条約

Q17:著作権規制特区を提案したいのですが

Q:こんばんは。ぼくは大学で政策系学部に所属する学生です。法学部の学生とは違って、法律解釈や判例分析に拘泥せず、法と経済学の視点から、建設的な政策を創り出そうと、ゼミや仲間の間でディスカッションに明け暮れる毎日です。

インターネットやパソコンをよく利用しますが、その中でソフトのコピー、You Tubeなどの動画共有サイトへのアップロードを禁止する著作権法を障害に感じるようになりました。法学部生が使う著作権法の教科書を読むと、「著作権を保護しなければならない」「人格の発露である著作物の創作は自然権として当然に守られる」など、著作物を著作権者に無断で使うのは著作権のことを何も知らないやつらの仕業であり、もっと著作権の教育を普及させないといけないと言わんばかりのものと思えました。

しかし、政府が作った著作権法によりソフトや音楽などの著作物を使えないのは、まさに一部の業界団体の独占を許し公正な競争を妨害する規制ですよねえ?そこで今度、政府の構造改革特別区域推進本部が実施する構造改革特区の提案募集に応募して、この規制を緩和しようと考えています。

そこで御相談ですが、著作権規制特区の提案をするに当たってはどのような点に注意すればよいでしょうか?今のところ、非営利目的で利用する場合はコピーやインターネットへのアップロードを自由化することを考えていますがいかがでしょうか?

あんたの言っている意味が訳が分からないんだけど(爆)。どっかのブロガーに唆されているバカ議員や、電話屋あがりのデンパ学者が言っていることをまねっこして「法と経済学」の観点からという前に、法律の基本的なことからおさらいしてみよう。

規制緩和の「規制」とは何か。ソフトウェアや音楽をJASRACなどの著作権者に突っ込みを入れられて自由に使えないのは確かに煙たいことではあるわなあ。自分の思いを満たせないからな。しかしこの場合、突っ込みを入れるのは文化庁などの政府ではなく、あくまで私人としての著作権者や私法人としての権利者団体だ。

私人からの突っ込みで自分の思いを満たすことができない例としては、好意を告白した女性にふられた場合や、田園調布の高級豪邸に住む夢を果たすためにあがろうしても住人に立ち入りを拒否される場合などがあるだろう。

それでは、規制緩和とは何か?広義では「私人に対する国や地方公共団体等による公的関与・制限を撤廃あるいは軽減すること」、狭義では「個別具体的な経済政策的又は社会政策的観点から、特定の行為・事業分野等に対して課される規制を緩和すること」に用いられるとされる。電気通信・電力などの公益事業や、運輸事業、金融・証券・保険事業などの規制産業に対して問題にされたことがきっかけとなっている(『法律学小辞典[第4版]』(有斐閣、2004年)175頁)。

しかし著作権は私人の権利だ。家や自動車の所有権と同じというわけだな。家・自動車については「勝手につかっちゃだめ!」と言っても納得がいくのに、音楽・ソフトなどの著作物の利用だと急に態度が大きくなり「ユーザーの権利の侵害」と無断利用者が言い出すのは、家・自動車が手で掴める有体物で一般人が一目置くのに対して、著作物は無体物で「へっ!空気みたいなもんだぜ!」とチャライものだと思っているからだろう。こういう意識があることから、著作権法の教科書で著作権意識の重要性を説き、さらに「著作権思想の普及」をしようとする声があるのだろうがな。

つうことで、著作権の主張は家・自動車などの有体物の権利主張と同じことであり、特別目立った規制とは言えない。

結局この問題の核心は、「著作権という権利をとりまく私人間の利益調整の問題」である(白鳥綱重「著作権法政策の動向」L&T No.31(2006年4月)39頁)。具体的には著作権者と利用者の間の利用許諾契約の問題で済む話がほとんどであろう。著作物を利用できるかどうかは、制度の問題ではなく、いかに利用者側が有利な条件をゲットできるような交渉力をもっているかにかかってくるだろう。独占や競争妨害の問題は著作権制度よりも、むしろこの具体的な契約の段階で現れることだろう。

仮に著作権を規制として政府が著作権者の権利行使を抑制し利用者に有利になるように援助すれば、これは正に規制行政の強化になろう。先ほどの例で言えば、もてない男のために女性の意思を強制して無理やり付き合わせ、また高級豪邸に住む夢をかなえるために住人の静穏な生活を我慢させるのと同じことである。このようなことは、社会福祉?の観点から行う必要があるのかもしれんが(笑)、私人の欲求のために公的な関与により別の私人に負担を負わせるのはいかがなものであろうか。

つうことで、せっかく構造改革特区の提案をしても、担当の役人に「はいはい、また勘違い野郎がやってきましたか」と言われて、まともに相手にされないのがオチなので、お勧めはしないな。

| | コメント (0)

Q13:星の王子さまってフランスでは著作権があるの?

:タイゾーさん、こんにちは。Q3Q4Q9で回答していただいた乙女です。『ピリ辛著作権相談室』を毎日読んでいたせいか、最近は著作権の勉強にはまりつつあります。今日は、Q3で回答してくださった星の王子さまの著作権の保護期間について再度質問したいと思います。

インターネットで、『読売新聞』「大手町博士のゼミナール 著作権の保護期間」(2006年11月21日付)を読んだところ、当時の文化庁著作権課長の甲野正道さんが「フランスなどでは著作権が保護されているサン・テグジュペリの『星の王子さま』などの作品が、日本では保護期間が過ぎたために自由に翻訳され、新訳本として出版されるケースが出ています」と発言されています。

これを読んで驚いてしまいました。フランスでは著作権者の許諾がなければ『星の王子さま』を翻訳できないのですか?日本でできてフランスではできないって、どういうことですか?ぜひぜひ教えてください。

P.S.こんどぜひ、いっしょに著作権のお話でもしながら、お茶でもしましょう。このブログに載せてもいいですよ★

A:オッス!著作権にはまるっていうのは、チャンスかもしれないぜ。これだけ著作権が話題になっているのに著作権を理解しているやつはめったにいないから、数年前なんて「この著作権法改正で輸入CDがストップする!」というデマを真に受けたバ・・・、ではなくて御心配性な方々が一流マスコミも含めて続出したぐらいだしな(爆)。普通のOLさんが会社幹部の前でこのブログの内容のレベルのことをスラスラ言ったら、ビックリするぜ。

質問に入るが、甲野課長が言っていることは本当だぜ。前にも言ったとおり、日本では著作権の保護期間は著作者の死後50年だが(著作権法第51条第2項)、フランスでは死後70年となっている(知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律第123条の1条第2項)。これは欧州委員会理事会指令の一つである著作権及び特定の関連する権利の保護期間を調和させる1993年10月29日の理事会指令」( COUNCIL DIRECTIVE 93/98/EEC of 29 October 1993 harmonizing the term of protection of copyright and certain related rights )第1条第1項で規定され、EU加盟国であるフランスもこれに合わせたことによる。

ここまで言うと、多少著作権を知っているやつは「あれ、ベルヌ条約では死後50年ではないの?」と思うやつがいるかもしれないな。確かにそれは正解であり(同条約第7条(1))日本もそれに従っているが、同条約では死後50年よりも長い保護期間を加盟国が立法で定めることを認めている(同条約第7条(6))ので、死後70年が条約違反ということにはならない

この点、1993年の保護期間の理事会指令の前文(5)では「ベルヌ条約に定める最低限の保護期間、すなわち著作者の生存間及びその死後50年は、著作者とその子孫の最初の2世代に保護を与えることを意図したものであり、共同体における平均寿命はより長くなっており、この期間はもはや2世代を保護するには不十分であるところにまで至っている」と書かれている。日本で保護期間延長論者が子孫に残すことを延長の根拠としているのは、この規定も関わっていそうだな。

それではフランスでは死後70年保護されるフランス人の著作物は、日本でも死後70年まで保護されるのか?

この点、ベルヌ条約第7条(8)では「保護期間は、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる」と規定している。つまり、死後50年だけ保護される日本においては、フランス人の著作物も同じ期間しか保護されないということになる。質問にあった甲野課長のコメントの通り、フランスでは著作権者の許諾がないと翻訳できないのに、日本では自由に翻訳できてラッキー、という状況が生まれるというわけだな。

その代わりに、同項ただし書きでは、「保護期間は、著作物の本国において定められる保護期間を超えることはない。」と規定されている。つまり、外国人の著作物の保護期間については、そいつの本国の保護期間が自国より短い場合は、その短い分だけ著作権を保護してあげれば足りるということだな。こういうのを、相互主義という。

だから、日本ではサンテグジュペリの作品を自由に翻訳できてラッキーと思っていても、フランスでは1945年9月10日に(認定)死亡したサンテグジュペリ*注や同じ時期に亡くなったEU諸国やアメリカの国民の作品が保護される一方で、同じ時期に死亡した日本人の作品はコピーされ放題ということになる

「保護期間は何がなんでも50年」とか「日本が率先して保護期間70年の先進国の潮流を止めよ」というのは勝手だが、著作物の最大の市場がEUやアメリカであることを考えれば、やみくもに保護期間について独自性を貫くのは、日本がこれから著作物を外国に輸出しようと考えるのであれば、将来に悔恨を残すことになるかもしれないな

たまに、みかん箱の上で必死にもの書きをしておまんま食い上げ寸前の俺様と違って、悠長なアーティストや作家が「みんなに使ってもらって、名誉だけ得られればそれで足りるから保護期間はいらない」とか言っている世間知らずがいるが、そういうやつはQ12で言ったように著作権を放棄すればいいのだから、保護期間の延長に反対する根拠にはならないだろうな。

保護期間を伸ばしたい著作者と伸ばしたくない著作者が対立したら、制度上は伸ばしておいて、伸ばしたくないやつや著作権を放棄したいやつは、個別に(後で権利の放棄を撤回できないように)公的な権利放棄の登録をして、みんなに使って欲しい、名誉だけで満足という思いを達成すればいいんじゃねーの。著作権の発生が無方式主義である以上な。

現にこの点について、文化審議会著作権分科会 第6回・過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(平成19年7月27日開催)において、上野委員が「もし保護期間を延長することになりますと、すべての著作者の著作物について一律に保護期間を延長することになりますので、自分の作品はどんどん使ってもらいたいというクリエイターさんの著作物の保護期間も延長されることになります。そのため、保護期間を延長してしまうと、そのような著作物がかえって利用されないことになってしまって不都合だというような声をよく耳にするわけであります。
 ただ、著作権というのはあくまで私権でありますから、財産権として自由に処分していいはずであります。ですから、そういうクリエイターさんは自分の著作権を放棄すればいいのではないかと思うわけであります。」と言ってるぜ。

P.S. お誘いありがとう。ちょっと考えておくぜ。

*注:サンテグジュペリがフランスのために死亡(戦死)したことが死亡証明書から判明する場合には、フランスにおいては著作権保護期間が通常より30年延長される(知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律第123条の10条第1項)

【参考文献】

『欧州委員会理事会指令』〔駒田泰土訳〕(社団法人著作権情報センター、1996年)35-43頁

| | コメント (0)

Q9:台湾人の著作権って、日本で保護されるの?

:タイゾーさん、こんにちは!Q4の映画盗撮の話ではいろいろ質問に答えてくださって、ありがとうございます。すいませんが、またまた質問します。

哈日族(ハーリーズゥ)って知ってますか?日本のアニメや文化などに興味のある若い世代をいい、台湾の漫画家で日本大好きな哈日杏子(ハーリーキョウコ)さんが作った言葉だそうです。私はこの哈日杏子さんの漫画が好きで、本も何冊か持っています。

この前、ネットを見ていたら、漫画をスキャンしてアップしている掲示板があって、その中に私が持っている哈日杏子さんの漫画の画像がありました。

さっそく掲示板の管理人の方に「それは著作権侵害に当たるので、すぐに削除してください」ってメールしました。すると管理人の方からの返信では「哈日杏子は台湾人で、台湾は日本政府と国交をしていない未承認国家。そういう未承認国家の著作権は守らなくていいって、政府が言っています。その例として北朝鮮がありますよ。」って書いてありました。

これって、本当なんですか?著作権って人権なんだから、どの国の方でも守らないといけないんですよねえ?どういうことなのか、教えてください。

:また来たんだな、Q4の乙女さん。あんたの質問だったら、ほかのしけた質問を飛ばして、すぐに答えてあげるよ。

「著作権って人権」ってどっかで聞いたことがあるが、憲法の基本的人権とは違い、世界どこに行っても通用する権利じゃないぞ。あくまで、国の法律によってつくられた権利だ。そして原則として日本の法律は日本だけで、台湾(中華民国)なら台湾国内だけに効力が及ぶ。これをまずはおさえてほしい。

その上で、わが国の著作権法で保護を受ける著作物(第6条)を確認しよう。

1.日本国民の著作物

2.最初に国内において発行された著作物(最初に国外において発行されたが、その発行の日から30日以内に国内において発行されたものを含む。)

3.前2号に掲げるもののほか、条約によりわが国が保護の義務を負う著作物

哈日杏子の漫画が1.に当たらないとして、2.に該当することはありうるだろう。その限りでは掲示板の管理人が言っていることが当てはまらない場合があることになる。

では、2.にも該当しない漫画についてはどうか?

こういう場合がまさに、ベルヌ条約などの著作権国際条約の出番だろう。各国の著作権法は各国内でしか通用しないが、国外にも流通する著作物について国外に著作権を主張することができないとなると不都合であるため、そのような国際条約が多数国間で締結されているのだ。

台湾について言えば、ベルヌ条約には加入していないが、WTO設立協定には2002年1月1日に加盟しており、これと一体となっているTRIPS協定第9条で「加盟国は、1971年のベルヌ条約の第1条から第21条まで及び附属書の規定を遵守する。」とされているため、台湾人の著作物は第6条第3号の「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」として、日本の著作権法で保護されることになる。

では、掲示板管理人が「未承認国家の著作権は守らなくていいって、政府が言っています。」と言ったのは、どういうことなのか?

これはおそらく、北朝鮮が2003年にベルヌ条約に加盟したときの政府の見解を元に言ったものだろう。このとき、日本と北朝鮮との間で著作権が発生するかどうかについて、

日本は北朝鮮を国家として承認していないため、北朝鮮がベルヌ条約に加盟しても、日本に対して法的な効果を一切及ぼすことはなく、日本との間で条約上の権利義務関係が生じることはない。」というコメントを文化庁が出している(『コピライト』20037月号13頁)。

そうなると、日本の未承認国家である台湾に対してもまた、日本では条約上の権利義務は発生しないのか?

ところがどっこい、台湾はWTO設立協定には、実は国家として加盟していない。2001年9月18日のWTOのプレスリリースで、"WTO successfully concludes negotiations on entry of the Separate Customs Territory of Taiwan, Penghu, Kinmen and Matsu"と報じているように、独立の関税地域(チャイニーズ・タイペイ)として加盟している。WTO設立協定では、国家だけでなく独立の関税地域も加盟でき(第12条)、内国民待遇など、「国」を含む規定において、国と同等に独立の関税地域にも適用されるのだ(注釈)。関税地域ということであれば、北朝鮮の場合とは異なり、国家承認をしているかどうかは条約の効力に影響を及ぼさない。

したがって、台湾人の哈日杏子の漫画は、日本の著作権法6条3号により著作権は保護されることになり、哈日が著作権侵害を主張すれば、さっきの管理人は責任を問われることになる、っつーことだな。

【参照】『台湾における著作権侵害対策ハンドブック』(文化庁、平成16年12月)69頁

文化庁『著作権なるほど質問箱』「私は台湾人ですが、私の書いた絵画は日本で保護されますか。

テクノラティお気に入りに追加する

| | コメント (2)