著作物流通

Q44:iPad、Kindleに出版社の著作権料が課金されるって、聞いたんだけど…

:タイゾーさん、お久しぶりです。「Q14:プロポーズでラブソングを歌ったのですが」と「Q29:生演奏のピアノバーで歌ったのですが…」の質問でお世話になったサラリーマンです。あれからお蔭様で彼女と結婚し、今は妻になっています。新婚気分を楽しんでいる毎日です。

 実はもうすぐ、妻の誕生日が来るのですが、新しい物が好きなので、いま話題のiPadKindleを彼女にプレゼントしようと考えていました。
 さっそく彼女に提案すると、「いいわねえー。持ち運びが便利になるし、新作小説だけでなく、映像や音楽も楽しめるようになるから、とても楽しみ★」と喜んでくれました。
 「やった…」と左脳の片隅で喜んでいたところ、「でも、コンテンツの使用料はどうなるの?高くないの?」って聞かれて「紙の本よりずっと安いってことだから、全然心配ないよ」と答えたところ、「なんかねえー、そういう電子書籍に新しい著作権ができて、書いた作家だけでなくて、出版社にも使用料を払わないといけなくなるって、ネットで話題になっているんだよ」って、神妙に言ってました。
 続けて「私たちが結婚するときに言ったよね。早くお金を貯めて、マイホームの購入費と子どもの学資金を作ろうって。iPadを買って、お金がかかるようになったら、困るわあ。買わないほうがいいかなあ…」とブツブツ言い始めました。

 iPadにそんなボッタくりみたいな権利ができるなんて、初めて聞きました?ほんとなんですか?プレゼントを渡す日が迫っているので、ぜひ教えてください!

:iPadか。今はやりだよな。新作小説やら売れ筋本だったら、すぐに手に入るし音楽・映像などのメディアを一緒に楽しめていいだろうが、俺様みたいに、一般書店や公共図書館にないような本や雑誌しか読まないような人間には用がないんだろうがな。

 質問だけどなあ、奥さんが心配しているとおり、実は日本では出版界が電子書籍という外国からの黒船勢力の進出に慌てふためいて、電子書籍のための出版社の権利を創設しようと、もくろんでいるところなんだ。

 なぜそんな権利が必要なのか?確かに電子書籍のユーザーはコンテンツを購入するたびに使用料を支払うが、そのお金がどこに行くのかが問題になる。常識的に考えれば、作品を書いた著者と、電子書籍のプラットフォーマー(コンテンツ送信の基盤の管理をしている業者) だろうなあ。そうするとだなあ、出版社は電子書籍ではおまんま食い上げになって困るかもしれないということだ! 特に売れっ子作家がアップルやらアマゾンなんかの電子書籍プラットフォーマーと直接契約し、出版者が「中抜き」されることを恐れている。

 欧米の出版社も困ってんじゃないのかって?それが大丈夫なんだなあ。欧米で本・雑誌を出版する場合は、出版社は作家から本・雑誌記事の著作権を買い取る契約をするのが通常であるため、電子書籍になっても使用料のゲットで困ることがない。ところが日本の出版慣行では作家の手元に著作権を残すことになっているため、悲劇が起きるわけだ。

 また日本の出版流通は、取次会社に甘えてきたという特殊事情も関係するだろう。取次会社とは出版社と小売書店の中間にあって、書籍・雑誌などの出版物を出版社から仕入れ、小売書店に卸売りする販売会社のことで、本の問屋である。現在の体制は、第2次世界大戦中の紙不足と情報統制などを目的とした出版物配給統制機関を起源とし、現在に至っても影響が及んでいるとされている「社団法人日本出版取次協会 創立の経緯」参照。特に、書籍の定価販売を強制する「再販制度」や、書店で売れ残った本を取次会社を通して出版者への返還することを許す「委託制度」に弊害があるとの指摘が、出版社からもなされている三和書籍「未来はあるかのか出版流通 ヨムサンワ―営業部篇― 本の流通改善をめざして(委託制度・再販制度の問題点)」(2009年11月24日)参照)。図書・雑誌といった物流の時代には出版社・書店・読者にとってWIN-WINの関係にあったのだが、ネットワーク流通の電子書籍にとっては、こういう取次制度は無用の介となるわけだ!

 また出版社からすれば「形式上は作家が著者で著作権者だけど、ほんとは俺たちだって創作に貢献してるんだぜ」という思いが昔からある。どういうことかってーと、本を出版する場合は普通は出版社が作家と話し合って出版の企画を立て、作家に資料を届けたり、出版社の意向や方針、さらに売れ筋に沿うようにアドバイスをし、さらに営業活動をしたりと、社員(編集者)が作品の創作に多大な貢献をしている。下手すると、作家以上に著者として創作している可能性もある。出版物に名前は出ないが。

 そういう編集者の思いが爆発して訴訟になったのが「智恵子抄」事件(最高裁判所第三小法廷平成5年3月30日判例時報1461号3頁(平4(オ)797))だ。詩人・高村光太郎が妻・智恵子について書いた多数の詩の中からセレクトして集め、編集した詩集『智恵子抄』の編集著作権をゲットしたのは、光太郎(詩人)か出版社のどちらなのかが問題になった。結論としては、著作権をゲットする編集著作者は、現実に詩等の選択・配列を確定した光太郎であり、収録候補とする詩等の原案を光太郎に提示して詩集の編集を進言をした出版社ではないと判決を下した。

 でも出版社だって貢献しているのになあ、って思いは積み重なっていた。その現れとなった典型例が「版面権」構想だろう。言っとくが「版面教師」ではないぞ(爆)。版面権とは、出版物の複写利用者に対して報酬を請求できる出版者の権利のことで、著作隣接権的なものであるとも言われている。この権利の創設については、平成2年6月に著作権審議会第8小委員会(出版者の保護関係)報告書で提言されたところであるが、複写の増大によって出版者がどれくらい損しているのか、欧米みたいに作家から著作権をもらえばいいだろうというツッコミ、国際的・国内的な合意が得られていないことなどを理由に、未だに具体化する目途が立っていないと指摘されている(作花文雄『詳解 著作権法(第4版)』(ぎょうせい、2010年)475頁)

 しばらくはナリを潜めていたが、さっき言ったように、電子書籍という黒船襲来で、また出版者が騒ぎ始めている。電子書籍にこそ、出版社の著作隣接権(版面送信権)を作ってくれ!という要望だな。やれ文化庁は版面権を創設するという宿題を果たしていない、やれレコード会社(製作者)には著作隣接権があるのに、レコードと同じように著作物を記録している出版社に著作隣接権を認めないのはずるいぞ、とホザイているようだな。

【参考】
村瀬拓男「出版社の立場から見た、デジタル出版物の流通に関する問題点」(「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用に関する懇談会 出版物の利活用の在り方に関するワーキングチーム」第2回・資料利2-1)(平成22年5月17日)
平井彰司「出版の現在」(文化審議会著作権分科会基本問題小委員会平成22年第2回・資料1)(平成22年5月10日)

 だがなあ、俺様からすれば、版面権の創設を答申した文化審議会第8小委員会の報告書を今さら持ち出すのは「20年前の彼女からのラブレターを根拠に、交際を求めるストーカー男に等しい」としか言いようがないな(爆)。またレコード会社にだけ認めてずるいというホザキには「レコード条約と同じような出版条約締結の国際運動をしてから、またやって来い!」と言ってあげたいな!

 このように実情としては電子書籍について出版社の著作隣接権が認められる望みはほとんどないのだが、大手出版社は尻に火がついた状態で冷静にいらないことから、2010年3月に「日本電子書籍出版社協会」を立ち上げ、総務省・文部科学省・経済産業省合同の「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」で検討されていたところだ。しかし2010年6月に出された報告書では、「出版者に何らかの権利を付与することについては…更に検討する必要がある」とされる方向であり、まずは一安心というところだ( 「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会報告」18-19頁(デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会 平成22年6月28日)。しかし、今後も出版社側が著作隣接権を求めていくことは必至であり、議論の動向への注意が必要だろう。

ちゅーことで、奥さんにiPadやKindleを買ってあげても、当面は家計への心配をかける必要はないと思うぜ。

【参照】鳥澤孝之「電子書籍の著作権制度上の課題 ―出版社と図書館の視点から―」パテント64(7) (通号 735) [2011.5]57~64頁

Q37:著作権譲渡のおいしい投資話が来ているのですが…

:タイゾーさん、こんばんは。おれは六本木ヒルズ族になることを夢見ている投資家です。そんでもって、儲け話には結構敏感なんすよねえ~♪

 そんなおれっちに、最近おいしい話が来たんすよ。これ、いつもタダで著作権情報を教えてくれるタイゾーさんにだけの秘密なんすけど、とある有名な音楽アーティストから、その人が作った楽曲の著作権をまるごと破格の値段で譲渡してくれるっていうんすよ。彼によれば「JASRACに登録している楽曲の著作権は全部ぼくの手元にあります」「ぼくは音楽出版者とはインディペンデントなんで完全な著作権者です」と言ってから、「いまは節税するためにぼくの関連会社に著作権を預かってもらっていますが、この通りちゃんと文化庁で同社へのパーフェクトな著作権譲渡の登録をしています。」と著作権登録原簿の謄本を差し出しました。確かに謄本には1番目の権利者はそのアーティストで、2番目が彼の関連会社となっています。お金を振り込んだら、おれへの著作権譲渡の登録を文化庁でしてくれるそうです。

 おれはすっかり信用したんで、銀行やサラ金から借りてでも、このまるごと著作権を買い付けようと思ってんだけど、著作権のことよく分かんないんで、何か重要な点や注意すべき点があったら教えてくれや。儲けが出たら、ちょっとは分けてやっからよ!

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:儲け話か。俺様は1日に1回、吉野家の牛丼を食えればそれでハッピーだから、とんと興味はねえな。つか、手形や株券みたいに、音楽著作権の流通を投資の対象にするって言うのは、日本では聞いたことがねえなあ。

 秘密の話か。信用してくれてありがとな。つっても、このブログに書いた時点で、日本全国のピリ辛マニアに周知の事実となっているのだが(爆)。なんでかってーと、この話はかなりうさんくさいからだ。俺様の疑問点としては主に2点ある。

 第1に、「JASRACに登録している楽曲の著作権は全部ぼくの手元にあります」というのはありえないということだ。「Q36:ユーザーフレンドリーな音楽著作権管理会社を作りたいのですが…」で言ったように、JASRACは作詞家・作曲家又は音楽出版者(著作権者)との間で著作権徴収について裁量がある信託契約の受託者をしているのであり、単なるパシリ君ではない。そして著作権は名義上JASRACに移転している(いわば預かっている状態)から、著作権者(委託者)といえども信託法上、勝手に著作権を他人に移転することはできない信託法第146条第1項では「委託者の地位は、受託者及び受益者の同意を得て、又は信託行為において定めた方法に従い、第三者に移転することができる。」と規定しているように、著作権者はJASRACの同意を得ない限り移転できないわけだ。この点、JASRACの著作権信託契約約款では次のように規定されている。

(著作権の譲渡)
第10条 委託者は、第3条第1項の規定にかかわらず、あらかじめ受託者の承諾を得て、次の各号に掲げるときは、その著作権の全部又は一部を譲渡することができる
(1) 委託者が、社歌、校歌等特別の依頼により著作する著作物の著作権を、当該依頼者に譲渡するとき。
(2) 委託者が、音楽出版者(受託者にその有する著作権の全部又は一部を信託しているものに限る。)に対し、著作物の利用の開発を図るための管理を行わせることを目的として著作権を譲渡するとき。

 したがってこの約款によれば、てめえのような単なる投資家にはJASRACは著作権譲渡を同意せず、有名アーティストから著作権を譲渡されても無効ということになる。

 第2の疑問点は、文化庁の著作権登録についてである。だいぶ前に「Q2:著作権登録して大儲けをしたいのですが」でも答えたが、著作権法では著作権を取得するための登録制度はない。何度もいうが、登録せずに著作権が発生する(無方式主義)のが著作権の特徴だからだ(著作権法第17条第2項参照)。この点で特許権、実用新案権などの産業財産権と大きく違う。

 著作権登録には主に5つの登録制度がある。実名の登録、第一発行(公表)年月日の登録、(プログラム著作物の)創作年月日の登録、著作権・著作隣接権の移転等の登録、出版権の設定等の登録である。これらはいずれも事実の推定や権利変動の表示を登録するものである。詳細は文化庁ウェブサイト「著作権の登録制度について」を参照することだな。なおたまに著作権登録は複雑であるため活用されず著作物流通に支障が生ずるという誤報があるが、『登録の手引き』を読めば小学生でも申請書を作成して提出できるレベルとなっている。逆にこれを読んでも分からなければ、小学生やり直し!確定だがな。また登録費用(登録免許税額)は1件当たり、①で9000円、②で3000円、④のうち著作権の移転の登録で18000円となっており(登録免許税法別表第一)、それほど高額というものではない。

 これらのうち③を除いた登録の一部については、「登録状況検索」を利用して、登録番号・登録年月日・著作物の題号・著作者の氏名を調査することができる。ためしに、今話題の「小室哲哉」を検索してみると、52件ヒットする(2008年11月6日現在)。同じ著作物の題号が1曲につき作詞した分と、作曲した分の2つある場合(著作物の題号が同じもの)を含むことから、(著作物の種類はこの検索結果では分からないが)おそらく同氏が作詞・作曲したものが34曲分あると考えられる。登録年月日は、平成17年10月27日・平成17年11月25日・平成17年11月29日・平成18年7月5日・平成20年5月15日と5回分ある。

 しかし、小室哲哉氏のような超メジャー級アーティストが文化庁の著作権登録をするのはごくまれだろう。なぜならば、楽曲の著作権の状況は、JASRACなどの著作権管理団体でデータベース管理され、著作者等が使用料を受け取る分には、文化庁に登録しなくても支障はないからだ。ネットでも、前に紹介したMusic Forestや、JASRACJ-WID(作品データベース検索サービス)[JASRACサイトトップページの右下にバナーあり]がある。

 今回はJ-WIDで、小室氏の曲のうちかつてJR東日本のCMで使われた"DEPARTURES"について検索してみよう。作品タイトルに「DEPARTURES」、権利者名に「小室哲哉」と入力する。すると1件ヒットしクリックすると、権利者情報として「小室哲哉:作詞・作曲」「エイベックス・グループ・ホールディングス 株式会社:出版者」「全信託 JASRAC」と記載され、演奏から通信カラオケまですべてJマークが入っている。これは、著作権が小室哲哉氏から音楽出版者のエイベックスに移転され、JASRACがエイベックスからすべての著作物利用について著作権信託を委託されていることを意味する。ここで注意の欄の「未確定」マークに注目する必要がある(2008年11月6日現在)このマークは次の意味を有する

現在は権利が未確定な状態です。
未確定は大きく分けて以下の場合があります。
1)利用者情報で権利者からの届出がない作品
2)権利者からの届出が作品の一部についてであり、その他の権利が未確定の作品
3)複数の権利者からの届出で、権利者によって主張が異なり権利が確定できない作品

 したがって、この楽曲を利用したり権利移転するときは要注意ということになるだろう。

 今回の儲け話で関係あるのは、④の著作権の移転の登録だな(著作権法第77条第1号)。この登録の効果は、著作権の変動を登録することによって、その事実を第三者に対抗することができるということだ。これはちょうど、不動産に関する物権の変動の対抗要件として、民法第177条が「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と規定しているのと同じことだ。

 このような権利の対抗関係は、著作権の二重譲渡がある場合に実力を発揮する。つまりだ、今回てめえが著作権の移転登録をめでたく受けた場合、登録を受けていないもうひとりの譲受人(音楽出版者)に対して著作権を主張できるということを意味する。民法の通説では、対抗できる「第三者」の意味としては、「登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者」、具体的には、権利の二重譲渡があったことを単純に知っていた場合(悪意)も含むが、悪意を超えて相手方を害するなどの目的を有する背信的悪意者は自由競争の範囲を逸脱して保護に値しないとされている(大判明治45年6月1日など)。ちゅうことで、今回儲け話を持ってきた奴が著作権を二重譲渡していたとしても、著作権の移転の登録を先回りして済ませあんたが善意又は単純悪意者に該当すれば、もう一人の譲受人に勝てるということになる。

 もっとも、JASRAC等の管理楽曲について文化庁で著作権移転登録を済ませたからといって、二重譲渡の場合に著作権登録していない音楽出版者等に対して優位に立てるとは俺はあんまり思えない。なぜならば、さっきの小室哲哉の"DEPARTURES"のように二重譲渡などの権利の不確定要素があればJ-WIDなどのデータベースで「未確定」マークがつき、JASRACが利用者から徴収してきた使用料を、文化庁登録上の権利者(対抗関係の勝者)に素直に渡すとは考えられないからだ。権利が確定してから払いマースということになるだろう。そうなると、二重譲渡になるような曰くつきの著作権を買い取っても著作権料をゲットすることはできず、溝に金を捨てるに等しいと言える。せーぜい、裁判所に著作権登録の謄本を持参して差止仮処分の申立をし、JASRACから利用許諾を得たユーザーども(カラオケ店、レストラン、放送局など)の楽曲利用を一時的にストップさせられる可能性があるくらいだわな。

 なお、文化庁の著作権登録事務では、J-WIDで未確定マークがあろうが業界でやばい噂が流れていようが、原則として関係なく事務をすすめることになる。不動産登記と同じように、法律上書面審査だけで済ます形式的審査権しか与えられていないからだ。

 こんなこというと、「法律の不備だ!」「法改正だ!」あげくのはてにはユビキタスネット社会の制度問題検討会『ユビキタスネット社会の制度問題検討会報告書』(平成18年9月)のように、著作権の発生・延長・消滅を国の登録制度と結びつけようというデンパな主張が出てくることが容易に想像される。

 しかしそういう考えは、そもそも論として「方式主義」となり「無方式主義」を採用する国際著作権条約(ベルヌ条約、ローマ条約、WCT、WPPTなど)に反するおそれが高い。また国の著作権登録に実質的審査権を付与するためには、特許法のような権利審査制度・登録不服申立制度などを整え役所の組織や人員を拡充する必要があるが、それは現在の行政改革の流れに反するだろう。それにJ-WIDなどの民間業界の集中管理体制で十分な場合があるだろうしな。(吉田大輔「ネット時代の著作権56 『著作権に登録制』???」出版ニュース2006.10/中 20-21頁参照)。まあ、文化庁の著作権課が著作権庁に組織再編されたときに初代長官や審判長になるのもわるくはないかもしれねえがなw。

 ちゅーことで、今回の話に乗らないほうが、身の安全というものだぜぃ。

Q33:図書館の海賊版所蔵資料を廃棄しろと言われたのですが…

:こんばんは。私はとある大学図書館に勤務する者です。このブログに時々登場する公立図書館とは違って利用者が限定されているため、言いがかり的なクレームは少ないですが、利用者のレベルが高いため、学術論文のデータベースの整備や、当大学の研究者の機関リポジトリ(institutional repository; 大学、研究機関が主として所属研究者の学術論文等の研究成果を収集、蓄積、提供するシステム。機関が主体となって、収録する文献の種類や範囲を決める。科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会『学術情報基盤の今後の在り方について(報告)』(2006年)72-73頁の構築などで忙しい日々です。

 当館でも小説は収集しているのですが、ある日のこと、本学に所属しない、ある高名な文学賞を受賞したことがあると名乗る初老の男性が怒った感じで利用者入口にやってきました。何でも当館が著作権を侵害している資料を所蔵しているので、その廃棄を求めに来たということです。

 さっそく事務室に御案内し、上司と2人で話を聞きました。男性曰く、

「私は、名門高校を学生運動で中退した後、大検で有名大学に入学し、作家としての道を歩むまでの自伝を綴った『俺って、何様?』を書いた。ところが最近、バラエティー芸人の野郎が、暴走族で捕まって高校を中退した後、大手芸能プロダクションのスクールに通って芸人になるまでの過程を著した自伝『ワテって、なんやろ?』を出版した。タイトル、筋書き、内容があまりにも似ており、また自分をおちょくった感じで書かれていて著作者としての人格権も侵害されているので、その芸人とプロダクションを相手に著作権侵害訴訟を起こした。それと並行して全国の図書館にどれだけ所蔵しているか、インターネットの所蔵検索システムで調査している。その結果、この大学の図書館にあることが分かった。ぜひその本を廃棄して欲しい。」

とのことでした。

 その男性の気持ちは分かりましたが、当館には図書館としての資料保存の責任があります。それにもし要求どおりに廃棄すれば、「船橋市西図書館図書廃棄事件最高裁判決」(最判平成17年7月14日民集第59巻6号1569頁)で示されたように、今度は廃棄をした(本当に著作権侵害をしたかどうかも分からない)資料の著者から人格的利益を侵害したという理由で訴えられかねません。正に「前門の虎、後門の狼」といった状況です。

 そこで上司からは「御事情は分かりましたが、当館では資料保存義務があり、また裁判所のように著作権を侵害しているかどうかを判断することができません。当館の内規で、裁判で著作権侵害が確定した場合か、当事者で話し合いがついてから廃棄を決定することになりますので、それらのいずれかが決まってから、再度お越しください。」と伝えました。

 すると男性は「そんなチャライ内規なんて関係ないねぇ。裁判の判決がなくても、著作権を侵害しているのは一目瞭然なんだよ。書いた人間が言っているんだから間違いない。あんたら、著作権侵害の書籍であることを知ってしまった以上、そのまま資料を持っていたら著作権侵害になるんだよ。言うこと聞かないと、今度はこの図書館を訴えてやるからな!」と半分脅し気味に大声を出しました。

 このまま書籍を利用者に提供した場合には、本当に著作権侵害の責任を問われるのでしょうか?まだ著作権侵害であるかどうかを確信できない状態なのに。ぜひ御教示ください。

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:オッス!また図書館ネタか。ニュース、学会や、(既に大失敗した新会社法や新信託法の制定に続けと言わんばかりに)著作権「規制」緩和(著作権を規制と考えている時点で、既にデンパだが…)の象徴として企業やお抱え弁護士が情熱をこめて論じているフェアユース議論において、図書館はほとんど話題に上らないが、著作権の本質に迫る上では意外と重要かも知れねえぞ~

 著作権侵害した資料による図書館サービスって、まさに「Q27:平成20年度新司法試験科目の著作権法の問題解説をしてください」で解説した平成20年の新司法試験の知的財産法の問題(第2問・設問3)を地で行っているよな。もっとも、「平成20年新司法試験論文式試験問題出題趣旨(11-12頁)の中では、これから論じる、みなし侵害(法第113条第1項第2号)の論点には触れていないがな。ただ法学セミナー編集部編『新司法試験の問題と解説2008』別冊法学セミナーno.198(2008年)の356頁に書かれている模範解答例(駒田泰土上智大准教授が解説)の中では、ちゃんとみなし侵害の論点が書かれているぜ!

 小説家のおっさんが言った「著作権侵害の書籍であることを知ってしまった以上、そのまま資料を持っていたら著作権侵害になるんだよ」という脅しは、いま言った著作権のみなし侵害規定が適用されるのではないのか、ということだろうな。法第113条第1項第2号では、著作者人格権、著作権等を侵害する行為によって作成された物を、情を知って、頒布し、若しくは頒布の目的をもって所持、輸出、輸出目的で所持した場合には当該著作者人格権、著作権等を侵害する行為とみなすと規定している。このうち特に問題となるのは「情を知って」とは何をどこまで知った場合をいうのかということである。

 この点著作権法立法担当者の加戸守行氏は、法113条1項1号の著作権侵害作成物の輸入行為については故意・過失の有無を問わずに著作権侵害とみなされるのに対して、同項2号の頒布行為については、「ひとたび権利侵害によって作成された物であればそれを取り扱う人が全部権利侵害とすることには問題がありますので、『情を知って』という要件を付加した」と説明している(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、平成18年)654頁)。

 その上で、「情を知って」の内容については「権利を侵害する行為によって作成された物であるということを知りながら頒布し、又は頒布する目的で所持することでありまして、誰が、いつ、どこで、どのようにして作成したかということまでも知っている必要は」ないとだけ説明している(加戸・前掲654頁)。もしこのとおりだとすると、図書館側は、著作権者と名乗る者が著作権侵害を主張した場合には「情を知って」しまったことになり、著作権侵害を確信できないため廃棄を保留したい場合に訴訟等を提起された場合には、ぶっつけ本番で裁判所の判断(真に著作権侵害なのかどうか)にしたがって廃棄するかどうかを決せられることになるだろう。

 ただこれでは図書館側は、やっかみ程度の著作権侵害の主張に対しても正面から対応せざるを得なくなる状態になり、かつ廃棄資料の著者からの人格的利益の主張のリスクにも晒され、図書館運営を正常に行えない可能性が高くなるだろう。この点、中山信弘氏は、みなし侵害規定が刑事罰も課せられていることを勘案した上で、「単に侵害の争いがあるとか警告を受けたというだけでは情を知っているとまではいえないだろう」としている(中山信弘『著作権法』(有斐閣、2007年)509頁)。

 なおプログラムの著作権を侵害する行為によって作成された装置の頒布等について差止請求した裁判例(システムサイエンス事件(東京地判平成7年10月30日判時1560号24頁))においては、「『情を知』るとは、その物を作成した行為が著作権侵害である旨判断した判決が確定したことを知る必要があるものではなく、仮処分決定、未確定の第一審判決等、中間的判断であっても、公権的判断で、その物が著作権を侵害する行為によって作成されたものである旨の判断、あるいは、その物が著作権を侵害する行為によって作成された物であることに直結する判断が示されたことを知れば足りると解するのが相当である」と判断して、差止請求を認容している。

 この判決をもって、作成行為が著作権侵害であることについての判決確定、仮処分決定、中間的判断等の裁判所による公権的判断があったことを知らなければ、「情を知つて」には該当せず、みなし侵害規定は適用されないという見方が考えられる。しかし、上記判決は、著作権侵害の確定判決がなくても、別件高裁決定の告知を受けた時点において「情を知っ」たという要件を満たすことを述べたに過ぎず、著作権侵害に係る公権的判断がなければみなし侵害規定が適用されないと考えるのは早計だろう。

 思うに、加戸氏が述べているように、頒布行為について「情を知って」要件が付加されたのは、作成物の流通過程に係る人々を全部権利侵害とするのを防ぎ、そのうちみなし侵害と評価するに値する者についてだけ罰則を含むみなし侵害規定を適用することを目的とする。

 そうするとだなあ、頒布行為の流通に係る奴らというのは、いわば著作権侵害作成物の管理人的な地位にあると言えるだろう。そいで、取り扱っている最中に著作権侵害であることを認識した場合には著作物の利用を中止し、侵害作成物の流通を食い止めるべきである。一方で、管理人として著作権侵害状態を知ったにもかかわらず著作物利用を継続した場合には、みなし侵害規定が適用されると解するべきである。

 法第113条第1項第2号と同様の規定としては、国外頒布目的商業用レコードの輸入(いわゆる還流レコードの逆輸入)に関するみなし侵害規定(法第113条第5項)がある。この規定においても著作権等の侵害とみなされるためには「情を知つて」が要件となるが、その内容については「日本における販売を禁止されるレコードであるということを知っていたという意味でありますから、実質的には、これは日本における販売を禁止している旨の表示がその商業用レコード、音楽レコードにあった、あるもの、それを輸入する行為というものが該当する」との政府答弁がなされている(第159回国会・衆議院文部科学委員会議録第23号・平成16年5月28日・4頁・素川政府参考人答弁)。例えば、音楽CDで平井堅の「SENTIMENTALovers」には、ソニーからのライセンスを受けて台湾で生産されているものがあるが、ジャケットには「日本販売禁止(この作品は指定諾地域での限定発売を条件に権利者から許諾を受けています。従って日本での発売は禁止されています)」と記載されている。この記載があるCDを輸入する場合には「情を知つて」輸入したことになる、というものである。輸入する奴はこの記載を見れば国内販売禁止CDであることが分かるし、また通常の注意を払えばそのように認識できるということだな。実務上においても、権利者が関税定率法に基づいて、音楽レコードの還流防止措置を行使するために税関に申し立てる際には、「日本販売禁止」といった表示がなされていることを示す資料を提出しなければならないこととされている(『還流防止措置を行使するに当たっての実務上の留意事項等について(通知)』(平成16年12月6日付け16庁房第306号社団法人日本レコード協会会長あて文化庁次長通知)、加戸・前掲662-663頁)。そのような表示がなければ入者等が「情を知つて」を行っていることについて立証することは困難だしな。

 同じことが、著作権侵害作成物の頒布等行為についても言えるだろう。著作権侵害の確定判決、仮処分命令等の公権的判断をはじめ、当事者間の侵害の有無の合意、その他違法作成物の管理人として著作権侵害により作成されたとの善管注意義務を果たさずに通常であれば侵害物と認識できる状況にある場合には「情を知つて」いたということになるだろう

 「情を知つて」という文言を素直に読めば、事実の認識の有無だけが問われそうだが、前述した中山氏の説明にあるように、著作権侵害に係る単純な事実(著作権侵害のでっち上げ、言いがかりなど)の認識を「情を知つて」から排除するには、利用者に注意義務を課して判断せざるを得ないだろう。

 なお本件でクレームを訴えているおっさんは自分の小説と内容が似ていると主張しているが、完全なデッドコピーではないことから、複製権侵害ではなく翻案権侵害(法第27条)の問題となるだろう。すなわち複製とは「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」(法第2条第1項第15号)をいうが、既存の著作物に新たな創作性が付加されても元の著作物の内面に具体的に存する思想・感情の具現物が利用されている限りにおいては、原著作物の権利者の翻案権が及ぶことになる。そのような翻案行為の認定は、「基本的な構成やストーリー、プロットの類似性の認定、及び原著作物へのアクセスの可能性、並びに著作物の享受者が被告著作物から原告著作物の存在を感得し得るか否かという観点から判断される。」という説明がある(作花文雄『詳解 著作権法(第3版)』(ぎょうせい、2004年)214頁)。この認定に関連する裁判例としては、名古屋地裁平成6年7月29日判決判時1540号94頁(「NHK大河ドラマ・春の波濤」事件)〔内面的表現形式の維持の観点〕、東京高裁平成8年4月16日判決判時1571号98頁(「テレビドラマ・悪妻物語/妻たちはガラスの靴を脱ぐ」事件)〔基本的内容の同一性の観点〕、最高裁平成13年6月28日判決判時1754号144頁・判タ1066号220頁(「江差追分」事件)〔原著作物の本質的特徴の感得性の観点〕などがある。このような翻案権侵害により作成された違法著作物であることについて「情を知つて」という要件を満たすには、単なる複製権侵害(デッドコピー)の場合よりもハードルが高くなると考えるべきであろう。

 以上から本件においては、図書館として本件書籍が著作権侵害作成物であること(無断で翻案したことを加味した上で)の判断について善管注意義務を払っていれば(小説家の言い分が単なるやっかみのレベルである場合など)みなし侵害規定は適用されず、小説家の主張が著作権侵害作成物であることを十分に根拠付けるものであるにもかかわらず、利用してしまった(利用者に対する書籍のコピー提供、館外貸出し)場合には、著作権侵害作成物であることについて「情を知つ」たことになり、翻案権侵害(法第27条)とみなされることになるだろう。

 補足すると、仮に所蔵資料が海賊版でみなし侵害規定が適用されるケースでも、資料の館内閲覧については著作権は及ばない。したがって、資料が海賊版かはっきりしないときに図書館が無難にやり過ごしたいと考える場合には、ほとぼりが冷めるまでコピー・館外貸出利用だけを停止することも考えられるだろう。

追記

「北朝鮮の極秘文書」図書館蔵本事件(第1審)
東京地方裁判所平成22年2月26日判決(平成20(ワ)32593損害賠償等請求事件)

「北朝鮮の極秘文書」図書館蔵本事件(控訴審)
知的財産高等裁判所平成22年8月4日判決(平成22(ネ)10033損害賠償等請求控訴事件)

※いずれも原告の請求を棄却

【参考文献】鳥澤孝之=今村哲也「第8回 図書館における著作物の活用と制度」高林龍編著代表 『著作権ビジネスの理論と実践Ⅲ』〔2011年度JASRAC寄付講座早稲田大学ロースクール著作権法特殊講義5〕(RISOH, 2013)86頁

Q32:公立図書館から映画DVDを借りたいのですが…

:こんにちは。私は週末に近所の公立図書館を利用するOLです。はやりのベストセラーや文庫本を図書館でチェックして、気に入ったものを借りたら、通勤電車の中で読破するのが日課となっています。音楽CDも借りちゃうことがあります。

 図書館では最近は本だけでなくDVDも充実してきて、個人ブースでDVD映画を鑑賞することが多くなりました。ハリウッドものだけでなく、私が好きなイギリス・フランス・フィンランドなどのヨーロッパ映画も多くて満足しています。しばらくは週末にそのような感じでDVDを利用したのですが、そのうち自宅でじっくり観たくなってきました。それにたまに遊びに来る彼と一緒に、まったり鑑賞できますしね。

 そこで図書館のカウンターの方に貸出の申込をしました。そうしたら司書の方から「申し訳ございません。そのDVDは著作権の関係からお貸出しできません」って言われてしまいました。邦画やアメリカの映画では借りられるものが多いのに、私が選んだものが借りられないのは残念でした。

 でも、本は借りられるのに、なんでDVDは借りられるものがあったりなかったりするのですか?司書さんがおっしゃっていた著作権の関係ってどういうことなのでしょうか?教えてください!

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:またまた公立図書館か。最近は行っていないが、退職した団塊の世代のたまり場になっていると思ってたぜ。今までの図書館関係の質問はコピーの問題が多かったが、今回は資料の貸出しの問題だな。

 資料の貸出しについても、もちろん著作権が及ぶ。どういう権利が及ぶかっていうと、図書・雑誌や音楽CDについては、貸し出すことについての貸与権(法第26条の3)が及ぶ。これに対して映画DVDのような動画が含まれる著作物については頒布権(法26条)という貸出しだけでなく、資料をどこに流通させるかまでコントロールできてしまうと権利が著作権者に与えられる。なんでこんな強力な権利が認められたのかというと、映画業界の配給制度(新作映画フィルムの貸出し・譲渡を封切館→2番上映館→3番上映館→…名画座というように上映館のグレードによって転々流通をコントロールする商慣習)を前提に現行著作権法を制定したからであると言われている。図書・雑誌・音楽CDと映画DVDを借りられるかどうかの違いの基本はこの点にある。

 では公立図書館で利用する場合はどうなるのか?この点は次のようなものとなる。

 まず図書・雑誌・音楽CDについては、①公表されたもので、②営利を目的としない貸出しで③貸与を受ける者から料金を受けない場合には、公立図書館は著作権者の許諾がなくても、不特定多数の市民の者ども(公衆)に貸し出すことができる(法38条4項)。役所を含めた非営利団体がレンタル料を取らなければ、たいがいの貸出しはスルーってことだわな。

 では映画DVDについてはどうか。①公表されたもので、②貸与を受ける者から料金を受けないだけでなく、③政令で定める視聴覚教育施設その他の施設が行うもので、かつ④著作権者に相当な額の補償金を支払わなければならないと規定されている(法38条5項)。③でいう政令で定める視聴覚教育施設とは、(1)国又は地方公共団体が設置する視聴覚教育施設(2)図書館法第2条第1項の図書館(公立図書館など)、(3)その他文化庁長官が指定するもの(現在はなし)と規定されている(著作権法施行令第2条の3第1項)。

 ここで注意が必要なのは、映画DVDの貸出しについては相当な額の補償金の支払いが必要だが、裏を返せば補償金さえ支払えば、図書館側は著作権者の許諾がなくても利用できることを法律上では意味する。しかし現実にはそうはなっていない

 どういうことかって言うと、さっきの著作権法38条5項の補償金規定は昭和59年の著作権法改正で規定されたものであるが、補償金を支払って利用するためには、当然補償金をいくらにするのかを決めなければならないわけだ。それは誰が決めるのか?もちろん担当省庁ではない。当事者が話し合いをして決めるわけだ。

 この点、当初の交渉状況については、「文化庁の指導をうけて〔筆者:この辺りからしてお上依存主義が見え隠れするなw〕、[筆者注:昭和]59年9月、権利者団体(映像文化製作者連盟、以下「映文連」と略す、日本ビデオ協会、以下「ビデオ協会」と略す、日本映画製作者連盟)、以下「映連」と略す」、利用団体(全国視聴覚教育連盟、以下「全視連」と略す、日本視聴覚教育協会、日本図書館協会)等が第1回懇談会を開催、以後利用団体側は全視連を窓口として権利者団体と交渉を継続してきた。…時間がかかったのは、「ビデオソフトの館内利用は貸与に相当するか否か」双方の見解の対立によるものであったといわれている。」(JLA著作権問題委員会「著作権法ビデオ問題をめぐる最近の動向」図書館雑誌80巻7号(1986年)412頁)と書かれているように、当初から難航していたようだ。

 そんでもって、図書館界の代表団体(なのかどうかは怪しいところもあるが)である日本図書館協会は、現在次の方針で貸出用映画ソフト(DVD、ビデオなど)を供給する運用を行っている(日本図書館協会著作権委員会編『図書館サービスと著作権 改訂第3版』(日本図書館協会、2007年)122-124頁)。

Ⅰ:日本図書館協会ルート(NHK、ワーナー・ブラザース、ソニー・ピクチャーズ、ポニーキャニオン、朝日新聞社、バンダイビジュアル等)〔昭和63年10月より開始〕
権利者側との協議整わず、合意を得られなかったことから、(社)日本図書館協会(映像事業部)が映画の著作物の著作権者と直接交渉し、個人視聴のための貸与に関し、許諾によって著作権処理をする(『AVライブライリー 著作権処理済みタイトル一覧表』)。
★施行令2条の3の施設のほか、大学図書館・専門図書館・学校図書館等(法38条5項が適用されない施設)も含め、一括許諾
★同協会を通じて購入すると、「個人視聴用貸与承認」と表示されたシールが送付され、ビデオソフトに貼付し、貸出用に利用提供

*参照:日本図書館協会映像事業部編集『AV Library 2012/07』社団法人日本図書館協会、2012.7.

Ⅱ:日本映像ソフト協会ルート(松竹、大映、東宝、日活、東映)〔平成5年よりカタログ送付〕
(社)日本映像ソフト協会が、公共図書館向けに、「補償金処理済みビデオソフト」のカタログを発行
★各図書館が直接販売会社に発注
①補償金額が、各映画会社・ビデオソフトごとにまちまち(図書館側と権利者側の補償金額の合意が整っていないため)
②法38条1項による上映等を禁止または要許諾

*参照:(社)日本映像ソフト協会ビデオコピライトQ&A「Q 17. 公立の図書館で司書をしていますが、ビデオソフトの貸し出しを考えています。著作権処理をきちんとしたいのですが、その手続きを教えて下さい。」 

 ここであれ?って思うのが、「著作権処理済ソフト」とかって称しながら、「貸与承認シール」とか「館内上映制限」とかと言って、著作権者にお伺いを立てないといけない体制になっていることだ。さっき説明したように、法38条5項による補償金は、金さえ払えば著作権者の許諾は必要ないが、現実の運用ではこの法律の規定は崩壊し、許諾ベースで処理、つまり法38条5項という著作権制限規定がないのと同じ状態になっているということだ。こういう問題を著作権契約のオーバーライド問題という。

 こんなこと言うと「著作権の制限規定って法律で決められているんだから、ちゃんと守らない著作権契約は無効になるんじゃないの?」って思うかもしれないが、そんなことを言っていたらほとんどの著作権契約は無効になっちまうぜ。

 例えば、東大名誉教授の中山信弘氏が「契約で著作権法に書いてある事と違うことを締結できるわけです。契約でやってしまえ何でもできるのか。換言すれば、著作権法の中の条文は強行法規かどうかという事を、議論しなければいけないのではないのか。…これからは契約でどこまで著作権法が決めているルール、あるいは価値というものをオーバールールできるかという、そちらの議論が大事なのではないかと思います。」と発言されたところ、現行著作権法の草案を作成した加戸守行氏は「本来、著作権者の権利があって、そこを制限しているんだから、制限されたものについて利用者側が、その規定を援用することは可能ですけど、別に援用しなくて、制限事項に該当する事項であっても、あるいは疑わしいと思えば著作権者の了解を取ってお金を払ったっていい事なのです。著作権は本来、そんなものだろうと私は思います。」と述べている(加戸守行ほか「座談会 著作権法制100年と今後の課題」ジュリスト1160号(1999年)26-27頁)。

 残念ながら、著作権業界の伝統的な考え方は加戸氏の言っていることに近いと言わざるを得ない。このことを考えると、企業やユーザーのやつらが「著作権法改正して、著作権者の利用許諾を不要にして、補償金処理だけで使えるようにすべきだ」という主張がいかに無意味であるかが分かるだろう。いくら著作権法改正をして利用許諾を不要にする著作権制限規定を置いても、コンテンツをゲットするときに著作権者からいろんな条件を付けられてそれに屈したら何の意味もないからな。「はいはい、ボクちゃん、キラーコンテンツをゲットするためなら、逆立ちだって何だって言うこと聞きます!著作権制限規定なんか何にも主張しません。」って具合にな(爆)。今話題のフェアユース規定を置いたって同じことだぜ。

 ちなみに慶応義塾大の小泉直樹教授は著作権の権利制限規定について「教育目的の複製利用とか、点字、図書保存、これらについては、契約によってひっくり返すということは、少なくともなるべくあってはいけないんじゃないか。そもそも、そういう契約というのが、現に世の中にあるのかは存じませんが。」(小泉直樹「"契約で決めておけばよい”か?」著作権研究32号(2005年)54頁)と述べているが、図書館職員や図書館利用者は「はーい、はーい、ここにありますよ~。映画ソフトの貸出し問題がありますよ★」って主張してもいいくらいのことだと思うぜ!

 著作権法の学者先生方には、フェアユースの理論を議論する前に、日本図書館協会の常世田理事の「わたしたち図書館が補償金を払うための受け皿を、権利者側がつくらなきゃいけないのです。ところが実は権利者側がそれをつくっていないんです。・・・個々の契約で個別の商品についてさまざまな許諾を権利者側は図書館に対して与えているという状態です。せっかく著作権法があるのに、それが活かされてないんですね。仕方がないので、日本図書館協会ルートという、いちいち権利者と許諾契約を結んで、これとこれは図書館に置いて個人貸し出ししていいですよという仕組みをつくったということなんです。」(JLA第16回視聴覚資料研究会・平成19年10月31日 事例発表座談会 「合併に伴う視聴覚業務への影響」その③ 質疑応答 15頁)という現場の悲痛な声に耳を傾けてほしいぜ!

 ちゅーことで、残念ながら図書館業界の弱腰(というか、現場の図書館職員で今の貸出システムが著作権法ではなく契約で決まっていることを認識しているやつがどのくらいいるか知らんが)によって、図書館利用者が映画ソフトの種類によって借りられたり借りられないという事態は当分の間続きそうだわな。

参照
鳥澤孝之「図書館の映画ビデオ・DVD利用と著作権」『2010年 日本図書館情報学会春季研究集会発表要綱』(日本図書館情報学会、2010年)35-38頁 

【追記 2012.10.6】

日本図書館協会映像事業部「【重要なお知らせ】映像事業の受付終了について」

社団法人日本図書館協会 理事長 塩見昇「『映像事業』の中止について(重要なお知らせ)」平成24年9月10日

Q27:平成20年度新司法試験科目の著作権法の問題解説をしてください

:こんばんは。Q25で質問した新司法試験受験生です。やっと試験が終わって、ラリホー状態です。
 知的財産法もちゃんと受験しました。それにしても、タイゾーさんがヤマをはっていたカラオケ法理は見事に外れましたねえ(笑)。でも、また著作者人格権の改変の問題が出ましたね。
 法務省のウェブサイトに新司法試験の問題が公表されましたので、早速ですが解説していただけないでしょうか?よろしくです!

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:試験おつかれだったなぁ。ヤマについては予想通りはずれたが(爆)、出題範囲が狭いせいか、問題の傾向は定着している感があるな。また登場人物が何人も出ている事例問題となっている。では問題を見てみるぜ。

〔法務省ウェブサイト平成20年度新司法試験選択科目17頁より引用〕
知的財産法
【第2問】
以下の事実関係を前提として,後記の設問に答えよ。
【事実関係】
 北国のA市で生まれ育った甲は,子供のころから小説家になることを夢見て,中学生及び高校生の時に計30編の小説を執筆し,文学に関心を持つ友人と一緒に作成していた同人誌に掲載した。当該同人誌は,中学校及び高校のクラスメートに無料で配布された。甲は,高校卒業後,上京して作家となり,多くの有名な小説を発表した。
 甲がA市に住んでいたころに書いた小説は世間から注目されていなかったが,甲のファンである乙は,多大の労力と時間を掛けて,それらの小説が掲載された同人誌を収集した。そして,乙は,それらの小説の中から,甲の文学的才能を示すものと評価した15編の小説を選び,その選んだ小説を,甲が作家になった後に執筆した各小説との関連性の観点から分類して収録した「A市時代の甲小説集」を作成し,出版した(以下「乙書籍」といい,これに収録された15編の小説を「乙書籍収録小説」という。)。もっとも,乙は,乙書籍収録小説について,甲が執筆したそのままの形で乙書籍に収録したのではなく,誤記と思われる数か所の送り仮名を変更し,また,今では余り用いられず多くの人にとって意味が分からなくなった数個の言葉を同様の意味を有する現代語に入れ替えた。
 丙は,乙書籍を読んで,乙書籍収録小説に感銘を受けたが,甲が若いころから有していた文学的才能を明らかにするには,乙書籍の並べ方は適当ではないと思い,乙書籍収録小説を並び替えて収録した「甲青少年期作品集」を作成し,出版した(以下「丙書籍」という。)。丙は,乙書籍における乙書籍収録小説をそのまま丙書籍に収録したが,乙が乙書籍収録小説に変更等を施したことは知らなかった。
 A市立図書館は,乙書籍及び丙書籍を購入し,それらをA市民に貸し出している。

〔設問〕
1. 甲は,乙に対して,どのような請求をすることができるか。
2. 甲は,丙に対して,どのような請求をすることができるか。
3. 甲は,A市に対して,どのような請求をすることができるか。
4. 乙は,丙に対して,どのような請求をすることができるか。

 ぱっと見、小説家の作品をマニア2人が勝手に編集・出版して、それを公立図書館が貸出しているというものだ。しかし作品や編集物の改変をするなど、細かい論点(地雷)がごろごろしている。これをいかに見逃さずに拾い上げて書くかにより、運命が決まるだろう。それさえ気をつければ、特に深い知識を身につけなくても試験会場で貸し出される法文を利用さえすれば合格答案は書けるだろう。

 では、各設問を見てみるぜ。

設問1について
 乙が小説家の甲に無断でその作品を出版したことについては、複製権(法第21条)の侵害になるのはすぐに分かるよな。なお乙が編集したこと自体については、甲との関係では特に問題とならない。これは丙との関係で問題を設定しているから、設問4で考えればよい。なお編集著作物は翻訳、脚色等によって創作された二次的著作物(法2条第1項第11号)とは異なることから、編集著作物の作成が翻案権(法第27条)の侵害ということにはならない。また、そのように違法に作成した乙書籍を出版し流通に乗せていることから、譲渡権(法第26条第1項)の侵害が成立する。
 第2段落の「もっとも」以下についてほとんどの受験生は気づいたと思うが、これは著作者人格権の問題だ。小論点としては(1)「誤記と思われる数か所の送り仮名を変更」と(2)「今では余り用いられず多くの人にとって意味が分からなくなった数個の言葉を同様の意味を有する現代語に入れ替えた」の2つが考えられる。改変であるため同一性保持権(法第20条)の問題になるが、その例外である同条2項、もっと言えば同項第4号でいう「やむを得ないと認められる改変」に該当し適用されるかどうかによって、甲が乙に何らかの請求ができるかどうかが決まる。「やむを得ないと認められる改変」に当たるかどうかについては、「Q16:通信回線速度が遅い動画配信は著作者人格権の侵害なの?」で既に触れたよな。まず同一性保持権の立法趣旨は「当該著作物としての同一性を維持することにより、著作者の表現しようとしている思想・感情や当該著作物に対する(通常有すべき)心情、当該著作物を通じて受けるべき社会的評価などの著作者の人格的利益を保護するためのものである」(作花文雄『詳解 著作権法 第3版』(ぎょうせい、2004年)391頁)ことを忘れてはならない。そして法第20条第2項第4号が適用される例としては、①複製の技術的な手段によってやむを得ない場合(絵画印刷技術、音楽の録音技術など)、②演奏・歌唱技術の未熟等によってやむを得ない場合(練習不足、あがってしまった場合など)、③放送の技術的手段によってやむを得ない場合が挙げられている(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(2006年、著作権情報センター)176頁)。
 同項の適用に関する学説(厳格適用すべきかどうか等)としては、上野達弘・立教大准教授(「著作物の改変と著作者人格権をめぐる一考察(一)」民商法雑誌第120巻第45748-779頁、同「著作物の改変と著作者人格権をめぐる一考察(二・完)」民商法雑誌第120巻第6925-969頁等)などが詳細な論文を書いているが、司法試験ではそこまでのレベルのものを書く必要はないだろう。
 上記の(1)のケースについては、誤記と思われる送り仮名の変更であることから、上記の作花論文が指摘する著作者の著作物に対する心情や社会的評価を特に侵したり低下させるものではなく、小説の同一性を損うものではないだろう。誤記であることからその修正は機械的に行えるものであり、著作者にとっても予測されることだろう。しかもオリジナルはまともな編集を経ていない素人同人誌だしな。法第20条第1項第1号では、学校教育の目的に関してではあるが、用字や用語の変更等の改変を認めている。これとの並びで言えば、(1)についても「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」に該当するだろう。
 では(2)のケースはどうか。一見して(1)と同じように考えられそうだが、今ではあまり使われない言葉を現代語に入れ替えることは誤記と異なり、機械的にできるものではないだろう。例えば「国」という字について「國」を使うことにこだわる人がたまにいるが、多くの人が意味が分からない言葉を使うことに著作者がこだわり小説を書いているのであれば、その字体をそのまま使うことが、それこそ、その同一性を保持することが著作者の人格的利益と言えるだろう。そうすると勝手に現代語に替えることについては法20条第1項第4号は適用されず、著作者人格権を侵害したということになる。 
 なお、同人誌に掲載された小説であることから、ひょっとして公表権(法第18条)の問題かもしんねえーと思ったやつもいるかもしれねえが、「当該同人誌は,中学校及び高校のクラスメートに無料で配布された」というくらいに多数者のために作成され頒布されたことから、「その性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物」が作成・頒布されたといえ、著作物の発行に該当し(法第3条第1項)甲の同意を得て公表された状態といえるから、公表権侵害を否定しておけばよいだろう。なお、この論点は、設問3でのA市立図書館の貸出しにも影響するから要注意だ。試験委員の受けを狙って、公表権侵害を認めてみるのも、おつなものかも知れねえがな。

 ちなみに、有名サッカー選手が中学時代に書いた詩を勝手に出版したことについて公表権侵害が成立するかどうかが争われた中田英寿選手サクセス・ストーリー無断出版事件(東京地判平成12229日判時171576頁(平10(ワ)5887))においては、「公表権の侵害は、公表されていない著作物又は著作者の同意を得ないで公表された著作物が公衆に提供され又は提示された場合に認められる(著作権法一八条一項)。
 本件詩は言語の著作物(同法一〇条一項一号)であるから、これが発行された場合に公表されたといえる(同法四条一項)ところ、右の「発行」とは、その性質に応じて公衆の要求を満たす程度の部数の複製物が作成され、頒布されたことをいい(同法三条一項)、さらに、「公衆」には、特定かつ多数の者が含まれるとされている(同法二条五項)。
2 これを本件についてみるに、証拠(乙一、四)によれば、本件詩は、平成三年度の甲府市立北中学校の「学年文集」に掲載されたこと、この文集は右中学校の教諭及び同年度の卒業生に合計三〇〇部以上配布されたことが認められる。
 右認定の事実によれば、本件詩は、三〇〇名以上という多数の者の要求を満たすに足りる部数の複製物が作成されて頒布されたものといえるから、公表されたものと認められる。また、本件詩の著作者である原告は、本件詩が学年文集に掲載されることを承諾していたものであるから、これが右のような形で公表されることに同意していたということができる。」と判示しているぜ。

 そいじゃー、そんなことをした乙に対して甲は何を請求できるのか?複製権・譲渡権侵害と同一性保持権侵害の両方から見てみよう。
 複製権・譲渡権侵害については、著作権侵害という不法行為に基づく損害賠償請求権(民法第709条)、出版販売により不当に利得した利益の返還請求権(民法703条)のほか、出版の差止請求権(法第112条)を行使できる。
 同一性保持権侵害については上記のほか、勝手に改変された書籍を出版されたことについての著作者の名誉声望回復、訂正等に適当な措置を請求することができる(法第115条)。
 したがって、本問では甲は乙に対して、不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求、差止請求、名誉回復等措置を請求できるということになる。

設問2について
 これも設問1と同様に、丙が小説家の甲に無断でその作品を出版し流通させたことについては、複製権(法第21条)と譲渡権(法第26条第1項)の侵害になるのはすぐに分かるよな。むしろ問題になるのは、「今では余り用いられず多くの人にとって意味が分からなくなった数個の言葉を同様の意味を有する現代語に入れ替え」て収録した(著作者人格権を侵害した)乙書籍をそのまま丙書籍に収録して出版したことについて、著作者人格権侵害を問えるのかという問題だろう。丙自身が改変したわけではないが、違法に改変されたものを使っているんだから、問題文を読んでいる俺たちも、ちょっと引っかかるというか、気になるよなあ。
 これはまさに、侵害とみなす行為をしたのかどうか(法第113条)の問題だろう。同条第1項第2号で、著作者人格権を侵害する行為によって作成された物を情を知って頒布し、又は頒布の目的をもって所持する行為については、著作者人格権を侵害する行為とみなす旨、規定されている。

 同項では第1号は海外から海賊版を輸入した場合のいわゆる水際作戦に適用されるものだ。これに対してこの第2号は国内で海賊版を頒布した場合に適用される。第1号で輸入するときに海賊版であることを知ろうが知るまいが、過失があろうがなかろうが問答無用で侵害行為とみなされるが、第2号のほうは侵害行為によって作成された物であることを、「情を知って」頒布若しくは頒布の目的を持って所持等すれば侵害行為とみなされることになる。
 ここで「情を知って」という要件が出てきたが、その意味は「頒布、所持する物品が権利を侵害して作成されたものであるということを知っていれば足りる」とされている(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、平成18年)654頁)。そのため、物品の購入時に海賊版であることを知っているときはもちろんのこと、入手後に権利侵害物品と知ってその後頒布した場合も権利侵害とみなされる。 

 そうすると本問では、丙は「乙が乙書籍収録小説に変更等を施したことは知らなかった」ことから、情を知って頒布したとはいえず、みなし侵害規定は適用されず、著作者人格権(同一性保持権)侵害には当たらないこということになろう。
 したがって、本問では甲は丙に対して、複製権・譲渡権侵害に関して、不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求、差止請求を行えるということになる。

設問3について 
 今度は公立図書館(を所管するA市)が相手だ。(平日の昼間から毎日図書館にやって来れるくらいに暇な)市民のために無料でいいことやっていると普段思い込んで仕事をしている図書館員どもにぜひ解いてほしい問題だよな。誰か今年の新司法試験を受験した図書館員(司書)はいないかなあ~。
 A市立図書館の著作権法上の利用行為について見てみると、購入した乙書籍と丙書籍をA市民に対して貸し出しており、複製物の貸与により公衆に提供していることから、貸与権が働く利用行為(法第26条の3)といえる。
  ここで公立図書館だからって反射的に「非営利・無料・無報酬の書籍の貸出し⇒(つまり)⇒著作権法第38条第4項の適用⇒(だから)⇒著作権者甲の許諾なく貸し出してもだいじょーぶ★⇒設問4へ」っていう展開をすると、「バイバーイ、また来年~!」って答案採点中の試験委員が胸の中でつぶやく声が耳に焼きつくぜ(笑)。それに「Q20:図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…」で取り上げた「土地宝典複写事件」判決東京地判平成20年1月31日〈平成17年(ワ)第16218号〉最高裁HP掲載)で「著作権法38条4項は,貸与権との関係を規定したものにすぎず,複製権との関係を何ら規定したものではないのであって,ましてや,貸出を受けた者において違法複製が予見できるような場合にまで,貸出者に違法複製行為に関して一切の責任を免れさせる旨を規定しているとは到底解することはできない」と判示されているように、同項は貸出利用について権利制限をしているだけであって、それ以外の著作権法上の利用行為や違法行為についてまで免除しているわけではない。
 ここはもうちょっと、図書館という具体例から引いて考えよう。この問いでは本文で、著作権者甲に無断で乙と丙がその小説を収録した書籍を出版したと書いている。つまり海賊版だわなあ。海賊版は何も中国などの海外で製作したビデオだけではないぞ。そして、この海賊版対策でよく使われるのが、設問2でも説明したみなし侵害規定(法第113条第1項)だ。

 なお、じゃあA市は著作権侵害だーって言いそうになると、「えー、図書館はビデオの海賊版と違って、お金儲けのために販売していませんよー。市民の皆さんのためにいいことやっているんですよー」っていう図書館員どものホザキが聞こえそうだがw、法第2条第1項第19号の頒布の定義規定をよく見てほしい。同号では、頒布について「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」と書いてある。つまりだなあ、無料で貸しても、それが海賊版の書籍だったらアウト!!っていうことを言ってるんだわな。
 そこで本問について見てみると、A市立図書館は乙書籍と丙書籍を購入した上で市民に貸し出している。そこで、貸し出すまでの間に同図書館(の職員)がこれらの書籍が乙・丙のそれぞれによって甲に無断で出版されたものであること、また乙が収録小説の中の「多くの人にとって意味が分からなくなった数個の言葉を同様の意味を有する現代語に入れ替えた」ことと丙書籍がそうやって作らされた乙書籍をそのまま収録したことについて知った場合には、乙書籍・丙書籍のそれぞれに関して、前者について複製権侵害、後者について同一性保持権侵害とみなされるということになる。
 したがって本問では甲はA市に対して、A市立図書館が乙書籍・丙書籍の無断出版を貸出し時までに知った場合には法第113条第1項第2号により複製権侵害とみなされるので、それぞれの著作権(複製権)侵害に関して、不法行為に基づく損害賠償請求・差止請求を、乙書籍・丙書籍の無断の現代語入れ替えについて貸出し時までに知った場合には同号により同一性保持権侵害とみなされるので、それぞれの著作者人格権(同一性保持権)侵害に関して不法行為に基づく損害賠償請求、名誉回復等措置を請求できるということになる。一方で、これらの事情について知らなかったときは、A市図書館が乙・丙書籍を非営利・無料・無報酬で貸し出していれば(図書館実務ではこれが通常だと思うが)、はじめに言った法第38条第4項が適用され、甲の貸与権は制限されるので、甲はA市に対して何も請求できない。

 図書館員どもの著作権法の関心といえば31条(図書館での複写)やせいぜい38条(非営利・無料・無報酬の上演、貸出等)についてのものだが、それらについてだけでなく著作権法制度全体の本質を勉強する必要があるというわけだな。31条の適用についてのマニアックな知識を所管省庁や研修会で質問する暇があったら、文化庁の著作権テキスト全体を読んでろっつーことだわな。

設問4について
 最後に、無断出版野郎の乙が偉そうにも、海賊版仲間(?)の丙に対してなんか請求できねえかって問題だ。
 一見ずうずうしい主張で何も請求できそうになさそうだが、こういう問いが出るということは、乙は何か著作物を作成していないかを考えてみよう。本問では一応乙は乙書籍を作成しているので、これについて著作権を主張できるのかが問題となる。

 そうするとだなあ、事実関係の第2段落で、最初に乙が甲の小説に関して「多大の労力と時間を掛けて,それらの小説が掲載された同人誌を収集した」と書いている。この点についてはこのブログで何度も書いているように、いくら「ぼく、がんばったよ!」と叫んで創作性のない行為をしても、著作権の取得は認められない。アメリカの電話帳訴訟で有名になった、いわゆる「額の汗理論」というやつだな。
 次に、やはり第2段落には「乙は,それらの小説の中から,甲の文学的才能を示すものと評価した15編の小説を選び,その選んだ小説を,甲が作家になった後に執筆した各小説との関連性の観点から分類して収録した」と書いてある。これについては、乙書籍収録小説という編集物を作成するのに、甲の小説という素材の選択と乙書籍に収録する際の配列において、「甲の文学的才能を示すものと評価」するという行為を伴い、乙書籍は編集著作物(法第12条第1項)として創作性を有するものと認められることから、乙書籍収録小説の選択・配列の創作性の範囲内で乙は著作権を有するといえる。ちなみに、 乙は甲の小説を勝手に集めて、甲に無断で出版したわけだが、このように個々の素材を無許諾で編集物に収録したとしても、その素材の著作物の権利を侵害したという問題はあるが、編集著作物としては別途保護される(作花・前掲117頁)ことから、乙が乙書籍について著作権を主張することは可能な状態と言える。

 そんでもって、丙は乙書籍収録小説を乙に無断で並び替えて丙書籍を作成・出版している。この点、英字新聞の日本語要約版の発行が編集著作物の翻案権侵害(法第27条)であるかどうかを争ったウォール・ストリート・ジャーナル事件東京高判平成61027日知裁集2631151頁(平5(ネ)3528では、「控訴人文書が被控訴人新聞の翻案であるか否かは、控訴人文書が被控訴人新聞に依拠して作成されたものであるか否か、その内容において、当該記事の核心的事項である被控訴人新聞が伝達すべき価値のあるものとして選択し、当該記事に具現化された客観的な出来事に関する表現と共通しているか否か、また、配列において、被控訴人新聞における記事等の配列と同一又は類似しているか否かなどを考慮して決すべきものと解するのが相当である。」として、素材の核心的事項が共通しているために、編集物の内容が感得し得るような場合に翻案権侵害が認められるとしている。乙が甲の作品から選択した乙書籍収録小説を核心的事項であると捉えれば、たとえ丙がこの収録の順序を並べ替えたとしても選択小説が共通している以上、丙がこれらを出版利用していることから、編集著作物としての乙書籍の著作権を侵害しているといえるだろう。

 また、無断で並び替えていることから編集著作物の創作性の中核である配列の同一性を変更したということで同一性保持権侵害ともなる。

 したがって、乙は丙に対して、乙書籍の著作権(翻案権・譲渡権)侵害と著作者人格権(同一性保持権)侵害について、不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求、差止請求、名誉回復等措置を請求できるということになる。

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 ちゅっーことで、以上今年の分の問題解説をした。前にも言ったように、おれは場末のフリーライターなので、合格発表後に公表される「問題の趣旨」とこの解説の内容が違ったからと言って、損害賠償請求~って言っても無駄だからな(笑)コメントでの議論は歓迎するがな。

 そんじゃあ、受験生はせいぜいラリホー(もしかして就職活動?)することだな