司法試験

Q33:図書館の海賊版所蔵資料を廃棄しろと言われたのですが…

:こんばんは。私はとある大学図書館に勤務する者です。このブログに時々登場する公立図書館とは違って利用者が限定されているため、言いがかり的なクレームは少ないですが、利用者のレベルが高いため、学術論文のデータベースの整備や、当大学の研究者の機関リポジトリ(institutional repository; 大学、研究機関が主として所属研究者の学術論文等の研究成果を収集、蓄積、提供するシステム。機関が主体となって、収録する文献の種類や範囲を決める。科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会『学術情報基盤の今後の在り方について(報告)』(2006年)72-73頁の構築などで忙しい日々です。

 当館でも小説は収集しているのですが、ある日のこと、本学に所属しない、ある高名な文学賞を受賞したことがあると名乗る初老の男性が怒った感じで利用者入口にやってきました。何でも当館が著作権を侵害している資料を所蔵しているので、その廃棄を求めに来たということです。

 さっそく事務室に御案内し、上司と2人で話を聞きました。男性曰く、

「私は、名門高校を学生運動で中退した後、大検で有名大学に入学し、作家としての道を歩むまでの自伝を綴った『俺って、何様?』を書いた。ところが最近、バラエティー芸人の野郎が、暴走族で捕まって高校を中退した後、大手芸能プロダクションのスクールに通って芸人になるまでの過程を著した自伝『ワテって、なんやろ?』を出版した。タイトル、筋書き、内容があまりにも似ており、また自分をおちょくった感じで書かれていて著作者としての人格権も侵害されているので、その芸人とプロダクションを相手に著作権侵害訴訟を起こした。それと並行して全国の図書館にどれだけ所蔵しているか、インターネットの所蔵検索システムで調査している。その結果、この大学の図書館にあることが分かった。ぜひその本を廃棄して欲しい。」

とのことでした。

 その男性の気持ちは分かりましたが、当館には図書館としての資料保存の責任があります。それにもし要求どおりに廃棄すれば、「船橋市西図書館図書廃棄事件最高裁判決」(最判平成17年7月14日民集第59巻6号1569頁)で示されたように、今度は廃棄をした(本当に著作権侵害をしたかどうかも分からない)資料の著者から人格的利益を侵害したという理由で訴えられかねません。正に「前門の虎、後門の狼」といった状況です。

 そこで上司からは「御事情は分かりましたが、当館では資料保存義務があり、また裁判所のように著作権を侵害しているかどうかを判断することができません。当館の内規で、裁判で著作権侵害が確定した場合か、当事者で話し合いがついてから廃棄を決定することになりますので、それらのいずれかが決まってから、再度お越しください。」と伝えました。

 すると男性は「そんなチャライ内規なんて関係ないねぇ。裁判の判決がなくても、著作権を侵害しているのは一目瞭然なんだよ。書いた人間が言っているんだから間違いない。あんたら、著作権侵害の書籍であることを知ってしまった以上、そのまま資料を持っていたら著作権侵害になるんだよ。言うこと聞かないと、今度はこの図書館を訴えてやるからな!」と半分脅し気味に大声を出しました。

 このまま書籍を利用者に提供した場合には、本当に著作権侵害の責任を問われるのでしょうか?まだ著作権侵害であるかどうかを確信できない状態なのに。ぜひ御教示ください。

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:オッス!また図書館ネタか。ニュース、学会や、(既に大失敗した新会社法や新信託法の制定に続けと言わんばかりに)著作権「規制」緩和(著作権を規制と考えている時点で、既にデンパだが…)の象徴として企業やお抱え弁護士が情熱をこめて論じているフェアユース議論において、図書館はほとんど話題に上らないが、著作権の本質に迫る上では意外と重要かも知れねえぞ~

 著作権侵害した資料による図書館サービスって、まさに「Q27:平成20年度新司法試験科目の著作権法の問題解説をしてください」で解説した平成20年の新司法試験の知的財産法の問題(第2問・設問3)を地で行っているよな。もっとも、「平成20年新司法試験論文式試験問題出題趣旨(11-12頁)の中では、これから論じる、みなし侵害(法第113条第1項第2号)の論点には触れていないがな。ただ法学セミナー編集部編『新司法試験の問題と解説2008』別冊法学セミナーno.198(2008年)の356頁に書かれている模範解答例(駒田泰土上智大准教授が解説)の中では、ちゃんとみなし侵害の論点が書かれているぜ!

 小説家のおっさんが言った「著作権侵害の書籍であることを知ってしまった以上、そのまま資料を持っていたら著作権侵害になるんだよ」という脅しは、いま言った著作権のみなし侵害規定が適用されるのではないのか、ということだろうな。法第113条第1項第2号では、著作者人格権、著作権等を侵害する行為によって作成された物を、情を知って、頒布し、若しくは頒布の目的をもって所持、輸出、輸出目的で所持した場合には当該著作者人格権、著作権等を侵害する行為とみなすと規定している。このうち特に問題となるのは「情を知って」とは何をどこまで知った場合をいうのかということである。

 この点著作権法立法担当者の加戸守行氏は、法113条1項1号の著作権侵害作成物の輸入行為については故意・過失の有無を問わずに著作権侵害とみなされるのに対して、同項2号の頒布行為については、「ひとたび権利侵害によって作成された物であればそれを取り扱う人が全部権利侵害とすることには問題がありますので、『情を知って』という要件を付加した」と説明している(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、平成18年)654頁)。

 その上で、「情を知って」の内容については「権利を侵害する行為によって作成された物であるということを知りながら頒布し、又は頒布する目的で所持することでありまして、誰が、いつ、どこで、どのようにして作成したかということまでも知っている必要は」ないとだけ説明している(加戸・前掲654頁)。もしこのとおりだとすると、図書館側は、著作権者と名乗る者が著作権侵害を主張した場合には「情を知って」しまったことになり、著作権侵害を確信できないため廃棄を保留したい場合に訴訟等を提起された場合には、ぶっつけ本番で裁判所の判断(真に著作権侵害なのかどうか)にしたがって廃棄するかどうかを決せられることになるだろう。

 ただこれでは図書館側は、やっかみ程度の著作権侵害の主張に対しても正面から対応せざるを得なくなる状態になり、かつ廃棄資料の著者からの人格的利益の主張のリスクにも晒され、図書館運営を正常に行えない可能性が高くなるだろう。この点、中山信弘氏は、みなし侵害規定が刑事罰も課せられていることを勘案した上で、「単に侵害の争いがあるとか警告を受けたというだけでは情を知っているとまではいえないだろう」としている(中山信弘『著作権法』(有斐閣、2007年)509頁)。

 なおプログラムの著作権を侵害する行為によって作成された装置の頒布等について差止請求した裁判例(システムサイエンス事件(東京地判平成7年10月30日判時1560号24頁))においては、「『情を知』るとは、その物を作成した行為が著作権侵害である旨判断した判決が確定したことを知る必要があるものではなく、仮処分決定、未確定の第一審判決等、中間的判断であっても、公権的判断で、その物が著作権を侵害する行為によって作成されたものである旨の判断、あるいは、その物が著作権を侵害する行為によって作成された物であることに直結する判断が示されたことを知れば足りると解するのが相当である」と判断して、差止請求を認容している。

 この判決をもって、作成行為が著作権侵害であることについての判決確定、仮処分決定、中間的判断等の裁判所による公権的判断があったことを知らなければ、「情を知つて」には該当せず、みなし侵害規定は適用されないという見方が考えられる。しかし、上記判決は、著作権侵害の確定判決がなくても、別件高裁決定の告知を受けた時点において「情を知っ」たという要件を満たすことを述べたに過ぎず、著作権侵害に係る公権的判断がなければみなし侵害規定が適用されないと考えるのは早計だろう。

 思うに、加戸氏が述べているように、頒布行為について「情を知って」要件が付加されたのは、作成物の流通過程に係る人々を全部権利侵害とするのを防ぎ、そのうちみなし侵害と評価するに値する者についてだけ罰則を含むみなし侵害規定を適用することを目的とする。

 そうするとだなあ、頒布行為の流通に係る奴らというのは、いわば著作権侵害作成物の管理人的な地位にあると言えるだろう。そいで、取り扱っている最中に著作権侵害であることを認識した場合には著作物の利用を中止し、侵害作成物の流通を食い止めるべきである。一方で、管理人として著作権侵害状態を知ったにもかかわらず著作物利用を継続した場合には、みなし侵害規定が適用されると解するべきである。

 法第113条第1項第2号と同様の規定としては、国外頒布目的商業用レコードの輸入(いわゆる還流レコードの逆輸入)に関するみなし侵害規定(法第113条第5項)がある。この規定においても著作権等の侵害とみなされるためには「情を知つて」が要件となるが、その内容については「日本における販売を禁止されるレコードであるということを知っていたという意味でありますから、実質的には、これは日本における販売を禁止している旨の表示がその商業用レコード、音楽レコードにあった、あるもの、それを輸入する行為というものが該当する」との政府答弁がなされている(第159回国会・衆議院文部科学委員会議録第23号・平成16年5月28日・4頁・素川政府参考人答弁)。例えば、音楽CDで平井堅の「SENTIMENTALovers」には、ソニーからのライセンスを受けて台湾で生産されているものがあるが、ジャケットには「日本販売禁止(この作品は指定諾地域での限定発売を条件に権利者から許諾を受けています。従って日本での発売は禁止されています)」と記載されている。この記載があるCDを輸入する場合には「情を知つて」輸入したことになる、というものである。輸入する奴はこの記載を見れば国内販売禁止CDであることが分かるし、また通常の注意を払えばそのように認識できるということだな。実務上においても、権利者が関税定率法に基づいて、音楽レコードの還流防止措置を行使するために税関に申し立てる際には、「日本販売禁止」といった表示がなされていることを示す資料を提出しなければならないこととされている(『還流防止措置を行使するに当たっての実務上の留意事項等について(通知)』(平成16年12月6日付け16庁房第306号社団法人日本レコード協会会長あて文化庁次長通知)、加戸・前掲662-663頁)。そのような表示がなければ入者等が「情を知つて」を行っていることについて立証することは困難だしな。

 同じことが、著作権侵害作成物の頒布等行為についても言えるだろう。著作権侵害の確定判決、仮処分命令等の公権的判断をはじめ、当事者間の侵害の有無の合意、その他違法作成物の管理人として著作権侵害により作成されたとの善管注意義務を果たさずに通常であれば侵害物と認識できる状況にある場合には「情を知つて」いたということになるだろう

 「情を知つて」という文言を素直に読めば、事実の認識の有無だけが問われそうだが、前述した中山氏の説明にあるように、著作権侵害に係る単純な事実(著作権侵害のでっち上げ、言いがかりなど)の認識を「情を知つて」から排除するには、利用者に注意義務を課して判断せざるを得ないだろう。

 なお本件でクレームを訴えているおっさんは自分の小説と内容が似ていると主張しているが、完全なデッドコピーではないことから、複製権侵害ではなく翻案権侵害(法第27条)の問題となるだろう。すなわち複製とは「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」(法第2条第1項第15号)をいうが、既存の著作物に新たな創作性が付加されても元の著作物の内面に具体的に存する思想・感情の具現物が利用されている限りにおいては、原著作物の権利者の翻案権が及ぶことになる。そのような翻案行為の認定は、「基本的な構成やストーリー、プロットの類似性の認定、及び原著作物へのアクセスの可能性、並びに著作物の享受者が被告著作物から原告著作物の存在を感得し得るか否かという観点から判断される。」という説明がある(作花文雄『詳解 著作権法(第3版)』(ぎょうせい、2004年)214頁)。この認定に関連する裁判例としては、名古屋地裁平成6年7月29日判決判時1540号94頁(「NHK大河ドラマ・春の波濤」事件)〔内面的表現形式の維持の観点〕、東京高裁平成8年4月16日判決判時1571号98頁(「テレビドラマ・悪妻物語/妻たちはガラスの靴を脱ぐ」事件)〔基本的内容の同一性の観点〕、最高裁平成13年6月28日判決判時1754号144頁・判タ1066号220頁(「江差追分」事件)〔原著作物の本質的特徴の感得性の観点〕などがある。このような翻案権侵害により作成された違法著作物であることについて「情を知つて」という要件を満たすには、単なる複製権侵害(デッドコピー)の場合よりもハードルが高くなると考えるべきであろう。

 以上から本件においては、図書館として本件書籍が著作権侵害作成物であること(無断で翻案したことを加味した上で)の判断について善管注意義務を払っていれば(小説家の言い分が単なるやっかみのレベルである場合など)みなし侵害規定は適用されず、小説家の主張が著作権侵害作成物であることを十分に根拠付けるものであるにもかかわらず、利用してしまった(利用者に対する書籍のコピー提供、館外貸出し)場合には、著作権侵害作成物であることについて「情を知つ」たことになり、翻案権侵害(法第27条)とみなされることになるだろう。

 補足すると、仮に所蔵資料が海賊版でみなし侵害規定が適用されるケースでも、資料の館内閲覧については著作権は及ばない。したがって、資料が海賊版かはっきりしないときに図書館が無難にやり過ごしたいと考える場合には、ほとぼりが冷めるまでコピー・館外貸出利用だけを停止することも考えられるだろう。

追記

「北朝鮮の極秘文書」図書館蔵本事件(第1審)
東京地方裁判所平成22年2月26日判決(平成20(ワ)32593損害賠償等請求事件)

「北朝鮮の極秘文書」図書館蔵本事件(控訴審)
知的財産高等裁判所平成22年8月4日判決(平成22(ネ)10033損害賠償等請求控訴事件)

※いずれも原告の請求を棄却

【参考文献】鳥澤孝之=今村哲也「第8回 図書館における著作物の活用と制度」高林龍編著代表 『著作権ビジネスの理論と実践Ⅲ』〔2011年度JASRAC寄付講座早稲田大学ロースクール著作権法特殊講義5〕(RISOH, 2013)86頁

Q27:平成20年度新司法試験科目の著作権法の問題解説をしてください

:こんばんは。Q25で質問した新司法試験受験生です。やっと試験が終わって、ラリホー状態です。
 知的財産法もちゃんと受験しました。それにしても、タイゾーさんがヤマをはっていたカラオケ法理は見事に外れましたねえ(笑)。でも、また著作者人格権の改変の問題が出ましたね。
 法務省のウェブサイトに新司法試験の問題が公表されましたので、早速ですが解説していただけないでしょうか?よろしくです!

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:試験おつかれだったなぁ。ヤマについては予想通りはずれたが(爆)、出題範囲が狭いせいか、問題の傾向は定着している感があるな。また登場人物が何人も出ている事例問題となっている。では問題を見てみるぜ。

〔法務省ウェブサイト平成20年度新司法試験選択科目17頁より引用〕
知的財産法
【第2問】
以下の事実関係を前提として,後記の設問に答えよ。
【事実関係】
 北国のA市で生まれ育った甲は,子供のころから小説家になることを夢見て,中学生及び高校生の時に計30編の小説を執筆し,文学に関心を持つ友人と一緒に作成していた同人誌に掲載した。当該同人誌は,中学校及び高校のクラスメートに無料で配布された。甲は,高校卒業後,上京して作家となり,多くの有名な小説を発表した。
 甲がA市に住んでいたころに書いた小説は世間から注目されていなかったが,甲のファンである乙は,多大の労力と時間を掛けて,それらの小説が掲載された同人誌を収集した。そして,乙は,それらの小説の中から,甲の文学的才能を示すものと評価した15編の小説を選び,その選んだ小説を,甲が作家になった後に執筆した各小説との関連性の観点から分類して収録した「A市時代の甲小説集」を作成し,出版した(以下「乙書籍」といい,これに収録された15編の小説を「乙書籍収録小説」という。)。もっとも,乙は,乙書籍収録小説について,甲が執筆したそのままの形で乙書籍に収録したのではなく,誤記と思われる数か所の送り仮名を変更し,また,今では余り用いられず多くの人にとって意味が分からなくなった数個の言葉を同様の意味を有する現代語に入れ替えた。
 丙は,乙書籍を読んで,乙書籍収録小説に感銘を受けたが,甲が若いころから有していた文学的才能を明らかにするには,乙書籍の並べ方は適当ではないと思い,乙書籍収録小説を並び替えて収録した「甲青少年期作品集」を作成し,出版した(以下「丙書籍」という。)。丙は,乙書籍における乙書籍収録小説をそのまま丙書籍に収録したが,乙が乙書籍収録小説に変更等を施したことは知らなかった。
 A市立図書館は,乙書籍及び丙書籍を購入し,それらをA市民に貸し出している。

〔設問〕
1. 甲は,乙に対して,どのような請求をすることができるか。
2. 甲は,丙に対して,どのような請求をすることができるか。
3. 甲は,A市に対して,どのような請求をすることができるか。
4. 乙は,丙に対して,どのような請求をすることができるか。

 ぱっと見、小説家の作品をマニア2人が勝手に編集・出版して、それを公立図書館が貸出しているというものだ。しかし作品や編集物の改変をするなど、細かい論点(地雷)がごろごろしている。これをいかに見逃さずに拾い上げて書くかにより、運命が決まるだろう。それさえ気をつければ、特に深い知識を身につけなくても試験会場で貸し出される法文を利用さえすれば合格答案は書けるだろう。

 では、各設問を見てみるぜ。

設問1について
 乙が小説家の甲に無断でその作品を出版したことについては、複製権(法第21条)の侵害になるのはすぐに分かるよな。なお乙が編集したこと自体については、甲との関係では特に問題とならない。これは丙との関係で問題を設定しているから、設問4で考えればよい。なお編集著作物は翻訳、脚色等によって創作された二次的著作物(法2条第1項第11号)とは異なることから、編集著作物の作成が翻案権(法第27条)の侵害ということにはならない。また、そのように違法に作成した乙書籍を出版し流通に乗せていることから、譲渡権(法第26条第1項)の侵害が成立する。
 第2段落の「もっとも」以下についてほとんどの受験生は気づいたと思うが、これは著作者人格権の問題だ。小論点としては(1)「誤記と思われる数か所の送り仮名を変更」と(2)「今では余り用いられず多くの人にとって意味が分からなくなった数個の言葉を同様の意味を有する現代語に入れ替えた」の2つが考えられる。改変であるため同一性保持権(法第20条)の問題になるが、その例外である同条2項、もっと言えば同項第4号でいう「やむを得ないと認められる改変」に該当し適用されるかどうかによって、甲が乙に何らかの請求ができるかどうかが決まる。「やむを得ないと認められる改変」に当たるかどうかについては、「Q16:通信回線速度が遅い動画配信は著作者人格権の侵害なの?」で既に触れたよな。まず同一性保持権の立法趣旨は「当該著作物としての同一性を維持することにより、著作者の表現しようとしている思想・感情や当該著作物に対する(通常有すべき)心情、当該著作物を通じて受けるべき社会的評価などの著作者の人格的利益を保護するためのものである」(作花文雄『詳解 著作権法 第3版』(ぎょうせい、2004年)391頁)ことを忘れてはならない。そして法第20条第2項第4号が適用される例としては、①複製の技術的な手段によってやむを得ない場合(絵画印刷技術、音楽の録音技術など)、②演奏・歌唱技術の未熟等によってやむを得ない場合(練習不足、あがってしまった場合など)、③放送の技術的手段によってやむを得ない場合が挙げられている(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(2006年、著作権情報センター)176頁)。
 同項の適用に関する学説(厳格適用すべきかどうか等)としては、上野達弘・立教大准教授(「著作物の改変と著作者人格権をめぐる一考察(一)」民商法雑誌第120巻第45748-779頁、同「著作物の改変と著作者人格権をめぐる一考察(二・完)」民商法雑誌第120巻第6925-969頁等)などが詳細な論文を書いているが、司法試験ではそこまでのレベルのものを書く必要はないだろう。
 上記の(1)のケースについては、誤記と思われる送り仮名の変更であることから、上記の作花論文が指摘する著作者の著作物に対する心情や社会的評価を特に侵したり低下させるものではなく、小説の同一性を損うものではないだろう。誤記であることからその修正は機械的に行えるものであり、著作者にとっても予測されることだろう。しかもオリジナルはまともな編集を経ていない素人同人誌だしな。法第20条第1項第1号では、学校教育の目的に関してではあるが、用字や用語の変更等の改変を認めている。これとの並びで言えば、(1)についても「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」に該当するだろう。
 では(2)のケースはどうか。一見して(1)と同じように考えられそうだが、今ではあまり使われない言葉を現代語に入れ替えることは誤記と異なり、機械的にできるものではないだろう。例えば「国」という字について「國」を使うことにこだわる人がたまにいるが、多くの人が意味が分からない言葉を使うことに著作者がこだわり小説を書いているのであれば、その字体をそのまま使うことが、それこそ、その同一性を保持することが著作者の人格的利益と言えるだろう。そうすると勝手に現代語に替えることについては法20条第1項第4号は適用されず、著作者人格権を侵害したということになる。 
 なお、同人誌に掲載された小説であることから、ひょっとして公表権(法第18条)の問題かもしんねえーと思ったやつもいるかもしれねえが、「当該同人誌は,中学校及び高校のクラスメートに無料で配布された」というくらいに多数者のために作成され頒布されたことから、「その性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物」が作成・頒布されたといえ、著作物の発行に該当し(法第3条第1項)甲の同意を得て公表された状態といえるから、公表権侵害を否定しておけばよいだろう。なお、この論点は、設問3でのA市立図書館の貸出しにも影響するから要注意だ。試験委員の受けを狙って、公表権侵害を認めてみるのも、おつなものかも知れねえがな。

 ちなみに、有名サッカー選手が中学時代に書いた詩を勝手に出版したことについて公表権侵害が成立するかどうかが争われた中田英寿選手サクセス・ストーリー無断出版事件(東京地判平成12229日判時171576頁(平10(ワ)5887))においては、「公表権の侵害は、公表されていない著作物又は著作者の同意を得ないで公表された著作物が公衆に提供され又は提示された場合に認められる(著作権法一八条一項)。
 本件詩は言語の著作物(同法一〇条一項一号)であるから、これが発行された場合に公表されたといえる(同法四条一項)ところ、右の「発行」とは、その性質に応じて公衆の要求を満たす程度の部数の複製物が作成され、頒布されたことをいい(同法三条一項)、さらに、「公衆」には、特定かつ多数の者が含まれるとされている(同法二条五項)。
2 これを本件についてみるに、証拠(乙一、四)によれば、本件詩は、平成三年度の甲府市立北中学校の「学年文集」に掲載されたこと、この文集は右中学校の教諭及び同年度の卒業生に合計三〇〇部以上配布されたことが認められる。
 右認定の事実によれば、本件詩は、三〇〇名以上という多数の者の要求を満たすに足りる部数の複製物が作成されて頒布されたものといえるから、公表されたものと認められる。また、本件詩の著作者である原告は、本件詩が学年文集に掲載されることを承諾していたものであるから、これが右のような形で公表されることに同意していたということができる。」と判示しているぜ。

 そいじゃー、そんなことをした乙に対して甲は何を請求できるのか?複製権・譲渡権侵害と同一性保持権侵害の両方から見てみよう。
 複製権・譲渡権侵害については、著作権侵害という不法行為に基づく損害賠償請求権(民法第709条)、出版販売により不当に利得した利益の返還請求権(民法703条)のほか、出版の差止請求権(法第112条)を行使できる。
 同一性保持権侵害については上記のほか、勝手に改変された書籍を出版されたことについての著作者の名誉声望回復、訂正等に適当な措置を請求することができる(法第115条)。
 したがって、本問では甲は乙に対して、不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求、差止請求、名誉回復等措置を請求できるということになる。

設問2について
 これも設問1と同様に、丙が小説家の甲に無断でその作品を出版し流通させたことについては、複製権(法第21条)と譲渡権(法第26条第1項)の侵害になるのはすぐに分かるよな。むしろ問題になるのは、「今では余り用いられず多くの人にとって意味が分からなくなった数個の言葉を同様の意味を有する現代語に入れ替え」て収録した(著作者人格権を侵害した)乙書籍をそのまま丙書籍に収録して出版したことについて、著作者人格権侵害を問えるのかという問題だろう。丙自身が改変したわけではないが、違法に改変されたものを使っているんだから、問題文を読んでいる俺たちも、ちょっと引っかかるというか、気になるよなあ。
 これはまさに、侵害とみなす行為をしたのかどうか(法第113条)の問題だろう。同条第1項第2号で、著作者人格権を侵害する行為によって作成された物を情を知って頒布し、又は頒布の目的をもって所持する行為については、著作者人格権を侵害する行為とみなす旨、規定されている。

 同項では第1号は海外から海賊版を輸入した場合のいわゆる水際作戦に適用されるものだ。これに対してこの第2号は国内で海賊版を頒布した場合に適用される。第1号で輸入するときに海賊版であることを知ろうが知るまいが、過失があろうがなかろうが問答無用で侵害行為とみなされるが、第2号のほうは侵害行為によって作成された物であることを、「情を知って」頒布若しくは頒布の目的を持って所持等すれば侵害行為とみなされることになる。
 ここで「情を知って」という要件が出てきたが、その意味は「頒布、所持する物品が権利を侵害して作成されたものであるということを知っていれば足りる」とされている(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、平成18年)654頁)。そのため、物品の購入時に海賊版であることを知っているときはもちろんのこと、入手後に権利侵害物品と知ってその後頒布した場合も権利侵害とみなされる。 

 そうすると本問では、丙は「乙が乙書籍収録小説に変更等を施したことは知らなかった」ことから、情を知って頒布したとはいえず、みなし侵害規定は適用されず、著作者人格権(同一性保持権)侵害には当たらないこということになろう。
 したがって、本問では甲は丙に対して、複製権・譲渡権侵害に関して、不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求、差止請求を行えるということになる。

設問3について 
 今度は公立図書館(を所管するA市)が相手だ。(平日の昼間から毎日図書館にやって来れるくらいに暇な)市民のために無料でいいことやっていると普段思い込んで仕事をしている図書館員どもにぜひ解いてほしい問題だよな。誰か今年の新司法試験を受験した図書館員(司書)はいないかなあ~。
 A市立図書館の著作権法上の利用行為について見てみると、購入した乙書籍と丙書籍をA市民に対して貸し出しており、複製物の貸与により公衆に提供していることから、貸与権が働く利用行為(法第26条の3)といえる。
  ここで公立図書館だからって反射的に「非営利・無料・無報酬の書籍の貸出し⇒(つまり)⇒著作権法第38条第4項の適用⇒(だから)⇒著作権者甲の許諾なく貸し出してもだいじょーぶ★⇒設問4へ」っていう展開をすると、「バイバーイ、また来年~!」って答案採点中の試験委員が胸の中でつぶやく声が耳に焼きつくぜ(笑)。それに「Q20:図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…」で取り上げた「土地宝典複写事件」判決東京地判平成20年1月31日〈平成17年(ワ)第16218号〉最高裁HP掲載)で「著作権法38条4項は,貸与権との関係を規定したものにすぎず,複製権との関係を何ら規定したものではないのであって,ましてや,貸出を受けた者において違法複製が予見できるような場合にまで,貸出者に違法複製行為に関して一切の責任を免れさせる旨を規定しているとは到底解することはできない」と判示されているように、同項は貸出利用について権利制限をしているだけであって、それ以外の著作権法上の利用行為や違法行為についてまで免除しているわけではない。
 ここはもうちょっと、図書館という具体例から引いて考えよう。この問いでは本文で、著作権者甲に無断で乙と丙がその小説を収録した書籍を出版したと書いている。つまり海賊版だわなあ。海賊版は何も中国などの海外で製作したビデオだけではないぞ。そして、この海賊版対策でよく使われるのが、設問2でも説明したみなし侵害規定(法第113条第1項)だ。

 なお、じゃあA市は著作権侵害だーって言いそうになると、「えー、図書館はビデオの海賊版と違って、お金儲けのために販売していませんよー。市民の皆さんのためにいいことやっているんですよー」っていう図書館員どものホザキが聞こえそうだがw、法第2条第1項第19号の頒布の定義規定をよく見てほしい。同号では、頒布について「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」と書いてある。つまりだなあ、無料で貸しても、それが海賊版の書籍だったらアウト!!っていうことを言ってるんだわな。
 そこで本問について見てみると、A市立図書館は乙書籍と丙書籍を購入した上で市民に貸し出している。そこで、貸し出すまでの間に同図書館(の職員)がこれらの書籍が乙・丙のそれぞれによって甲に無断で出版されたものであること、また乙が収録小説の中の「多くの人にとって意味が分からなくなった数個の言葉を同様の意味を有する現代語に入れ替えた」ことと丙書籍がそうやって作らされた乙書籍をそのまま収録したことについて知った場合には、乙書籍・丙書籍のそれぞれに関して、前者について複製権侵害、後者について同一性保持権侵害とみなされるということになる。
 したがって本問では甲はA市に対して、A市立図書館が乙書籍・丙書籍の無断出版を貸出し時までに知った場合には法第113条第1項第2号により複製権侵害とみなされるので、それぞれの著作権(複製権)侵害に関して、不法行為に基づく損害賠償請求・差止請求を、乙書籍・丙書籍の無断の現代語入れ替えについて貸出し時までに知った場合には同号により同一性保持権侵害とみなされるので、それぞれの著作者人格権(同一性保持権)侵害に関して不法行為に基づく損害賠償請求、名誉回復等措置を請求できるということになる。一方で、これらの事情について知らなかったときは、A市図書館が乙・丙書籍を非営利・無料・無報酬で貸し出していれば(図書館実務ではこれが通常だと思うが)、はじめに言った法第38条第4項が適用され、甲の貸与権は制限されるので、甲はA市に対して何も請求できない。

 図書館員どもの著作権法の関心といえば31条(図書館での複写)やせいぜい38条(非営利・無料・無報酬の上演、貸出等)についてのものだが、それらについてだけでなく著作権法制度全体の本質を勉強する必要があるというわけだな。31条の適用についてのマニアックな知識を所管省庁や研修会で質問する暇があったら、文化庁の著作権テキスト全体を読んでろっつーことだわな。

設問4について
 最後に、無断出版野郎の乙が偉そうにも、海賊版仲間(?)の丙に対してなんか請求できねえかって問題だ。
 一見ずうずうしい主張で何も請求できそうになさそうだが、こういう問いが出るということは、乙は何か著作物を作成していないかを考えてみよう。本問では一応乙は乙書籍を作成しているので、これについて著作権を主張できるのかが問題となる。

 そうするとだなあ、事実関係の第2段落で、最初に乙が甲の小説に関して「多大の労力と時間を掛けて,それらの小説が掲載された同人誌を収集した」と書いている。この点についてはこのブログで何度も書いているように、いくら「ぼく、がんばったよ!」と叫んで創作性のない行為をしても、著作権の取得は認められない。アメリカの電話帳訴訟で有名になった、いわゆる「額の汗理論」というやつだな。
 次に、やはり第2段落には「乙は,それらの小説の中から,甲の文学的才能を示すものと評価した15編の小説を選び,その選んだ小説を,甲が作家になった後に執筆した各小説との関連性の観点から分類して収録した」と書いてある。これについては、乙書籍収録小説という編集物を作成するのに、甲の小説という素材の選択と乙書籍に収録する際の配列において、「甲の文学的才能を示すものと評価」するという行為を伴い、乙書籍は編集著作物(法第12条第1項)として創作性を有するものと認められることから、乙書籍収録小説の選択・配列の創作性の範囲内で乙は著作権を有するといえる。ちなみに、 乙は甲の小説を勝手に集めて、甲に無断で出版したわけだが、このように個々の素材を無許諾で編集物に収録したとしても、その素材の著作物の権利を侵害したという問題はあるが、編集著作物としては別途保護される(作花・前掲117頁)ことから、乙が乙書籍について著作権を主張することは可能な状態と言える。

 そんでもって、丙は乙書籍収録小説を乙に無断で並び替えて丙書籍を作成・出版している。この点、英字新聞の日本語要約版の発行が編集著作物の翻案権侵害(法第27条)であるかどうかを争ったウォール・ストリート・ジャーナル事件東京高判平成61027日知裁集2631151頁(平5(ネ)3528では、「控訴人文書が被控訴人新聞の翻案であるか否かは、控訴人文書が被控訴人新聞に依拠して作成されたものであるか否か、その内容において、当該記事の核心的事項である被控訴人新聞が伝達すべき価値のあるものとして選択し、当該記事に具現化された客観的な出来事に関する表現と共通しているか否か、また、配列において、被控訴人新聞における記事等の配列と同一又は類似しているか否かなどを考慮して決すべきものと解するのが相当である。」として、素材の核心的事項が共通しているために、編集物の内容が感得し得るような場合に翻案権侵害が認められるとしている。乙が甲の作品から選択した乙書籍収録小説を核心的事項であると捉えれば、たとえ丙がこの収録の順序を並べ替えたとしても選択小説が共通している以上、丙がこれらを出版利用していることから、編集著作物としての乙書籍の著作権を侵害しているといえるだろう。

 また、無断で並び替えていることから編集著作物の創作性の中核である配列の同一性を変更したということで同一性保持権侵害ともなる。

 したがって、乙は丙に対して、乙書籍の著作権(翻案権・譲渡権)侵害と著作者人格権(同一性保持権)侵害について、不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求、差止請求、名誉回復等措置を請求できるということになる。

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 ちゅっーことで、以上今年の分の問題解説をした。前にも言ったように、おれは場末のフリーライターなので、合格発表後に公表される「問題の趣旨」とこの解説の内容が違ったからと言って、損害賠償請求~って言っても無駄だからな(笑)コメントでの議論は歓迎するがな。

 そんじゃあ、受験生はせいぜいラリホー(もしかして就職活動?)することだな

Q25:新司法試験科目の著作権法の傾向と対策を教えてください

:はじめまして。ぼくはこの春に都内の法科大学院を卒業し、有料自習室で新司法試験の勉強を続ける受験生です。今度初めて受ける新司法試験に向けて、三振博士にならないように頑張っているところです。

 さて著作権法は、新司法試験では論文式試験選択科目・知的財産法の第2問として出題されますが、正直言って在学中にまじめに勉強しておらず、後悔しまくりの日々です。ただネットで見たところ、著作権専門の有名弁護士が新聞や法律専門雑誌でかっこよく著作権法制について語り、法学博士号もとったいうことが掲載されており、都内の大法律事務所のパートナーになって著作権専門の弁護士なるぜ!と決意しました。その夢をかなえるために知的財産法を選択しました。

 この質問をしている時点で時間は残りあと4日ですが、前途ある若者のためにぜひ著作権法の試験対策について教えてください。

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:前途ある若者って、よく自分で言えるよなあ。それくらいのずうずうしさがなければ、自営業者である弁護士センセイは生き残れないんだろうがな。

 まずは、新司法試験科目・知的財産法の基本事項について、平成20年のものを例に確認しよう。

【試験日程】

5月15日(木)論文式試験 選択科目 3時間

【試験委員】

大渕哲也 東京大学大学院法学政治学研究科教授

茶園成樹 大阪大学大学院高等司法研究科教授

金井重彦 弁護士(東京弁護士会)

大鷹一郎 知的財産高等裁判所判事

坂田吉郎 法務省大臣官房司法法制部参事官

〈以上法務省ウェブサイト「平成20年新司法試験の実施について」より〉

【出題範囲】(法務省ウェブサイト「平成18年から実施される司法試験(選択科目)における具体的な出題のイメージ(サンプル問題)」1-2頁より)

 著作権法については,「総則」(目的,定義),「著作者の権利」(「著作物」,「著作者」,「権利の内容」,「著作者人格権の一身専属性等」,「著作権の譲渡及び消滅」,「権利の行使」)及び「権利侵害」を中心として出題する。

【選択科目の出題方針】 

新司法試験問題検討会(選択科目)「前期検討事項の検討結果について(報告)」(平成16年12月10日)

 法科大学院における教育内容を踏まえ,事例問題を中心として,対象となる法律分野に関する基本的な知識・理解を問い,又は,法的な分析,構成及び論述の能力を試す。

【過去の出題問題】(いずれも法務省ウェブサイトより引用)

◆新司法試験プレテスト(模擬試験)*平成17年に実施

試験問題

 Aは,松尾芭蕉の生涯をテーマとした劇場用映画を企画し,自己の危険と責任において,その製作に必要な資金の調達,その製作に従事するスタッフ,キャストの選定・雇入れ,スケジュール管理等の活動を行って,映画αを製作した。その監督を担当したのは,Bであり,主題歌である楽曲βを作曲したのは,Cであった。映画αは白黒映画とされたが,それは,Aが当該映画を懐古的な雰囲気の漂うものとすることを構想していたためであり,Bは,Aから依頼を受けて監督となることを約束した際,当該映画がAの構想に合致したものとなるように監督することを了承した。また,Cも,映画αの主題歌を古風なイメージの曲にしてもらいたいとのAの依頼を受け入れ,雅楽を部分的に取り入れた楽曲βを作曲した。映画αはAによって劇場公開されたが,観客数はAが見込んでいたよりも少なかった。そこで,Aは,その投資に見合う収益を得ることを期待して,当該映画の複製物であるDVDを販売している。A,B及びCはいずれも,いずれかの者の業務に従事する
者ではない。
〔設問〕
1.Dは,Aが販売し,小売店を介して消費者が購入した,映画αの複製物であるDVDを購入者から買い入れ,中古品として販売している。Aは,Dに対し,その販売の差止めを請求することができるか。また,Dが,買い入れたDVDを,販売するのではなく,その経営するレンタル店において貸与している場合には,Aは,Dに対し,その貸与の差止めを請求できるか。
2.Eは,インターネット上に俳句に関する情報を掲載したホームページを開設している。Eは,そのホームページに映画αを掲載すれば,多くの人がアクセスするようになると思い,無断で当該映画を掲載した。
 Fは,Eと同様にインターネット上に俳句に関する情報を掲載したホームページを開設しているところ,映画αが白黒映画であるために,これを鑑賞する者が松尾芭蕉の偉大さを深く理解することができないと考え,無断で,当該映画をカラー化した映画α’を作成し,これを自己のホームページに掲載した。
(1) Bは,Eに対してそのホームページから映画αを削除することを,Fに対してそのホームページから映画α’を削除することを,それぞれ請求することができるか。
(2) Bの死後,Bの妻であるGは,E及びFに対し,前記(1)と同様の請求をすることができるか。
(3) Cは,E及びFに対し,前記(1)と同様の請求をすることができるか。

出題趣旨

 本問は,全体を通じて,映画の著作物の著作者(著作権法第16条),映画の著作物の著作権の帰属(同法第29条第1項)及び映画の著作物において複製されている著作物の著作権の帰属(同法第16条参照)等,映画の著作物をめぐる権利関係についての基本的な理解を問うものである。この基本的な理解を踏まえた上で,1.は,映画の著作物の頒布権(同法第26条)についての消尽論(最判平成14年4月25日民集56巻4号808ページ参照)に関する理解を,2.(1)は,同一性保持権(同法第20条)に関する理解を,2.(2)は,著作者の死後における人格的利益の保護(同法第60条,第116条)に関する理解を,2.(3)は,映画の著作物において複製されている著作物の公衆送信権(同法第23条)に関する理解を,それぞれ問うものである。

◆平成18年

(試験問題) 

 出版社Aは,その発行する美術雑誌に新作美術作品の紹介記事を連載しているところ,職業写真家である甲に対し,同美術雑誌の次号の記事で紹介する作品の写真を撮影することを依頼した。その際,甲はAから,撮影する作品は日本の伝統芸能の一つである浄瑠璃芝居に用いられる文楽人形αであり,文楽人形細工師乙が創作した新作品であること,乙は文楽人形αが写真撮影されることを承諾して撮影への協力を引き受けたこと,写真の掲載に当たっては写真撮影者の表示はしないこと,写真原版は雑誌発行後に甲に返還することについて説明を受け,甲は写真撮影を承諾した。そして,甲は,写真βを撮影し,その写真原版をAに引き渡した。
 写真βは,文楽舞台において,衣装等を着けて鼓を持たせた文楽人形αを斜めから撮影したカラー写真であり,乙は,衣装等をつけた文楽人形αと鼓を撮影現場に持参し,自ら人形を操作してそのポーズを決め,甲は,写真構図,採光,露光,シャッタースピード等を決めてシャッターを切ったものである。
 出版社Aは,写真βを文楽人形α及び乙の紹介記事とともに掲載(写真撮影者の表示はない。)した美術雑誌を発行した。その後,Aは,経営不振のため美術雑誌の発行を継続することができなくなり,写真βの写真原版は甲に返還されないままとなっていた。
 商業用カレンダーの製作を業とする会社丙は,出版社Aからその保有するすべての写真原版を買い受けたところ,その中に写真βの写真原版があったことから,これを顧客に配布する自社のカレンダー用の写真として利用することとした。その際,丙は,自社のカレンダー仕様に合わせるために写真βの左右の2辺を一部削除したので,その背景の一部がカットされた。丙はこの写真を自社の来年度のカレンダーに掲載した。
 甲及び乙は,それぞれ丙に対して,著作権法上いかなる法的主張が可能か。

出題趣旨

 本問は,美術雑誌に掲載された文楽人形αを撮影した写真βを一部削除した上でカレンダーに掲載した丙に対する甲及び乙の著作権法上の法的主張を問うものであり,以下の点について論述した上で,結論として,甲及び乙が丙に対してどのような権利に基づいていかなる請求をすることが可能であるかを明示することが求められる。
 まず,甲及び乙が文楽人形α及び写真βについて著作権・著作者人格権を有するかどうかを明らかにしなければならず,そのために,文楽人形α及び写真βのそれぞれについて,著作物性の有無,著作物である場合の著作者・著作権者につき論じなければならない。写真βに関しては,特に,その著作物性を判断する際に考慮すべき要素との関連において写真被写体の作出に関与した乙の行為を検討することにより,甲の単独著作物であるか又は甲と乙の共同著作物であるかという点を論じることが求められる。
 次に,甲及び乙が有するどのような権利が,丙の行為によって侵害されるかを論じなければならない。甲に関しては,写真βについての複製権,譲渡権,同一性保持権及び氏名表示権の侵害の有無につき論述することが求められる。乙に関しては,文楽人形α及び写真βについての複製権,譲渡権,同一性保持権及び氏名表示権の侵害の有無につき論述することが求められる。

◆平成19年

試験問題

 以下の事実関係を前提として,後記の設問に答えよ。なお,著作者人格権に関しては論じる必要はない。
【事実関係】
 甲は,小説Aを執筆し出版した。これは,甲が数年暮らした外国を舞台に,外国人の若い男女を主人公とした恋愛小説であった。甲は,小説Aを演劇として上演することを計画し,その脚色を乙と丙に依頼し,乙と丙は,これを受けて,共同して小説Aを脚色し,脚本Bを執筆した。
 作家志望の丁は,小説の書き方の勉強のために,小説Aを基にして,ストーリー展開と登場人物の性格設定を同様なものとしつつ,舞台を日本とし,主人公を日本人の若い男女に置き換えた小説Cを執筆した。
 同じく作家志望の戊も,小説の書き方の勉強のために,小説Aの続編として,主な登場人物をそのまま登場させ,主人公のその後の人生を描く小説Dを執筆した。
〔設問〕
1. 乙は,甲の上演計画が頓挫したことから,自らが代表者である劇団に脚本Bに基づいて演劇Eを演じさせ,これを録音録画したDVDを販売したいと考えている。この場合,乙は,甲と丙の承諾を得ることが必要か。
2. 丁は,小説Cが一般の人にどのように評価されるかを知りたくなり,これを,自らがボランティアで行っている小説等の無料朗読会において朗読した。この場合,甲は,丁に対して,どのような請求をすることができるか。
3. 戊は,小説Dの出来栄えに満足し,多くの人に読んでもらうために,これを,自らがインターネット上に開設したホームページに掲載した。この場合,甲は,戊に対して,どのような請求をすることができるか。

出題趣旨

 本問は,主として,他人の著作物に基づいて作成された作品の利用が著作権の侵害となる場合に関する理解を問うものであり,とりわけ,作品がどのような場合に他人の著作物を原著作物とする二次的著作物となるか,また,作品の利用が著作権を侵害するとすれば,いかなる支分権を侵害するかについて,問題文から読み取れる事実関係に即して具体的に論述することが求められる。
 設問1では,脚本Bが,小説Aを原著作物とする二次的著作物であり,乙と丙を著作者とする共同著作物であること,それゆえに,その利用について甲の承諾(著作権法第28条)及び丙の承諾(著作権法第65条第2項)を得ることが必要となることを論じた上で,①脚本Bに基づいて演劇Eを演じさせること,②その録音録画,③録音録画したDVDの販売につき,いかなる支分権が働くかを論述しなければならない。①については上演権(著作権法第22条),②については複製権(著作権法第21条,第2条第1項第15号イ),③については譲渡権(著作権法第26条の2第1項)等が問題となる。
 設問2では,まず,小説Cが小説Aを原著作物とする二次的著作物となるかを検討する必要がある。次に,小説Cが二次的著作物となる場合に,その朗読に口述権(著作権法第24条,第28条)が働くこと,その朗読が私的使用目的で作成された二次的著作物の複製物(著作権法第30条第1項,第43条第1号)の目的外使用としての「公衆に提示」(著作権法第49条第2項第1号)に該当し,小説Aにつき翻案を行ったものとみなされること,及び著作権法第38条第1項の適用の有無について論じた上で,口述権及び翻案権(著作権法第27条)の侵害が成立するか否か,そして,侵害が成立する場合に,甲は丁に対して具体的にどのような請求をすることができるかを論述しなければならない。
 設問3では,まず,小説Dがどのような場合に小説Aを原著作物とする二次的著作物となり,あるいは独立の著作物となるかを検討し,次に,小説Dが二次的著作物となる場合に,そのホームページへの掲載がいかなる支分権を侵害するかについて論じた上で,甲は戊に対して具体的にどのような請求をすることができるかを論述しなければならない。侵害される支分権としては,複製権,公衆送信権(著作権法第23条第1項)とともに,設問2と同様に,目的外使用としての公衆への提示により,翻案権が問題となる。

【傾向と対策】

 試験の出題範囲を見ると分かるように、著作隣接権が出題されないことは重要である。IPマルチキャストに関する平成18年法改正で論じられたような瑣末な論点(ネットで流すコンテンツを自分で製作できないことから、なつかしのテレビ番組を流してその場をしのぐことができるように実演家の権利制限をする規定を設けるなど)や映画などにかかわるワンチャンス主義、実演家への二次使用料の支払いなどについて対策をしなくていいのは、受験生への負担を大いに減らすものだろう。

 このように主題範囲がかなり絞られており、また事例問題を中心にする出題方針から、プレテストから平成19年の問題まで見ると、複数の当事者による著作物の創作(共同著作物、映画の著作物)、映像や画像の改変による著作者人格権の行使(プレテスト、平成18年)が多くなっている。二次的著作物に関する問題(映画や小説を原作とした上演のDVD販売など)も多くの当事者を登場させ、権利関係を問うのに出題しやすい論点だろう。

 試験時間は、第1問の特許法と合わせて3時間だ。今までの問題のレベルや深い論述を求められていないことを考えると、著作権法を1時間で仕上げて、第1問の時間稼ぎをする方が得策かもしれない。

 また、司法試験受験生が論文問題を解くに当たっては当然のことだと思うが、設問を注意深く読んで論点を拾うことも重要だ。例えば平成18年の問題では「写真βは,文楽舞台において,衣装等を着けて鼓を持たせた文楽人形αを斜めから撮影したカラー写真であり,乙は,衣装等をつけた文楽人形αと鼓を撮影現場に持参し,自ら人形を操作してそのポーズを決め,甲は,写真構図,採光,露光,シャッタースピード等を決めてシャッターを切ったものである。」という部分について、乙が文楽人形αを自分で操作したことについて写真βの創作に貢献してその著作者になりえるのか、共同著作者になるのかという論点に気づいて書く必要がある。漫然と「写真の著作者はカメラマンに決まっていて、被写体には肖像権が発生するだけで著作権を持つわけねーから関係ない」と考えてスルーしたら減点!という憂き目に会う。

 さらに、著作権法の判例においては著作物性の認定に集中していることから、著作物性について問う問題が小論点として主題されそうだな。平成18年問題の文楽人形αなんて、ひょっとして応用美術品で美術工芸品(著作権法第2条第2項)にも該当しないから著作権法で保護されない、となるかも知れないしな。

 権利制限については、判例の蓄積が少ないから、出しにくいかもしれないな。著作権法第31条で規定されている図書館の権利制限なんて、多摩市立図書館複写拒否事件(東京地裁平成7年4月28日判決、著作権法判例百選[第3版]78)という図書館クレーマーのじいさんによるしょうもない事件しかねーし、著作権法第35条の教育関係の権利制限について争った事件はねーしな。むしろこのネタは立法論に陥りがちなので(まだ足りない、もっと使えるようにしろ)、司法試験には向かない論点かもしれない。

 著作権法についての基本書や参考書は、俺様の今までのブログで引用されている文献を参考にしてくれ。判例については、大渕哲也、茶園成樹ほか『知的財産法判例集』(有斐閣、2005年)がよく使われているようだわな。

 最後に平成20年の出題問題だがな、俺様はずばり「カラオケ法理」だと予想するぜ。著作物使用者(カラオケ店の客、ネットユーザー、テレビ番組の受信家庭など)、著作物利用者(カラオケ店の店主、2ちゃんねるの管理人、録画ネット・まねきTVの管理人など)、そして侵害訴訟の原告(JASRAC、出版社、漫画原作者など)と登場人物がいっぱい出てくる。それに著作権侵害の主体がカラオケ店の客か店主なのかでも理論が分かれ、客であれば権利制限規定(著作権法第38条第1項)が適用されて著作権侵害に問えないなど、論点が盛りだくさんだ。判例もたくさんあるしな。

 試験委員のメンツを見ると、大渕教授はカラオケ法理について研究・検討している文化審議会著作権分科会法制問題小委員会司法救済ワーキングチームの座長であり、茶園教授はこのチームの平成18年第4回会議に出席し、金井弁護士は携帯電話向け音楽配信サービスをめぐってカラオケ法理により事業者を著作権侵害の主体と認定できるかどうかを争ったMYUTA事件(東京地方裁判所判決平成19年5月25日平成18(ワ)10166)の事業者側の代理人であったことから、試験委員関心からも出題のしやすさからも、大きなヤマだと思うぜ。

 まあこのヤマがはずれてお前が試験に不合格になったからと言って、おれは責任を持てないが。裁判に訴えても、このヤマ当てと試験不合格との間に相当因果関係は認定されず、そもそも場末のフリーライターのいうことがはずれることについて予見可能性は十分にあるだろしな(笑)

 つうことで、司法試験がんばってくれや。