前掲291頁)としているように、行政・立法機関の閉鎖的な範囲内で利用することを条件にすることによって、著作権者の経済的利益を確保しているためである。

この点、社会保険庁LAN雑誌記事無断掲載事件判決(東京地判平成20年2月26日〈平成19年(ワ)第15231号〉)においては、電気通信回線に接続している社会保険庁LANシステム(社会保険庁内部部局、施設等機関、地方社会保険事務局及び社会保険事務所をネットワークで接続するネットワークシステム)の掲示板用の記録媒体(サーバー)に雑誌記事をアップロードしたことについて、被告側(社会保険庁)が「社会保険庁職員が複製しているところ,この複製行為は42条1項本文により複製権侵害とはならず,その後の複製物の利用行為である公衆送信行為は,その内容を職員に周知するという行政の目的を達するためのものなので,49条1項1号の適用はなく,原告の複製権を侵害しない,また,複製物を公衆送信して利用する場合に,その利用方法にすぎない公衆送信行為については,42条の目的以外の目的でなされたものでない以上,著作権者の公衆送信権侵害とはならない」旨主張したところ、裁判所は「社会保険庁職員による本件著作物の複製は,本件著作物を,本件掲示板用の記録媒体に記録する行為であり,本件著作物の自動公衆送信を可能化する行為にほかなら」ないことから複製権を制限する法第42条は適用されず、「42条1項は,行政目的の内部資料として必要な限度において,複製行為を制限的に許容したのであるから,本件LANシステムに本件著作物を記録し,社会保険庁の内部部局におかれる課,社会保険庁大学校及び社会保険庁業務センター並びに地方社会保険事務局及び社会保険事務所内の多数の者の求めに応じ自動的に公衆送信を行うことを可能にした本件記録行為については,実質的にみても,42条1項を拡張的に適用する余地がないことは明らかである」と判断している。

つまり法42条1項により、行政機関や立法機関の議員・役人が内部利用する場合にだけコピーを無断できるというわけだ。それ以外の場合には役所が関与しても適用されない。これは民間人が法律に基づき役所に提出ための資料(車庫証明するために提出する住宅地図)を複写する場合も同様だ。法42条1項では「裁判手続のために必要と認められる場合」及び「立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合」と分けて書かれているように、裁判手続においては一般私人が同項の複製の主体になることを認められるのに対して、立法又は行政のための複製については複製の主体が役所又はその職員に限定されている(加戸・前掲290頁参照)。

しかし行政手続のうち特許審査手続と薬事行政手続については、わが国の国際競争力の確保及び医薬品等の品質、有効性及び安全性を確保する観点から、平成18年著作権法改正(平成18年12月22日法律第121号)により、法42条2項でこれらの手続のために行政庁に提出し、あるいは行政庁が提供する文献の複製について、例外的に無許諾で行えることとされた(文化庁 著作権法の一部を改正する法律の制定について 問7 「特許審査」手続等における文献の複製と「薬事行政手続」における文献の複製について、例外的に無許諾で行えることとする趣旨を教えてください。(第42条第2項) 参照)。

つうことで、議員立法のために集めた資料をブログに公表することについては法42条1項は適用されず、許諾を得ないと著作権侵害(公衆送信権侵害)ということになる。国家のための行為でも、オールマイティーではないっちゅーことだな。

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Q18:JIS規格って著作権で保護されるの?

Q:おはようございます。私は石油精製会社の石油プラントで配管の保全をしている技術者です。普段は、海っぺりの工業地帯で石油コンビナートの高い鉄塔に登ったり、配管工事をしたりしています(最近は若い人の間でこういう現場を「工場萌え」という人もいるみたいですね)。過去に爆発事故で亡くなった同僚もいるので、安全第一を心がけています。

さて、配管をするときには、それぞれの製品の材質、形状などを知るために、国家規格であるJIS(日本工業規格)の規格票を見ることが多いです。JISは業務の上で不可欠な技術文書です。仕事をするうちに、このような規格は自分の職場だけではなく、全国にいる同業の技術者が事故を未然に防ぐために知るべきではないのかと考えるようになりました。

そこで、いまある自分の個人Webサイトのコンテンツに、JISの石油分野の規格票を掲載しました。念のために、著作権法上の問題がないか確かめるべく日本図書館協会著作権委員会編『図書館サービスと著作権 改訂第3版』(2007年、日本図書館協会)を読んだところ、「国または地方公共団体が定めるものについては、法13条2号が適用されるものと考えられますから、国が制定した」国家規格のJIS規格については「自由に利用することができると思われます」(同書23-24頁)と記載されていました。また「ただし、規格の解説や、国、地方自治体または独立行政法人以外の者が作成したその外国語訳については当てはまりません」(同書24頁)と書いてありましたが、規格票の解説を掲載するつもりはありませんので、特に問題はないと考えました。

ところがJISをWebサイトで公開してから3ヶ月したころ、メールで匿名の方から「おれが作った規格を勝手にインターネットに公開するのは著作権侵害だぞ!」というクレームが来ました。その人によりますと、業界の利害関係者としてJIS原案を自主作成し日本工業標準調査会に審議・答申されて制定された規格については、原案作成者に著作権が帰属されるとのことです。また、JISはISO(国際標準の一つ)をもとに制定していることがあるが、ISO本部は規格が著作権であることを主張しており、JISに著作権を認めなければ世界の潮流に反すると説明していました。

この匿名の方が言っていることは本当なのでしょうか?宜しく御教示ください。

:オッス!石油コンビナートか。この前羽田空港の搭乗口の辺りに座っていたら、ひ弱そうな(にもかかわらず、最近は「制服」のように茶髪にしているんだよなw)若者たちが窓から見える、白煙を上げている京浜工業地帯(川崎)の石油コンビナートの鉄塔を見て「萌え~萌え~」と言っていたが、現場の大変な話を聞いたことがある俺様にとってはまっぴらだな。あんたを少し尊敬しちゃうよ。

質問についてだけど、JIS規格は経済産業大臣が制定する、つまり国が作成するものだが、Q8でも言ったように著作権があるものとないものがあるので、それが今回問題になるな。Q16と同様に技術的な問題になるので、専門用語を解説しながら説明するぜい。

JISについては工業標準化法(昭和24年6月1日法律第185号)で規定されている。この法律では、日本工業規格(JIS)を「主務大臣により制定された工業標準」(法11条、17条1項)、工業標準を「工業標準化のための基準」(同法第2条)、工業標準化を「鉱工業品の種類、型式等、工業標準化法第2条各号に掲げる事項を全国的に統一し、又は単純化すること」(同法第2条)としている。

この工業標準化の意義は自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化してしまう「もの」や「事柄」について・・・技術文書として国レベルの「規格」を制定し、これを全国的に「統一」又は「単純化」することであると言える」と説明されている(日本規格協会編集「JISハンドブック 56 標準化」(財団法人日本規格協会、2002)389頁)。JISは工業標準化法に基づく手続によって制定される技術文書であり、その性格により①基本規格、②方法規格、③製品規格に区分される(日本規格協会・前掲文献 391-392頁)

ではJISの制定プロセスはどういうものかというと「工業標準化法に基づき、主務大臣がJIS原案を日本工業標準調査会(以下、調査会という。)に付議し、調査会による調査審議を経て主務大臣に答申されたJIS原案を主務大臣が官報に公示してJISとして制定するものである。」と説明されている(日本規格協会・前掲文献 398頁)。主務大臣が制定するのであれば、著作権法13条2号の「国、地方公共団体、独立行政法人等の機関が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの」に該当し、権利の目的とならない著作物となりそうではある。

ところがだ。先ほどの制定プロセスの説明文は次のように続く。「工業標準原案(JIS原案)の作成は、これまでは工業標準化法第11条による国主導のJIS原案の作成が主であったが、民間団体等利害関係者の積極的な関与を促すため、平成9年に工業標準化法を改正し、工業標準化法第12条による利害関係者からのJIS原案の申出手続きが簡素化された(日本規格協会・前掲文献 398頁)。ぶっちゃけ言えば、国だけではJISを作りきれなくなったので、現場の民間企業も一緒に規格を作りましょう、ということだわな。

こういうことに備えて、財団法人日本規格協会では「国内標準化支援業務」を行っているとのことである。具体的には、日本規格協会が「JIS原案作成公募制度」で募集し、企業などの原案作成団体が日本規格協会に原案を作成し、その後経済産業省産業技術環境局基準認証ユニット(日本工業標準調査会事務局)に提出の上、日本工業標準調査会(JISC)に付議し、答申を得るという運びとなっている。

では、民間の原案作成者にはどのようなメリットが与えられるのか。この点、日本工業標準調査会『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書』(平成12年5月29日)は、民間主導のJISの原案作成の更なる推進を提言した上で、「我が国では、規格原案作成を専業として行っている民間団体はなく、規格作成・普及だけで独立に採算を立てられる状況にはほとんどないものと考えられる」ことから「今後規格作成における民間の役割を更に強化するためには、引き続き民間における規格原案作成を支援していく一方、民間提案((工業標準化法:著者追加)12条提案)に係る規格原案作成者に著作権を残す等、規格作成に係るインセンティブを高める方策を探る」としている。そして著作権を残さなければ「電子媒体からの複写は紙媒体からよりも容易であるため、著作権による保護がない場合には、規格原案作成者が想定していない者による規格販売等の可能性が増すこととなる」としている(同報告書44頁)。

このJISにおける民間団体作成の規格の著作権法上の取扱いを明確にするため、平成14年に『日本工業規格等に関する著作権の取扱方針について』(日本工業標準調査会標準部会・適合性評価部会議決)が定められた。

このようにしてJISC(経済産業省)は、著作権保護という「ご褒美」を原案作成者に与えることにより、JISを維持しようと考えたようだ。

では、民間団体が原案を作成した規格については、役所が原案を作成した場合と異なり、著作権法13条2号は適用されず「権利の目的となる著作物」となるか

確かに国の審議会などで利用される著作物の中でも、民間企業などの第三者が作成した資料があれば著作権の対象となることはQ8で説明した。しかし、JISでは原案をもとにして更にJISCという審議会で審議し答申され国の機関で取扱われ、その成果が国家規格たる統一基準として主務大臣により制定され官報公示されるものである以上、国が一般周知を目的として作成する広報資料、調査統計資料、報告書等(著作権法32条2項参照)とは一線を画し、法令・告示等と同様に権利の目的とならないと解するべきであろう

仮に民間団体の原案が何の修正もなくJISCの審議を通過したとしても、主務大臣がJISを制定することから、民間団体は主務大臣(国)の手足として作成したに過ぎず、規格の著作者は主務大臣(国)と見るべきである。原案作成者に対する「ご褒美」は著作権保護ではなく、工業標準化制度上の補償金などにより別途処理する必要のあるものであろう。原案作成者の利益を保護するために電子媒体からの複製を抑制することを目的にするのであれば、地形図について測量法、海図・航空図について水路業務法で規制しているのと同様に、行政上の規制を課すことにより達成することも可能であり、あえて著作権法による保護にこだわる必要はないと考えられる(日本図書館協会著作権委員会・前掲書 147-149頁参照)。

なお、ISO(国際標準化機構)がその規格について著作権を主張していることは『ISOの知的財産権保護に関する指針及び方針』(理事会決議 42/1996で承認・(財)日本規格協会国際標準化支援センター訳)で確認することができる。ISOは各国の代表が集まる非政府機関であるため、著作権法13条2号は適用されず、日本においても保護されると解される。もっとも、ISOの規格が主務大臣が制定するJISの内容に取り込まれた場合には、アイデアレベルのものはもちろんのこと、そのJISと別個の著作物と認識されない限り、JISとして扱われる限度で権利の目的となる著作物とはならないだろう(田村善之『著作権法概説 第2版』(有斐閣、2001年)257頁、加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、2006年)138頁参照)。

こういうことを言うと「世界のほかの国はみんな著作権を認めているぞー」と言われそうだが、著作権国際条約であるベルヌ条約第2条(4)では「立法上、行政上及び司法上の公文書並びにその公的な翻訳物に与えられる保護は、同盟国の法令の定めるところによる。」と規定しているので、特に条約違反となるものではない。

また、JISの規格票のうち解説については、「本体及び附属書(規定)に規定した事柄、附属書(参考)に記載した事柄、並びにこれらに関連した事柄を説明するもの。ただし、規格の一部ではない。」(日本規格協会・前掲文献 61頁)とされていることから、規格とは別個の著作物でありかつ主務大臣が制定したものではないことから、著作権は認められるといえる。

民間団体が規格を制定する場合はともかく、主務大臣が国の統一基準を制定するというプロセスを経る以上、日本の現行著作権法で保護することは困難だろう。

以上のことから、JIS規格本体については著作権の目的となる著作物ではないことから、インターネットにアップロードしても、原則として著作権侵害とはならないと考えられる

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Q17:著作権規制特区を提案したいのですが

Q:こんばんは。ぼくは大学で政策系学部に所属する学生です。法学部の学生とは違って、法律解釈や判例分析に拘泥せず、法と経済学の視点から、建設的な政策を創り出そうと、ゼミや仲間の間でディスカッションに明け暮れる毎日です。

インターネットやパソコンをよく利用しますが、その中でソフトのコピー、You Tubeなどの動画共有サイトへのアップロードを禁止する著作権法を障害に感じるようになりました。法学部生が使う著作権法の教科書を読むと、「著作権を保護しなければならない」「人格の発露である著作物の創作は自然権として当然に守られる」など、著作物を著作権者に無断で使うのは著作権のことを何も知らないやつらの仕業であり、もっと著作権の教育を普及させないといけないと言わんばかりのものと思えました。

しかし、政府が作った著作権法によりソフトや音楽などの著作物を使えないのは、まさに一部の業界団体の独占を許し公正な競争を妨害する規制ですよねえ?そこで今度、政府の構造改革特別区域推進本部が実施する構造改革特区の提案募集に応募して、この規制を緩和しようと考えています。

そこで御相談ですが、著作権規制特区の提案をするに当たってはどのような点に注意すればよいでしょうか?今のところ、非営利目的で利用する場合はコピーやインターネットへのアップロードを自由化することを考えていますがいかがでしょうか?

あんたの言っている意味が訳が分からないんだけど(爆)。どっかのブロガーに唆されているバカ議員や、電話屋あがりのデンパ学者が言っていることをまねっこして「法と経済学」の観点からという前に、法律の基本的なことからおさらいしてみよう。

規制緩和の「規制」とは何か。ソフトウェアや音楽をJASRACなどの著作権者に突っ込みを入れられて自由に使えないのは確かに煙たいことではあるわなあ。自分の思いを満たせないからな。しかしこの場合、突っ込みを入れるのは文化庁などの政府ではなく、あくまで私人としての著作権者や私法人としての権利者団体だ。

私人からの突っ込みで自分の思いを満たすことができない例としては、好意を告白した女性にふられた場合や、田園調布の高級豪邸に住む夢を果たすためにあがろうしても住人に立ち入りを拒否される場合などがあるだろう。

それでは、規制緩和とは何か?広義では「私人に対する国や地方公共団体等による公的関与・制限を撤廃あるいは軽減すること」、狭義では「個別具体的な経済政策的又は社会政策的観点から、特定の行為・事業分野等に対して課される規制を緩和すること」に用いられるとされる。電気通信・電力などの公益事業や、運輸事業、金融・証券・保険事業などの規制産業に対して問題にされたことがきっかけとなっている(『法律学小辞典[第4版]』(有斐閣、2004年)175頁)。

しかし著作権は私人の権利だ。家や自動車の所有権と同じというわけだな。家・自動車については「勝手につかっちゃだめ!」と言っても納得がいくのに、音楽・ソフトなどの著作物の利用だと急に態度が大きくなり「ユーザーの権利の侵害」と無断利用者が言い出すのは、家・自動車が手で掴める有体物で一般人が一目置くのに対して、著作物は無体物で「へっ!空気みたいなもんだぜ!」とチャライものだと思っているからだろう。こういう意識があることから、著作権法の教科書で著作権意識の重要性を説き、さらに「著作権思想の普及」をしようとする声があるのだろうがな。

つうことで、著作権の主張は家・自動車などの有体物の権利主張と同じことであり、特別目立った規制とは言えない。

結局この問題の核心は、「著作権という権利をとりまく私人間の利益調整の問題」である(白鳥綱重「著作権法政策の動向」L&T No.31(2006年4月)39頁)。具体的には著作権者と利用者の間の利用許諾契約の問題で済む話がほとんどであろう。著作物を利用できるかどうかは、制度の問題ではなく、いかに利用者側が有利な条件をゲットできるような交渉力をもっているかにかかってくるだろう。独占や競争妨害の問題は著作権制度よりも、むしろこの具体的な契約の段階で現れることだろう。

仮に著作権を規制として政府が著作権者の権利行使を抑制し利用者に有利になるように援助すれば、これは正に規制行政の強化になろう。先ほどの例で言えば、もてない男のために女性の意思を強制して無理やり付き合わせ、また高級豪邸に住む夢をかなえるために住人の静穏な生活を我慢させるのと同じことである。このようなことは、社会福祉?の観点から行う必要があるのかもしれんが(笑)、私人の欲求のために公的な関与により別の私人に負担を負わせるのはいかがなものであろうか。

つうことで、せっかく構造改革特区の提案をしても、担当の役人に「はいはい、また勘違い野郎がやってきましたか」と言われて、まともに相手にされないのがオチなので、お勧めはしないな。

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Q12:著作権ってどうしたら放棄できるの?

:私は国会議員だ。いまさっき議会の委員会で大臣に質問したら、おかしな答弁をされたのでとまどっているところだ。

内容はだなあ、ある省のウェブサイトの外注について一般競争入札ではなくて、競争原理が働かず政府の調達価格を高くする随意契約がなぜずっと続いたのかと質問したところ、ウェブサイトの作成者が持つ著作権という排他的権利を保護するために、会計法第29条の3第4項(契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合及び競争に付することが不利と認められる場合においては、政令の定めるところにより、随意契約によるものとする。)に基づき随意契約にしたという答弁が返ってきた。

だが、実は私が昨年の臨時国会でこのウェブサイトの随意契約について質問して半年経った今年になって、いきなり一般競争入札に切り替わっている。そこで「一般競争入札にできるんだったら、なぜ始めからしなかったんだ。そもそもこれでは排他的権利の保護にはならないではないのか」と質問したところ、「ウェブサイトを作成した法人に著作権を放棄してもらいました」と大臣が答弁した。

私は「??」となった。著作権はいつ発生するのか、そしてどういう形で放棄することができるのか、書面が必要なのか。

いま委員会が休憩に入っているが、再開後にこの点を突っ込んで質問したいので、これに関する資料を、院内(国会議事堂)の控室にまで至急FAX回答してくれたまえ。

:なぜお前から給料やギャラをもらっていないのに、至急FAX回答しなくちゃいけないんだよ。サービス残業しまくりの中央省庁の官僚(+研修生の法人職員 or 地方自治体職員)や議員のパシリの国会職員ならともかく。まあ、今回貸しをつくってやるから、その代わり俺が考えている著作権新法を議員立法として提出することを条件に答えてやるよ。

著作権は著作物を作成した時点で発生し、そのために特許のように登録をしたり、書面を作成したりする必要はない。法律では「著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない」(著作権法第17条第2項)と規定されている。無方式主義というやつだな。

このように登録もせずに一旦発生した著作権を放棄することはできるのか。一般的には著作権は財産権である以上、著作権者は放棄できると解されている。例えば、元内閣法制局参事官の作花文雄氏は「著作権法では、特に権利の放棄については規定していないが、財産権をその権利主体の意思で放棄することは、著作権の担保権者等の利益を害しない限り、禁止されるべきものではないと考えられる」(作花文雄『詳解 著作権法[3]』(ぎょうせい、2004年)419)と説明している。なお昭和41年10月に公表された『著作権及び隣接権に関する法律草案(文部省文化局試案)』では第76条第1項で「著作権は、その全部又は一部を放棄することができる。」と規定され、同条2項で放棄した著作権は消滅するとされていたが、「解釈に委ねるべきだとされ最終的に削除され」ることとなった(作花・前掲419頁)。

質問にあったウェブサイトの著作権について言えば、ウェブサイトが完成した時点で著作権は登録も何もせずにそのまま発生し、放棄についても著作権者が政府に「ぼく、著作権を放棄したのでよろしく★」と電話一本など意思表示を一旦すれば完了し、消滅すことになる。元権利者(放棄者)と利用者が分かっていれば、著作権の範疇ではそれで完了することになる。

ただここで問題なのは、著作権者が放棄したことを第三者からは分からず、また一旦は放棄しても登録制度や書面などの証拠がなければ、放棄者が一度言ったことを撤回して「ぼく、著作権者だよー」と再度主張しても著作権を否定することが困難であるということだろう。

この点を気にしてか、現行著作権法の立法担当者の加戸守行氏は「著作権を放棄することができるというのは、単に著作権を行使しないということではなくて、新聞広告その他によって著作権を放棄するという積極的な意思表示があった場合にだけ放棄の効果が発生すると解すべきであります」(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、2006年)377)と説明している。著作権の放棄による消滅が第三者に不明であることを懸念しての記載と思われるが、「積極的な意思表示があった場合にだけ放棄の効果が発生する」ことについての根拠規定がない以上、苦しい説明と思われる。中山信弘東大教授も「他の一般的な財産と比較して著作権だけにこのような厳しい要件を課す理由はなく、要は放棄の意思があったか否かという証明の問題にすぎない。」と批判している(中山信弘『著作権法』(有斐閣、2007年)349頁注9))。このような結果は、無方式主義による帰結だろう。

これに対して、特許権は設定の登録によって発生し(特許法第66条第1項)、放棄することはできるが(同法第97条)登録をしなければ効果は発生しない(同法第98条第1項第1号)。権利の発生・消滅について登録を要件としていることから、第三者のリスクは低減されることになるだろう。

以上のように、著作権があるかどうか、どこにあるのかいう利用者の不安は権利発生の要件となる登録制度がないことによると考えられる。権利者が不明の著作物の問題(アメリカの" Orphan Works "問題)や保護期間の延長によるその不安の増幅の懸念はその延長上にある。最近では(著作権の意味を理解しているかどうかはともかく)、みんなに利用してほしい、ネットで流してほしいから著作権はいらないのに、勝手に著作権が発生して扱いに困っているという若手クリエーターもいるようだ。

著作権を放棄するわけではないけれどもインターネットを通じた利用を促進させたいクリエーターにとっては、著作権者が利用条件を明示するための仕組みを決めているクリエイティブ・コモンズは注目されるものであろう。また、それを超えて、著作権を放棄してパブリックドメイン(公有)にしたいという者については、著作権放棄の登録制度を設ける必要が出てくるかもしれない。

議員のあんたに対するファイナルアンサーとしては、たとえ血税の使い道を透明化すべき調達費用と言えども、著作権に係る権利処理は無方式が原則であり口約束でも権利が移転、消滅するものであるため、政府への追求は難しくなるということだな。どうしても「透明化」ということであれば、会計法でその仕組みをつくることだな。

ちなみに、「政府調達に係る著作権に限って、方式主義に変えればいいのではないのか」と言われそうだが、わが国が加盟するベルヌ条約を脱退しない限り、それは困難だな。ベルヌ条約第5条(2)で無方式主義が規定されており、加盟国の日本もこれを遵守しないといけないからな

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Q10:公立高入試問題を情報公開請求される前にネットで公開したいのですが

Q:こんにちは。私は教育委員会事務局に今年配属された新人公務員です。

役所に入って始めて知ったのですが、情報公開請求って、される方って多いのですね。それも、単に職員の裁量ではなくて、県の情報公開条例にしたがって行政処分として情報公開の開示決定をしないといけないと知って、少し驚きました。

部署で多い請求文書としては、公立高校の入試問題があります。件数的に多いので、結構大変です。請求があるたびに入試問題をコピーしないといけないし、上司や情報公開担当部署に説明して決裁をとらないといけないし。

こんなに多いのなら、いっそのこと、入試問題をインターネットにアップロードして、請求される方の手間を省いたほうが、情報公開度を上げていいのでは、と考えるようになりました。

でも入試問題は、普通の行政文書とちがって、小説とかエッセイのような小説家の文章が載っていますよね。こういうものを小説家の方々に断らないで情報公開請求のためにコピーしたり、インターネットにアップすることってできるのですか?教えてください。

:おっす!情報公開制度って、ほんとは行政に対する市民の監視や行政の民主化・透明化を目的としているが、ほとんどがマスコミの取材活動やマニアックな市民の道楽に使われていて、悲しいことだな。入試問題の情報公開請求だって、てめえの子どものために私的につかっているだけだしな。

さて、Q8の暇人が平日の昼間から国の審議会に傍聴に言って、議事録や配布資料を即日ネットにアップすることについては、著作権法的には厳しいと書いたが、お前のような行政の職員が情報公開条例に基づいて開示決定を行う場合は別だ。

具体的には著作権法42条の2により、情報公開条例の規定により著作物を公衆に提供・提示することを目的として同条例で定める方法により開示するために必要と認められる限度で、当該著作物を利用することができると規定されている。

したがって、情報公開請求に基づいて請求者に対して開示決定された入試問題を閲覧するために複写し、またその複写物を提供することは、同規定により著作権者に断りなく行うことができる。国語の入試問題のように、小説家の作品が掲載されていても、それは同じだ。

では、請求される前に予めインターネットに入試問題をアップすることはどうか。情報公開制度は請求者の開示請求及びそれに対する開示決定により行われるのが基本である。したがって、情報公開を目的としていても、予めネットにアップすることについて、著作権法42条の2は適用されない。原則に戻って、著作権者の利用許諾が必要となる。もちろん、県の職員が作成した問題文については、職務著作(著作権法15条)として県がネットのアップロードについて決定することができる場合があるだろうがな。

なお、入試問題に小説家等の他人の著作物を利用することは、著作権法36条1項により許諾が必要ないと規定されている。いちいち許諾を得ていたら、問題が漏洩しちまうからな。だが、その入試が終わった後に過去問題として利用することまでこの規定で許されているわけではないので、その際は原則に戻って、許諾が必要となる。

前にも言ったよな。許諾がいらないというラッキーな思いをするには、条件があるんだって。同じ入試問題でも、条件を満たさない利用については、著作権法36条1項という権利制限規定は適用されないわけだ。

「ふんじゃあ、過去入試問題の活用ができなくなるよー」っていう悲鳴が聞こえてきそうだ。しかしこれについては、東京私立中学高等学校協会の有志が中心となって「著作権利用等に係る教育NPO」が、平成16年12月から小説家の団体である社団法人日本文藝家協会との間で運用している「私立中学高等学校における包括的な補償金制度」による過去入試問題の著作権処理が参考になるだろう。

*参照:文化審議会著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第3回)議事録・配付資料1-2

つうことで、役人には大変だが、入試問題をアップするときは権利関係をよく確認しないといけないな。情報公開制度を超えて過去問を活用したいと考えたときは、地道な著作権処理・運用を行うんだな。

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Q8:国の審議会の情報公開を進めたいのですが

Q:こんにちは。私は某法人の事務局でちんまりと地味な仕事をしています。

私はある行政分野に興味を持ち、その審議会(一般公開)には毎回のように傍聴の希望を出しては、出席をしています。その審議会の事務局は、情報公開に前向きでないようで、会議開催後、早くても半月しないと議事録や議事資料をネットに公開してくれません。そこで、私は自主的に、会議の会場にパソコンを持ち込んでパカパカ入力して、オリジナルの議事録を作成し、また会場でもらった資料をPDF化して、その日のうちに自分のブログで資料を公開しております。公正を期するため、特に論評や説明等は、加えていません(そんな時間もないし)。

ブログの世界ではかなり好評で、順調にアクセス数が伸びました。しかし、ブログを始めて半年もしたころ、コメント欄に「オミャーがやっていることは著作権侵害だに」という心無い記載がありました。当然、即刻その書き込みを削除した上で、そいつからのアクセスを禁止にしましたが、国が税金で作成した資料、会議の内容に著作権を認めて、国民が利用することを抑制する考えには納得がいきません。

審議会の議事録、議事資料に著作権は認められるのでしょうか?私がやっていることは本当に著作権侵害なのでしょうか?教えてください。

議事録や議事資料に著作権は認められるだにぃ(爆)。国が作ったもの(著作物)はみんなのもので著作権フリーと誤解して、その資料がよくネットに転がっているが、今回はそれについて考えてみよう。

国が作った著作物のうち、次のものには著作権の目的とならないので、著作権フリーとして勝手にネットに載せることができる(著作権法13条)。

1.憲法その他の法令

2.国、地方公共団体、独立行政法人等の機関が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの

3.裁判所の判決、決定、命令及び審判や準裁判手続の決定(海難審判など)

4.1-3に該当するものの翻訳物、編集物で国、地方公共団体、独立行政法人等が作成するもの

したがって、国の審議会の議事録や議事資料は著作権法13条1-4号に該当しないため、著作権が発生し、利用するには原則として国の許諾を要することになる。

また、念のために言うと、委員をはじめとして発言者の発言も、たとえ何かに内容を固定(紙に書く、ネットに載せるなど)していないくても、著作権は発生するので、無断で書き留めることは、原則として許諾が必要となる。

なお、お前が自分でPCに議事内容を打ち込んで「僕、がんばったよ!」って思っていても、議事内容のあくまで著作権者は発言者であって、打ち込んだお前ではない。これは速記者も同じことだ。

そこで次に、著作権制限規定によって、ブログに議事録や議事資料を載せることが適法になるのかが問題となる。

トップバッターとして引用(著作権法32条1項)が考えられるだろう。しかし、「引用」は、日常用語としての「引用」ではなく、次の条件を満たす必要がある。

1.自己の著作物(ブログの文章など)を作成することを目的として

2.自己の主張等を裏づけし補強することや、他人の考え方などを論評するために利用し

3.報道、批評、研究等の目的上、その利用に必然性があり

4.自己の著作物と引用で利用する著作物とを対比した場合に、前者の量が後者よりも主となっている

お前がブログでしていることは、審議会の内容を論評する文章を作成するために議事録や議事資料を利用しているだけではなく、単にネットに速く掲載することを目的としているだけであるから、この「引用」による利用には当たらない。

つぎに、著作権法32条2項にいう国の機関がその名義で一般周知を目的として作成した広報資料や報告書等を、説明の材料として新聞雑誌等の刊行物に転載することに該当するかどうかを考える。

確かに、一般公開している審議会の議事録や議事資料であれば、この条項の適用を受ける可能性はあるだろう。しかし注意が必要なのは、審議会の資料は必ずしも、国の名義の資料に限らないと言うことだ。審議会に参加する役人や委員だけでなく、ヒアリングで来た有識者、企業、個人など、国の機関でない者が資料を提出する場合がある。そいつらは、審議会でコピー配布されることを許諾しただけであって、それを受け取ったやつらがネットに載せることまで許諾していないのが通常であるから、これについて同条項を適用するのは困難だろう。

さらに、同条項では「転載することができる」としているが、「転載」と言う以上、原資料をコピーすることは適用外の行為となる(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、2006年)246頁参照)。

また、著作権法40条2項でいう、国の機関等で行われた公開の演説または陳述の利用の規定の適用が考えられるが、これは報道の目的で、しかも新聞雑誌への掲載や放送・有線放送・IPマルチキャストによる送信に限定されているので、お前のようにオープンネットワークを通じたブログでの公表は該当しない。

つうことで、ブログのコメントで言われたように、「著作権侵害」という可能性が濃厚だな!

こういうことを言うと、アメリカ著作権法第105条では、合衆国政府による著作物は著作権フリーとなっているのになあ、日本は遅れている、というバ…、いや、方がいらっしゃるが(笑)、これは政府の金で作ったものは全て著作権フリーというのとは意味が異なる。

国や地方公共団体などの役所、税金で作ったものといえども、シンクタンクなどの他の業者や研究会に補助金を出したり委託をしたりして作成した成果物がある。その場合、誰に著作権があるかというと、金をだした役所ではなく、著作物を作成した業者等が持つの原則だ。契約によって役所に著作権を譲渡することはできるがな。

だから国が税金で作ったものだから、審議会で利用されたものだから全てフリーに使えるようにすべきという考えは、甘いだろう。

つうことで、おとなしくそのようなブログはやめるんだな。論評など自分の著作物を作成するために使うんだったらまだいいが。

というか、審議会の傍聴って、なんで入場料を取らないんだろうねえ。俺様みたいに平日の昼間に忙しい一般市民から見れば、傍聴人は気楽で、市民の税金をむさぼるフリーライダーのような気がするが・・・。

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Q6:公立図書館で職員が減らされているのですが…

Q:とある地方都市の公立図書館の職員をやっております。お役所の中ではそれほどスポットライトが当たる部署ではありませんが、利用者の方々の反応や図書館が育っていくのを日々感じ、充実した日々を送っており、誇りをもって仕事をしています。

ところが最近、行政改革のあおりを受けて、図書館が定員削減のターゲットになっております。役所の上層部によれば、図書館を丸ごと、館長も含めて指定管理者制度を利用して、ある大手の営利企業に丸投げする計画があるとのことです。

ここでふと思ったのが、図書館資料のコピーについてです。うちの図書館では、セルフコピー(コイン式)ではありますが、利用者に複写申込書を記入していただいた上で、コピーの前と後に複写申込書やコピーの枚数を拝見して、著作権法第31条(図書館等における複製)の要件を満たして適法な複製であるかどうかを図書館職員が確認しております。

この点を上層部に伝えたところ、「館長が公務員でなくても図書館法上の公立図書館であることは国にも認められている。だから図書館の建物の中でコピーをすれば何も問題はない。」と言われ、取り合ってもらえませんでした。

しかし私は一抹の不安を持っています。この上層部の幹部が言ってることは正しいのでしょうか。お知恵を拝借してください。

A:公立図書館への指定管理者制度の導入か。この前、何年かぶりに近所の図書館に行ったら、職員がみんな大手書店のエプロンを付けていて驚いたなあ。棚にあった本を思わず買いそうになったよw おれも図書館のバイトでコピー取りをしていたが、本庁や教育委員会の幹部から見れば、図書館なんて楽な出先の仕事なんだろうなあ。確かに当たっている面はあるが。

結論から言うとなあ、指定管理の状況にもよるが、あんたの幹部は「勇気ある決断」をしたと思うよ(爆)。あ、これは賞賛ではなく、皮肉なので、誤解なきよう…

まず、あんたが言っている、著作権法第31条の適用要件(コピーを利用者に提供する場合)を確認してみよう。

1.図書館その他の施設で政令で定めるもの(図書館等)においては

2.営利を目的としない事業として

3.図書館等の図書、記録その他の資料(図書館資料)を

4.図書館等の利用者の求めに応じて、調査研究のために、公表された著作物の一部分(バックナンバーの雑誌の場合は一記事の全部)のコピーを1人につき1部提供する場合

1の要件から確認するとなあ、これはコピー機が図書館の建物の中にさえあれば、それでよしというものではない。加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、平成18年)237頁(現行著作権法のバイブル的書物)によれば、「本条で「おいては」という書き方をしておりますのは、物理的な複製の場所が図書館等の施設内であることを意味しているのでは必ずしもなく、複製事業の主体が図書館等であることを必要とする意味でございます。」と説明している。つまり、「図書館その他の施設で政令で定めるもの」が複製事業の法律的・経済的主体であることを要することを意味する。

あんたのお偉いさんが自信を持っているのは、東京の図書館をもっとよくする会の「指定管理者制度とこれからの図書館運営のあり方」で述べているように次の説明が国からされていることによるものだろうな。

平成16年7月23日、文部科学省は、構造改革特区第5次提案に対する大阪府大東市の「指定管理者制度を活用する公立図書館の館長・専門的職員等の設置規制の弾力的運用」提案について、「現行の規定により可能」とし「指定管理者を活用する図書館においては図書館法13条第1項に定める館長の必置規定(図書館法13条第1項及び図書館の設置及び運営上の望ましい基準二(八)に定める専門的職員等の設置の規定)を弾力的に運用することとし、指定管理者となった者が地方公共団体の条例で定める範囲内で、全体的かつ包括的管理運営の実施を可能とする」と回答した。

※文部科学省の回答の内容については、山中湖情報創造館「指定管理者制度にもとづく公立図書館の運営について」を参照

館長を含めて指定管理者に丸投げすることの図書館法上の疑義について、「東京の図書館をもっとよくする会」のサイトでも指摘されているが、所管官庁が「それでいいんだ!」って強行突破するのであれば、図書館法上の図書館(「図書館その他の施設で政令で定めるもの」の一つ)として、1の要件を満たすかも知れんな。

だがなあ、委託先の営利企業が複写サービスの一切を行い、料金も収受している場合はどうだろう。つまり、2の要件を満たすのかということだな。

この点、国立国会図書館は、複写委託の業者の対象から営利企業を除いている。平成14年の国立国会図書館法改正において、同法第21条第3項を「館長は、その定めるところにより、…複写に関する事務の一部(以下「複写事務」という。)を、営利を目的としない法人に委託することができる。」と規定した。

その理由は「改正法の委託制度は、収受した複写料金を受託者に帰属させるものであるので、営利を目的とする法人が受託者として複写事務を行うことは、実質的に上記の著作権法第三十一条の要件を逸脱するおそれがあるからである。」と説明している(「国立国会図書館法の一部改正について(解説)」国立国会図書館月報495号23頁(2002年))。

指定管理者の場合、「普通地方公共団体は、適当と認めるときは、指定管理者にその管理する公の施設の利用に係る料金(次項において「利用料金」という。)を当該指定管理者の収入として収受させることができる。」(地方自治法第244条の2第8項)とする。

そうするとだなあ、営利企業が指定管理者となった場合、営利を目的とする事業として行っていることになり、著作権法第31条は適用されず、コピーにおいて原則どおり著作権者の許諾を得ないとならないという可能性があるというわけだな。

現に営利企業にコピーの料金収受も含めて図書館運営を丸投げしている場合、著作権侵害続行中!!という可能性もあるわけだ(爆)。

つうことで、法律を無難にこなしたい役人マインドからすれば慎重になれって、お偉いさんに言っといてくれや。

こういうことを言うと、「著作権法改正!」とか「規制特区認めてくれ!」というバ…、いや、ご不安に思われる方々がいらっしゃるが(笑)、権利制限の法改正については国際条約(ベルヌ条約)の制約があり(同条約第9条(2))、また著作権を規制と言うのは、人の家に侵入するのを住人が止めた場合に侵入者が「おれの高級豪邸で一夜寝る夢を規制している」って言うのに等しいなw

*参照 社団法人日本書籍出版協会著作・出版権委員会『国立国会図書館における複写事務の委託に関する法律等の整備に対する意見について』(平成13年11月30日)

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