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Q45続報:ISO総会・理事会で、規格の著作権に関する決議がされた!

オッス!すっかり寒くなったが、お前ら元気か?

ところで、「Q45:JIS規格に著作権を認めないと、国際標準化戦略に乗り遅れると思うのですが…」の続報だ。なんとだなあ、今年のISO総会と理事会で規格の著作権が話題になって決議されたという、日本全国のJIS著作権マニア垂涎もののニュースが飛び込んできたぜい!

 ときは2010年9月15日~17日、ノルウェー・オスロで開催された第33回ISO総会でのことだ((財)日本規格協会国際標準化支援センター「第33回ISO総会 出席報告書」1頁 )。

 「ISO商標の使用と保護」の議題で、イスラエル代表が「法律(regulations)に引用された国家規格は無料で公開せよとの法的圧力を受けて悩んでいる。」というお悩み相談をしてきた。どういうことかってーと、イスラエルの2007年著作権法第6条を読むと「著作権は、法律、規則、国会規則、裁判所等の判決決定に存在しない」と規定されていて、日本の著作権法と同様に法令に関係する国家規格の著作権を主張できずに、困っているということだ。これは規格の著作権にやかましいISOの翻訳規格に成り下がっている各国の国家規格にとっては悩ましい問題であり、もっともな感想だと言えるな。

 これに対する日本代表のコメントがナイス!と言えるw
日本ではJIS規格の無料閲覧(free viewing)を許すことで無料公開の問題を解決している。free access, free availabilityは分けて考えるべきで、無料閲覧を含む前者は許容範囲と考える。
 つまりはJISCのウェブサイトで、PDFの規格ファイルをプレビューできるようにしているけれど、ダウンロードやプリントアウトをできないようにしているので、著作権保護の必要性と規格普及の要請のバランスをとっていると言わんばかりの自慢をしているんだ。

 ところがどっこい!このコメントにISO事務総長がムカッときたようで「後で理事会にかける」としたのだが、その結果、次のような理事会決議が出されてしまったのだ!(若井博雄「第88回ISO理事会報告」(2010年10月21日) 15頁*下線・斜体部分は筆者加筆

理事会決議 39/2010ISO/GEN 9の改訂版)
理事会は、
該当分野の全規格を確実に整合させるというニーズのみならず、知的財産の保護、特に、ISO規格とその国家採用規格には自由にアクセスできないという事実についてISOの立場を強化するという緊急のニーズを強調し、

ISO/GEN 9 ISOの知的所有権保護に関する方針(理事会文書 29/2010附属書1)の改正原案に会議で提起されたコメントを適宜盛り込み、新たな改正原案を通信で承認されるように理事会に提出するよう事務総長に求め、

その実施まで承認から18ヵ月の猶予期間を認めることを決定する。

「規格に自由にアクセスできない」ということが確認された上にISOとIECの共催で、規格の知的財産権の特訓セミナーをジュネーブで開くことになったんだ!

もうこれで、JISの規格ファイルをウェブでプレビューできなくなるんだろうな!国立国会図書館のように規格の本文全体をコピーする施設にも、クレームを出す可能性はあるだろう。その際に「規格の著作権を保護するため・・・」と例のごとく政府側が言い出すものなら、「主務大臣が制定しているのに、なんでだよー!」って反論すれば、そんなこんなでJISCは今さら民営化に追い込まれるかも知れねーな!せいぜい、JISの著作権をしっかり勉強してねぇー、ってとこだろうなw

【追記:2012.8.19】

ついに、JISC(日本工業標準調査会)の会議で、規格の著作権が話題になったぜ!

日本工業標準調査会事務局「ISO の著作権ポリシー改正について」(平成24年3月)(日本工業標準調査会消費者政策特別委員会第22回(平成24年3月9日)配布資料6)によれば、「ISO 規格(ISO規格を起源とする国家採用規格を含む)のインターネット上での無償公開の禁止」を実施するということだ。ISOの武田貞生副会長によれば「世界的な流れでは、日本が(JISを)…フリービューをしているというのはレアなケース」ということだそうな。これに対しては他の委員から「日本は、閲覧は自由にできるというシステムがあるので、こういった著作権ポリシーがISO で確立されると、我々は自由に見られなくなり、非常に身近な問題である。」など、戸惑いの声が上がっている(日本工業標準調査会消費者政策特別委員会第22回(平成24年3月9日)議事録)。

 いまさら日本のJISC職員や規格業界のやつらの著作権に対する知識のなさを開陳されても困るわけだが、国の機関がJISの無償公開を禁止するというのであれば、せめて「日本工業規格(JIS)の簡易閲覧」「ピリ辛著作権相談室:JISダウンロード」でJISがアップロードされている現状に対する見解を説明すべきだとは思うな(核爆)。

【追記:2015.6.15】

「JISは著作権法13条により、著作権保護されない」という真っ当な学術論文が発表されたぜい!

大西 愛.   標準規格と著作権 : 法規引用された標準規格と,国家規格に関する問題.  知財管理 = Intellectual property management / 日本知的財産協会会誌広報委員会 編.. 65(5)=773:2015.5. 612-628

経産省や日本規格協会は、立場上、どんな見解が示されても「JISには著作権がある!」って強行突破するんだろうが、JISに著作権法で保護ないことは、決定的だな!

「国が言っていることは、法的に正しい」という愚民の皆様は、これを機に人生を見直せよなw

【参照】製造Q&Aサイト 技術の森:JIS規格の閲覧と著作権

        千川大蔵×小熊善之 ツイッターコメント(JIS関係)

     千川大蔵×小形克宏 ツイッターコメント(JIS関係)
 

Q47:国の審議会報告書をウェブにアップしたいんだけど…

 タイゾーさん、お久しぶりです。「Q8:国の審議会の情報公開を進めたいのですが」、「Q24:ログインとパスワードが必要なウェブサイトにファイルをアップしても大丈夫?」、「Q30:審議会議事録メモをブログに掲載したら、勝手にコピペされていたのですが」で質問させていただいた法人職員です。タイゾーさんには「もういい加減にしろ!」というご趣旨のことを言われましたが、ある行政分野の政策に対する情熱は未だ冷めていない状態です。

 実は今度、監視している行政分野の審議会が、新たな報告書を公表することになっています。審議会と偉そうに言っても、所詮は事務局である政府官僚による作文なので、もちろん批判キャンペーンを展開したいと考えています。
 それでふと「Q8: 国の審議会の情報公開を進めたいのですが」の御回答を思い出しました。国の報告書等を、説明の材料として新聞雑誌等の刊行物に転載することは著作権の例外としてできるけど、「説明の材料として…転載」という以上原資料をコピーすることはその例外に当てはまらないって言ってましたよね?
 でも今回は、私の政策批判論文の中で、審議会報告書の内容全文をパソコンのタイプで打ち込んで、ウェブにアップしたいと考えています。これだったらOKですよねえ?念のために聞いているだけですけど、ぜひ「YES!」の回答を聞かせてください★

:またお前か!性懲りもなく、お役所に楯突いているんだな。そんなことして、お前の法人に天下り官僚を受け入れないと、補助金がなくなったり、政府調達の入札への参加もできなくなるぞww

 質問だけどなあ、残念ながら答えはNO!だ。お前が引き合いに出している著作権の例外は、著作権法第32条第2項の「国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。」のことだと思うので、今回はこの規定の中身について考えてみよう。

 審議会報告書のウェブへのアップは「転載」に当たるのか?試しに「広辞苑第五版」(岩波書店、2005年:電子辞書版)を引いてみると「既刊の印刷物の文章・写真などを他の印刷物に写し載せること」と書かれている。しかし、ここで印刷物に限っているのはウェブがない時代に考えついただけのことであり、今時代はウェブへの写し載せもありだろう、と考える余地はあるだろう。

 この点について、著作権関係の政府審議会で検討されていないのか?ちゃんとあるぞ!著作権審議会第1小委員会のまとめ(平成12年12月 著作権審議会第1小委員会)では、「著作権法制定当時は、CD-ROMやDVDといった電子媒体は存在しなかったことから、権利制限の対象となる著作物の利用は印刷物等の紙媒体への掲載のみを想定して規定されたと考えられる」が、現在においては「第32条第2項の『刊行物』にCD-ROMやDVD等の電子媒体が含まれると解しても差し支えないと考えられる」として、パッケージ系の電子資料への「転載」つまりコピーを認めている

 ではウェブサイトへの「転載」はどうなのか?これについて同報告書は「インターネット上での利用については、複製権のほか、公衆送信権も働くこととなり、『転載』に公衆送信も含めて考えることは困難であること、インターネット上での利用を含む著作物利用に係る権利制限規定の在り方については現在著作権審議会で検討を行っているところであること等から、他のインターネット上での著作物利用に係る権利制限規定とのバランス等に留意しながら、さらに慎重に検討する必要がある」として、国の報告書等のウェブへの無断転載を否定したんだ。著作権審議会第1小委員会の第19回会議(2000年10月20日)なんて、事務局(文化庁著作権課)が「『転載』に公衆送信を含めて考えるには無理があるので、もしインターネットへ載せることも含めるのであれば、条文修正が必要となる。」とまで言っているぞ!

 吉田大輔『明解になる著作権201答』(出版ニュース社、2001年)271-272頁や、渋谷達紀『知的財産法講義Ⅱ〔第2版〕』(有斐閣、2007年)270頁も、「転載」は紙への複製に限られるとして、ウェブへのアップについては否定的だ。

 CD-ROMやDVDに比べて、同じくデジタル関係のウェブサイトへの政府報告書のコピーに冷たいのは、ウェブ掲載認めると、新聞社・出版社・放送局などの既存の報道機関への脅威になるからだろうな。こいつらは「ウェブなんて、どの馬の骨の奴が書いているのか分からねー」と思っているからな。

 例えば、時事問題に関する論説の転載等についての著作権の例外を定めている著作権法第39条第1項なんて「新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説(学術的な性質を有するものを除く。)は、他の新聞紙若しくは雑誌に転載し、又は放送し、若しくは有線放送し、若しくは当該放送を受信して同時に専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行うことができる。」としており、ウェブアップを認めていない。要は、まともな報道機関様のための著作権例外規定というわけだ。このことは、著作権審議会第1小委員会の第19回会議(2000年10月20日)で、事務局側が「公衆送信を認めると誰でも報道目的であると強弁されてしまう可能性がある。」と発言していることも、このことを裏づけるだろう。

 ちゅーことで、政府報告書のウェブへのアップは、おみゃーの書き物の説明の材料として利用する場合であっても、著作権の一般的な見解からは認められないだろう。せいぜい著作権法第32条第1項の引用の範囲内で利用することだな。「そんなの、時代遅れだぜ!」と思ったら、政府の「国民の声」に投稿することだな!

Q46:特許公報って自由にウェブにアップできるの?

:はじめまして、こんにちは。私はあるメーカーの特許部に勤務するサラリーマンです。毎日、特許情報をリサーチする日々です。

 リサーチするのに、ウェブサイトの特許電子図書館(IPDL)で検索した特許公報(明細書、特許請求の範囲、図面、要約書など)を使うことが多いのですが、この特許公報を社内に配布するのはもちろんのこと、ウェブにアップして技術情報を業界で共有できたらいいなあって、考えています。
 特許電子図書館に掲載されているくらいですから、特許公報に掲載された書面の著作権者に無断で、企業がアップしてもOKですよねえ?でも社内の法務部から著作権法上の根拠を聞かれたので、それが分からないとアップできない状態です。

 特許公報を無断でウェブにアップできる根拠をぜひ教えてください! 

:特許公報か。IPDLは工業所有権情報の検索では便利だわな。もっとも、著作権専門の俺様にとっては、せいぜい受け狙いで、ドクターなんとかのくだらない発明や、商標を検索するくらいで、仕事でまともに利用したことがないがな。

 質問していた特許公報がIPDLにアップできることの根拠だけどなあ、著作権法上にはなーんもない(爆)

 特許公報の内容に著作権があるかどうかについて考えると、著作物に当たるかどうかが問題になる。著作物とは「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術美術または音楽の範囲に属するもの」をいうが、特許公報に掲載されている明細書、図面、要約書などは、これに当たると言っていいだろう。

 次に、特許公報は国が発行したものだから、それに掲載されている明細書などは、ハナから著作権なんてねーんじゃねーの?ってことが問題になる。著作権をちょっとは知っている奴だったら、国の法令、通達などには著作権なんかねーって定めている著作権法第13条を思い出すかもしれないな。「Q18:JIS規格って著作権で保護されるの?」でもしつこく言ったように、JIS(日本工業規格)のように国が定めた規格とかの原案を企業などの民間人が下働きで作っていたとしても、問答無用で著作権が発生しないからな。
 でも残念ながら、特許公報にはこの規定は適用されない。著作権法第13条に「特許公報」が列挙されていないことはもちろんのこと、JISとは違って、「国…が発する」(同条第2号)ものではないからだ。特許公報はあくまで、特許庁長官が特許権の設定の登録をお知らせしているに過ぎない(特許法第66条第3項参照)。また特許明細書などには出願人などの名前が明記されていて、国の名義で公表しているものでもないから、官公庁名義で発行した白書、統計資料について刊行物への転載を認める規定(著作権法第32条第2項)も適用できない。

 この点、東京大学名誉教授の中山信弘氏は、『著作権法』(有斐閣、2007年)43頁で、特許公報に掲載される特許明細書を特許庁以外の第三者が利用することについて
無断で特許明細書を複製すると、形式的には著作権侵害となる可能性がある。…現行法では…例外は認められていない。と説明しているぜぃ。

 こんなこと言うと「え~、法律で決められていることにしたがって役所に文書を提出するのに、著作権がどうとか言われる筋合いはないよ」って愚痴が飛んでくるのが目に浮かぶように聞こえるが、はっきり言って、官公庁がどんな命令をして著作物を国民どもから持って来させようが、著作権法にとっては関係ないことなんだ!コピー、ウェブへのアップなど、著作権で権利者に無断でできるのは、図書館で調査研究目的の利用者に対して渡す場合のように、あくまで著作権法で列挙された利用行為だけだ。

 例えば、警察署に届ける車庫証明など、官公署に提出する「許認可申請書類・届出書類」に住宅地図のコピー添付する場合には、地図コピーに住宅地図会社が販売している「複製許諾証」の貼付が必要だと説明されているゼンリン:地図複製等利用のご案内。警察に車庫証明するために必要な文書をコピーすることについては、著作権法で権利を制限する規定がないからな。

 では特許公報についてはどうなのか?この点かつての「特許電子図書館利用上のご案内国立国会図書館インターネット資料収集保存事業により収集したもの)では、「特許電子図書館で提供する公報等の情報は著作権の対象となっておりますが、原則、特許電子図書館から取得した情報であるとの出典を明記していただくことにより、改変しない限り引用及び複製を行うことができます。」と説明していた。一見もっともらしいが、どこかヘンテコだ。何でかってーと、特許公報に掲載される特許明細書などを書いているのは弁理士など出願関係者であるから、そいつらが著作権をゲットしているはずである。だから、その利用について特許庁や独法が指図する権限はない。引用は著作権法上の規定の範囲なら言われるまでもなく可能であり、複製も私的利用目的の範囲なら同様だ。「出典を明記」すれば特許公報を利用できるなんて、著作権法のどこにも書いてないぞ。そんな風に俺様がこのブログでわめいたところ、その後の「特許電子図書館利用上のご案内」では、そんな能書きが削除され、「特許電子図書館で提供する公報に掲載されている特許請求の範囲、明細書、要約書の文章等や図面に掲載されている文章や図面等は、通常、その創作者である出願人等が著作権を有していますので、転載する場合には許諾が必要になることがあります。」とシンプルに説明されている(下記のとおりすがり氏のコメント参照)

 一応念のために言うと、特許審査手続で非特許文献(特許公報等に掲載された特許文献以外の論文、書籍、パンフレット、マニュアル、新聞等)について、出願人に送付するための審査官の複製や、審査官からの求めに応じるための出願人による複製については、著作権法第42条第2項で著作権が制限されている(文化庁 著作権法の一部を改正する法律の制定について 問7 「特許審査」手続等における文献の複製と「薬事行政手続」における文献の複製について、例外的に無許諾で行えることとする趣旨を教えてください。(第42条第2項) 参照)。しかしこの規定の目的は、あくまで出願特許の拒絶査定で、発明がすでに誰かによって開発されていることなどが書かれ、特許をゲットするための要件を満たさない「ゴミ発明」であることが、文献の著作権者の許諾が得られないばかりに判断できず、その結果「ゴミ発明」にも特許権が与えられて、日本の国際競争力を損なうことを防止するためのものだったんだ(文化審議会著作権分科会「特許審査手続に係る権利制限について」『文化審議会著作権分科会報告書』(平成18年1月)7-12頁参照)。だから審査ではなく、世間に公開することを目的とした特許公報とは関係がないものなんだ。そもそも「非特許文献」の利用について検討したものであり、特許公報などの「特許文献」を除いていることからして、それは明確だ(もっとも、この法改正を要望した特許庁が、特許公報の掲載物の著作権が問題になることを認識していたのかどうか不明だが)

 結局特許公報に掲載された、弁理士などが作成した明細書等を特許電子図書館でアップすることは、出願時に明確な許諾を得ていたり、「出願者は、その著作権を放棄しているあるいは複製の黙示の許諾を与えていると擬制」(中山・前掲43頁)してはじめて正当化されるものであり、それがなければフライング状態ということになるだろう。もっとも、弁理士たちが監督官庁の特許庁に対して、特許公報による著作権侵害訴訟を起こすとは考えにくいが。いざとなったら「お前らの弁理士免許、誰のおかげで持っていられるんだ?」と国家権力を発動すればいいだけのことだろう。

 ちゅうーことで企業や個人は、引用や私的複製などの著作権制限規定をうまく利用して、特許公報を利用することだな!

Q45:JIS規格に著作権を認めないと、国際標準化戦略に乗り遅れると思うのですが…

:こんにちは。私はとあるメーカーのエンジニアです。著作権なんて全然興味がないのですが、タイゾーさんのブログで「Q18:JIS規格って著作権で保護されるの?」のご回答を見たので、一言を申し上げたいと思い、メールを出しました。

 はっきり言いますが、なんでJISC(日本工業標準調査会)が審議・制定するJIS(日本工業規格)の規格票に著作権を認めないといけないのか、ご存じないのですか?JISって、国内で作成するものだけではなく、国際的な標準化機関で作成されたISO(国際標準化機構)/IEC(国際電気標準会議)などを翻訳して規格にしたものが多いのですよ。ISO/IECは、規格の文章について著作権を強硬に主張しているので、各国で使う場合には、著作権を主張しないといけないことになっています。

 ISO/IECやITU(国際電気通信連合)で国際規格にしてもらうために、各国の政府・産業界はしのぎを削って自国の規格を国際規格に採用してもらうと努力しています。「標準を制する者が、市場を制する」からです。日本は残念ながら、国際標準化で負けこんでいるため、政府が国際標準化戦略などを立ち上げて、音頭取りをしています。
 2009年にはNHKのテレビ番組「追跡! A to Z」「ニッポンは勝ち残れるか 激突 国際標準戦争」(2009年8月8日 土曜 午後8時〜8時43分)で特集されています。日本の技術が世界を制したのは過去の栄光で、現在いかに苦しい立場に立たされているのかが分かると思います。 

 その意味で、タイゾーさんが唱えられる「JISに著作権なんか認められるわけねーだろw」という御見解は、わが国の産業振興に水をさすことになりかねません。政府は最近、知的財産戦略本部「知的財産推進計画2010」(2010年5月21日)や、「新成長戦略 ~「元気な日本」復活のシナリオ~(2010年6月18日)21頁で、やっと国際標準化戦略に本腰を入れているところなんですから!

 どうか御見解を撤回してくださるよう、よろしくお願いします!

:回答を撤回しろってか!初めてだなあ~、そんな質問(つか陳情?)w 気にしてくれて、ありがとうなあ。確かに、お前さんが心配する気持ちは分かるが、所詮は政府(経済産業省)の見解を鵜呑みにしただけってことを、これから立証してやるぜ。

 JISに著作権は認められないことは、前回のブログ(Q18:JIS規格って著作権で保護されるの?)で述べたところだ。しかし、国際規格では著作権を主張しているから、JISも著作権を認めないといけないって、質問している奴が言っている。これはどういうことなのか?

 実は、各国の国家規格は、国際規格であるISO/IEC/ITUの規格に合わせて作成しないとWTO協定違反となるんだ。具体的には、貿易の技術的障害に関する協定(WTO/TBT協定)によって、各加盟国で規格がバラバラだと、技術面のスムーズな貿易の邪魔になるので、国内である規格を作ろうとしたときに、すでに関連する国際任意規格が存在している場合には、その規格を基礎にして、国内規格を作成しなければならなくなったのだ。だから、日本でJISを作成する際に、英文のISOをそのまま翻訳することが多くなったんだ。各国の政府が備品、設備等を入札する場合も、WTOの政府調達に関する協定によって、やはり国際規格を採用したものを対象にしないといけなくなっている。これらに違反した場合は、「Q38:店内でテレビをつけていたら、WTOに提訴するぞと言われたのですが」でも教えたように、外国からWTO提訴されるおそれがあるわけだ。

  そいでもって、国際規格の ISO/IECなどが規格のマニュアルである規格票のコピー、ネット送信などについて著作権を主張し、使用料を請求している『ISO/IEC専門業務用指針 第1部 専門業務の手順 第8版 英和対訳版』(2011年8月29日)29頁参照)。英語の規格票を日本語に翻訳するときには翻訳権が働くので、わが国もISO/IEC/ITUの許諾を得て、政府は国際規格をJISの原案として、審議会での審議・答申や主務大臣の制定を経て、利用されている。
 ここでまた問題になるのが、国の法令・通達等と同様に、大臣が制定したJISに著作権が認められるのかということだ。著作権法第13条第2号で官公庁の通達は著作権の目的とならない著作物としているが、経済産業省はJISには著作権が認められるという見解を相変わらず採っている。その根拠としては著作権を主張するISO等を原案として JISを作成していたり、ISOにロイヤリティーを払っているからとしている。例えば、「JISQ14001は国際標準化機関 ISOの 著作の翻訳規格ですが,所管課(筆者注:経済産業省産業技術環境局基準認証政策課は、 ISOに規格使用のロイヤリティを支払っているから翻訳規格JISQ14001 に著作権を主張させるのは 当然だ」とほざいているようだ全国規制改革及び民間開放要望書(2006あじさい)【要望管理番号:5009】

 念のために言っとくが、いくら経産省がISO/IEC/ITUなどの国際規格の団体に頭を下げて「日本人に無断コピーなどさせて、著作権を侵害させな い」という約束で、それらの規格を翻訳してJIS規格を作成してもだなあ、民法の基本原則である「契約は第三者を拘束しない」ことから、経産省の立場に関係なく、俺たち一般国民は自由に使えるわけだw

 ここにきて、経済産業省はJISに著作権が発生しないとする意見に対して、次のような反論をしている(なお当然のことながら、文中の「第13条第2項」は「第13条第2号」の誤りだ)。

産業技術環境局基準認証ユニット(一橋大学イノベーション研究センター 江藤学編)『標準化実務入門(試作版)』(平成22年7月)184頁〔長谷亮輔執筆〕

1「著作権法第13条第2項でいう告示とは、立法行為、司法行為、行政行為として権限のある者が作成し、その内容を公表することによって国民に知らしめ、また国民が自由に知るべきものであると性格づけることをいうものである。これに対して、JIS規格の官報への公示は規格の名称及び番号のみで、内容についてまで掲載されているわけではない。」
2 「JIS規格の原文は、原案作成者や利害関係人などの民間団体において作成されているものである。著作権法第13条第2項の対象となるのは、官公庁自身が創作し国民に知らしめることが目的であるような場合に限定されるものであり、JIS規格のように利害関係者が原案を作成して申し出たり、原案を委託によって作成した者がいる場合には、著作権法第13条第2項を適用するのは不適当である」

 だが1については、官報の内容に絞って検討している時点で終わっている。2については、JISの原案作成者が役人だろうが民間人だろうが、国民様からすればお上からお達しされたJISで著作権を行使されて利用できなくなるのはたまったものではないことから、誰が作ろうが問答無用で著作権は否定される。この回答内容から、いかに著作権の素人が作成したのかが分かるだろう。

 しかもだなあ、海外では同様の事例がドイツ(連邦通常裁判所連邦憲法裁判所)や米国(第5巡回区連邦控訴裁判所連邦最高裁判所)の判例では各国の国家規格の著作権が認められなかった。しょうがねーから、ドイツでは2003年の著作権法改正で、国家規格に著作権を認めるために「法律、命令、布告又は官公庁の公示が、私的な規格文書について文言を再録することなく参照を指示する場合には、その私的な規格文書に関する著作権は、前二項によって妨げられない。この場合において、著作者は、出版者のいずれに対しても、相当なる条件のもとに、その複製及び頒布に関する権利を許与する義務を負う。複製及び頒布に関する排他的権利の保有者が第三者である場合には、この保有者が、第2文に基づいて、使用権の許与について義務を負う。」(第5条第3項・本山雅弘訳『外国著作権法令集(43) ―ドイツ編―』(著作権情報センター、2010年)2-3頁との特別規定を置いたんだ!

 こういうことを含めて、経済産業省による立法の不備が下記の文献や俺様のブログですでに指摘されているところだ。

鳥澤孝之「国家規格の著作権保護に関する考察 ―民間団体が関与した日本工業規格の制定を中心に―」知財管理Vol.59 No.7 [2009.7]793-805頁

 経済産業省にいいなり君の企業や研究所の奴らは、しぶしぶ規格票の著作権料を支払っているが、正確な著作権知識があれば、「著作権ありませんが、何か?」と言って、著作権を気にすることなく、堂々とJIS規格票の本文をコピーすることができる。現に「国立国会図書館 リサーチ・ナビ JIS規格」では、JISの規格票について「JISの本文は、全文複写ができます。ただし、各規格票の後ろについている解説や、英訳されたJISの本文は、著作権法の制約により、複写できる範囲は半分までです。」と説明されており、少なくともJIS規格票の本文部分は国立国会図書館でコピーしまくれる取扱いとなっているぞ!

 こんなこと言うと「ISO/IECがこわくて、規格票の著作権料を日本国民から搾り取っているのなら、いっそのこと、JISCを民営化したらどうなの?」という声が聞こえそうだな。ご名答!実は、さっさとJISCを民営化すればいいだけのことなのだ。規格票の著作権の主張は、民間ビジネスを前提にしてはじめて成り立つものだからな!

 ところがどっこい、そうは問屋が卸さない!実は問題の核心は、WTO/TBTによって、国家標準化機関が世界の標準に合わせて民間団体にならなければならないにもかかわらず、日本だけ先進国の中で唯一、国家標準化機関を国営化しているという点なのだ。

 たとえば米国・カナダ・英国・ドイツ・フランスを見ると、米国国家標準協会(ANSI)カナダ標準委員会(SCC)英国規格協会(BSI)ドイツ標準協会(DIN)フランス規格協会(AFNOR)なんかはいずれも民間団体か、政府から独立した連邦公社となっている。いわんや、ISO/IECもスイス民法第60条を根拠に設立された民間団体だ。
  それでは日本ではどうか?標準化の学者さんからは「日本の国家標準化機関も民営化しないと、国際競争力がぼろぼろになってヤバイ」という指摘が昔からあったが(高橋茂「情報技術標準化について の私見」情報処理学会 情報規格調査会 NEWSLETTER No.39 (1998-09)4-7頁)、経済産業省の担当官は相変わらず、国営化でないとダメだと、国士官僚を気取っている山中豊「事業仕分けと標準化」情報処理学会 情報規格調査会 NEWSLETTER No.85 (2010-03) 2-3頁)。

 職員個人のコラムのみならず、日本工業標準調査会という政府審議会や、国民からの改革提案に対してすら、経済産業省は繰り返し著作権に対する誤解を暴露しているところだ。

経済産業省基準認証ユニット「アジア太平洋地域との新たな連携のあり方の検討について」(2010年2月26日)【日本工業標準調査会 第70回標準部会 資料4】
「我が国の環境対応力や安全性などに優れたJISを国家規格として採択したいというアジア諸国からの要望に応え、JISの普及を図 るため、JISの著作権の運用の見直しなど必要な施策を検討してはどうか。」

日本工業標準調査会標準部会(第70回) 議事要旨(平成22年2月26日)
委員:JISをアジア諸国に国家規格として提供 したいということだが、著作権の取り扱い方法の見直しとはどのようなものか。日本のJIS関係者にはアジア諸国に国家規格として採用してもらうことは非常 に喜ばしいことだが、国際標準との整合化の観点はどのように考えるのか。
事務局JISの著作権は国がすべて持っている訳ではな く、原案作成団体が所有する著作権も多数ある。現在の運用では、著作権所有者と個別に調整するしかないが、アジアへの展開やその他著作権に関する案件が増 えていることもあり、包括的な仕組みを考える必要があると考える。また、国際標準との整合化は重要と考えているが、他方、国際標準となっていない日本が強みを有する分野のJISについて、アジアへの展開が出来るのではないかと考えている。

「国民の声」

「規制・制度」回答ファイル(提案事項管理番号:30001285)【「国民の声集中受付月間(第1回)(平成22年1月18日~2月17日受付分)」資料1 検討要請に対する各省庁からの回答】

国民の指摘:法令、通達、告示については著作権法で保護されないが、政府が主体となって作成されるJISも同様であり、著作権が規格作成のインセンティブにな るとした上記報告書(筆者注:『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書』(平成12年5月29日)) は誤ったものである。」

経済産業省の回答:「ご指摘の著作権については、民間団体等が原案の作成を行った場合には原案作成者として当該団体がJISの著作権者となる制度となっており、御指摘 のような問題はないと認識しています。」

【コメント:JISに著作権があると答えるのは勝手だが、せめて根拠条文を示すのが役所の良心だと思うぜ。「認識しています」という文言からして、根拠がないことを自覚しているようだが…】

新たな「知的財産推進計画(仮称)」の策定に向けた意見募集(2010年2月)
個人からの意見 No.49 国際標準化戦略の推進方策について

国際標準化戦略の推進方策について
【意見事項】日本工業規格(JIS)の制定主体の、政府から民間組織への完全移管
【意見要旨】日本工業標準調査会(JISC)が制定主体となっている日本工業規格の制定主体を民間組織に移行するなど、国家規格の標準化体制を見直し、標準化の作成過程への政府の関与を撤廃すべきである。
【意見全文】 JIS を制定するに当たり、主務大臣はJIS 原案を工業標準化法に基づいてJISC に付議し、JISC はJIS 原案について調査審議を行い、当該JIS 原案がJIS として適切であると判断した場合、その旨を主務大臣に答申し、主務大臣は当該JIS 原案をJIS として制定する旨官報に公示する、という手続きが行われている。
 国際標準化競争が生じている現在、わが国から国際標準を提案するためのJIS 原案の作成の促進が望まれ、国の審議会であるJISC 主導の標準化体制では国際競争に耐えられないことから、民間への規格制定を求める声があった。この点、平成12 年にJISC 標準会議が公表した『21 世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書』では、民間提案に係る規格原案作成者に著作権を残す等、規格作成に係るインセンティブを高める方策を探るとしつつ、JIS の規格制定主体は引き続き政府とすると報告された
 しかし欧米先進国では、ほとんどの国がJIS 同様の国家規格の作成を覚書や契約により民間に委ね、政府は、作成された規格の利用に関して政策的な活用を図る立場となっており、日本のように政府が規格制定の主体となる例が見当たらない。また法令、通達、告示については著作権法で保護されないが、政府が主体となって作成されるJIS も同様であり、著作権が規格作成のインセンティブになるとした上記報告書は誤ったものである。なお、ドイツや米国では法令に準じるとして、国家規格の著作権を否定した判例があり、このうちドイツでは2003 年に国家規格に著作権を認めるための著作権法改正がなされたところである。なお国際標準化機関のISO/IEC については、民間機関であることから、規格に著作権が認められ、多くの先進国の国家規格についても制定主体が民間団体であることから、著作権が認められている
 また、JIS の制定が国主導であった背景には、終戦直後の生産の遅れと荒廃から立ち直るためという目的があったものの、現在では制度疲労化したとの指摘が企業・業界団体からなされているところであり、国主導の弊害が著しくなっており、早期の民間主導体制が望まれるとの意見が、既に10 年前になされている(日本工業標準調査会標準会議21 世紀に向けた標準化課題検討特別委員会事務局「『21 世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書案』に対する意見募集の結果について 頂いた御意見及び御意見に対する対応」(平成12 年6 月)4-7 頁 参照)。
 以上から、政府主導の標準化体制では国際標準化競争に乗り遅れ、また規格に認められるはずの著作権が世界の中で日本だけ否定され、わが国が誇る高度な科学技術を国際標準化することは困難となり、「新成長戦略(基本方針)」が掲げる「アジア経済戦略」の達成から遠のくことは必至である。したがって、JISC を速やかに廃止して、民間団体(例えば財団法人日本規格協会)主導による新たな標準化体制の基盤を整備し、国際標準化を推進すべきである。
【関連法令】工業標準化法第3 条・第11 条、著作権法第13 条第2 号

このように、経済産業省が国家標準化機関の国営化維持に必死となっているのは、現在のJISCの組織体制の根拠にも関係がありそうだ。実はJISC事務局は今でこそ経済産業省本省に置かれているが、平成13年の省庁再編前には、旧通商産業省工業技術院の付属機関で、事務局は同院標準部標準課が行っていたんだ(通商産業省『通商産業省組織の移管先一覧』(平成12年12月)19-20頁参照)。

平成13年の省庁再編の際には、工業技術院が独法化(産業技術総合研究所)することから、行政組織の減量・効率化の観点からJISCの位置づけが問題になったが、結局、中央省庁等改革大綱で「通商産業省の工業技術院標準実施部門について、一部民間で対応できない規格作成等を除き、民間移譲する。」とされ、規格制定部門については国営を維持することになったのだ。『21 世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書』もこの頃に出されたが、国家標準化機関が国営のままでも「民間人が規格を作成すれば、そいつが規格票の著作権をゲットする」というへんてこな結論を出したのも、こういう省庁再編が背景にあるようだ。

 ちゅーことで、経済産業省JISC事務局は、日本国民が著作権の知識について赤ちゃん並みであることをいいことに、制度不備により著作権保護ができていないことをISO/IECに気づかれて制裁決議をされるまで、著作権を誤解したまま強行突破するつもりのようだな(爆)

Q42:日本の著作権担当省庁の歴史って、どうなっているの?

Q:こんにちは。いつもこのブログを読んでいる「ピリ辛マニア」です。楽しく読んでますよ!でも最近、更新がなかなかなくて、ちょっと物足りないです。

Q41:海外の著作権法の所管省庁ってどうなっているの?」を読みましたが、著作権法の担当省庁って、文化担当の省庁が担ってることが多いって、始めて知りました。特許権、商標権などの知的財産権の一つだから、それをまとめて仕事をしているのかなって、文化庁が担当しているのは日本くらいかなあって、思ってたんで。諸外国の中で、検閲関係の省庁が担当していることも、意外でした。

さて気になったのは、わが国の著作権行政の担当省庁って、むかしはどうなっていたのかなあってことです。戦前も著作権法の担当省庁ってあったんですか?あった場合は、今と同じで文化庁が担当していたのですか?全然分からないので、教えてください!

:オッス!著作権法の担当省庁の歴史を調べるたあ、ずいぶんマニアックな奴だなあ。さすが「ピリ辛マニア」というべきだな!

 回答だけど、戦前の著作権行政は出版検閲の色彩が強かったといえる。それは、福沢諭吉が「Copyright」を「蔵版の免許」と訳したところからして表れている。著作権法の元祖は、出版条例(明治2年5月13日公布)で、明治32年に旧著作権法(明治32年3月4日法律第39号)が公布されるまでに、出版条例(明治5年正月13日文部省布達)出版条例(明治8年9月3日太政官布告第135号)版権条例(明治20年12月29日勅令第77号)版権法(明治26年4月14日法律第16号)になったという具合だ。「出版条例」という名のとおり、お役所的には当初、著作権の保護と出版取締りがごっちゃ混ぜになっていたわけだ(大霞会編『内務省史 第二巻』(地方財務協会、昭和45年)683-684頁参照)

 そんなわけで、所管省庁も出版取締りをするところが著作権制度の仕事もしていた。明治2年には昌平・開成学校、明治3年には大史局が所管し、明治4年には文部省が所管し、准刻課というところが明治7年から担当した。その後明治8年に内務省に移管された。第三局准刻局図書寮図書局総務局庶務局などが担当してきたが、明治26年からは警保局というところが担当していた。今で言えば、警察庁に当たるところだ。

 内務省警保局では明治26年以来、図書課が担当し、戦争が近くなった昭和15年12月6日はその名もずばり、検閲課と名称を変えた。著作権法を担当していたのは今と違って係レベルで、「著作権出版権登録係」という名前だったようだ(大霞会編『内務省史 第一巻』(地方財務協会、昭和46年)595頁参照)

  そんなわけで、戦前の著作権法所管課は内務省で権力を振るっていたわけだが、第2次世界大戦での敗戦によって一変した。GHQ(連合国軍最高司令部)の命令で検閲課は廃止され、昭和20年10月13日に同じ局の行政警察課に移管された。その後同年12月19日に警務課、昭和21年8月1日に公安第二課に仕事が投げられた。このようなことはJASRAC(日本音楽著作権協会)にも混乱を与え、昭和20年9月30日に(旧)仲介業務法(著作権に関する仲介業務に関する法律(昭和14年4月5日法律第67号))に基づく著作権使用料規程の認可申請を行ったところ、その公告を行ったのが検閲課長だったが、著作権審査会に諮問したのは行政警察課長、認可の起案をしたのが警務課長だったと振り返っている(『社団法人 日本著作権協会50年史』(日本音楽著作権協会、1989年)22-23頁)

 また著作権法所管課が上記の通りであっても、終戦直後に設置された内務省調査局も関係法令を兼務させられていたという証言があり、まともに担当していた部署がなかったのではないのかとも思わせる(国塩耕一郎「随想 著作権法所管省の交替」『著作権研究』第5号(1972年)82-84頁参照)。 

 そいでもって、昭和22年5月10日には、内務省から文部省に所管が交替し、同年7月30日に社会教育局著作権室が設置され、その後文化庁が担当し、今日に至っている(文化庁長官官房著作権課・国際課)わけだ。戦後になって文化担当の省庁が著作権法を所管したというのは、わが国が文化的な先進国になったという証でもあろう。

 こういう歴史を知っていれば、「情報通信文化省」って発想がいかに場当たり的であるのかが、よく分かるだろう。著作権法に関係がある伝達手段は、インターネットやデムパだけじゃないんだからな。

【参考文献】

大家重夫『著作権を確立した人びと 第2版』(成文堂、平成16年)41-64頁

著作権法百年史編集委員会編著『著作権法百年史資料編』(著作権情報センター、平成12年)1114-1115頁

『出版法版権法条例』(敬業社、明治26年) 

浅岡邦雄「戦前内務省における出版検閲【PART-2】 :禁止処分のいろいろ」(神田雑学大学 平成20年8月1日 講座)

浅岡邦雄「戦前期の出版検閲と法制度」(神田雑学大学 平成23年7月2日 講座)

Q41:海外の著作権法の所管省庁ってどうなっているの?

:オレ、誰でも知っているコンピュータ機器メーカーに勤めてんだけど、ずっと納得行かないことがあるんだよなあ。

それは「私的録音録画補償金制度」。音楽のデジタル録音で作曲家だか作詞家だかが著作権を侵害されているという難クセのせいで、オレ様の会社が作っている内蔵型音源ダウンロード機器に著作権料を課金するとかって言ってんだよ。ただでさえ、製品の値引き合戦が激しいこのご時勢にさあ。補償金制度なんかなくたって、画期的な課金システムを整備しているんだから、いらねーんだしよ。

文化庁はこんな愚策を法制化しようとしている日本の著作権法の所管官庁なわけだが、はっきり言ってよ、文化庁なんて文化財保護やら宗教法人制度なんていう古臭いものを扱っている官庁なんだから、著作権なんていう先進的な法律を扱えるわけはないんだよな。

ちゅうことでさあ、オレ様としては、日本の著作権法の所管省庁を文化庁から、どこかふさわしい省庁に移管すべきであると考えているところだ。そこで先進国ではどこの省庁が著作権法を所管しているのかを教えてほしい。文化庁が所管しているのは日本くらいなんだろうなあ、きっと。

:まずは、てめえの会社がどれだけボロ儲けしているのか、そして課金システムとやらがどのようなからくりで機能しているのかを情報公開してから、質問してほしいものだな。

著作権制度の諸外国の所管省庁についてだが、「先進国」だなんてケチなことを言わずに、全世界を見る必要があるだろうな。以下に、可能な範囲で確認できた国・地域の所管省庁名と、著作権関係の法律名(確認できたもののみ)を、国名のアルファベット順で列記するので見てほしい。なるべく原典に当たる必要があることから、できる限り当該国のURLをリンクした。もちろん言語は英語が基本だがCRIC(著作権情報センター)の邦訳がある法律については付記)、なかにはフランス語・スペイン語・アラビア語・中国語などもある。その点は、お前らの語学能力で克服してほしい。

アフガニスタン 情報文化省

アルバニア  観光文化青少年スポーツ省著作権局

アルジェリア 著作権・著作隣接権事務局

アンドラ 商標特許局 著作権・著作隣接権法

アンゴラ 文化省文化産業国家委員会エンタテインメント・著作権理事会

アンティグア・バーブーダ  法務省知的財産局 2003年著作権法    

アルゼンチン 司法・治安・人権省総務登録局著作権課 1933928日知的財産法 (WIPO英語版

アルメニア 経済省知的財産庁著作権・著作隣接権局 2006年著作権・著作権隣接権法

オーストラリア 司法省民事司法・法務グループ分類・人権・著作権課著作権法担当 1968年連邦著作権法 (CRICサイト)

オーストリア  法務省民事局第1部第4課  1936年連邦著作権法

アゼルバイジャン 著作権庁 著作権・隣接権法


 

バハマ 登録官事務局 

バーレーン 情報省報道・出版担当副長官事務局 2001年著作権・著作隣接権法案

バングラデシュ 文化省著作権局 2000年著作権法

バルバドス 企業・知的財産局 1998年著作権法

ベラルーシ 国家知的財産センター 1998年8月11日著作権・著作隣接権法

ベルギー 法務省立法・自由基本法統括局民事・資産法担当 1994年著作権法WIPO英語版サイト

ベリーズ 知的財産庁  著作権法

ベニン 文化省手工芸・観光・著作権局 2005年著作権・著作隣接権法(英訳版)

ブータン 経済省知的財産局著作権課 2001年著作権法

ボリビア 生産開発・多様経済省国家知的財産局著作権課 1992年著作権法

ボスニア・ヘルツェゴビナ 知的財産庁 著作権・著作隣接権法

ボツワナ 通商産業省企業・ビジネスネーム・商標・特許・意匠登録局

ブラジル 文化省著作権調整担当局 1998年著作権・著作隣接権法 (英語版(WIPOサイト))

ブルネイ 司法長官事務局 ブルネイ・ダルサラーム憲法第83条3項に基づく1999年著作権緊急令

ブルガリア 文化省著作権課

ブルキナ・ファソ 文化・コミュニケーション省長官官房著作権課

ブルンジ 青少年・スポーツ・文化省芸術・文化部 1978年5月著作権制度令

カンボジア 文化芸術省 著作権及び関連する権利に関する法(CRICサイト)

カメルーン 文化省法務局WIPO調整官

カナダ 産業省知的財産局 著作権法

カーボベルデ 文化省

中央アフリカ 観光・芸術・文化省中央アフリカ著作権局

チャド チャド著作権局

チリ 図書館・文書館・美術館管理局知的財産登録官

中華人民共和国 国家版権局(新聞出版総署) 中華人民共和国著作権法(CRICサイト)
香港特別行政区政府 知識産権署
中華民国(台湾) 経済部智慧財産局著作権組 著作権法(英訳) 著作権法(CRICサイト) 

コロンビア 内務司法省特別行政局国家著作権管理官

コモロ連合 内務省情報出版局

コンゴ共和国 文化芸術観光省コンゴ著作権局

コスタリカ 国家著作権・著作隣接権登録局

コートジボワール フランス語・文化省象牙著作権局

クロアチア 国家知的財産局

キューバ 文化省国家著作権センター

キプロス 通商産業観光省企業登録・財産管理局

チェコ 文化省著作権局

朝鮮民主主義人民共和国 著作権局住所・連絡先:KoryoPAT-Rainbow特許商標事務所ウェブサイト 著作権法〔日本語版〕(チュチェ90(2001)年3月21日 最高人民会議常任委員会政令第2141号:北朝鮮Web六法) 著作権法〔英語版〕(KoryoPAT-Rainbow特許商標事務所ウェブサイト)

コンゴ民主共和国 文化芸術省

デンマーク 文化省著作権局 2010年著作権統合法(英語版)

ジブチ コミュニケーション・文化・郵便・通信省著作権・著作隣接権局

ドミニカ国 企業知的財産局

ドミニカ共和国 産業通商長官国家著作権局 2000年8月21日著作権法 2001年3月14日著作権施行令

エクアドル 知的財産局

エジプト 文化省最高文化評議会著作権保護常設局 知的財産権保護法

エル・サルバドル 国家登録センター Legislative Decree No. 808 of 16 February 1994 on Books

赤道ギニア 大統領府科学技術研究会議

エリトリア 情報・文化省文化局

エストニア 文化省

エチオピア 知的財産局著作権管理官

フィジー 司法長官事務局

フィンランド 教育文化省文化・スポーツ・青少年局文化政策課著作権室 著作権法(FINLEX英語版)FINLEXフィンランド語版

フランス 文化・コミュニケーション省事務総局法制官付著作権室 知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律(CRICサイト)フランス語版:LEGIFRANCE)(英語版:LEGIFRANCE

ガボン 文化芸術省国家芸術文化促進庁

ガンビア 芸術文化国家センター著作権局

グルジア 国家知的財産センター 著作権・著作隣接権法

ドイツ 法務省第3局ⅢB3    1965年著作権及び隣接権法(CRICサイト)ドイツ語版:ドイツ法務省

ガーナ 文化省著作権局

ギリシア 文化観光省著作権局  1993年著作権・著作隣接権・文化事項法(英訳)

グレナダ 最高裁判所事務局登録局

グアテマラ 知的財産登録局著作権・著作隣接権課

ギニア 文化・芸術・レジャー省公共施設局  (ギニア著作権事務局) 1980年著作権法

ギニアビサウ 青少年・文化・スポーツ省文化・スポーツ管理官著作権局

ガイアナ 捺印証書登録所

ハイチ 文化・コミュニケーション省著作権局

バチカン市国 バチカン市国中央事務局法制室

ホンジュラス 知的財産事務局   1999年著作権法

ハンガリー 知的財産庁著作権局 1999年著作権法

アイスランド 教育科学文化省 1972年著作権法

インド 人的資源開発省高等教育局著作権事務局 1957年著作権法CRICサイト

インドネシア 法務人権省知的財産権局 2002年第19号著作権法(英語版)

イラン 文化イスラム指導省著作権登録官

アイルランド 企業・貿易・雇用省科学技術・知的財産局知的財産ユニッ 2000年著作権法

イスラエル 法務省顧問 2007年著作権法

イタリア 文化財・文化活動省文化財書籍財著者部局Ⅳ課 著作権および著作隣接権の保護に関する法律(1941年4月22日の法律第633号)CRICサイト

ジャマイカ 産業投資通商省知的財産局 著作権法

日本 文化庁長官官房著作権課・国際課 著作権法 (英語版:法務省 日本法令外国語訳データベースシステム

ヨルダン 文化省国立図書館局著作権課 1992年著作権保護法 (英語版)

カザフスタン 司法省知的財産権委員会

ケニア 司法長官府登録局著作権委員会 2001年著作権法(ユネスコウェブサイト) 

クウェート 情報省

キルギス 国家特許庁 著作権・著作隣接権法(英語版)

ラオス 情報文化省国家委員会

ラトビア 文化省著作権課  著作権法 (国連行政財務オンラインネットワークサイト)

レバノン 経済貿易省知的財産保護局 文芸芸術財産保護法

レソト 法律憲法省

リベリア 著作権庁(WIPOサイト) 1997年著作権法(WIPOサイト)

リビア   人民委員会科学研究局

リヒテンシュタイン 貿易交通知的財産局 1999年著作権著作隣接権法

リトアニア 文化省著作権局  著作権著作隣接権法

ルクセンブルグ 経済海外通商省知的財産局

マダガスカル 情報・文化・コミュニケーション省著作権局 文芸芸術財産法

マラウイ マラウイ著作権協会 1989年著作権法

マレーシア 国内取引消費者行政省知的財産公社 1987年著作権法

マリ 文化・コミュニケーション省著作権局

マルタ 財政経済投資省通商局産業財産権登録課 2000年著作権法

モーリタニア 文化イスラム指導省文化局文化協力・知的財産部

モーリシャス 芸術文化省著作権室 モーリシャス著作者協会 2011年著作権法

メキシコ 公共教育省国家著作権局 連邦著作権法

モナコ 財政経済省経済拡大局知的財産課 

モンゴル 知的財産権庁第一副首相担当) アルガイ特許商標事務所

モロッコ コミュニケーション省メディア研究開発局映画・ICT視聴覚促進課国民的番組・映画・著作権法推進室 著作権・著作権隣接権管理団体:モロッコ著作権事務所 2000年著作権・著作隣接権法

モザンビーク 文化省書籍・文書記録局著作権課

ミャンマー 科学技術省 1911年著作権法

ナミビア 情報・コミュニケーション技術省視聴覚メディア・著作権・地域室  著作権法

ナウル 司法省特許商標著作権登録局

ネパール 文化・国家再建省著作権登録局 2002年著作権法

オランダ 法務省立法局 1912年著作権法 (オランダ法務省非公式英訳)

ニュージーランド 経済発展省知的財産局 1994年著作権法

ニカラグア 通商産業振興省市場競争透明化局知的財産登録課著作権著作隣接権室 著作権法(WIPOサイト)

ニジェール 青少年・スポーツ・文化省著作権局

ナイジェリア 情報・文化・観光省著作権委員会 (ナイジェリア著作権団体

ノルウェー 文化省メディア政策・著作権局 1961年文芸学術芸術著作物財産権関連法

オマーン 通商産業省  2008年著作権・著作隣接権法

パキスタン 内閣府知的財産庁著作権局 1962年著作権令

パラオ 資源発展省

パナマ 教育省著作権局

パプア・ニューギニア 司法長官事務局

パラグアイ 商工省知的財産局 1998年著作権法

ペルー 産業・観光・統合・国際貿易取引省競争・知的財産保護局  1996年著作権法

フィリピン 大統領府知的財産局 知的財産法典、権限・機能の付与、その他の目的のための知的財産局設立を命じる法律(共和国法第8293号)

ポーランド 文化・国家遺産省法制部

ポルトガル 文化戦略・企画・評価局法制訟務助言課   2008年知的財産法 

カタール 経済通商省産業財産権局  2002年著作権著作隣接権保護法

大韓民国 文化体育観光部文化コンテンツ産業室著作権政策課(日本語版) 著作権法(CRICサイト)

モルドバ 知的財産庁 著作権著作隣接権保護法

ルーマニア ルーマニア著作権局

ロシア 知的財産庁 民法第4編第7節(英語版)  CRIC(日本語版)

ルワンダ スポーツ・文化省 

セントクリストファー・ネイビス 最高裁判所登録官

セントルシア 企業・知的財産権登録局

セントビンセントおよびグレナーディン諸島 通商・知的財産登録局  2003年著作権法(WIPOサイト)

サモア独立国 司法裁判運営省  著作権法

サンマリノ 外務省経済社会局

サントメ・プリンシペ 教育・文化・青少年・スポーツ省

サウジアラビア 文化情報省著作権総局 著作権法(イスラム歴1410 年5 月19 日の勅令第M/11 号)(日本貿易振興機構『模倣対策マニュアル 中東編』(2009年)335頁以下)

セネガル 文化・フランス語圏省著作権事務局 著作権著作隣接権法(UNESCOサイト)

セルビア 知的財産庁著作権著作隣接権局 2004年著作権著作隣接権法(英訳)

セーシェル共和国 芸術・スポーツ・文化省芸術・文化局国家遺産課国際協力ユニット

シエラレオネ 文化観光省文化局知的財産課

シンガポール 法務省知的財産局 著作権法

スロバキア 文化省メディア・著作権局 2003年著作権著作隣接権法

スロベニア 経済省知的財産局 1995年著作権著作隣接権法

ソロモン諸島 警察司法省登録官事務局

南アフリカ 貿易産業省企業・知的財産登録局 1978年著作権法

スペイン 文化省知的財産局 1996年著作権法(スペイン語) (英語版)

スリランカ 知的財産庁 2003年知的財産法(第1章:著作権 第2章:著作隣接権

スーダン 文化・青少年・スポーツ省文芸芸術作品最高委員会

スリナム 知的財産局

スワジランド 司法憲法省登録官事務局

スウェーデン 法務省知的財産・交通法局 1960年著作権法

スイス 知的財産局法制・国際部著作権法担当 1993年4月26日著作権・著作隣接権保護に関する指令

シリア 文化省著作権局

タジキスタン 文化省著作権著作隣接権庁

タイ 通商省知的財産局 1994年著作権法日本語版 ジェトロ・バンコクセンター) (日本語版 CRIC

マケドニア旧ユーゴスラビア 文化省著作権著作隣接権保護局

トーゴ  文化・青少年・スポーツ省著作権事務局 1991年著作権・フォークロア・著作隣接権保護法 *参照:トーゴ共和国法令データベース

トンガ 労働通商産業省 2002年著作権法

トリニダード・トバゴ 法務省知的財産局

チュニジア 著作権保護局

トルコ 文化観光省著作権・映画総局著作権課 知的財産美術作品法

ウガンダ 司法憲法省登録局

ウクライナ 教育科学省知的財産局 (ウクライナ著作権事務所)  1993年著作権著作隣接権法

イギリス ビジネス・イノベーション・技能省知的財産庁 1988年著作権・意匠及び特許法CRICサイト

タンザニア 経済貿易省ビジネス登録・ライセンス庁著作権局

アメリカ合衆国 議会図書館著作権局 1976年著作権法 (CRICサイト)

ウルグアイ 教育文化省著作権委員会 1937年著作権・著作隣接権法

ウズベキスタン 著作権庁 (英語版ポータルサイト)

バヌアツ 国家文化評議会 2000年著作権・著作隣接権法

ベネズエラ 司法省知的財産自治総局著作権管理官

ベトナム 文化情報省著作権庁 ベトナム著作権関連法(英語版) ベトナム知的財産法典(抄)(CRICサイト) ベトナム社会主義国民法典(抄)(CRICサイト)

イエメン 文化省

ザンビア 情報放送省著作権局

ジンバブエ 司法法制省証書・会社・商標・特許・意匠局 著作権著作隣接権法

WIPOウェブサイト"Member States"などを参照】

以上の各国(182カ国2地域)の所管省庁を分類別に集計すると、下記のようになる。

①文化・教育・科学技術・著作権系 88カ国

②産業・通商・知的財産系 53カ国2地域

③法務・司法・裁判所・登記所系 32カ国

④内務・情報出版統制系 4カ国

⑤通信・放送系 3カ国

⑥外務省 1カ国

⑥国会 1カ国

見てのとおり、断然に①の教育・文化系が多くなっている。いっとき、デンパ行政の官僚が、放送免許制の問題点をそっちのけにして、放送と通信の融合をわめいた上に、議員に働きかけて著作権法も所管する「情報通信省」なる省庁再々編をぶちあげていたが、いかにそれがくだらないことが分かるだろう。再々編が実際された場合に、図書館員からのマニアックな電話相談に親身に乗る覚悟ができていれば、別だがな。

ちゅーことで、残念ながら、諸外国を参考にして著作権制度の所管省庁を決めようとする場合には、現状維持にならざるを得ないだろうな。

Q40:朝刊のスクープ記事が、他紙の夕刊にも掲載されていたのですが…

:こんにちは。ぼくは都内の有名私大法学部に通学する大学生です。ネットが好きで、ピリ辛もよく読んでいます。きっかけは大学で履修している著作権法の夏休みレポートを書くときに、テーマがピリ辛にアップされていたものと同じだったのでコピペ(コピー&ペースト)して提出したことでした。そのおかげで、余計な時間をかけることなくバイトや海外旅行とかしてエンジョイできたのですが、その講義の先生もピリ辛マニアだったため速攻でコピペ工作がばれてしまい、単位を落とすことになりました…。そのときに先生から、レポートを書くときの引用・出典の明示の重要性や、他の人が作った文章、画像などの作品をコピーするときには著作権が及ぶことを教えてもらいました。それ以来、コピペには注意するようになりました。

 そこでふと思ったのですが、ある新聞の朝刊に特ダネ記事が出たときに、その日の夕刊から後を追うようにして似たような記事が載ることがありますよねえ?これって、パクっていることにならないのですか?レポートのコピペと同じことが新聞では許されるのですか?ぜひ教えてください!

==========================

:ピリ辛のご愛読ありがとな!おかげさんでブログ開設から2年弱で、アクセス4万件を突破する寸前まで来たぜ。来訪者も大学生・法科大学院生はもとより、大学研究者、官公庁、裁判所、国会関係機関、大企業、ベンチャー企業、大手法律事務所、教育委員会(小中高含む)、シンクタンク、図書館、マスコミ、海外の有名大学など、ありとあらゆるところからアクセスしていただいているぜ★。もはや日本の著作権法の情報源の一つとなっている言っても過言ではないな。

 大学のレポートで俺様のブログからコピペしたのがばれて気の毒だったなあ。似たようなことを新聞がやっているのを見て癪に障ったということだな。今回は著作権法上、マスコミがどういう特別扱い、すなわち著作権制限規定の適用がなされ著作物を権利者に無断で使える場合があるのかを考えてみよう。

 他紙の特ダネを新聞社が追いかけることについては、「○○が発表した」「○○は明らかにした」というふうに官公庁などの当局のリアクションによりかかる形をとれない場合には、「○○ということが、わかった」と書くとの慣行が新聞業界にあるという指摘がある(河野博子「『正確な引用』が競争のルール 他紙を追いかける米紙のたたずまい」Journalism No.22[2008.12]38頁)。具体例として下記の4つの記事を比較してみよう。

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共同通信2003年12月25日宗教法人の財務情報を開示 鳥取県が異例の判断 文化庁は非開示求める 鳥取県が宗教法人から提出された財務情報を県情報公開条例に基づき全面開示していたことが二十五日分かった。文化庁は一九九八年『信教の自由を害する恐れがある』などとして原則非開示を求める通知を各都道府県に出しており、同県の判断は異例。宗教法人をめぐる情報公開に影響を与えそうだ。〔以下略〕」(同月26日付『日本海新聞』『山陰中央新報』に掲載)

読売新聞2003年12月26日夕刊寺社のフトコロ見せます 鳥取県が情報公開 鳥取県が県情報公開条例に基づき、寺社二法人が二〇〇二年度分の財産目録や収支計算書に記載された財務情報を、全面開示していたことが二十六日、わかった。〔以下略〕」

朝日新聞〔大阪版〕2003年12月26日夕刊宗教法人財務を開示 鳥取県 文化庁通知に反し 鳥取県が宗教法人から提出された文書について県情報公開条例に基づき、財務情報を開示していたことが26日、わかった。文化庁は都道府県に対し『信教の自由を害する恐れがある』として、代表者名などを除いて開示しないように通知していたが、同県は『県の責任で宗教活動に支障はないと判断した』としている。こうした情報の公開は異例。〔以下略〕」

毎日新聞〔鳥取県版〕2003年12月26日夕刊宗教法人の財務情報を全面開示 鳥取県が宗教法人の財務情報を、県情報公開条例に基づき全面開示していたことが、26日明らかになった。宗教法人の情報開示を巡っては98年、文化庁が『信教の自由を害する恐れがある』などと、原則非開示を都道府県に通知している。〔以下略〕」

※最高裁平成19年(2007年)2月22日判決により、鳥取県による上記方針に基づく公文書開示決定(日香寺事件)は同県情報公開条例に違反するものとして取り消されるべき旨確定した(鳥取県公式サイト「宗教法人から提出された書類の情報公開に係る訴訟の判決の確定について」参照。宗教法人の書類提出制度については、文化庁ウェブサイト「所轄庁への書類の提出」参照。なお、宗教法人は信者等の利害関係者から財産目録等の閲覧請求があったときは、原則として閲覧させなければならない(宗教法人法第25条第3項))。

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 以上の4つの記事から分かる事実としては、(所轄庁に提出される)宗教法人の財務情報について、1998年に文化庁が「信教の自由を害するおそれがあるため」情報公開請求があっても原則として非開示とするようにとの通知を各都道府県に出した、①があったにもかかわらず、鳥取県は(当時の県知事の英(珍?)断により?)宗教法人から提出された財務情報に対する情報公開請求に応じて全面開示した、ということである。

 そして上記の河野博子氏の記事によれば、読売・朝日・毎日の各記事は、共同通信が発信した記事を掲載した日本海新聞・山陰中央新報の26日付朝刊を読んで「抜かれた!!」と焦燥感にかられ、関係当局に電話取材するなどして、同日夕刊に間に合わせたということが「26日、分かった(明らかになった)」という文末で読み取れることになる。もし出典を明示するのならば「鳥取県が宗教法人の財務情報を、県情報公開条例に基づき全面開示していたことが、共同通信25日発の記事で分かっ。」ということになるだろう。

 では報道倫理はともかくとして、著作権法上もこのように抜かれたネタを利用する場合に出典等を明示しなければ著作権法違反となるのか?他人の著作物を利用して自己の著作物を作成するときに適用される典型的な著作権制限規定として引用の規定(著作権法第32条第1項)がある。これが適用されるためには、(1)利用される著作物が公表されたものであること、(2)引用する著作物と引用される著作物が明らかに別物と認識できるだけの区別がなければいけない(明瞭区分性)、(3)利用する側の著作物が主で、利用される側の著作物が従たる関係になくてはならない(附従性)、(4)出所明示(著作権法第48条第1項第1号参照)の要件を満たす必要があるとの判例がある(最高裁判所第三小法廷昭和55年03月28日判決(昭和51(オ)923)(パロディ事件判決))。

 しかし事実の伝達にすぎない雑報や時事の報道は著作物に該当しないと規定されている(著作権法第10条第2項)。著作物が「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定(同法第2条第1項第1号)されていることからして、当然の帰結だろう。また現実問題として、緊急性のある事実(事故の発生など)について一々先に報じた報道機関の許諾を得なければならないとするのは不可能だろう。

 このほか報道機関については、時事の事件の報道のためにその目的上正当な範囲内において著作物を利用すること(同法第41条)、時事問題に関する論説の転載(同法第39条)、国、地方公共団体等で行われた公開の演説、陳述を報道の目的上正当と認められる範囲内での利用(同法第40条2項)において著作権制限が認められている。

 他紙が抜いたスクープ記事の利用に関して言えば、例に挙げた宗教法人の情報公開ネタにおいては、共同通信が初めて報じたの事実をモチーフに、新聞社それぞれが独自の取材をして記事を書いたのであれば、単なる事実には著作物性はなく、それを利用しても記事という著作物を創作的に作成したということで、引用の要件を満たさなくても著作権侵害ということにはならないだろう。

 しかし問題となるのは、コラム、論説や大学入試問題の掲載「Q21:大学入試問題をニュースサイトに掲載したいのですが」参照)のように、事件の単なる伝達というよりも文章の中身に着目して記事を作成する場合であろう。このような場合には著作権法第10条第2項は適用されないため、引用などの著作権制限規定が適用されないか注意を払うことになる。場合によっては、著作権者の許諾が必要になることもあるだろう。

 要は、レポートを作成する場合も報道の場合も、他人の著作物を利用する場合にはある一定の目的の場合には例外的に許諾を得なくてもよい場合があるが、そうでない場合には著作権者の許諾を得るか、自分で考え抜いて創作しろや、ってことだな。もっとも著作権法上出典の明示が必要ない場合であっても、学術の発展、情報源のアクセスへの配慮や自分の能力を示すため(まともな文献を読んでレポートを作成していることを教員にアピール)に必要な場合もあるから、著作権法だけに頼らずに勉強するこったな。

【参考文献】谷井精之助・豊田きいち・北村行夫・原田文夫・宮田昇『クリエイター・編集者のための引用ハンドブック』(太田出版、1998年)

Q39:100%正しい著作権の答えがほしいのですが…

:こんにちは。私はITベンチャー企業の経営者です。子どものときからパソコン好きだったのが高じて会社を立ち上げたのですが、でっかい組織の歯車になるよりもずっとやりがいがあると思っています。

 これからやろうとしている事業としては、インターネットを通じたコンテンツ送信サービスを考えています。規制がいっぱいある地上波放送に比べると、チャンスがいっぱいありそうですからね。ところがベンチャー仲間から聞いたところによると、著作権の規制がたくさんあって何も知らずに事業を始めると著作権者から苦情が来ると聞きました。

 もちろんコンプライアンス重視なので法を守って事業をしたいと思っていますが、何が正しくてどうすれば100%確実に訴えられることなく、しかもコストをかけずにビジネスができるのかを真剣に考えています。特に著作権法では、私的に使う場合などには無断で利用できると聞いたことがありますので、そういう制度を十二分に活用したいと思っています。

 そこでお願いなのですが、どこに著作権法のことを聞けば確実な答えがもらえるのでしょうか?裁判は絶対いやなので(この前通知が来た裁判員候補者も拒否したいくらいですw)裁判所には聞けず、また余計なお金は払えないので弁護士にも聞けませんが、やっぱ所管省庁なのでしょうか?それとも著作権法学者や電話相談室などでしょうか?ぜひ教えてください!

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あるわけねぇ~だろ!(爆)。てめえのような甘ちゃんが多いんだよな。ネットの掲示板で著作権のスレッドを見ても、教えて君ばかりだしよ。今回は著作権に関して示される見解の意義や生かし方を考えてみよう。

 そもそも論として、お前が言っている「100%正しい著作権の答え」とはいかなる場面で効果を発揮するのか?規制行政に飼いならされた世間の大方のやつらは、所管省庁に「あ~、それは大丈夫ですよ」って答えてもらって、それをてめえに文句をいう奴に対して、水戸黄門の印籠のごとく「○○省(庁)は俺が正しいと言っている」と誇らしく主張して、自分の思い通りに事を運ぼうと期待しまくっている。

 だがなあ、このブログで何度もなんどもしつこく言っているように、著作権法は行政規制法ではない著作権はあくまでも私権であり、著作権行使による文句の矛先は所管省庁(文化庁)ではなく、権利者に向けなければ問題は解決しない。「政府規制の問題であれば、政府ないしは官庁が自己の有する権限を手放せば済む場合も多いが、著作権の場合は、著作権という私権の内容をどのように再構成するか、あるいは既得権となっている著作者・著作権者の権利をいかに制限するかという問題」というわけだ(中山信弘「著作権法と規制緩和」西村あさひ法律事務所西村高等法務研究所編『西村利郎先生追悼論文集 グローバリゼーションの中の日本法』(商事法務、2008年)386頁)。したがって所管省庁(文化庁)に電話して、自分が有利に進めたい著作権の質問事項について「愛していると言ってくれ~!(むかし、そんなドラマがあったなあ…)と求愛するが如く、電話に応対しているやつに「イエス!」と言ってもらえるまで粘るのは無意味というものだ。まして「それはケース・バイ・ケースで、裁判しないと分かりませんねえ…」と回答されたときに「ざけんじゃねぇ、俺が裁判できるわけねーだろ!!」と逆ギレするのは愚の骨頂というべきである。

 ここで「裁判しないと分かりません」と書いたが、どういうことなのか?これは正に憲法で規定する三権分立の問題だろう。国家の立法・行政・司法の権限のうち、立法権は国会(日本国憲法第41条)に、行政権は政府(同第65条)に、司法権は裁判所(第76条)にそれぞれ属している。したがって著作権に限らず、自分の身に起こっている揉めごとを相手方との交渉ではまとめきられず、国家に公的に介入してもらって解決したい場合には、弁護士を雇うなど身銭をきって裁判に臨む必要がある。

 国家の権限が三権に分かれている結果として、それぞれの機関の見解が異なることがありうる。その典型例が、映画「シェーン」事件最高裁判決(最判平成19年12月18日民集第61巻9号3460頁)だろう(吉田利宏・いしかわまりこ「法令読解心得帖 法律学習はじめの一歩 第25回 法律の解釈権」法学セミナー第649号[2009.1]58-61頁)。この事件は、映画の著作物の著作権保護期間(著作権法第54条第1項)を公表後50年から70年に延長した「著作権法の一部を改正する法律(平成15年法律第85号)」は平成16年1月1日から施行されることになっていたが(同法附則第1条)、同法附則第2条において「改正後の著作権法(次条において「新法」という。)第54条第1項の規定は、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従前の例による。」と規定されていたことから、改正前の規定によれば平成15年12月31日には著作権が存在するが平成16年1月1日は著作権が消滅している昭和28年公表の映画の著作物の保護期間も20年間延長されたのかどうかが争点となった。

 この点、原告からは次のように、平成15年法改正における文化庁、内閣法制局の立法作業経緯、国会の立法者意思から見て、20年間延長していると主張している(東京地裁平成18年10月6日判決(平成18(ワ)2906)12頁)。

「 平成15年4月に,内閣法制局第2部において,著作権担当の参事官が担当の部長に,本件改正法における映画の著作物の著作権保護期間についての経過措置の内容を説明することになっていたが,文化庁は,その説明のための資料として,「平成15年法改正法制局第2部長説明資料」と題する書面(以下「本件資料2」という。)を作成し,実際に,内閣法制局第2部では,著作権担当の参事官が本件資料2を示して担当部長に説明を行った。本件資料2には,「第54条の映画の著作物の保護期間延長の規定が来年(2004年)1月1日に施行される場合,本年(2003年)12月31日まで著作権が存続する著作物については,12月31日の午後12時と1月1日の午前0時は同時と考えられることから,『施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存するもの』として保護期間が延長されることとなる」と明確に記載されているが,本件資料2に記載された「映画の著作物の保護期間についての経過措置」の原案がそのまま第156回国会において「著作権法の一部を改正する法律案」として提出されていることから,内閣法制局が平成15年12月31日の午後12時と平成16年1月1日の午前零時は同時である,すなわち,昭和28年に公表された映画の著作物は,改正著作権法の適用を受けると考えていたことは明らかである。
 そして,上記「著作権法の一部を改正する法律案」が第156回国会による審議を経てそのまま成立していることから,立法者である国会も,平成15年12月31日の午後12時と平成16年1月1日の午前零時は同時である,すなわち,昭和28年に公表された映画の著作物は,改正著作権法の適用を受けると考えていたことも明らかである

 少し補足すると、著作権法などの法律案を政府が作成して国会の審議にかける場合、各省庁が法律案原案を作成した上で、内閣法制局からその内容が憲法に違反しないか、他の法令に抵触しないかなどの法令審査を受ける必要がある。上記の主張にあるように、参事官や部長のOKをもらう必要があるわけだ。この審査を通過すれば事務次官等会議、閣議決定を経て国会に提出されることになる(内閣法制局ウェブサイト「法律ができるまで」参照)。したがって、保護期間の延長について昭和28年公表の映画の著作物も保護期間延長の対象になるという見解は、法制局審査を通過したことから、正式な政府解釈であるということができる。

 しかし上記最高裁判決では「『この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例による』と定めているが,これは,本件改正法の施行日において既に保護期間の満了している映画の著作物については,本件改正前の著作権法の保護期間が適用され,本件改正後の著作権法の保護期間は適用されないことを念のため明記したものと解すべきであり,本件改正法の施行の直前に著作権の消滅する著作物について本件改正後の著作権法の保護期間が適用されない」「本件映画を含め,昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は,本件改正による保護期間の延長措置の対象となるものではなく,その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅したというべきである。」として、保護期間の延長を否定した。

 このような裁判所の判決については批判もあり(作花文雄「映画『シェーン』事件知財高裁判決―引き続く混迷の様相」コピライト2007年5月号51-64頁、同「『シェーン』事件最高裁判決の残した課題」コピライト2008年2月号40-48頁)、また「『小津安二郎作品の保護期間をつなげるために法改正するんです』と、私は何百人もの国会議員に説明した」としこのような本来の法改正目的が国会質問されなかったことを嘆く声もある(岡本薫「特別講演 『WIPO新条約と利用可能化権の創設』(抄)」『2007年度 ALAI JAPAN国際研究大会講演録~シンポジウム「権利の制限と3-step-test」』(ALAI JAPAN 事務局、2008年)20-21頁)。しかし、立法者意思についてはあくまでも一つの解釈の材料、根拠という位置づけであり、司法判断を受けたものではない政府解釈については裁判所で誤ったものであると判断されることがある旨の指摘がなされているところである(杉浦正樹「最近の著作権裁判例について」コピライト2007年2月号20頁)。

 一方で過去の裁判例では、図書館等の複製に係る著作権法第31条で規定する著作物の単位が争点となった多摩市立図書館複写拒否事件(東京地判平成7年4月28日判時1531号129頁)や、北朝鮮・台湾の国民が作成した著作物が日本の著作権法で保護されるかどうかを争った北朝鮮テレビ放映事件(東京地判平成19年12月14日 平成18(ワ)5640 平成18(ワ)6062(「Q9:台湾人の著作権って、日本で保護されるの?」、「1万アクセス突破だぜ!!」参照)などではいずれも文化庁の見解を採用しており、政府解釈と司法判断の関係については注意する必要があるだろう。

 以上のように、著作権の解釈に対する評価は、私人間の交渉、行政との関係、裁判所との関係など、場面によって異なるといえるだろう。したがって、著作権に関する「正しい答え」を所管省庁、著作権法学者、電話相談室などの誰かに寄りかかって解決することはできないだろう(そういう奴に限って、期待する結果を得られなかったときに責任をなすりつけようとするんだよな)。要は自分が主体となって、どの機関を利用するかをケース・バイ・ケースで考える必要があるというわけだ。場合によっては、身銭を切って弁護士に法律相談する必要もあるだろうな。

 自分で何とか考えたいと改心した奴は、著作権法を解釈するための「よりどころ」として、①裁判所の示した見解、②政府の見解、③著作権法の立案作成者の見解、④著作権法の学者の見解、⑤権利者団体から示された見解、などに沿って、結論を導くことも考えられる(南亮一「マイクロフィルム及び電子媒体の著作権問題 第12回(最終回) 著作権の解釈を行う方法について」月刊IM Vol.48 No.2[2009.2]19-22頁)。確かに、このように法解釈の見解をリサーチして、それによって問題を解決することは、ある程度は有効であり、恣意的な出鱈目解釈よりはずっとマシだろう。しかし、やはり他人の権威を笠に着ていることに変わりはなく、新しい問題や、図書館の問題のようにまともな裁判例がなく、多くの法律家から放置されている領域については、有用ではないおそれもあるだろう。

Q38:店内でテレビをつけていたら、WTOに提訴するぞと言われたのですが

:こんちは。おれ、ラーメン屋を経営しています。知ってるかもだけど、家系ラーメンで有名な店で何年か修行してから、親分に暖簾分けしてもらって、今は国道沿いに店を構えています。秘伝のダシがきいてうまいと大評判で、週末は列ができるほどになっています。

 この前の水曜のことだったんだけど、昼飯どきにヨーロッパ系っぽい中年のおっさんが来たんだけどさあ。店に置いてあったテレビを見て、番組でドイツのロックバンドの曲が流れたら、いきなり「この曲の著作権の許諾契約はとっているのか!」って流暢な日本語でおれに問いただしてきました。おれは「そんなのしてねえよ。つか、求められたことなんてねーけど」って言ったら「私はこのロックバンドの日本での著作権代理人だあ。著作権侵害として、お前に著作権使用料を請求する!」って大声で言われました。

 「なんだ、このおっさん」と思っていたところ、後ろで味噌ラーメンを食べていた常連さんが「おじさんさあ、日本ではテレビ番組を店でつけるのは、著作権と関係ないってきいたことあるよ」って助け舟をだしてくれたんです。「恩にきるよ、今日のラーメン代、タダでいいぜ」って心の中でつぶやいたところ、「なぬ?それだったらWTOに提訴してやる~!」と息巻いて店のパンフレットを持って、店を飛び出しました。

 この話の流れが全然読めないんですが、俺の店は著作権侵害しているのでしょうか、そして著作権使用料を払わないといけないのでしょうか?またWTOの提訴って何なんでしょうか?分からないことだらけなので、ぜひ教えてください。

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:家系ラーメンかあ。俺様はあいにく行列が嫌いだが、平日の昼間に行けるようになったら行ってもいいかなあ~

 質問だけど、日本においてはテレビ番組をラーメン屋などの営利目的の店で流すことについて著作権法上問題ないというのは、常連が言ったとおりだ。どういうことかってーと、テレビ番組を店内のテレビを通じて不特定または多数の客どもに見せるという行為は、原則として公衆送信(テレビの電波発信)によって送信されてきた番組等の流れて行く先をコントロールする権利である公の伝達権が働く(著作権法第23条第2項)。しかし、同法第38条第3項において、営利を目的とする場合でも通常の家庭用受信装置を用いて行う場合には公の伝達権は制限され、ラーメン屋などの店でも著作権に関係なく普通のテレビを使って番組を客どもに見せることができるようになっている。その趣旨としては「まだ我が国では、そこまで著作権を及ぼすことに社会的・心理的抵抗が強いと考えられるからでございます。」と説明されている(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、平成18年)276頁)。

 ラッキーって思うかもしれねえが、ここで注意する必要があるのがベルヌ条約著作権に関する世界知的所有権機関条約のような著作権の国際条約だ。何度もこのブログで言っているが、著作物ってーのは作成された国内だけではなく、世界中にホイホイ流通するものだから、世界の国々でお互いに保護しましょうぜって協定を結ばないことには、法制度を作る意味がないから、そういう国際条約をこしらえているわけだ。iPodやパソコンへの著作権課金をするときに問題になる私的録音録画補償金問題の議論で、「iPodやパソコンにも補償金を認めなければ、ベルヌ条約のスリーステップ要件(同条約第9条第2項)を満たせず、日本が条約違反を冒してしまうことになる」と金切り声を叫んでいる団体がいるだろ。あれだよ、あれ。

 ふんじゃあ、日本の著作権法がそのベルヌ条約を破っているとした場合、日本の政府なりユーザーは、どこかの国際的な裁判所で賠償命令が下されたり、国際刑務所に収容されたりするのだろうか?実はそんな規定はベルヌ条約には何もない(爆)。各条文を見ると「排他的権利を享有する」「保護される」という文言がいっぱい並んでいるが、世界のどこかの偉い人が条約違反した奴らを制裁することはどこにも規定されていない。いわば小学校の「廊下を走るのはやめましょう」という張り紙に近い効果しかないわけだわな。

 しかし、それでは世界の知的財産権は破られ放題でやったもん勝ちになってしまう。そこで登場したのが、WTO設立協定(世界貿易機関を設立するマラケシュ協定 )だ。WTOとは世界貿易機関なわけだが、その附属書1Cとして「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)を作成し、「加盟国は、1971年のベルヌ条約の第1条から第21条まで及び附属書の規定を遵守する。」(同協定第9条第1項)として、著作権についてはベルヌ条約を守れやってーことになっている。そして注目されるのが、このTRIPS協定に違反した場合には、当事国が違反した国に対して紛争解決に係る規則及び手続に関する了解(WTO設立協定附属書2・DSU)に則って訴えを提起し、紛争解決を図れるという点だ(DSU附属書1(B)、TRIPS協定第64条)。その背景としては、「先進国は…ベルヌ条約など既存のWIPO所管の知的財産権条約はその違反に対して有効な制裁措置を課すことができないことから、実効的な履行確保手段を欠いていると考え、知的財産権保護の約束をGATTの一部に取り込むことで、違反に対するGATT第23条第2項の貿易制裁措置の発動を可能にし、もって協定の履行を確保しようとした」とされている(尾島明『逐条解説 TRIPS協定』(日本機械輸出組合、1999年)268頁)。

 なおDSU第3.1条では、「加盟国は、1947年のガットの第22条及び第23条の規定の下で適用される紛争の処理の原則並びにこの了解によって詳細に定められ、かつ、修正された規則及び手続を遵守することを確認する。」と規定され、WTO加盟国が従来のGATT(関税及び貿易に関する一般協定)手続の基本原則を踏襲すべきことを定めているところである。

 DSUにより紛争を解決するに当たっては紛争解決機関(DSB、DSU第2.1条)により手続が進められるが、その流れは下記の通りとなる(尾島・前掲281頁)。

協議の要請(提訴国)⇒協議⇒(相互に満足のゆく解決:終了)⇒パネル設置要請(提訴国)⇒パネルの設置(DSB)⇒パネルへの付託事項及びパネリスト決定⇒パネル審理(意見書提出・口頭弁論)⇒パネル報告書⇒(上訴する場合 上訴申立(敗訴国)→上訴審理(常設上訴期間)→上訴審報告書)⇒パネル(上訴審)報告書採択(DSB)⇒勧告履行のための合理的期間の決定(仲裁)⇒(勧告の履行)⇒制裁措置発動許可の要請(勝訴国)⇒制裁措置発動認可(DSB)⇒制裁措置の量の決定(仲裁)⇒制裁措置発動(勝訴国)

 今までにWTOでどんな紛争が提起されたのかを知りたければ、WTOウェブサイトの"Chronological list of disputes cases "を見れば分かる。2008年12月7日現在(確認)で1995年1月以来、383件提訴されていることが分かる。

 日本が著作権に関連して提訴された案件に関して言えば、DS28DS42でそれぞれアメリカ、ECから1996年に提訴されたものがある。何が問題になったのかというと、日本では昭和45年までは旧著作権法(明治32年法律第39号)が適用されていたが、そこでは実演家の権利やレコード製作者の権利の保護期間は死後又は公表後30年とされていた(同法第3条~第8条)。その一方で、1994年に採択されたTRIPS協定では、第14条第5項で「実演家及びレコード製作者に対するこの協定に基づく保護期間は、固定又は実演が行われた年の終わりから少なくとも50年とする。」とされ、同条第6項ただし書きで「1971年のベルヌ条約第18条の規定は、レコードに関する実演家及びレコード製作者の権利について準用する。」と規定されていたことから、著作隣接権である実演家とレコード製作者の権利についてどれだけ遡及的に保護期間の延長を図るのかが問題になった(TRIPS交渉等の国際動向などに伴う平成3年改正前は、著作隣接権の保護期間は実演等の後30年間。加戸・前掲577頁参照)

 この点、日本政府はベルヌ条約第18条第3項の「前記の原則の適用は、これに関する同盟国間の現行の又は将来締結される特別の条約の規定に従う。このような規定がない場合には、各国は、自国に関し、この原則の適用に関する方法を定める。」の解釈について、どの程度過去の実演等まで保護する必要があるのかは各国の合理的な裁量に委ねられると考えた上で、著作隣接権制度が日本に導入された昭和46年1月1日(改正当時から見て25年前のものまで)以降に行われた実演、放送、同日以降にその音が最初に固定されたレコードのうちWTO加盟国に係るものを新たに保護対象に加えることとされた(加戸・前掲769-772頁、著作権法第7条第7号・第8条第5号・第9条第4号、附則旧第2条第3項参照)。ところがアメリカとECは日本の著作権法改正の措置では不十分である(50年前のものまで保護すべきである)として、WTO提訴をしたというわけだ。

 日本政府としては話が違うぞゴラァーって感じだったが、ほかの先進諸国では著作隣接権を50年前まで遡及して保護しており、国際的な調和を図る観点から、米国等の主張を受け入れ、平成8年に再度法改正したという経緯がある(加戸・前掲770頁、作花文雄『詳解著作権法(第3版)』(ぎょうせい、2004年)540-541頁参照)。

 では、お前んちのラーメン屋にどなりこんだ外国人のおっさんが言ったことはどういうことなのか?これはおそらくWTOのDS160を念頭に置いて言ったものと考えられるな。内容はだなあ、アメリカの著作権法第110条(5)では、ラジオやテレビで放送される音楽を、一定の条件の下で、飲食店や小売店舗において、著作権者の許諾を要することなく、またロイヤリティの支払もなく、流すことを許容するというものである。この条項が例外として許容しているのは、ひとつは"homestyle exemption"(同第110条(5)(A):家庭利用に関する著作権免除)であり、もうひとつは"business exemption"(同第110条(5)(B):商業利用に関する著作権免除)と言われるものだが、これらがベルヌ条約第11条等に違反するとして、ECが1991年1月にアメリカをWTOに提訴したというものだWTO法研究会『米国著作権法第110条(5)に関するWTOパネル報告書の日本語訳と解説(WT/DS160/R, 2000年6月15日付)』(日本機械輸出組合ウェブサイト)。結論としてはパネル報告書69頁で、"homestyle exemption"はベルヌ条約に適合するが、"business exemption"については適合しないということになった。この規定は、さっき言ったわが国の著作権法第38条第3項、すなわち店内のテレビによる伝達に係る著作権制限規定にも係ることから、日本が第三国としてこの紛争に参加したところだ著作権審議会国際小委員会(第4回議事要旨)(平成12年6月30日)参照)。もっとも、アメリカ著作権法第110条(5)の規定は今も相変わらず改正されていないようだが。国力があって、ドラえもんのジャイアンみたいに「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」って具合に、人には突っ込みを入れるのに、手前のことになると開き直るという態度をとる国はそんなもんなんだろうがな。

 ちゅーことで、家系ラーメンの経営者としてはわが国の著作権法第38条第3項を盾にとって著作権侵害でないことを主張できるが、国際的な問題については日本政府がんばってねー、ってことになるだろう。外国政府からのWTO提訴がこわかったら、先回りして著作権法改正で同項を削除するのも手かもしれねえがな。

Q37:著作権譲渡のおいしい投資話が来ているのですが…

:タイゾーさん、こんばんは。おれは六本木ヒルズ族になることを夢見ている投資家です。そんでもって、儲け話には結構敏感なんすよねえ~♪

 そんなおれっちに、最近おいしい話が来たんすよ。これ、いつもタダで著作権情報を教えてくれるタイゾーさんにだけの秘密なんすけど、とある有名な音楽アーティストから、その人が作った楽曲の著作権をまるごと破格の値段で譲渡してくれるっていうんすよ。彼によれば「JASRACに登録している楽曲の著作権は全部ぼくの手元にあります」「ぼくは音楽出版者とはインディペンデントなんで完全な著作権者です」と言ってから、「いまは節税するためにぼくの関連会社に著作権を預かってもらっていますが、この通りちゃんと文化庁で同社へのパーフェクトな著作権譲渡の登録をしています。」と著作権登録原簿の謄本を差し出しました。確かに謄本には1番目の権利者はそのアーティストで、2番目が彼の関連会社となっています。お金を振り込んだら、おれへの著作権譲渡の登録を文化庁でしてくれるそうです。

 おれはすっかり信用したんで、銀行やサラ金から借りてでも、このまるごと著作権を買い付けようと思ってんだけど、著作権のことよく分かんないんで、何か重要な点や注意すべき点があったら教えてくれや。儲けが出たら、ちょっとは分けてやっからよ!

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:儲け話か。俺様は1日に1回、吉野家の牛丼を食えればそれでハッピーだから、とんと興味はねえな。つか、手形や株券みたいに、音楽著作権の流通を投資の対象にするって言うのは、日本では聞いたことがねえなあ。

 秘密の話か。信用してくれてありがとな。つっても、このブログに書いた時点で、日本全国のピリ辛マニアに周知の事実となっているのだが(爆)。なんでかってーと、この話はかなりうさんくさいからだ。俺様の疑問点としては主に2点ある。

 第1に、「JASRACに登録している楽曲の著作権は全部ぼくの手元にあります」というのはありえないということだ。「Q36:ユーザーフレンドリーな音楽著作権管理会社を作りたいのですが…」で言ったように、JASRACは作詞家・作曲家又は音楽出版者(著作権者)との間で著作権徴収について裁量がある信託契約の受託者をしているのであり、単なるパシリ君ではない。そして著作権は名義上JASRACに移転している(いわば預かっている状態)から、著作権者(委託者)といえども信託法上、勝手に著作権を他人に移転することはできない信託法第146条第1項では「委託者の地位は、受託者及び受益者の同意を得て、又は信託行為において定めた方法に従い、第三者に移転することができる。」と規定しているように、著作権者はJASRACの同意を得ない限り移転できないわけだ。この点、JASRACの著作権信託契約約款では次のように規定されている。

(著作権の譲渡)
第10条 委託者は、第3条第1項の規定にかかわらず、あらかじめ受託者の承諾を得て、次の各号に掲げるときは、その著作権の全部又は一部を譲渡することができる
(1) 委託者が、社歌、校歌等特別の依頼により著作する著作物の著作権を、当該依頼者に譲渡するとき。
(2) 委託者が、音楽出版者(受託者にその有する著作権の全部又は一部を信託しているものに限る。)に対し、著作物の利用の開発を図るための管理を行わせることを目的として著作権を譲渡するとき。

 したがってこの約款によれば、てめえのような単なる投資家にはJASRACは著作権譲渡を同意せず、有名アーティストから著作権を譲渡されても無効ということになる。

 第2の疑問点は、文化庁の著作権登録についてである。だいぶ前に「Q2:著作権登録して大儲けをしたいのですが」でも答えたが、著作権法では著作権を取得するための登録制度はない。何度もいうが、登録せずに著作権が発生する(無方式主義)のが著作権の特徴だからだ(著作権法第17条第2項参照)。この点で特許権、実用新案権などの産業財産権と大きく違う。

 著作権登録には主に5つの登録制度がある。実名の登録、第一発行(公表)年月日の登録、(プログラム著作物の)創作年月日の登録、著作権・著作隣接権の移転等の登録、出版権の設定等の登録である。これらはいずれも事実の推定や権利変動の表示を登録するものである。詳細は文化庁ウェブサイト「著作権登録制度」を参照することだな。なおたまに著作権登録は複雑であるため活用されず著作物流通に支障が生ずるという誤報があるが、『登録の手引き』を読めば小学生でも申請書を作成して提出できるレベルとなっている。逆にこれを読んでも分からなければ、小学生やり直し!確定だがな。また登録費用(登録免許税額)は1件当たり、①で9000円、②で3000円、④のうち著作権の移転の登録で18000円となっており(登録免許税法別表第一)、それほど高額というものではない。

 これらのうち③を除いた登録の一部については、「著作権等登録状況検索システム」を利用して、登録番号・登録年月日・著作物の題号・著作者の氏名を調査することができる。ためしに、今話題の「小室哲哉」を検索してみると、52件ヒットする(2008年11月6日現在)。同じ著作物の題号が1曲につき作詞した分と、作曲した分の2つある場合(著作物の題号が同じもの)を含むことから、(著作物の種類はこの検索結果では分からないが)おそらく同氏が作詞・作曲したものが34曲分あると考えられる。登録年月日は、平成17年10月27日・平成17年11月25日・平成17年11月29日・平成18年7月5日・平成20年5月15日と5回分ある。

 しかし、小室哲哉氏のような超メジャー級アーティストが文化庁の著作権登録をするのはごくまれだろう。なぜならば、楽曲の著作権の状況は、JASRACなどの著作権管理団体でデータベース管理され、著作者等が使用料を受け取る分には、文化庁に登録しなくても支障はないからだ。ネットでも、前に紹介したMusic Forestや、JASRACJ-WID(作品データベース検索サービス)[JASRACサイトトップページの右上にバナーあり]がある。

 今回はJ-WIDで、小室氏の曲のうちかつてJR東日本のCMで使われた"DEPARTURES"について検索してみよう。作品タイトルに「DEPARTURES」、権利者名に「小室哲哉」と入力する。すると1件ヒットしクリックすると、権利者情報として「小室哲哉:作詞・作曲」「エイベックス・グループ・ホールディングス 株式会社:出版者」「全信託 JASRAC」と記載され、演奏から通信カラオケまですべてJマークが入っている。これは、著作権が小室哲哉氏から音楽出版者のエイベックスに移転され、JASRACがエイベックスからすべての著作物利用について著作権信託を委託されていることを意味する。ここで注意の欄の「未確定」マークに注目する必要がある(2008年11月6日現在)このマークは次の意味を有する

現在は権利が未確定な状態です。
未確定は大きく分けて以下の場合があります。
1)利用者情報で権利者からの届出がない作品
2)権利者からの届出が作品の一部についてであり、その他の権利が未確定の作品
3)複数の権利者からの届出で、権利者によって主張が異なり権利が確定できない作品

 したがって、この楽曲を利用したり権利移転するときは要注意ということになるだろう。

 今回の儲け話で関係あるのは、④の著作権の移転の登録だな(著作権法第77条第1号)。この登録の効果は、著作権の変動を登録することによって、その事実を第三者に対抗することができるということだ。これはちょうど、不動産に関する物権の変動の対抗要件として、民法第177条が「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と規定しているのと同じことだ。

 このような権利の対抗関係は、著作権の二重譲渡がある場合に実力を発揮する。つまりだ、今回てめえが著作権の移転登録をめでたく受けた場合、登録を受けていないもうひとりの譲受人(音楽出版者)に対して著作権を主張できるということを意味する。民法の通説では、対抗できる「第三者」の意味としては、「登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者」、具体的には、権利の二重譲渡があったことを単純に知っていた場合(悪意)も含むが、悪意を超えて相手方を害するなどの目的を有する背信的悪意者は自由競争の範囲を逸脱して保護に値しないとされている(大判明治45年6月1日など)。ちゅうことで、今回儲け話を持ってきた奴が著作権を二重譲渡していたとしても、著作権の移転の登録を先回りして済ませあんたが善意又は単純悪意者に該当すれば、もう一人の譲受人に勝てるということになる。

 もっとも、JASRAC等の管理楽曲について文化庁で著作権移転登録を済ませたからといって、二重譲渡の場合に著作権登録していない音楽出版者等に対して優位に立てるとは俺はあんまり思えない。なぜならば、さっきの小室哲哉の"DEPARTURES"のように二重譲渡などの権利の不確定要素があればJ-WIDなどのデータベースで「未確定」マークがつき、JASRACが利用者から徴収してきた使用料を、文化庁登録上の権利者(対抗関係の勝者)に素直に渡すとは考えられないからだ。権利が確定してから払いマースということになるだろう。そうなると、二重譲渡になるような曰くつきの著作権を買い取っても著作権料をゲットすることはできず、溝に金を捨てるに等しいと言える。せーぜい、裁判所に著作権登録の謄本を持参して差止仮処分の申立をし、JASRACから利用許諾を得たユーザーども(カラオケ店、レストラン、放送局など)の楽曲利用を一時的にストップさせられる可能性があるくらいだわな。

 なお、文化庁の著作権登録事務では、J-WIDで未確定マークがあろうが業界でやばい噂が流れていようが、原則として関係なく事務をすすめることになる。不動産登記と同じように、法律上書面審査だけで済ます形式的審査権しか与えられていないからだ。

 こんなこというと、「法律の不備だ!」「法改正だ!」あげくのはてにはユビキタスネット社会の制度問題検討会『ユビキタスネット社会の制度問題検討会報告書』(平成18年9月)のように、著作権の発生・延長・消滅を国の登録制度と結びつけようというデンパな主張が出てくることが容易に想像される。

 しかしそういう考えは、そもそも論として「方式主義」となり「無方式主義」を採用する国際著作権条約(ベルヌ条約、ローマ条約、WCT、WPPTなど)に反するおそれが高い。また国の著作権登録に実質的審査権を付与するためには、特許法のような権利審査制度・登録不服申立制度などを整え役所の組織や人員を拡充する必要があるが、それは現在の行政改革の流れに反するだろう。それにJ-WIDなどの民間業界の集中管理体制で十分な場合があるだろうしな。(吉田大輔「ネット時代の著作権56 『著作権に登録制』???」出版ニュース2006.10/中 20-21頁参照)。まあ、文化庁の著作権課が著作権庁に組織再編されたときに初代長官や審判長になるのもわるくはないかもしれねえがなw。

 ちゅーことで、今回の話に乗らないほうが、身の安全というものだぜぃ。