肖像権

Q11:愛娘の写真がネットにアップされたのですが

Q:はじめまして。私は小学校に通う娘を持つ、とある企業に勤めるサラリーマンです。平日は夜遅くまで仕事をして、夕飯を家族団らんでとることもできませんが、その分休日は家族サービスをしたり、ホームページで娘の写真日記をつけて、家族の思い出作りに努めています。

先日ネットサーフィンしてあるホームページを見たところ、「色っぽいローティーンの海辺のフォトグラフ集」というホームページがありました。何気なく見たら、なんと夏休みに家族で行った地元の海水浴場で娘が裸になって遊んでいる画像があり、それとともに我が家のホームページにある娘の顔写真が並べられていました。「まだまだ発育中だけど、かわいいお顔で萌え萌えだわ~ん」というふざけたコメントが書き込まれ、わが家を知っていると思われるこのホームページの管理人を八つ裂きにしたい気分になりました。わが家のホームページへのアクセスログの確認、近所での聞き込み、「色っぽい…」のホームページのプロバイダーに調査などをした結果、ある人物が被疑者であると特定しました。

しかし自力で死刑執行できないことは理性で分かっていましたので、早速妻と警察署に行って、管理人をどのように法律で罰することができるのかについて相談しに行きました。

いろいろ聞いたところ、盗撮を理由に迷惑防止条例で罰すると懲役6ヶ月、子どもの裸をインターネットで提供したことを理由にすると児童買春・児童ポルノ禁止法により懲役3年にすることができるということでした。でもそれだと、初犯の被疑者には執行猶予が付いて、社会にそのままいる可能性があるとのことです。そんなやつを再び娘に近づけるかもしれないと思うと、背筋が寒くなる思いでした。

そう思ったとき、警察官が「デジタル写真の犯罪といえば著作権法があるけど、著作権違反をすると懲役10年以下だから、実刑にできるんだけどなあ…」とポツリとつぶやきました。

このとき私は「それだ!」とひらめきました。著作権って、最近ネットで勝手に画像を使われたということで、よく訴えられていますよね。あと肖像権が侵害されたということもニュースで問題になっていますよね。

子どもの裸という社会的に悪い内容の画像をアップし、また肖像が侵害されたことにより、著作権法では具体的にどのように罰せられるのですか?このままでは気がおさまらないので、宜しくお願いします。

:かわいい娘を自分の欲求を満たすためにナニをしたロリコン野郎を抹殺したいというあんたの気持ちには、激しく同意する。しかし法律で処罰するには、犯罪が成立するための構成要件を満たす必要があるので、落ち着いて考えてみよう。

法律に処罰規定がある場合、その背景には保護法益がある。あんたが怒っているのは裸を撮られネットで晒されたことによる子どもの名誉・社会的評価の低下であるが、著作権の保護法益は基本的には著作権という個人的財産の排他的支配である。刑法のわいせつ罪のように社会的法益を保護法益としないので、画像の内容が風俗を乱す悪いものだから犯罪が成立するという性質のものではない

また、肖像権についてはよく質問があるが、これは著作権法に規定のない権利である。肖像権とは「人の肖像を、その人に無断で写真撮影をしたり、絵画、彫刻等で複製すること、又は、この複製した写真等を無断で公表すること」により侵害される人格的利益をいい、京都府学連事件最高裁判決(最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁)をきっかけに認められた判例上の権利である(大家重夫『肖像権 新版』(太田出版、2007年)16頁以下)。法律に根拠のある権利ではないため、権利侵害について損害賠償を請求できても、刑罰を科すことはできない。

さらに、無断で写真を撮られた場合、その写真の著作権は誰のものか?この点、今の著作権法ができる前にあった旧著作権法(明治32年3月4日法律第39号)第25条では、写真館で撮影した肖像写真のように、嘱託による写真肖像については嘱託者が著作権を持つと規定されていた。しかし現行著作権法においては、著作物を創作した者が著作者となるので(著作権法2条1項2号)、人の肖像を無断で撮っても、その画像は撮影者が著作権を持つことになる

今回の事例にあてはめると、問題のホームページにあったロリコン野郎が撮影した娘の裸の画像と、あんたの家族ホームページでアップした娘の画像のうち、著作権侵害の構成要件に該当するのは後者となる。前者はロリコン野郎が著作権を持つのに対して、後者はあんたが画像を作成して著作権を持っているからだ。

したがってロリコン野郎は、あんたの写真日記に掲載されていた娘の画像を勝手にアップロードしたことについて公衆送信権侵害(同法23条1項)が成立し、著作権者のあんたが告訴することによって(著作権法123条1項)、懲役10年以下若しくは1000万円以下の罰金、又はその併科(同法119条1項)を受ける可能性があることになる。裸の写真については著作権法上の責任を問えない。裁判実務的には、娘の家族写真一枚がネットにアップされた程度ではその財産的価値を考えると実刑判決は難しいだろう。売れ筋CDの海賊版を何万枚も販売した場合ならともかく。

平成18年の著作権法改正によって、著作権侵害の最高刑が懲役5年から懲役10年に引き上げられ、警察としては他の法令だと微罪になりやすい事柄、とくにデジタル関係についてはなるべく著作権侵害罪として立件する傾向にあるようだ。しかし罰則が対象としない保護法益についてまで刑罰を広げることは、刑事法の謙抑性に反することになる。

あんたら家族の法感情に反する結果となってしまうが、著作権によって罰則を科す場合には、権利の内容、保護法益を再確認する必要があるだろう。

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Q5:卒業式でのビデオ撮りをやめさせたいのですが…

Q:はじめまして。私は教師生活25年で、とある高校で校長をやっております。

さて我が校でももうじき卒業式を挙行する予定ですが、毎年頭を痛めるのが、君が代斉唱と日の丸掲揚です。上からの通達でどちらも実施しないとなりませんが、組合に入っている教員たちからブーイングが起こり、ボイコットされるので、なかなか実施できません。さりとて実施していないことが発覚すれば、上から懲戒処分を食らうは、保守系マスコミや右翼から叩かれるのは目に見えています。

発覚さえしなければいいのですが、そこで困ったのが親のビデオ撮りです。ハンディカム片手に生徒の晴れ姿を撮るのはほほえましいのですが、卒業式のシーンの中で、何を飾っているいないか、何を歌ったのか歌っていないのかが分かってしまうからです。それに噂によると、マスコミが各校の卒業式を取材し、親から録画ビデオを入手しているとのことです。校長の裁量権によりビデオ撮りを禁止することも考えましたが、親から反発を買いそうです。

しかしよく考えてみれば、卒業式では音楽を演奏し、生徒が歌を歌い、また生徒の顔などが撮られることから、著作権法上の問題がありますよねえ。そこで著作権法を理由に卒業式のビデオ撮りをやめさせることができるでしょうか。宜しくお願いします。

A:学校の管理職が、組合対策でヒーヒー言っているなんて、幻滅しちゃうねえ。。。

あのなあ、結論から言うとなあ、親たちが家で子どもの記録を後で見るために撮影する分には、特に問題はない。こういうのが私的複製という例外規定にあるんだということは、Q4「映画盗撮」でも言ったよな。

まず、卒業式では誰に著作権が発生するのかを整理しよう。

演奏する音楽については、作詞家と作曲家の著作権が問題となる(君が代自体については、既に著作権が切れている)。ピアノの演奏や歌の斉唱については、ピアノを弾いている先生や歌っている生徒に実演家としての権利(著作隣接権)が発生する。生徒の顔が映ることについては、特に著作権は発生しない。これは肖像権という一般民事法上主張される権利であり、判例で認められたものであって、著作権法の規定にはない権利である。

では、当初は家で観るために撮影したビデオを、マスコミに渡した場合はどうなるのか。その場合は、複製の目的が個人的・家庭内を超えるものとなり、もはや私的複製とは言えないので、原則どおり、権利者の許諾がなければ撮影できないことになる。

それでは、校長であるお前は、作詞・作曲家や先生・生徒に代わって(マスコミにビデオが渡る可能性があり)著作(隣接)権侵害であることを理由に、撮影を禁止することはできるか。

それはできない。なぜなら、著作権侵害は親告罪で権利を持つものしか主張できない(著作権法第119条第1号、第123条第1項)、お前は著作権法上、何も権利を持っていないからだ。著作権侵害の可能性がある、あるいはマスコミに報じられて学校運営が混乱する可能性があることを理由に撮影を禁止するのであれば、素直に校長裁量で決定した方がいいだろう。

あんたの苦しい立場は分かったが、著作権をそのように規制法と扱って、己の命令を正当化するためのスケープゴートにはして欲しくないな。著作権とは、創作者を尊重し、文化の発展の恩恵を互いに享受するための権利なのだから。その意味で、文化庁の著作権教育事業や、著作権イベント「実践!著作権」を見習ってほしいものだな。

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