恋愛

Q29:生演奏のピアノバーで歌ったのですが…

:タイゾーさん、こんばんは!「Q14:プロポーズでラブソングを歌ったのですが」で質問したサラリーマンです。あのときに教えていただいたことを彼女に説明したところ、お蔭様でプロポーズOKの返事をもらいました。春には結納も済ませて、あとは結婚式・披露宴を待つばかりとなりました。

 職場の同僚や上司からも祝福されました。そんなこんなで昨晩、課のみんなでお祝いに飲みに行こうということになりました。同僚の一人がこの街でちょっとしゃれた店ということで、生演奏で歌を歌えるピアノ・バーに行きました。入ったところ、店内が北欧風のしゃれたデザインになっていて、通信カラオケの代わりに、有名音大に在籍中でピアノ練習目的で店に来ていたピアニストの女性がピアノを弾き、その伴奏に合わせて歌うという形になっていました。店のオーナーはその音大の出身で、恩師からの依頼でピアノ専攻の学生が入れ替わりに演奏しているということでした。その代わり修行ということで無給で演奏しており、従業員でもバイトでもないということです。

 また例によって平井堅の「思いがかさなるその前に・・・」をピアノに合わせて歌いました。いっしょに店に来た職場の人のほか、そのほかのお客さんからも「結婚、おめでとう!」という歓声をいただき、久しぶりに感動してしまいました。

 歌い終わったとき、後ろから「チョッエーキ、ジュ~ネン(笑)!」という笑い声が混じった大声が聞こえました。聞き覚えのある、それでいて不吉な笑い声でした。

 後ろを振り返ると、Q14で絡んできたよっぱらいのオヤジでした。つるっ禿げで毛が一本しかないのでおっさんだったので、すぐに分かりました。「おまえ、久しぶりだなあ。あんだけ言ったのにまた著作権侵害したのかい。懲役10年だぞ!!」ぼくはさっきの笑い声で言われたことをようやく頭の中で漢字変換できました。

 「おまえ知っとるかい?この店はなあ、無断で楽曲をピアノ演奏して、客に歌わせているということで、JASRACから何度も警告を受けているんだ。それが証拠にこの店の入口にはJASRACの許諾ステッカーが貼られていないだろ、おれの通いのカラオケスナックと違ってなあ。」といい、続けて「つうことで、そんな店で歌ったお前さんは、この店と著作権侵害の共同正犯つうことで、警察にタイーホされるってことになるんだな(爆)」

 ぼくは呆然としました。職場のほかの人たちも「著作権って、最近ニュースで逮捕者がいるって話題になっているよねえ…」とヒソヒソ言って唖然としていました。

 「ふはははぁ。結婚直前に服役というのはめったにないわなあ。さてと、明日は会社の休暇をとって、地元のJASRAC支部の事務所に通報しに行くぞ!」とオッサンは人の不幸を喜び勇んでいる感じで、上機嫌でした。

 結婚直前に「ピーンチ」となってしまいましたが、ぼくはほんとに犯罪者なのでしょうか?すいませんが、教えてください。。。

==========================

:オッス!結婚オメだな。まあ、俺さまの言うことを聞いたからってーものだな。

 質問の件だけだとなあ、お前は禿げオヤジに大声で言われて動転しているのかもしれないが、慎重に考えれば著作権侵害をしていないのは、すぐにわかるはずだ。それをこれから一緒に考えてゆこう。

 本件で問題になるのは、JASRACの管理著作物(Q14参照)である「思いがかさなるその前に…」を利用したことについて著作権侵害が発生したのかどうかということだ。

 この点、有名音大の女子大生は不特定の来客の面前で(公に)ピアノ伴奏をしていることから、演奏権(法第22条)が働く利用をしている。また、あんた自身はやはり不特定の来客の面前で(この点で、Q14であんたが彼女の前だけで歌ったのとは異なる)その伴奏に合わせて歌っていることから、やはり演奏権が働く利用をしている。ちなみに、著作権法上の「演奏」には歌唱も含まれる(法第2条第1項第16号)。

 そんじゃあ禿げオヤジが言ったように「懲役10年!」(法第119条第1号)の罰則が科せられるかというと、即座にはそうならない。非営利目的で聴衆から料金を受けずかつ歌唱者や演奏者に報酬が支払われない場合には、法第38条第1項により著作権者(JASRAC)の演奏権が制限される。したがってピアノを弾いていた女子大生も、歌ったあんたも同項により著作権侵害の責任を問われることはない。

 ではおっさんが「この店はなあ、無断で楽曲をピアノ演奏して、客に歌わせているということで、JASRACから何度も警告を受けているんだ」と言ったのはどういうことなのか?

 これは正にQ20(図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…)でも説明したカラオケ法理によりピアノ・バーに責任が認められた事例ということになる。カラオケ法理のポイントは、直接の著作物利用者に侵害責任が認められなくても、その利用者を支配しかつその利用によって儲けている黒幕がいる場合に「しめしめ、これで大もうけだわぃ」と言わせないように、その黒幕を著作物利用の主体と法的に構成し、著作権者からの損害賠償なり差止請求なりの主張を裁判所が認容することができるようにすることにある。

 この点、今回の質問と同様の事案であるレストランカフェ・デサフィナード事件(平成19年1月30日 大阪地裁 平成17年(ワ)第10324号 著作権侵害差止等請求事件)では、「ピアノ演奏は、通常のレストラン営業の傍らで定期的に行われるものであって、被告が本件店舗に設置したピアノを用いて行われ、スタッフと呼ばれている複数の演奏者が定期的に演奏を行っていたものであり、ウェブサイトにおいても『毎火・金・土曜日にはピアノの生演奏がBGMです』と宣伝していることからして、ピアノ演奏は、本件店舗の経営者である被告が企画し、本件店舗で食事をする客に聴かせることを目的としており、かつ本件店舗の『音楽を楽しめるレストラン』としての雰囲気作りの一環として行われているものと認められる。そうすると、ピアノ演奏は、被告が管理し、かつこれにより利益を上げることを意図し、現にこれによる利益を享受しているものということができるのであって、被告の主張するように、これをレストラン営業とは無関係にアマチュアの練習に場所を提供しただけであると見ることはできない。」とした上で、レストラン側が客から料金を取っていないし演奏者にも報酬を支払っていない旨主張したところ「ピアノ演奏を利用して本件店舗の雰囲気作りをしていると認められる以上、それによって醸成された雰囲気を好む客の来集を図り、現にそれによる利益を得ているものと評価できるから、被告の主観的意図がいかなるものであれ、客観的にみれば、被告がピアノ演奏により利益を上げることを意図し、かつ、その利益を享受していると認められることに変わりはないというべきである。」として、レストランをピアノ演奏の主体と認定している。

 なお、このカラオケ法理のように、第三者の著作物利用についてある者の著作権侵害の主体性を認定する際に注意しなくてはいけないのは「著作物利用=著作権侵害」ではないということだ。著作権者側から見ると無許諾に使われると著作物利用は悪に見えて、たまに非営利無料の演奏や私的複製の規定などの著作権制限規定が適用される利用に遭遇すると「ちっ、運のいい奴だなあ~」と思いがちだが、何のために著作権制限の規定があるのか(もちろん、単なる免罪符ではない)を考え直すべきだな。Q20で図書館内のセルフコピーについての説明でも言ったように、公益を促進するために設けられた著作権制限規定の主体として著作権侵害責任を問えない場合があるという考えもあっていいはずだ。逆に言えば、直接の利用者が著作権侵害していない利用についてまで侵害責任を問えるのは、裁判所にとっては便利なのだろうが。

 つうことで、たとえ店が著作権侵害で訴えられても、あんたが責任を問われることはないから、安心することだな。むしろ、「懲役10年!」って言ったおっさんを名誉毀損罪(刑法第230条第1項)で告訴したらどうだい(爆)

| | コメント (0)

Q14:プロポーズでラブソングを歌ったのですが

:はじめまして。ぼくは地方の企業で働くサラリーマンです。週末になると「ピリ辛著作権相談室」を家で見るようになり、更新を楽しみにしています。

 さて、きのうの夜、一年間付き合っている彼女と地元の城址公園でデートしているときに、思い切ってプロポーズしました。ぼくの思いを最大限に伝えるために、平井堅の「思いがかさなるその前に・・・」を彼女のために歌いました。カラオケの十八番のためか、すっかり調子に乗ってしまい、彼女もうっとりしているように思いました。

 「ラララ探しに・・・」と歌ったそのとき、後ろから「JASRACに通報するぞ、ゴラァ!!」と言う怒声が聞こえました。周りに誰もいないと思っていたので彼女と二人で驚きました。

 声の主は、近くの飲み屋街から酔ってふらついていたおっさんで、ぼくたちにからみたいようでした。「オラ、オラ、著作権を知ってるのかあ。無断で使ってはいかんぞ!JASRACから許諾はもらったのか!おれが通っているカラオケスナックは、JASRAC許諾ステッカーを貼っているぞ。お前の背中に許諾ステッカーは貼っているのか!」と訳の分からないことを言ってきました。

 ぼくはこのブログで読んできたことを思い出して、「音楽を個人的にコピーしたり歌う場合は例外的に著作権が及ばないんですよ。そんなことも知らないんすかぁ?」とうろ覚えのまま反論しました。

 そしたらおっさんは、「ムックク…」とくやしそうな顔をして「最近の若もんはチャラチャラしやがってよ・・・」と意外にもすごすごと立ち去りました。

 これを見た彼女は「わあ、ユースケすごい!意外に法律知ってんだ。見直しちゃった★」「こんど、さっき言っていたことがどういうことだったのか教えてよ。プロポーズの返事はそれから考えるね~」ということでプロポーズの結果はお預けとなりました。

 次に彼女に会うときまでに勉強しておきたいので、特定の相手に歌を歌う場合の著作権の働き方について教えてください。なにせ、人生かかっているので・・・。

==========================

:俺様のブログのおかげで破談にならなくてよかったな。数少ないこのブログの常連のあんたに免じて、彼女へ今後何を言えばいいのか教えてやるよ。

 平井堅の「思いがかさなるその前に・・・」が著作権法上、誰の権利になるのかを確認してみよう。音楽著作権情報のデータベース『Music Forest 音楽の森』で確認すると、次のようになる(2007年6月30日現在)。

作詞・作曲:平井堅 

出版社:エムシーキャビン音楽出版、ジェイ ウェィブ ミュージック 

信託状況:JASRAC(演奏、録音、出版、貸与等) 

*出版社とは「音楽出版社」のこと

 これで、あんたが歌った著作物(「思いがかさなるその前に・・・」)の著作権法上の演奏権(法22条)、複製権(法21条)、貸与権(26条の3)は、JASRAC(日本音楽著作権協会)が持つ(預かっている)ことが分かる。

 酔っ払いが言っていたJASRACに対する著作権侵害が成立するには、あんたがこの歌詞と楽曲を利用して彼女に対して歌ったことが演奏権侵害になるのかどうかが問題になる。なお著作権法上、「演奏」はピアノ等の楽器で弾くだけではなく、歌唱による利用も含む(法2条1項16号参照)。

 法第22条では、演奏権について「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)・・・演奏する権利を専有する」と規定している。ここでポイントとなるのが「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とするときに権利が働くということだ。

 これはどういうことかというと、一人で部屋や風呂場で歌ったり、特定の家族や彼女のために歌う場合には演奏権という著作権の支分権(権利の束である著作権を構成する権利のそれぞれのもの)が働かないことを意味する。加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、2006年)183頁では、このような利用については「結局著作物の経済的利用として概念するには足りないような使い方でありますから、したがって著作権が本質的に及ぶべき性格のものではないという考え方を採っているわけでございます。」と説明している。

 したがって、あんたがおっさんに著作権が及ばないと反論したことは、結論としては正解だ。ましてや、おっさんが言っていたJASRACの許諾ステッカーはJASRACの演奏権が及ぶ「スナックなど飲食店でのカラオケ、楽器演奏」のために使用されるものであり、個人が歌唱するときに背中に貼る必要はない(笑)。

 だが注意して欲しいのは、あんたは少し混同しているようだが、この演奏権が及ばないということは、コピーすることについて私的複製に該当する場合に自由に利用できることとは意味が違うということだ。

 個人的に利用することを目的として行う自宅でのビデオデッキを利用したテレビ番組の録画やWebページのプリントアウトは通常、私的複製(法30条1項)の規定が適用されるが、これはさっきの演奏権とは違って、一旦権利が及ぶ利用と扱われた上で、例外的に権利制限されるということになる。なぜなら、コピーについては著作権の支分権のうち複製権(法21条)が及ぶが、これはさっきの演奏権とは違い「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。」と規定され、「公に」あるいは「公衆に」という文言がないからである。つまりこれは、彼女一人のために歌を歌ったときは著作権は及ばないけど、自己利用のためにコピーをしたときは例え1枚だけでも著作権は原則として及ぶことを意味する

 なんでこんな面倒なことになっているのかというと、コピーによる利用はいわば「有形的利用」であり、楽曲の演奏や歌唱のような「無形的利用」とは異なって、「あと」が残り、たとえ当初は個人目的でコピーしても、業務など他の目的に転用することが可能だからだ。そのために法49条では複製物の目的外使用を禁止し、権利制限により適法とされた有形的利用の無断転用の防止に備えている。

 これは一見ささいな違いのようだが、この「あと」が残る問題は、ニュースでたまに話題になっているiPod等への著作権の課金問題や、デジタルテレビ放送で番組を1回しかコピーできない仕組みにするかという議論(コピーワンス問題)の背景になっている。「個人利用なのになぜ?権利者の横暴?」とふと思ったときは、この違いを思い出してほしい。

 つうことで個人利用の場合には、そもそも著作権が及ばない利用なのか(個人的な演奏、歌唱など)、一旦著作権が及んだ上で例外的に制限される利用(個人利用目的のコピーなど)なのかを区別できれば、彼女への回答はばっちりだな。

| | コメント (0)