報道・マスコミ

Q40:朝刊のスクープ記事が、他紙の夕刊にも掲載されていたのですが…

:こんにちは。ぼくは都内の有名私大法学部に通学する大学生です。ネットが好きで、ピリ辛もよく読んでいます。きっかけは大学で履修している著作権法の夏休みレポートを書くときに、テーマがピリ辛にアップされていたものと同じだったのでコピペ(コピー&ペースト)して提出したことでした。そのおかげで、余計な時間をかけることなくバイトや海外旅行とかしてエンジョイできたのですが、その講義の先生もピリ辛マニアだったため速攻でコピペ工作がばれてしまい、単位を落とすことになりました…。そのときに先生から、レポートを書くときの引用・出典の明示の重要性や、他の人が作った文章、画像などの作品をコピーするときには著作権が及ぶことを教えてもらいました。それ以来、コピペには注意するようになりました。

 そこでふと思ったのですが、ある新聞の朝刊に特ダネ記事が出たときに、その日の夕刊から後を追うようにして似たような記事が載ることがありますよねえ?これって、パクっていることにならないのですか?レポートのコピペと同じことが新聞では許されるのですか?ぜひ教えてください!

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:ピリ辛のご愛読ありがとな!おかげさんでブログ開設から2年弱で、アクセス4万件を突破する寸前まで来たぜ。来訪者も大学生・法科大学院生はもとより、大学研究者、官公庁、裁判所、国会関係機関、大企業、ベンチャー企業、大手法律事務所、教育委員会(小中高含む)、シンクタンク、図書館、マスコミ、海外の有名大学など、ありとあらゆるところからアクセスしていただいているぜ★。もはや日本の著作権法の情報源の一つとなっている言っても過言ではないな。

 大学のレポートで俺様のブログからコピペしたのがばれて気の毒だったなあ。似たようなことを新聞がやっているのを見て癪に障ったということだな。今回は著作権法上、マスコミがどういう特別扱い、すなわち著作権制限規定の適用がなされ著作物を権利者に無断で使える場合があるのかを考えてみよう。

 他紙の特ダネを新聞社が追いかけることについては、「○○が発表した」「○○は明らかにした」というふうに官公庁などの当局のリアクションによりかかる形をとれない場合には、「○○ということが、わかった」と書くとの慣行が新聞業界にあるという指摘がある(河野博子「『正確な引用』が競争のルール 他紙を追いかける米紙のたたずまい」Journalism No.22[2008.12]38頁)。具体例として下記の4つの記事を比較してみよう。

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共同通信2003年12月25日宗教法人の財務情報を開示 鳥取県が異例の判断 文化庁は非開示求める 鳥取県が宗教法人から提出された財務情報を県情報公開条例に基づき全面開示していたことが二十五日分かった。文化庁は一九九八年『信教の自由を害する恐れがある』などとして原則非開示を求める通知を各都道府県に出しており、同県の判断は異例。宗教法人をめぐる情報公開に影響を与えそうだ。〔以下略〕」(同月26日付『日本海新聞』『山陰中央新報』に掲載)

読売新聞2003年12月26日夕刊寺社のフトコロ見せます 鳥取県が情報公開 鳥取県が県情報公開条例に基づき、寺社二法人が二〇〇二年度分の財産目録や収支計算書に記載された財務情報を、全面開示していたことが二十六日、わかった。〔以下略〕」

朝日新聞〔大阪版〕2003年12月26日夕刊宗教法人財務を開示 鳥取県 文化庁通知に反し 鳥取県が宗教法人から提出された文書について県情報公開条例に基づき、財務情報を開示していたことが26日、わかった。文化庁は都道府県に対し『信教の自由を害する恐れがある』として、代表者名などを除いて開示しないように通知していたが、同県は『県の責任で宗教活動に支障はないと判断した』としている。こうした情報の公開は異例。〔以下略〕」

毎日新聞〔鳥取県版〕2003年12月26日夕刊宗教法人の財務情報を全面開示 鳥取県が宗教法人の財務情報を、県情報公開条例に基づき全面開示していたことが、26日明らかになった。宗教法人の情報開示を巡っては98年、文化庁が『信教の自由を害する恐れがある』などと、原則非開示を都道府県に通知している。〔以下略〕」

※最高裁平成19年(2007年)2月22日判決により、鳥取県による上記方針に基づく公文書開示決定(日香寺事件)は同県情報公開条例に違反するものとして取り消されるべき旨確定した(鳥取県公式サイト「宗教法人から提出された書類の情報公開に係る訴訟の判決の確定について」参照。宗教法人の書類提出制度については、文化庁ウェブサイト「所轄庁への書類の提出」参照。なお、宗教法人は信者等の利害関係者から財産目録等の閲覧請求があったときは、原則として閲覧させなければならない(宗教法人法第25条第3項))。

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 以上の4つの記事から分かる事実としては、(所轄庁に提出される)宗教法人の財務情報について、1998年に文化庁が「信教の自由を害するおそれがあるため」情報公開請求があっても原則として非開示とするようにとの通知を各都道府県に出した、①があったにもかかわらず、鳥取県は(当時の県知事の英(珍?)断により?)宗教法人から提出された財務情報に対する情報公開請求に応じて全面開示した、ということである。

 そして上記の河野博子氏の記事によれば、読売・朝日・毎日の各記事は、共同通信が発信した記事を掲載した日本海新聞・山陰中央新報の26日付朝刊を読んで「抜かれた!!」と焦燥感にかられ、関係当局に電話取材するなどして、同日夕刊に間に合わせたということが「26日、分かった(明らかになった)」という文末で読み取れることになる。もし出典を明示するのならば「鳥取県が宗教法人の財務情報を、県情報公開条例に基づき全面開示していたことが、共同通信25日発の記事で分かっ。」ということになるだろう。

 では報道倫理はともかくとして、著作権法上もこのように抜かれたネタを利用する場合に出典等を明示しなければ著作権法違反となるのか?他人の著作物を利用して自己の著作物を作成するときに適用される典型的な著作権制限規定として引用の規定(著作権法第32条第1項)がある。これが適用されるためには、(1)利用される著作物が公表されたものであること、(2)引用する著作物と引用される著作物が明らかに別物と認識できるだけの区別がなければいけない(明瞭区分性)、(3)利用する側の著作物が主で、利用される側の著作物が従たる関係になくてはならない(附従性)、(4)出所明示(著作権法第48条第1項第1号参照)の要件を満たす必要があるとの判例がある(最高裁判所第三小法廷昭和55年03月28日判決(昭和51(オ)923)(パロディ事件判決))。

 しかし事実の伝達にすぎない雑報や時事の報道は著作物に該当しないと規定されている(著作権法第10条第2項)。著作物が「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定(同法第2条第1項第1号)されていることからして、当然の帰結だろう。また現実問題として、緊急性のある事実(事故の発生など)について一々先に報じた報道機関の許諾を得なければならないとするのは不可能だろう。

 このほか報道機関については、時事の事件の報道のためにその目的上正当な範囲内において著作物を利用すること(同法第41条)、時事問題に関する論説の転載(同法第39条)、国、地方公共団体等で行われた公開の演説、陳述を報道の目的上正当と認められる範囲内での利用(同法第40条2項)において著作権制限が認められている。

 他紙が抜いたスクープ記事の利用に関して言えば、例に挙げた宗教法人の情報公開ネタにおいては、共同通信が初めて報じたの事実をモチーフに、新聞社それぞれが独自の取材をして記事を書いたのであれば、単なる事実には著作物性はなく、それを利用しても記事という著作物を創作的に作成したということで、引用の要件を満たさなくても著作権侵害ということにはならないだろう。

 しかし問題となるのは、コラム、論説や大学入試問題の掲載「Q21:大学入試問題をニュースサイトに掲載したいのですが」参照)のように、事件の単なる伝達というよりも文章の中身に着目して記事を作成する場合であろう。このような場合には著作権法第10条第2項は適用されないため、引用などの著作権制限規定が適用されないか注意を払うことになる。場合によっては、著作権者の許諾が必要になることもあるだろう。

 要は、レポートを作成する場合も報道の場合も、他人の著作物を利用する場合にはある一定の目的の場合には例外的に許諾を得なくてもよい場合があるが、そうでない場合には著作権者の許諾を得るか、自分で考え抜いて創作しろや、ってことだな。もっとも著作権法上出典の明示が必要ない場合であっても、学術の発展、情報源のアクセスへの配慮や自分の能力を示すため(まともな文献を読んでレポートを作成していることを教員にアピール)に必要な場合もあるから、著作権法だけに頼らずに勉強するこったな。

【参考文献】谷井精之助・豊田きいち・北村行夫・原田文夫・宮田昇『クリエイター・編集者のための引用ハンドブック』(太田出版、1998年)

Q21:大学入試問題をニュースサイトに掲載したいのですが

:こんちは。あっしは、有名新聞社で記者をやっている者です。地方支局勤務のときに、地元の県庁職員の高給ぶりをスクープしたのが公務員バッシングの世論の流れで評価されて、いまは東京本社の記者にのし上っています。「高給」とは言っても、年収1千万円台プレーヤーのあっしには程遠いのですが(笑)

 ところで、今年もセンター試験を皮切りに大学入試シーズンが到来したので、終了した大学入試の問題を新聞に載せることがあります。センター試験は何面も割いて掲載しますが、個別の各大学についてまでは紙面のスペースがないので、新聞社のニュースサイトに掲載するのがここ数年の通例となっています

 あと最近は、英語のリスニング問題が普及していますよねえ。そこで紙面ではできないネット版の長所を生かして、リスニング問題の朗読の音声を流そうかと考えました。これを上司に伝えたところ「音声をネットで流すのは、著作権法上まずいだろう」と言われました。

 この上司が言ったことは本当なのでしょうか?どこがどうまずいのか、いいのか、教えてください。

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:1千万円プレーヤーか。公務員バッシングより先に、自己反省してマスコミバッシングしろよ。あと記者クラブ制の問題もな。「しばり」とか「解禁日」とか「ラテ」(カフェラテのことではないw)とかの業界用語を使って、国民様に対する情報統制をしているくせによー。

 質問だけどなあ、音声を流すどころか、入試問題を掲載すること自体危ういものだぜ。

 入試問題は基本的に各大学が作成するので、問題文自体は大学が著作権を持つ。したがって、ほとんどの場合は大学の許可をもらってネットに問題文をアップすれば特に著作権侵害になることはない。これは文章であろうが、リスニング問題のような音声であろうが特に問わない。この少子化の時代にあっては、大学はお前らマスコミに宣伝してもらいたいという弱みを持っているだろうから、そう邪険にはしないだろうしな。

 しかし、入試問題で大学以外の第三者が作成した著作物(文章、音声など)を利用している場合にはちょっと待ったーってことになる。国語や英語に出題される小説や論説はその典型例だ。これらは大学ではなくそれぞれの作品の著作権者(小説家など)が権利を持つため、大学からOKをもらっただけでは足りない。

 えっ、同じ入試問題に載っているんだったら一緒じゃないのかって?だがなあ、同じペーパーに書かれていても、著作権法上は別々の著作物が並んでいるに過ぎないので、著作物ごとに判断すべきということになる。それに大学も小説文や論説文については、お前らと同じ著作物の利用者の立場で原則として許可を得ないと使えないはずである。ただ、著作権法上、入試問題に利用する場合には必要な限度で無断で使えると規定されているので(法36条1項)、使えるだけのことだ。事前に許可を求めに行ったら、入試の内容が漏れるからなあ。勘違いしないで欲しいのは、この規定が適用されるのは入試を行う学校であって、その問題を試験終了後に利用する者には適用されない。大学入試の過去問を掲載して出版していた赤本は過去にその点を著作権者から指摘されたことがあるぞ。

 俺たちゃ大手マスコミ様は報道の自由という国民の知る権利のために、何でもかんでも映像や文章を使える著作権法上の特権があるはずじゃないかって?それは勘違い野郎のホザキとしか言いようがねえな。

 確かに著作権法41条では「時事の事件の報道のための利用」について著作権を制限する特別規定がある。それによれば、①当該事件を構成するものや、②当該事件の過程において見られ聞かれる著作物については、事件の報道に伴って利用できるとしている。入試であれば、センター試験会場の○○大学の試験開始の受験生の様子を映した映像や、△△大学の入試の国語問題に流行作家の小説が出題され話題になったということであれば①に該当するだろう。また試験会場にたまたま絵画が飾られていてそれが映像に残った場合などは②に該当するだろう。この規定においては報道の方法を問わないので、新聞・テレビ報道だけではなく、インターネットで流す場合も適用される。

 では入試問題の掲載は、法41条で規定する「時事の報道する場合」であり、かつ「報道の目的上正当な範囲内」の利用といえるのか?

 この点、著作権法の立法担当者である加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、2006年)286頁では「時事の事件を報道する場合というのは、客観的に判断して時事の事件と認められるような報道でなければならず、著作物の利用が眼目であって、意図的に時事の事件と称して利用することは許されません」としている。その判断基準として、過去の記録的な価値ということではなく、その日におけるニュースとしての価値を持つかどうかの問題であるとしている。

 また「正当な範囲内」については、同書287-288頁で「報道するために本当に必要かどうか、著作物の本来的利用と衝突しないかどうかで判断」すべきとしている。

 そうするとだなあ、入試問題に掲載された小説の問題に関して「入試にミス発見!!」など何か事件を報道する場合はまだしも、単に受験生が答え合わせするのに便利にするためにニュースサイトにアップするのは時事の事件の報道とは言えず、また正当な範囲内の利用ともいえないので、法41条によって著作権制限の適用を受けるのは厳しいかもな。著作権のことを何も知らない小説家の作品が載ってるんだったらまだいいが、ある日突然芥川賞作家が「図書館の次はマスコミかい」とか言って著作権侵害訴訟を起こすかもしれないぜ。

 つうことで、まだ掲載準備中の大学があったら、ダッシュで掲載作品の著作権許諾をえることだな。「そんなことする時間はないし、他社に抜かれる~」と言われてもだなあ、著作権法上のいいわけにはならないぜ(笑)