映画・テレビ

Q39:100%正しい著作権の答えがほしいのですが…

:こんにちは。私はITベンチャー企業の経営者です。子どものときからパソコン好きだったのが高じて会社を立ち上げたのですが、でっかい組織の歯車になるよりもずっとやりがいがあると思っています。

 これからやろうとしている事業としては、インターネットを通じたコンテンツ送信サービスを考えています。規制がいっぱいある地上波放送に比べると、チャンスがいっぱいありそうですからね。ところがベンチャー仲間から聞いたところによると、著作権の規制がたくさんあって何も知らずに事業を始めると著作権者から苦情が来ると聞きました。

 もちろんコンプライアンス重視なので法を守って事業をしたいと思っていますが、何が正しくてどうすれば100%確実に訴えられることなく、しかもコストをかけずにビジネスができるのかを真剣に考えています。特に著作権法では、私的に使う場合などには無断で利用できると聞いたことがありますので、そういう制度を十二分に活用したいと思っています。

 そこでお願いなのですが、どこに著作権法のことを聞けば確実な答えがもらえるのでしょうか?裁判は絶対いやなので(この前通知が来た裁判員候補者も拒否したいくらいですw)裁判所には聞けず、また余計なお金は払えないので弁護士にも聞けませんが、やっぱ所管省庁なのでしょうか?それとも著作権法学者や電話相談室などでしょうか?ぜひ教えてください!

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あるわけねぇ~だろ!(爆)。てめえのような甘ちゃんが多いんだよな。ネットの掲示板で著作権のスレッドを見ても、教えて君ばかりだしよ。今回は著作権に関して示される見解の意義や生かし方を考えてみよう。

 そもそも論として、お前が言っている「100%正しい著作権の答え」とはいかなる場面で効果を発揮するのか?規制行政に飼いならされた世間の大方のやつらは、所管省庁に「あ~、それは大丈夫ですよ」って答えてもらって、それをてめえに文句をいう奴に対して、水戸黄門の印籠のごとく「○○省(庁)は俺が正しいと言っている」と誇らしく主張して、自分の思い通りに事を運ぼうと期待しまくっている。

 だがなあ、このブログで何度もなんどもしつこく言っているように、著作権法は行政規制法ではない著作権はあくまでも私権であり、著作権行使による文句の矛先は所管省庁(文化庁)ではなく、権利者に向けなければ問題は解決しない。「政府規制の問題であれば、政府ないしは官庁が自己の有する権限を手放せば済む場合も多いが、著作権の場合は、著作権という私権の内容をどのように再構成するか、あるいは既得権となっている著作者・著作権者の権利をいかに制限するかという問題」というわけだ(中山信弘「著作権法と規制緩和」西村あさひ法律事務所西村高等法務研究所編『西村利郎先生追悼論文集 グローバリゼーションの中の日本法』(商事法務、2008年)386頁)。したがって所管省庁(文化庁)に電話して、自分が有利に進めたい著作権の質問事項について「愛していると言ってくれ~!(むかし、そんなドラマがあったなあ…)と求愛するが如く、電話に応対しているやつに「イエス!」と言ってもらえるまで粘るのは無意味というものだ。まして「それはケース・バイ・ケースで、裁判しないと分かりませんねえ…」と回答されたときに「ざけんじゃねぇ、俺が裁判できるわけねーだろ!!」と逆ギレするのは愚の骨頂というべきである。

 ここで「裁判しないと分かりません」と書いたが、どういうことなのか?これは正に憲法で規定する三権分立の問題だろう。国家の立法・行政・司法の権限のうち、立法権は国会(日本国憲法第41条)に、行政権は政府(同第65条)に、司法権は裁判所(第76条)にそれぞれ属している。したがって著作権に限らず、自分の身に起こっている揉めごとを相手方との交渉ではまとめきられず、国家に公的に介入してもらって解決したい場合には、弁護士を雇うなど身銭をきって裁判に臨む必要がある。

 国家の権限が三権に分かれている結果として、それぞれの機関の見解が異なることがありうる。その典型例が、映画「シェーン」事件最高裁判決(最判平成19年12月18日民集第61巻9号3460頁)だろう(吉田利宏・いしかわまりこ「法令読解心得帖 法律学習はじめの一歩 第25回 法律の解釈権」法学セミナー第649号[2009.1]58-61頁)。この事件は、映画の著作物の著作権保護期間(著作権法第54条第1項)を公表後50年から70年に延長した「著作権法の一部を改正する法律(平成15年法律第85号)」は平成16年1月1日から施行されることになっていたが(同法附則第1条)、同法附則第2条において「改正後の著作権法(次条において「新法」という。)第54条第1項の規定は、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従前の例による。」と規定されていたことから、改正前の規定によれば平成15年12月31日には著作権が存在するが平成16年1月1日は著作権が消滅している昭和28年公表の映画の著作物の保護期間も20年間延長されたのかどうかが争点となった。

 この点、原告からは次のように、平成15年法改正における文化庁、内閣法制局の立法作業経緯、国会の立法者意思から見て、20年間延長していると主張している(東京地裁平成18年10月6日判決(平成18(ワ)2906)12頁)。

「 平成15年4月に,内閣法制局第2部において,著作権担当の参事官が担当の部長に,本件改正法における映画の著作物の著作権保護期間についての経過措置の内容を説明することになっていたが,文化庁は,その説明のための資料として,「平成15年法改正法制局第2部長説明資料」と題する書面(以下「本件資料2」という。)を作成し,実際に,内閣法制局第2部では,著作権担当の参事官が本件資料2を示して担当部長に説明を行った。本件資料2には,「第54条の映画の著作物の保護期間延長の規定が来年(2004年)1月1日に施行される場合,本年(2003年)12月31日まで著作権が存続する著作物については,12月31日の午後12時と1月1日の午前0時は同時と考えられることから,『施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存するもの』として保護期間が延長されることとなる」と明確に記載されているが,本件資料2に記載された「映画の著作物の保護期間についての経過措置」の原案がそのまま第156回国会において「著作権法の一部を改正する法律案」として提出されていることから,内閣法制局が平成15年12月31日の午後12時と平成16年1月1日の午前零時は同時である,すなわち,昭和28年に公表された映画の著作物は,改正著作権法の適用を受けると考えていたことは明らかである。
 そして,上記「著作権法の一部を改正する法律案」が第156回国会による審議を経てそのまま成立していることから,立法者である国会も,平成15年12月31日の午後12時と平成16年1月1日の午前零時は同時である,すなわち,昭和28年に公表された映画の著作物は,改正著作権法の適用を受けると考えていたことも明らかである

 少し補足すると、著作権法などの法律案を政府が作成して国会の審議にかける場合、各省庁が法律案原案を作成した上で、内閣法制局からその内容が憲法に違反しないか、他の法令に抵触しないかなどの法令審査を受ける必要がある。上記の主張にあるように、参事官や部長のOKをもらう必要があるわけだ。この審査を通過すれば事務次官等会議、閣議決定を経て国会に提出されることになる(内閣法制局ウェブサイト「法律ができるまで」参照)。したがって、保護期間の延長について昭和28年公表の映画の著作物も保護期間延長の対象になるという見解は、法制局審査を通過したことから、正式な政府解釈であるということができる。

 しかし上記最高裁判決では「『この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例による』と定めているが,これは,本件改正法の施行日において既に保護期間の満了している映画の著作物については,本件改正前の著作権法の保護期間が適用され,本件改正後の著作権法の保護期間は適用されないことを念のため明記したものと解すべきであり,本件改正法の施行の直前に著作権の消滅する著作物について本件改正後の著作権法の保護期間が適用されない」「本件映画を含め,昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は,本件改正による保護期間の延長措置の対象となるものではなく,その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅したというべきである。」として、保護期間の延長を否定した。

 このような裁判所の判決については批判もあり(作花文雄「映画『シェーン』事件知財高裁判決―引き続く混迷の様相」コピライト2007年5月号51-64頁、同「『シェーン』事件最高裁判決の残した課題」コピライト2008年2月号40-48頁)、また「『小津安二郎作品の保護期間をつなげるために法改正するんです』と、私は何百人もの国会議員に説明した」としこのような本来の法改正目的が国会質問されなかったことを嘆く声もある(岡本薫「特別講演 『WIPO新条約と利用可能化権の創設』(抄)」『2007年度 ALAI JAPAN国際研究大会講演録~シンポジウム「権利の制限と3-step-test」』(ALAI JAPAN 事務局、2008年)20-21頁)。しかし、立法者意思についてはあくまでも一つの解釈の材料、根拠という位置づけであり、司法判断を受けたものではない政府解釈については裁判所で誤ったものであると判断されることがある旨の指摘がなされているところである(杉浦正樹「最近の著作権裁判例について」コピライト2007年2月号20頁)。

 一方で過去の裁判例では、図書館等の複製に係る著作権法第31条で規定する著作物の単位が争点となった多摩市立図書館複写拒否事件(東京地判平成7年4月28日判時1531号129頁)や、北朝鮮・台湾の国民が作成した著作物が日本の著作権法で保護されるかどうかを争った北朝鮮テレビ放映事件(東京地判平成19年12月14日 平成18(ワ)5640 平成18(ワ)6062(「Q9:台湾人の著作権って、日本で保護されるの?」、「1万アクセス突破だぜ!!」参照)などではいずれも文化庁の見解を採用しており、政府解釈と司法判断の関係については注意する必要があるだろう。

 以上のように、著作権の解釈に対する評価は、私人間の交渉、行政との関係、裁判所との関係など、場面によって異なるといえるだろう。したがって、著作権に関する「正しい答え」を所管省庁、著作権法学者、電話相談室などの誰かに寄りかかって解決することはできないだろう(そういう奴に限って、期待する結果を得られなかったときに責任をなすりつけようとするんだよな)。要は自分が主体となって、どの機関を利用するかをケース・バイ・ケースで考える必要があるというわけだ。場合によっては、身銭を切って弁護士に法律相談する必要もあるだろうな。

 自分で何とか考えたいと改心した奴は、著作権法を解釈するための「よりどころ」として、①裁判所の示した見解、②政府の見解、③著作権法の立案作成者の見解、④著作権法の学者の見解、⑤権利者団体から示された見解、などに沿って、結論を導くことも考えられる(南亮一「マイクロフィルム及び電子媒体の著作権問題 第12回(最終回) 著作権の解釈を行う方法について」月刊IM Vol.48 No.2[2009.2]19-22頁)。確かに、このように法解釈の見解をリサーチして、それによって問題を解決することは、ある程度は有効であり、恣意的な出鱈目解釈よりはずっとマシだろう。しかし、やはり他人の権威を笠に着ていることに変わりはなく、新しい問題や、図書館の問題のようにまともな裁判例がなく、多くの法律家から放置されている領域については、有用ではないおそれもあるだろう。

Q38:店内でテレビをつけていたら、WTOに提訴するぞと言われたのですが

:こんちは。おれ、ラーメン屋を経営しています。知ってるかもだけど、家系ラーメンで有名な店で何年か修行してから、親分に暖簾分けしてもらって、今は国道沿いに店を構えています。秘伝のダシがきいてうまいと大評判で、週末は列ができるほどになっています。

 この前の水曜のことだったんだけど、昼飯どきにヨーロッパ系っぽい中年のおっさんが来たんだけどさあ。店に置いてあったテレビを見て、番組でドイツのロックバンドの曲が流れたら、いきなり「この曲の著作権の許諾契約はとっているのか!」って流暢な日本語でおれに問いただしてきました。おれは「そんなのしてねえよ。つか、求められたことなんてねーけど」って言ったら「私はこのロックバンドの日本での著作権代理人だあ。著作権侵害として、お前に著作権使用料を請求する!」って大声で言われました。

 「なんだ、このおっさん」と思っていたところ、後ろで味噌ラーメンを食べていた常連さんが「おじさんさあ、日本ではテレビ番組を店でつけるのは、著作権と関係ないってきいたことあるよ」って助け舟をだしてくれたんです。「恩にきるよ、今日のラーメン代、タダでいいぜ」って心の中でつぶやいたところ、「なぬ?それだったらWTOに提訴してやる~!」と息巻いて店のパンフレットを持って、店を飛び出しました。

 この話の流れが全然読めないんですが、俺の店は著作権侵害しているのでしょうか、そして著作権使用料を払わないといけないのでしょうか?またWTOの提訴って何なんでしょうか?分からないことだらけなので、ぜひ教えてください。

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:家系ラーメンかあ。俺様はあいにく行列が嫌いだが、平日の昼間に行けるようになったら行ってもいいかなあ~

 質問だけど、日本においてはテレビ番組をラーメン屋などの営利目的の店で流すことについて著作権法上問題ないというのは、常連が言ったとおりだ。どういうことかってーと、テレビ番組を店内のテレビを通じて不特定または多数の客どもに見せるという行為は、原則として公衆送信(テレビの電波発信)によって送信されてきた番組等の流れて行く先をコントロールする権利である公の伝達権が働く(著作権法第23条第2項)。しかし、同法第38条第3項において、営利を目的とする場合でも通常の家庭用受信装置を用いて行う場合には公の伝達権は制限され、ラーメン屋などの店でも著作権に関係なく普通のテレビを使って番組を客どもに見せることができるようになっている。その趣旨としては「まだ我が国では、そこまで著作権を及ぼすことに社会的・心理的抵抗が強いと考えられるからでございます。」と説明されている(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、平成18年)276頁)。

 ラッキーって思うかもしれねえが、ここで注意する必要があるのがベルヌ条約著作権に関する世界知的所有権機関条約のような著作権の国際条約だ。何度もこのブログで言っているが、著作物ってーのは作成された国内だけではなく、世界中にホイホイ流通するものだから、世界の国々でお互いに保護しましょうぜって協定を結ばないことには、法制度を作る意味がないから、そういう国際条約をこしらえているわけだ。iPodやパソコンへの著作権課金をするときに問題になる私的録音録画補償金問題の議論で、「iPodやパソコンにも補償金を認めなければ、ベルヌ条約のスリーステップ要件(同条約第9条第2項)を満たせず、日本が条約違反を冒してしまうことになる」と金切り声を叫んでいる団体がいるだろ。あれだよ、あれ。

 ふんじゃあ、日本の著作権法がそのベルヌ条約を破っているとした場合、日本の政府なりユーザーは、どこかの国際的な裁判所で賠償命令が下されたり、国際刑務所に収容されたりするのだろうか?実はそんな規定はベルヌ条約には何もない(爆)。各条文を見ると「排他的権利を享有する」「保護される」という文言がいっぱい並んでいるが、世界のどこかの偉い人が条約違反した奴らを制裁することはどこにも規定されていない。いわば小学校の「廊下を走るのはやめましょう」という張り紙に近い効果しかないわけだわな。

 しかし、それでは世界の知的財産権は破られ放題でやったもん勝ちになってしまう。そこで登場したのが、WTO設立協定(世界貿易機関を設立するマラケシュ協定 )だ。WTOとは世界貿易機関なわけだが、その附属書1Cとして「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)を作成し、「加盟国は、1971年のベルヌ条約の第1条から第21条まで及び附属書の規定を遵守する。」(同協定第9条第1項)として、著作権についてはベルヌ条約を守れやってーことになっている。そして注目されるのが、このTRIPS協定に違反した場合には、当事国が違反した国に対して紛争解決に係る規則及び手続に関する了解(WTO設立協定附属書2・DSU)に則って訴えを提起し、紛争解決を図れるという点だ(DSU附属書1(B)、TRIPS協定第64条)。その背景としては、「先進国は…ベルヌ条約など既存のWIPO所管の知的財産権条約はその違反に対して有効な制裁措置を課すことができないことから、実効的な履行確保手段を欠いていると考え、知的財産権保護の約束をGATTの一部に取り込むことで、違反に対するGATT第23条第2項の貿易制裁措置の発動を可能にし、もって協定の履行を確保しようとした」とされている(尾島明『逐条解説 TRIPS協定』(日本機械輸出組合、1999年)268頁)。

 なおDSU第3.1条では、「加盟国は、1947年のガットの第22条及び第23条の規定の下で適用される紛争の処理の原則並びにこの了解によって詳細に定められ、かつ、修正された規則及び手続を遵守することを確認する。」と規定され、WTO加盟国が従来のGATT(関税及び貿易に関する一般協定)手続の基本原則を踏襲すべきことを定めているところである。

 DSUにより紛争を解決するに当たっては紛争解決機関(DSB、DSU第2.1条)により手続が進められるが、その流れは下記の通りとなる(尾島・前掲281頁)。

協議の要請(提訴国)⇒協議⇒(相互に満足のゆく解決:終了)⇒パネル設置要請(提訴国)⇒パネルの設置(DSB)⇒パネルへの付託事項及びパネリスト決定⇒パネル審理(意見書提出・口頭弁論)⇒パネル報告書⇒(上訴する場合 上訴申立(敗訴国)→上訴審理(常設上訴期間)→上訴審報告書)⇒パネル(上訴審)報告書採択(DSB)⇒勧告履行のための合理的期間の決定(仲裁)⇒(勧告の履行)⇒制裁措置発動許可の要請(勝訴国)⇒制裁措置発動認可(DSB)⇒制裁措置の量の決定(仲裁)⇒制裁措置発動(勝訴国)

 今までにWTOでどんな紛争が提起されたのかを知りたければ、WTOウェブサイトの"Chronological list of disputes cases "を見れば分かる。2008年12月7日現在(確認)で1995年1月以来、383件提訴されていることが分かる。

 日本が著作権に関連して提訴された案件に関して言えば、DS28DS42でそれぞれアメリカ、ECから1996年に提訴されたものがある。何が問題になったのかというと、日本では昭和45年までは旧著作権法(明治32年法律第39号)が適用されていたが、そこでは実演家の権利やレコード製作者の権利の保護期間は死後又は公表後30年とされていた(同法第3条~第8条)。その一方で、1994年に採択されたTRIPS協定では、第14条第5項で「実演家及びレコード製作者に対するこの協定に基づく保護期間は、固定又は実演が行われた年の終わりから少なくとも50年とする。」とされ、同条第6項ただし書きで「1971年のベルヌ条約第18条の規定は、レコードに関する実演家及びレコード製作者の権利について準用する。」と規定されていたことから、著作隣接権である実演家とレコード製作者の権利についてどれだけ遡及的に保護期間の延長を図るのかが問題になった(TRIPS交渉等の国際動向などに伴う平成3年改正前は、著作隣接権の保護期間は実演等の後30年間。加戸・前掲577頁参照)

 この点、日本政府はベルヌ条約第18条第3項の「前記の原則の適用は、これに関する同盟国間の現行の又は将来締結される特別の条約の規定に従う。このような規定がない場合には、各国は、自国に関し、この原則の適用に関する方法を定める。」の解釈について、どの程度過去の実演等まで保護する必要があるのかは各国の合理的な裁量に委ねられると考えた上で、著作隣接権制度が日本に導入された昭和46年1月1日(改正当時から見て25年前のものまで)以降に行われた実演、放送、同日以降にその音が最初に固定されたレコードのうちWTO加盟国に係るものを新たに保護対象に加えることとされた(加戸・前掲769-772頁、著作権法第7条第7号・第8条第5号・第9条第4号、附則旧第2条第3項参照)。ところがアメリカとECは日本の著作権法改正の措置では不十分である(50年前のものまで保護すべきである)として、WTO提訴をしたというわけだ。

 日本政府としては話が違うぞゴラァーって感じだったが、ほかの先進諸国では著作隣接権を50年前まで遡及して保護しており、国際的な調和を図る観点から、米国等の主張を受け入れ、平成8年に再度法改正したという経緯がある(加戸・前掲770頁、作花文雄『詳解著作権法(第3版)』(ぎょうせい、2004年)540-541頁参照)。

 では、お前んちのラーメン屋にどなりこんだ外国人のおっさんが言ったことはどういうことなのか?これはおそらくWTOのDS160を念頭に置いて言ったものと考えられるな。内容はだなあ、アメリカの著作権法第110条(5)では、ラジオやテレビで放送される音楽を、一定の条件の下で、飲食店や小売店舗において、著作権者の許諾を要することなく、またロイヤリティの支払もなく、流すことを許容するというものである。この条項が例外として許容しているのは、ひとつは"homestyle exemption"(同第110条(5)(A):家庭利用に関する著作権免除)であり、もうひとつは"business exemption"(同第110条(5)(B):商業利用に関する著作権免除)と言われるものだが、これらがベルヌ条約第11条等に違反するとして、ECが1991年1月にアメリカをWTOに提訴したというものだWTO法研究会『米国著作権法第110条(5)に関するWTOパネル報告書の日本語訳と解説(WT/DS160/R, 2000年6月15日付)』(日本機械輸出組合ウェブサイト)。結論としてはパネル報告書69頁で、"homestyle exemption"はベルヌ条約に適合するが、"business exemption"については適合しないということになった。この規定は、さっき言ったわが国の著作権法第38条第3項、すなわち店内のテレビによる伝達に係る著作権制限規定にも係ることから、日本が第三国としてこの紛争に参加したところだ著作権審議会国際小委員会(第4回議事要旨)(平成12年6月30日)参照)。もっとも、アメリカ著作権法第110条(5)の規定は今も相変わらず改正されていないようだが。国力があって、ドラえもんのジャイアンみたいに「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」って具合に、人には突っ込みを入れるのに、手前のことになると開き直るという態度をとる国はそんなもんなんだろうがな。

 ちゅーことで、家系ラーメンの経営者としてはわが国の著作権法第38条第3項を盾にとって著作権侵害でないことを主張できるが、国際的な問題については日本政府がんばってねー、ってことになるだろう。外国政府からのWTO提訴がこわかったら、先回りして著作権法改正で同項を削除するのも手かもしれねえがな。

Q37:著作権譲渡のおいしい投資話が来ているのですが…

:タイゾーさん、こんばんは。おれは六本木ヒルズ族になることを夢見ている投資家です。そんでもって、儲け話には結構敏感なんすよねえ~♪

 そんなおれっちに、最近おいしい話が来たんすよ。これ、いつもタダで著作権情報を教えてくれるタイゾーさんにだけの秘密なんすけど、とある有名な音楽アーティストから、その人が作った楽曲の著作権をまるごと破格の値段で譲渡してくれるっていうんすよ。彼によれば「JASRACに登録している楽曲の著作権は全部ぼくの手元にあります」「ぼくは音楽出版者とはインディペンデントなんで完全な著作権者です」と言ってから、「いまは節税するためにぼくの関連会社に著作権を預かってもらっていますが、この通りちゃんと文化庁で同社へのパーフェクトな著作権譲渡の登録をしています。」と著作権登録原簿の謄本を差し出しました。確かに謄本には1番目の権利者はそのアーティストで、2番目が彼の関連会社となっています。お金を振り込んだら、おれへの著作権譲渡の登録を文化庁でしてくれるそうです。

 おれはすっかり信用したんで、銀行やサラ金から借りてでも、このまるごと著作権を買い付けようと思ってんだけど、著作権のことよく分かんないんで、何か重要な点や注意すべき点があったら教えてくれや。儲けが出たら、ちょっとは分けてやっからよ!

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:儲け話か。俺様は1日に1回、吉野家の牛丼を食えればそれでハッピーだから、とんと興味はねえな。つか、手形や株券みたいに、音楽著作権の流通を投資の対象にするって言うのは、日本では聞いたことがねえなあ。

 秘密の話か。信用してくれてありがとな。つっても、このブログに書いた時点で、日本全国のピリ辛マニアに周知の事実となっているのだが(爆)。なんでかってーと、この話はかなりうさんくさいからだ。俺様の疑問点としては主に2点ある。

 第1に、「JASRACに登録している楽曲の著作権は全部ぼくの手元にあります」というのはありえないということだ。「Q36:ユーザーフレンドリーな音楽著作権管理会社を作りたいのですが…」で言ったように、JASRACは作詞家・作曲家又は音楽出版者(著作権者)との間で著作権徴収について裁量がある信託契約の受託者をしているのであり、単なるパシリ君ではない。そして著作権は名義上JASRACに移転している(いわば預かっている状態)から、著作権者(委託者)といえども信託法上、勝手に著作権を他人に移転することはできない信託法第146条第1項では「委託者の地位は、受託者及び受益者の同意を得て、又は信託行為において定めた方法に従い、第三者に移転することができる。」と規定しているように、著作権者はJASRACの同意を得ない限り移転できないわけだ。この点、JASRACの著作権信託契約約款では次のように規定されている。

(著作権の譲渡)
第10条 委託者は、第3条第1項の規定にかかわらず、あらかじめ受託者の承諾を得て、次の各号に掲げるときは、その著作権の全部又は一部を譲渡することができる
(1) 委託者が、社歌、校歌等特別の依頼により著作する著作物の著作権を、当該依頼者に譲渡するとき。
(2) 委託者が、音楽出版者(受託者にその有する著作権の全部又は一部を信託しているものに限る。)に対し、著作物の利用の開発を図るための管理を行わせることを目的として著作権を譲渡するとき。

 したがってこの約款によれば、てめえのような単なる投資家にはJASRACは著作権譲渡を同意せず、有名アーティストから著作権を譲渡されても無効ということになる。

 第2の疑問点は、文化庁の著作権登録についてである。だいぶ前に「Q2:著作権登録して大儲けをしたいのですが」でも答えたが、著作権法では著作権を取得するための登録制度はない。何度もいうが、登録せずに著作権が発生する(無方式主義)のが著作権の特徴だからだ(著作権法第17条第2項参照)。この点で特許権、実用新案権などの産業財産権と大きく違う。

 著作権登録には主に5つの登録制度がある。実名の登録、第一発行(公表)年月日の登録、(プログラム著作物の)創作年月日の登録、著作権・著作隣接権の移転等の登録、出版権の設定等の登録である。これらはいずれも事実の推定や権利変動の表示を登録するものである。詳細は文化庁ウェブサイト「著作権の登録制度について」を参照することだな。なおたまに著作権登録は複雑であるため活用されず著作物流通に支障が生ずるという誤報があるが、『登録の手引き』を読めば小学生でも申請書を作成して提出できるレベルとなっている。逆にこれを読んでも分からなければ、小学生やり直し!確定だがな。また登録費用(登録免許税額)は1件当たり、①で9000円、②で3000円、④のうち著作権の移転の登録で18000円となっており(登録免許税法別表第一)、それほど高額というものではない。

 これらのうち③を除いた登録の一部については、「登録状況検索」を利用して、登録番号・登録年月日・著作物の題号・著作者の氏名を調査することができる。ためしに、今話題の「小室哲哉」を検索してみると、52件ヒットする(2008年11月6日現在)。同じ著作物の題号が1曲につき作詞した分と、作曲した分の2つある場合(著作物の題号が同じもの)を含むことから、(著作物の種類はこの検索結果では分からないが)おそらく同氏が作詞・作曲したものが34曲分あると考えられる。登録年月日は、平成17年10月27日・平成17年11月25日・平成17年11月29日・平成18年7月5日・平成20年5月15日と5回分ある。

 しかし、小室哲哉氏のような超メジャー級アーティストが文化庁の著作権登録をするのはごくまれだろう。なぜならば、楽曲の著作権の状況は、JASRACなどの著作権管理団体でデータベース管理され、著作者等が使用料を受け取る分には、文化庁に登録しなくても支障はないからだ。ネットでも、前に紹介したMusic Forestや、JASRACJ-WID(作品データベース検索サービス)[JASRACサイトトップページの右下にバナーあり]がある。

 今回はJ-WIDで、小室氏の曲のうちかつてJR東日本のCMで使われた"DEPARTURES"について検索してみよう。作品タイトルに「DEPARTURES」、権利者名に「小室哲哉」と入力する。すると1件ヒットしクリックすると、権利者情報として「小室哲哉:作詞・作曲」「エイベックス・グループ・ホールディングス 株式会社:出版者」「全信託 JASRAC」と記載され、演奏から通信カラオケまですべてJマークが入っている。これは、著作権が小室哲哉氏から音楽出版者のエイベックスに移転され、JASRACがエイベックスからすべての著作物利用について著作権信託を委託されていることを意味する。ここで注意の欄の「未確定」マークに注目する必要がある(2008年11月6日現在)このマークは次の意味を有する

現在は権利が未確定な状態です。
未確定は大きく分けて以下の場合があります。
1)利用者情報で権利者からの届出がない作品
2)権利者からの届出が作品の一部についてであり、その他の権利が未確定の作品
3)複数の権利者からの届出で、権利者によって主張が異なり権利が確定できない作品

 したがって、この楽曲を利用したり権利移転するときは要注意ということになるだろう。

 今回の儲け話で関係あるのは、④の著作権の移転の登録だな(著作権法第77条第1号)。この登録の効果は、著作権の変動を登録することによって、その事実を第三者に対抗することができるということだ。これはちょうど、不動産に関する物権の変動の対抗要件として、民法第177条が「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と規定しているのと同じことだ。

 このような権利の対抗関係は、著作権の二重譲渡がある場合に実力を発揮する。つまりだ、今回てめえが著作権の移転登録をめでたく受けた場合、登録を受けていないもうひとりの譲受人(音楽出版者)に対して著作権を主張できるということを意味する。民法の通説では、対抗できる「第三者」の意味としては、「登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者」、具体的には、権利の二重譲渡があったことを単純に知っていた場合(悪意)も含むが、悪意を超えて相手方を害するなどの目的を有する背信的悪意者は自由競争の範囲を逸脱して保護に値しないとされている(大判明治45年6月1日など)。ちゅうことで、今回儲け話を持ってきた奴が著作権を二重譲渡していたとしても、著作権の移転の登録を先回りして済ませあんたが善意又は単純悪意者に該当すれば、もう一人の譲受人に勝てるということになる。

 もっとも、JASRAC等の管理楽曲について文化庁で著作権移転登録を済ませたからといって、二重譲渡の場合に著作権登録していない音楽出版者等に対して優位に立てるとは俺はあんまり思えない。なぜならば、さっきの小室哲哉の"DEPARTURES"のように二重譲渡などの権利の不確定要素があればJ-WIDなどのデータベースで「未確定」マークがつき、JASRACが利用者から徴収してきた使用料を、文化庁登録上の権利者(対抗関係の勝者)に素直に渡すとは考えられないからだ。権利が確定してから払いマースということになるだろう。そうなると、二重譲渡になるような曰くつきの著作権を買い取っても著作権料をゲットすることはできず、溝に金を捨てるに等しいと言える。せーぜい、裁判所に著作権登録の謄本を持参して差止仮処分の申立をし、JASRACから利用許諾を得たユーザーども(カラオケ店、レストラン、放送局など)の楽曲利用を一時的にストップさせられる可能性があるくらいだわな。

 なお、文化庁の著作権登録事務では、J-WIDで未確定マークがあろうが業界でやばい噂が流れていようが、原則として関係なく事務をすすめることになる。不動産登記と同じように、法律上書面審査だけで済ます形式的審査権しか与えられていないからだ。

 こんなこというと、「法律の不備だ!」「法改正だ!」あげくのはてにはユビキタスネット社会の制度問題検討会『ユビキタスネット社会の制度問題検討会報告書』(平成18年9月)のように、著作権の発生・延長・消滅を国の登録制度と結びつけようというデンパな主張が出てくることが容易に想像される。

 しかしそういう考えは、そもそも論として「方式主義」となり「無方式主義」を採用する国際著作権条約(ベルヌ条約、ローマ条約、WCT、WPPTなど)に反するおそれが高い。また国の著作権登録に実質的審査権を付与するためには、特許法のような権利審査制度・登録不服申立制度などを整え役所の組織や人員を拡充する必要があるが、それは現在の行政改革の流れに反するだろう。それにJ-WIDなどの民間業界の集中管理体制で十分な場合があるだろうしな。(吉田大輔「ネット時代の著作権56 『著作権に登録制』???」出版ニュース2006.10/中 20-21頁参照)。まあ、文化庁の著作権課が著作権庁に組織再編されたときに初代長官や審判長になるのもわるくはないかもしれねえがなw。

 ちゅーことで、今回の話に乗らないほうが、身の安全というものだぜぃ。

Q36:ユーザーフレンドリーな音楽著作権管理会社を作りたいのですが…

:タイゾーさん、こんにちは。著作権の役立つ情報を掲載してくれてありがとです。ぼくはベンチャー企業を立ち上げて人生の一発逆転勝ち組を狙っている大学4年生です。

 ネットで音楽が無断で使用されてJASRAC(日本音楽著作権協会)がしゃしゃり出るときにいつも感じるのですが、著作権管理事業者っていつもユーザーに無愛想ですよねえ?「楽曲の無断使用は万引きと同じだぁ~」「人権侵害だあ!」とかって。でも、ユーザーってお客さんなんだから、店頭のスタッフの人みたいに「ありがとうございました(ペコリ)」とするのが筋だと思うんですよ。それを何でいつも偉そうに徴収するのかなあって、思うわけですよ!最近では有名なアーティストが今の著作権は厳しすぎてよくないって言っている人もいますしねえ。

 そこでぼくが今かんがえているのは、ユーザーに愛される音楽著作権管理会社です。かつての国鉄が民営化してJRに、図書館や美術館などの公共施設に指定管理事業者の民間会社を導入したことにより、窓口のサービスがよくなったというように、業界に革命を起こしたいと考えています。

 ただ僕は著作権については素人なので、設立方法や営業戦略などを教えてください。よろしくです!!

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:人生の一発逆転か。世の中、そんなに甘い話が転がっているんかなあ~

 結論から言うとなあ、おめえは大勘違い野郎というべきだな。音楽を含めた著作物の取引はコンビニや魚屋での買物とは違う。店先で多少愛想をよくしたから売上が伸びるというものではない。著作権法だけではなく、著作権等管理事業法信託法についても理解する必要がありそうだな。それは日本の著作権が厳しすぎるとほざくアーティストも同様だろう。てめえのおまんまがどうやって食えるようになっているのかをいかに理解していないかを証明しているからだ。

 著作権管理事業を理解するには、著作権等管理事業法を理解することが大前提となる。著作権等管理事業とは何かってーと「著作権又は著作隣接権(以下「著作権等」といいます)を集中的に管理し,利用者に利用の許諾を与え使用料を徴収し,権利者に分配する業務」をいう(文化庁ウェブサイト-文化庁-著作権等管理事業法について)。作曲家や作詞家が著作権を有する楽曲が無断で演奏、ネット送信などで無断利用された場合に、そいつら著作権者が自ら権利行使して「こらこら、お金払いなさい」とカラオケ屋やネットユーザーの家にまで徴収しに行くのはほぼ不可能であるため、JASRACのような専門的な著作権管理事業者がいろんなやつらの著作権を集中管理することにより効率的に著作権行使するというわけだ。このような著作権管理事業者は日本だけではなく、諸外国にSACEM(フランス)、GEMA(ドイツ)、ASCAPBMI(アメリカ)などがあり、日本だけにあるものではない。

 この著作権管理事業者になるには、文化庁への届出が必要だ。許可制でなく登録制であり形式審査があるだけだから、法律上の要件を満たす創設準備をした上で、日本語で文書を作成する能力と担当官庁の担当係員様と日本語で会話する能力があれば、とりあえず創設することはできるだろう。制度概要や手続などについては文化庁ウェブサイトの著作権等管理事業法のコーナーを見れば事足りる。

 次にお前が目指す著作権管理事業者が、どういう制度上のからくりで著作権を行使しているのかを説明してやるぜ。音楽の著作物で言えば、作曲家や作詞家は、JASRACのような著作権管理事業者との間で、ユーザーに対する利用許諾(利用条件となる使用料の額など)の仕事を任せる契約をする(著作権等管理事業法第2条第1項)。この契約の特徴は、著作権等の管理を委託された者(受託者)が、自らの意思により委託者の経済的利益を左右する権限を有することを内容とする契約に基づく事業を対象としていることだ(著作権法令研究会編『逐条解説 著作権等管理事業法』(有斐閣、2001年)46頁)。したがって、「おい、あのレストランから、俺の曲の演奏・1分当たり1万円徴収したれや」「へい、へい、ご主人さま~~」といったパシリ君は、この法律の対象とはならない。小林亜星級の著名音楽家であろうと、駅前のストリートミュージシャンであろうと、使用料金は、管理事業者が定めた使用料規程(同法第13条、例えばJASRACの使用料規程)に則って徴収するというわけだ。その代わり、確実に徴収するという信頼を委託する著作者どもから獲得しなければ、使用料額で不平が出てくることだろう。その意味で「JASRACの奇跡」と言えるかも知れねえな。「JASRACにお金を払える幸せ」というわけだ(岡本薫「著作権から学ぶ民主主義55 第3部『契約・ビジネス』の世界 コンテンツ流通を阻害する『1』の発想」時の法令1783号(2007年)55-56頁参照)。現に慶応義塾の安西塾長は「著作権上、JASRAC(音楽著作権協会)というのがありますけれども…音楽も音だけは許されております。ただ、映像が入るとできないということになっております。これは、結局JASRACという権利管理の団体がございますけれども、映像に関する権利管理の団体は整備されていないためにできない」と言って、JASRACに相当する映像著作権管理団体がないことを嘆いているほどだ(知的財産戦略本部・第13回知的財産戦略本部議事録(安西本部員発言)平成18年2月24日)。

 管理委託契約の方式としては次の2種類がある(同法第2条第1項第1・2号)。

信託契約:委託者が受託者に著作権又は著作隣接権を移転し、著作物等の利用の許諾その他の当該著作権等の管理を行わせることを目的とする契約

委任契約:委託者が受託者に著作物等の利用の許諾の取次ぎ又は代理をさせ、併せて当該取次ぎ又は代理に伴う著作権等の管理を行わせることを目的とする契約

 このうち信託契約は、信託法に基づく信託制度、すなわち財産を有する者(委託者)が自己または他人(受託者)の利益のために当該財産を管理者(受託者)に管理させる制度であり、①委託者から受託者に対して、対象財産をその名義も含めて完全に移転させてしまうこと(目的財産の完全移転性)、および、②移転された目的財産を、受益者のために管理・処分するという制約を受託者に課すこと(管理主体と受益主体の分離性と対象財産の目的拘束性)という2点にある(新井誠編『キーワードで読む信託法』(有斐閣、2007年)2頁)。したがって、信託による著作権等の管理の場合には、JASRACのような受託者自身が権利者であるので、当該権利を適切に保全するため、使用料を支払わない者に対する支払い請求や訴訟提起を自らの名で思う存分行うことができることになる(著作権法令研究会編・前掲47頁)。

 このような信託契約は、例えばJASRACでは委託者(作詞家・作曲家等)との間で「著作権信託契約約款」を締結しているが、著作権の信託の内容としては、次のように規定している。

 (著作権の信託)
第3条 
委託者は、その有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を、本契約の期間中、信託財産として受託者に移転し、受託者は、委託者のためにその著作権を管理し、その管理によって得た著作物使用料等を受益者に分配する。この場合において、委託者が受託者に移転する著作権には、著作権法第28条に規定する権利を含むものとする。
本契約における受益者は委託者とする。ただし、委託者は、必要やむを得ないときに限り、受託者の同意を得て、著作物使用料等の分配につき第三者を受益者として指定し、又はこれを他の第三者に変更することができる。
3 委託者は、前項ただし書の規定により第三者を受益者に指定したときであっても、受託者の同意を得て、その指定を取り消すことができる。

 また訴訟については、上記約款第15条で「受託者は、信託著作権及びこれに属する著作物使用料等の管理に関し、告訴し、訴訟を提起することができる。」と規定されており、委託者の著作権の侵害について自己の所有物と同様に訴訟できる仕組みとなっている。

 他方で委任契約を締結した場合には、受託者が利用許諾に際し得た経済的効果が委託者に直ちに帰属するという法的性質を有し、利用許諾契約における受託者の裁量が委託者の経済的利益を直接に左右するという関係になる。ただし、信託契約とは異なり受託者自身が権利者になるわけではないため、回収困難な取立、差止請求、訴訟提起など、争訟性が相当程度認められる業務を行うことができないと解されているところである(著作権法令研究会編・前掲48頁、弁護士法第72条参照)。

 信託契約においては、受託者には委託者から著作権が移転される上に、その取扱いについて広範な裁量があるため、信託法により様々な義務が課されている。具体的には信託事務遂行義務(信託法第29条第1項)、善管注意義務(同法第29条第2項)、信託事務の処理の委託における第三者の選任及び監督に関する義務(同法第35条)、忠実義務(同法第30条~第32条)、公平義務(同法第33条)、分別管理義務(同法第34条)、帳簿作成・報告等義務(同法第36条~第38条)だ(新井誠『信託法〔第3版〕』(有斐閣、2008年)242-243頁)。したがって、何らかの権利の受託者が、信託財産の中から何十億円もの巨額な資金を無利息で貸し付けたり(善管注意義務違反の可能性)、多数存在する受益者の中の1人に対してだけ有利な条件の貸付けをしたり(公平義務違反の可能性)、信託財産の会計から受託者の固有財産の会計(一般会計)に振り替えたり、信託財産からの貸付けで建設されたビルに受託者が入居すること(忠実義務違反の可能性)は、ありえないわけだわなw(新井・前掲255-257頁)。

 ここまで書いてきて気づいたやつもいるかもしれんが、著作権管理事業者というのは信託法で忠実義務やら善管注意義務やらが課されているように、委託者に対して著作権者の身代わりとして、まるでそいつら自身のように著作権行使のためだけに行動することが要求されている。著作権者のために己の200%以上の能力を発揮して、寝食忘れてでも著作権料の徴収や著作権侵害に対する訴訟提起することなどが要求されるハードな仕事であると言える。逆に言えば著作権者だけに目を向ける必要はあるが、利用者に愛想よくすることは制度上予定されていないだろう。著作権管理事業者の間で自由競争を促しても、委託者である著作者に気に入られるように使用料の値上げ合戦をすることはあっても、利用者のためにダンピング合戦をすることはないと推測される。著作権管理事業制度をユーザー本位にせよってどうしても主張するのであれば、明日から国会の議員会館を回って、管理事業者が認可制であったかつての「著作権に関する仲介業務に関する法律」(仲介業務法)に戻せってロビー活動をしないといけないわなあ~。

 たとえばだ、魚屋であれば

「へい、らっしゃい。奥さん、きょうはあじが油がのっていて、買い時だよ~♪」「あら~、でも高いわねえ。」「鰯はお値段いい感じっすよ」「じゃあ、今日は鰯にしとくわー」「へい、まいど~」

ってことはありえるかもしれねえが、レストランでBGMを流すときに店主と著作権管理事業者との間で

「洋風のうちの店の雰囲気に合う、出来立てのJ-POPの新曲をバンドで演奏したいんだけど」「すいません、その曲、○○協会に著作権信託されていて、うちは演歌か浪曲しかないんすけど…。その代わり、うちは使用料は○○の半分以下ですよー」「じゃあ、演歌△△を1日5時間分で利用許諾契約頼むよー」

ということがありえないように、魚とか自動車のような有体物の買物とは違い、著作物と言うのは代替性がきかないわけだ。したがって、著作権管理事業者の立場はユーザーとの関係では、信託・委任契約に基づきひたすら使用料徴収やら裁判などでの権利行使のみであり、一般の取引でいう営業活動というのはあまり必要とはいえない。せいぜい著作権思想の普及が営業活動に変わるかもしれねえな。楽曲などの著作物をユーザーの好みで使ってしまった以上、それに対して著作権を行使するのは至極まっとうな行為だ。レストランなどのユーザーから使用料を支払って「もらう」ために、ぺこぺこする必要がない代わりに、いきなり差止仮処分の令状をつきつけることができるわけだ。

 おまえが期待する、ユーザーに愛想をよくする役割を担っているのは、強いていえば音楽出版者だろう。音楽出版者とは「著作権者として、出版、レコード原盤への録音その他の方法により音楽の著作物を利用し、かつ、その著作物の利用の開発を図ることを業とする者」(日本音楽著作権協会定款第7条(1)ロ)であり、「一般に著作者と音楽出版者の間では、著作者への使用料の支払・分配、第三者への著作権譲渡の条件としての著作者の同意、契約違反の際の契約解除(権利の返還)等を定めつつ、著作者は音楽出版者にすべての著作権を譲渡するという内容の契約が結ばれている」とされている(著作権審議会権利の集中管理小委員会『著作権審議会権利の集中管理小委員会報告書』(平成12年1月) 著作権情報センターウェブサイト)。

 たとえばだ、テレビのドラマとタイアップしたポップスをエンディングで毎週聴いたり、ラジオやCMでやたらと流れる曲を聴いているうちに、何だか耳になじんだり友達との共通の話題になったりしてCDを買いたくなったり、iPodに録音したくなることがあるよなあ?音楽の場合にはそういう「顧客の購買意欲を刺激する仕掛け」(プロモーション)(烏賀陽弘道『Jポップとは何か』(岩波書店、2005年)186頁〔岩波新書〕)でいかにユーザーどもをその気にさせてヒットをつくり、消費行動に向かわせるのかが勝負といえるだろう。だからさっきの魚や自動車と違い、楽曲については特定のものを買う(または消費する)気になってしまった以上、代替性はなく、その目的物に向かってまっしぐらになるわけだ。そんでもって楽曲を演奏、ネット送信などで無体的に使ってしまったら、JASRACその他の著作権管理事業者がいけすの魚を網ですくうように、オートマチックにお支払いを待っているだけ、という状況になるんだわなあ。

 ちゅうことで、制度上ユーザーフレンドリーな著作権管理事業者というのはありえないわけだ。楽曲の営業活動をしたかったら、音楽出版者を目指すほうがいいかもしんねえな。もしその気になったら、まずは音楽出版社協会のウェブサイトを見たほうがいいかもだな。

Q35:タレントデビューしたらブログを閉鎖しなさいって言われたんだけど…

:おばんです(*゚▽゚)ノ。私は京都市生まれの京都育ちで女子大に通う大学生です!学校でホームページ作りの演習をしているときに著作権のことを調べていたら、このブログがあったので、それ以来たまに見させていただいています。

 実は最近、あるチャンスをつかみました。アイドルのデビューをすることになったんです~★。きっかけは、7月に友達と京都の「哲学の道」を歩いてて、暑かったんで沿道のカフェで大好きなアイスクリームを食べていたら、東京から来た芸能プロダクションの方からスカウトされたんです!

 それ以来、月に何回か東京に出てレッスンを受けているんやけど、この前ある注意を受けました。それはねぇ、前からプライベートでブログを書いていて、日々の日記や写真とかを掲載しているんやけど、事務所の人からね、著作権が問題になるから閉鎖しなさい、これからは事務所が指定するホームページで書きなさいって言われました。

 新しいホームページを作れるのは嬉しいんやけど、今までのブログでは地元の友達とか元彼とかとの思い出や、あと人気コーナーの京都を紹介するページ、お寺の画像とか、そういうのを全部残せずに閉鎖するのは、とても残念です(´・ω・`)ショボーン。

 デビューしたらブログが著作権で問題になるというのはどういうことなんですか?私が作ったのに法律違反になりはるの?ぜひぜひ教えてください!

 タイゾーはん、これからもお仕事おきばりやす(゚▽゚*)。

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:女子大生の学生さんからの質問か。「1:ラブ・メールをブログに載せたんだけど…」以来だな。このとき質問した奴はしょうもなかったが、あんたは著作権について勉強していて感心だぜ。

 質問だけど、あんたが自分のブログに書いた文章や撮影した画像などは、自ら考えて創作性あるものを作成したのであれば、著作権法上の著作権者としてあんたが著作権を有する。だから自分が著作権を有するものについて他人から違反であると言われることはない。

 では事務所のスタッフが「著作権が問題になるから閉鎖しなさい」って言ったのはどういうことなのか?

 事務所が特に気にしているのは、著作権法自体の問題ではなく、ブログに含まれるのあんたの画像の肖像権の問題だわなあ、おそらく。「Q11:愛娘の写真がネットにアップされたのですが」でも書いたように、肖像権とは「人の肖像を、その人に無断で写真撮影をしたり、絵画、彫刻等で複製すること、又は、この複製した写真等を無断で公表すること」により侵害される人格的利益をいい、京都府学連事件最高裁判決(最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁)をきっかけに認められた判例上の権利である(大家重夫『肖像権 新版』(太田出版、2007年)16頁以下)。この肖像権に関し「著名な芸能人のうち、その肖像等が有する顧客吸引力を経済的な利益ないし価値として把握し、これを独占的に享受することができる法律上の地位を有する…著名な芸能人の上記のような法律上の地位は、パブリシティ権と称される」(東京高裁判決平成18年4月26日(判タ1214号91頁・判時1954号47頁)(ブブカスペシャル7事件))とする裁判例がある。このような芸能人の肖像に関する権利は、おニャン子クラブ事件(東京高裁平成3年9月26日第18民事部判決(判時1400号3頁・判タ772号246頁))をきっかけに認められたとされている。同判決では「芸能人の氏名・肖像がもつかかる顧客吸引力は、当該芸能人の獲得した名声、社会的評価、知名度等から生ずる独立した経済的な利益ないし価値として把握することが可能であるから、これが当該芸能人に固有のものとして帰属することは当然のことというべきであり、当該芸能人は、かかる顧客吸引力のもつ経済的な利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利を有するものと認めるのが相当である。」「右権利に基づきその侵害行為に対しては差止め及び侵害の防止を実効あらしめるために侵害物件の廃棄を求めることができる」と判示している。

 このパブリシティ権も肖像権と同様に法律上の根拠規定はない。だから「著作権が問題になる」というのは正確ではない。しかし民事上の権利として、芸能人が所属する事務所に無断で芸能人が写った生写真・ホームページ掲載の画像やグッズ等の販売の差止めや損害賠償請求などが行われている。

 パブリシティ権は芸能人の肖像を根拠にしていることから、本来はその芸能人が権利を持っている。そうするとデビュー前に掲載したブログについてとやかく言われる筋合いはないようにも思われるが、事務所によるパブリシティ権管理の必要性を主張されることがしばしばある。その根拠は、事務所の経営者による「時間と金銭をかけて、素質あるごく普通の人間を俳優やタレントとして育て上げていく」という考えのもとで進められる「所属の俳優やタレントの才能発揮の場及び芸能生命の維持に関する長期的なプロモーション戦略」であるとされている。一部の芸能プロダクションではそのような方針の下、所属の俳優・タレントの氏名・肖像の利用に関して全権委任を受けた上で、自ら権利処理の窓口となっているということである(増山周・君塚陽介「パブリシティ権の集中管理と実務について」『実演家のパブリシティ権ハンドブック』所収((社)日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター(CPRA)、2008年)40頁)

 したがって、あんたが芸能事務所と契約をするときに、パブリシティ権を全権委任した場合には、デビュー前に作成したブログの管理についても委任している状態になっていることが多いだろう。なぜなら、デビュー前のブログの画像なんかも、その芸能人が作成したものと評価され商品として市場に流通し、芸能人としてのあんたの顧客吸引力に影響する可能性があるからだ。

 なお、パブリシティ権を著作権とするのは正確でないとさっき言ったが、業界人は法律の権利として立法化を目指しているようだNPO肖像パブリシティ権擁護監視機構ウェブサイト。その方向性としては、①パブリシティ権法の新規立法②不正競争防止法の改正③著作権法の改正が指摘されているところだ(上野達弘「パブリシティ権をめぐる課題と展望」高林龍編『知的財産法制の再構築』(日本評論社、2008年)205-207頁)。あんたの事務所の人は、③に対する期待がフライングしたのかも知れねえな。

 一般人ならば通りすがりの人ですむところ、有名な芸能人になると風貌だけで商品価値が発生するからな。デビュー前の写真もお宝と言われたりな。そういう大人の事情も知った上で、レッスンをがんばってくれよな。

Q34:正義のヒーローのコスプレをしたんだけど…

:タイゾーさん、すんごくお久しぶりです。「Q7:大学の学内共有サーバーにソフトを溜め込みたいと言われているのですが」っていう質問をさせていただいた大学職員です。辞職するならその前にBSAに学内の著作権侵害を通報して謝礼をゲットしなさいとアドバイスを戴きましたが、踏ん切りがつかず、未だに同じ職場に止まっていますです…。

 そんな欝な日々を過ごすぼくにとって唯一の楽しみが、子ども向けのヒーロー番組に出ているヒーローのまねをすることです。はじめは番組に合わせてまねっこするだけで満足していたのですが、そのうちにヒーローが着ているスーツ、マスク、ブーツなどの一式を身にまとって演じたくなってきました。ネットや専門書を読んでプラスチックの加工技術を学んでから、自前で番組と同じヒーロースーツを作り上げました。家の鏡を見ながら、ヒーローの振り付けをしたところ、我ながらカッコいい!と思ってしまいました。家の中だけではなく、週末の早朝にスーツを装着しながらバイクに乗って公園に行ったりもしました。

 いつものように週末に公園でスーツを着てジャンプしていたところ、お子さん連れの夫婦から、今度の幼稚園のお祭りに出演してほしいと頼まれました。即決でOKし、幼稚園のお祭りに参加し、正義の味方「ネアガリ戦隊カガレンジャー」がデビル帝国の宰相シンキローと闘うという設定で演じました。評判は上々で、園長さんから今度は地元のイベントに参加して欲しいと言われました。もちろん出演を快諾し、「ケンロク園で僕と握手!」大会に出演し、必殺技「ゴッド・ネーション・バスター」を披露しました。このシーンをカメラで録画していたお父さんから、インターネットの動画共有サイトに掲載したいというお願いがありましたが、もちろん喜んでOKを出しました。

 週末のイベントですっかり満足していた日々を過ごしていましたが、そんなある日のこと、テレビのヒーロー番組の製作会社から「あなたがコスプレを着て演じていることは著作権侵害なので即刻中止してください。」という警告状が郵送されました。電話で問い合わせたところ、個人的な趣味の範囲内でコスプレすることには抗議しないが、インターネットにも公開されてしまった以上、黙認できなくなったということです。

 ぼくはコスプレの出演については今までノーギャラでやっており、今でもビジネスではなく個人的な趣味のつもりで参加しています。自分ではコスプレの製作は私的複製で、イベントへの参加は非営利目的・入場無料・無報酬の特別規定が適用されて、著作権的にはOKだと思っていましたが、番組制作会社が主張していることは本当なのでしょうか?アドバイスをよろしくです。

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:おひさだな!まだ懲りずに大学職員をしていたのか。それもまた人生かなあ~

 質問だけど、お前の気持ち的にはコスプレの作成と出演は個人的な趣味の範囲なのだろうが、それと私的複製(著作権法30条1項)の適用が直結するとは限らないということに注意する必要があるぜ。

 今回のケースの著作権法上の問題点を見るとだなあ、コスプレの作成にはヒーロー番組の製作会社の複製権(法21条)が、イベント大会での上演には上演権(法22条)が、ネットの動画共有サイトへのコスプレ・スーツ等のアップロードに対しては公衆送信権(法23条1項)が及ぶ。

 次にこれらの権利に対して、著作権法上の権利制限規定が適用されるか?コスプレ・スーツの作成については、私的複製(30条1項)の適用が問題になるが、これを適用して無許諾で作成するためには「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするとき」でなければならない。お前の場合は、はじめは一人だけで楽しむ目的で作成していることから、当初は私的複製として無許諾で作成できたと言えるだろう。

 だがなあ、ここで注意する必要があるのは、スーツをその後別の目的に転用した場合にはどうなるのかということだ。「一旦セーフになったんなら、それでOKじゃーないの?」と思うかもしれんが、法49条1項では、第30条第1項に定める目的以外の目的のために、同項によって作成したものを頒布または公衆に提示した者は、複製権が及ぶ複製を行ったものとみなすと規定されている。つまり、権利制限規定の適用はチャラになって、振り出しにもどるということだわな。今回の場合には、お前は始めはコスプレ・スーツを個人だけで使用することを目的に作成したが、イベントやお祭りで、不特定多数の面前でその作成物を使用している場合には「公衆に提示した」ということで私的複製規定の適用はチャラになる。つうことで原則に戻って、番組製作会社から複製の許諾を得る必要があることになる。

 出演したイベントが非営利目的で客から入場料をとらずかつノーギャラで出演している場合、確かに上演権については法38条1項によって制限される。しかしこれはあくまで上演権との関係での規定であり、これをもってヒーロースーツを複製したことを正当化するものではない。「Q27:平成20年度新司法試験科目の著作権法の問題解説をしてください」で引用した「土地宝典複写事件」判決東京地判平成20年1月31日〈平成17年(ワ)第16218号〉最高裁HP掲載)で、「著作権法38条4項は,貸与権との関係を規定したものにすぎず,複製権との関係を何ら規定したものではないのであって,ましてや,貸出を受けた者において違法複製が予見できるような場合にまで,貸出者に違法複製行為に関して一切の責任を免れさせる旨を規定しているとは到底解することはできない」と判示されているように、権利制限つうものは条文で規定されている支分権(権利の束になっている著作権を構成するそれぞれの権利)のみを制限するものであって、それ以外の支分権までを自由に使えるようにするものではない。

 インターネットの動画共有サイトの映像も同様だ。番組製作会社が著作権を有するヒーローのスーツが公衆送信されている状態だからな。ただしこの件についての著作権法上の責任は、映像をアップロードした父親が負うことになるだろう。

 ちゅーことで、個人的な趣味のつもりでヒーロースーツを作る場合でも、著作権法30条1項でいう「私的使用目的」とはズレがあり、公衆の面前で演じるときにノーギャラでも著作権の主張から逃れられない場合があることを肝に銘じることだわな。

Q32:公立図書館から映画DVDを借りたいのですが…

:こんにちは。私は週末に近所の公立図書館を利用するOLです。はやりのベストセラーや文庫本を図書館でチェックして、気に入ったものを借りたら、通勤電車の中で読破するのが日課となっています。音楽CDも借りちゃうことがあります。

 図書館では最近は本だけでなくDVDも充実してきて、個人ブースでDVD映画を鑑賞することが多くなりました。ハリウッドものだけでなく、私が好きなイギリス・フランス・フィンランドなどのヨーロッパ映画も多くて満足しています。しばらくは週末にそのような感じでDVDを利用したのですが、そのうち自宅でじっくり観たくなってきました。それにたまに遊びに来る彼と一緒に、まったり鑑賞できますしね。

 そこで図書館のカウンターの方に貸出の申込をしました。そうしたら司書の方から「申し訳ございません。そのDVDは著作権の関係からお貸出しできません」って言われてしまいました。邦画やアメリカの映画では借りられるものが多いのに、私が選んだものが借りられないのは残念でした。

 でも、本は借りられるのに、なんでDVDは借りられるものがあったりなかったりするのですか?司書さんがおっしゃっていた著作権の関係ってどういうことなのでしょうか?教えてください!

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:またまた公立図書館か。最近は行っていないが、退職した団塊の世代のたまり場になっていると思ってたぜ。今までの図書館関係の質問はコピーの問題が多かったが、今回は資料の貸出しの問題だな。

 資料の貸出しについても、もちろん著作権が及ぶ。どういう権利が及ぶかっていうと、図書・雑誌や音楽CDについては、貸し出すことについての貸与権(法第26条の3)が及ぶ。これに対して映画DVDのような動画が含まれる著作物については頒布権(法26条)という貸出しだけでなく、資料をどこに流通させるかまでコントロールできてしまうと権利が著作権者に与えられる。なんでこんな強力な権利が認められたのかというと、映画業界の配給制度(新作映画フィルムの貸出し・譲渡を封切館→2番上映館→3番上映館→…名画座というように上映館のグレードによって転々流通をコントロールする商慣習)を前提に現行著作権法を制定したからであると言われている。図書・雑誌・音楽CDと映画DVDを借りられるかどうかの違いの基本はこの点にある。

 では公立図書館で利用する場合はどうなるのか?この点は次のようなものとなる。

 まず図書・雑誌・音楽CDについては、①公表されたもので、②営利を目的としない貸出しで③貸与を受ける者から料金を受けない場合には、公立図書館は著作権者の許諾がなくても、不特定多数の市民の者ども(公衆)に貸し出すことができる(法38条4項)。役所を含めた非営利団体がレンタル料を取らなければ、たいがいの貸出しはスルーってことだわな。

 では映画DVDについてはどうか。①公表されたもので、②貸与を受ける者から料金を受けないだけでなく、③政令で定める視聴覚教育施設その他の施設が行うもので、かつ④著作権者に相当な額の補償金を支払わなければならないと規定されている(法38条5項)。③でいう政令で定める視聴覚教育施設とは、(1)国又は地方公共団体が設置する視聴覚教育施設(2)図書館法第2条第1項の図書館(公立図書館など)、(3)その他文化庁長官が指定するもの(現在はなし)と規定されている(著作権法施行令第2条の3第1項)。

 ここで注意が必要なのは、映画DVDの貸出しについては相当な額の補償金の支払いが必要だが、裏を返せば補償金さえ支払えば、図書館側は著作権者の許諾がなくても利用できることを法律上では意味する。しかし現実にはそうはなっていない

 どういうことかって言うと、さっきの著作権法38条5項の補償金規定は昭和59年の著作権法改正で規定されたものであるが、補償金を支払って利用するためには、当然補償金をいくらにするのかを決めなければならないわけだ。それは誰が決めるのか?もちろん担当省庁ではない。当事者が話し合いをして決めるわけだ。

 この点、当初の交渉状況については、「文化庁の指導をうけて〔筆者:この辺りからしてお上依存主義が見え隠れするなw〕、[筆者注:昭和]59年9月、権利者団体(映像文化製作者連盟、以下「映文連」と略す、日本ビデオ協会、以下「ビデオ協会」と略す、日本映画製作者連盟)、以下「映連」と略す」、利用団体(全国視聴覚教育連盟、以下「全視連」と略す、日本視聴覚教育協会、日本図書館協会)等が第1回懇談会を開催、以後利用団体側は全視連を窓口として権利者団体と交渉を継続してきた。…時間がかかったのは、「ビデオソフトの館内利用は貸与に相当するか否か」双方の見解の対立によるものであったといわれている。」(JLA著作権問題委員会「著作権法ビデオ問題をめぐる最近の動向」図書館雑誌80巻7号(1986年)412頁)と書かれているように、当初から難航していたようだ。

 そんでもって、図書館界の代表団体(なのかどうかは怪しいところもあるが)である日本図書館協会は、現在次の方針で貸出用映画ソフト(DVD、ビデオなど)を供給する運用を行っている(日本図書館協会著作権委員会編『図書館サービスと著作権 改訂第3版』(日本図書館協会、2007年)122-124頁)。

Ⅰ:日本図書館協会ルート(NHK、ワーナー・ブラザース、ソニー・ピクチャーズ、ポニーキャニオン、朝日新聞社、バンダイビジュアル等)〔昭和63年10月より開始〕
権利者側との協議整わず、合意を得られなかったことから、(社)日本図書館協会(映像事業部)が映画の著作物の著作権者と直接交渉し、個人視聴のための貸与に関し、許諾によって著作権処理をする(『AVライブライリー 著作権処理済みタイトル一覧表』)。
★施行令2条の3の施設のほか、大学図書館・専門図書館・学校図書館等(法38条5項が適用されない施設)も含め、一括許諾
★同協会を通じて購入すると、「個人視聴用貸与承認」と表示されたシールが送付され、ビデオソフトに貼付し、貸出用に利用提供

*参照:日本図書館協会映像事業部編集『AV Library 2012/07』社団法人日本図書館協会、2012.7.

Ⅱ:日本映像ソフト協会ルート(松竹、大映、東宝、日活、東映)〔平成5年よりカタログ送付〕
(社)日本映像ソフト協会が、公共図書館向けに、「補償金処理済みビデオソフト」のカタログを発行
★各図書館が直接販売会社に発注
①補償金額が、各映画会社・ビデオソフトごとにまちまち(図書館側と権利者側の補償金額の合意が整っていないため)
②法38条1項による上映等を禁止または要許諾

*参照:(社)日本映像ソフト協会ビデオコピライトQ&A「Q 17. 公立の図書館で司書をしていますが、ビデオソフトの貸し出しを考えています。著作権処理をきちんとしたいのですが、その手続きを教えて下さい。」 

 ここであれ?って思うのが、「著作権処理済ソフト」とかって称しながら、「貸与承認シール」とか「館内上映制限」とかと言って、著作権者にお伺いを立てないといけない体制になっていることだ。さっき説明したように、法38条5項による補償金は、金さえ払えば著作権者の許諾は必要ないが、現実の運用ではこの法律の規定は崩壊し、許諾ベースで処理、つまり法38条5項という著作権制限規定がないのと同じ状態になっているということだ。こういう問題を著作権契約のオーバーライド問題という。

 こんなこと言うと「著作権の制限規定って法律で決められているんだから、ちゃんと守らない著作権契約は無効になるんじゃないの?」って思うかもしれないが、そんなことを言っていたらほとんどの著作権契約は無効になっちまうぜ。

 例えば、東大名誉教授の中山信弘氏が「契約で著作権法に書いてある事と違うことを締結できるわけです。契約でやってしまえ何でもできるのか。換言すれば、著作権法の中の条文は強行法規かどうかという事を、議論しなければいけないのではないのか。…これからは契約でどこまで著作権法が決めているルール、あるいは価値というものをオーバールールできるかという、そちらの議論が大事なのではないかと思います。」と発言されたところ、現行著作権法の草案を作成した加戸守行氏は「本来、著作権者の権利があって、そこを制限しているんだから、制限されたものについて利用者側が、その規定を援用することは可能ですけど、別に援用しなくて、制限事項に該当する事項であっても、あるいは疑わしいと思えば著作権者の了解を取ってお金を払ったっていい事なのです。著作権は本来、そんなものだろうと私は思います。」と述べている(加戸守行ほか「座談会 著作権法制100年と今後の課題」ジュリスト1160号(1999年)26-27頁)。

 残念ながら、著作権業界の伝統的な考え方は加戸氏の言っていることに近いと言わざるを得ない。このことを考えると、企業やユーザーのやつらが「著作権法改正して、著作権者の利用許諾を不要にして、補償金処理だけで使えるようにすべきだ」という主張がいかに無意味であるかが分かるだろう。いくら著作権法改正をして利用許諾を不要にする著作権制限規定を置いても、コンテンツをゲットするときに著作権者からいろんな条件を付けられてそれに屈したら何の意味もないからな。「はいはい、ボクちゃん、キラーコンテンツをゲットするためなら、逆立ちだって何だって言うこと聞きます!著作権制限規定なんか何にも主張しません。」って具合にな(爆)。今話題のフェアユース規定を置いたって同じことだぜ。

 ちなみに慶応義塾大の小泉直樹教授は著作権の権利制限規定について「教育目的の複製利用とか、点字、図書保存、これらについては、契約によってひっくり返すということは、少なくともなるべくあってはいけないんじゃないか。そもそも、そういう契約というのが、現に世の中にあるのかは存じませんが。」(小泉直樹「"契約で決めておけばよい”か?」著作権研究32号(2005年)54頁)と述べているが、図書館職員や図書館利用者は「はーい、はーい、ここにありますよ~。映画ソフトの貸出し問題がありますよ★」って主張してもいいくらいのことだと思うぜ!

 著作権法の学者先生方には、フェアユースの理論を議論する前に、日本図書館協会の常世田理事の「わたしたち図書館が補償金を払うための受け皿を、権利者側がつくらなきゃいけないのです。ところが実は権利者側がそれをつくっていないんです。・・・個々の契約で個別の商品についてさまざまな許諾を権利者側は図書館に対して与えているという状態です。せっかく著作権法があるのに、それが活かされてないんですね。仕方がないので、日本図書館協会ルートという、いちいち権利者と許諾契約を結んで、これとこれは図書館に置いて個人貸し出ししていいですよという仕組みをつくったということなんです。」(JLA第16回視聴覚資料研究会・平成19年10月31日 事例発表座談会 「合併に伴う視聴覚業務への影響」その③ 質疑応答 15頁)という現場の悲痛な声に耳を傾けてほしいぜ!

 ちゅーことで、残念ながら図書館業界の弱腰(というか、現場の図書館職員で今の貸出システムが著作権法ではなく契約で決まっていることを認識しているやつがどのくらいいるか知らんが)によって、図書館利用者が映画ソフトの種類によって借りられたり借りられないという事態は当分の間続きそうだわな。

参照
鳥澤孝之「図書館の映画ビデオ・DVD利用と著作権」『2010年 日本図書館情報学会春季研究集会発表要綱』(日本図書館情報学会、2010年)35-38頁 

【追記 2012.10.6】

日本図書館協会映像事業部「【重要なお知らせ】映像事業の受付終了について」

社団法人日本図書館協会 理事長 塩見昇「『映像事業』の中止について(重要なお知らせ)」平成24年9月10日

Q24:ログインとパスワードが必要なウェブサイトにファイルをアップしても大丈夫?

:こんにちは。Q8の「国の審議会の情報公開を進めたいのですが」で御回答いただいた法人職員です。このときは御回答ありがとうございました。

 著作権侵害ということでウェブサイトでの掲載について1年近く考えてきましたが、やはり審議会の情報公開への情熱をなくすことはできませんでした。そこで考えついたのが、ウェブサイトの閲覧にログイン認証を要求する方法です。具体的には、この審議会を運営する役所に対して反感を持つある特定の数人の同志に対してのみパスワードを教え、これを入力しない限りウェブサイトを見られないようにしました。

 これだったら、著作権のある民間企業等の資料をウェブに流しても私的な利用として著作権侵害にならないですよねえ?あとはコメントで誹謗中傷する心無いことを書かれることもありませんし。もうこれで完璧です!

 ということで御報告までに。これからもよろしくです★

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:わざわざ報告ありがとな。つうか、質問でなく報告かよ。しかし残念ながら、ここに取り上げられていることからも分かるように、お前が著作権のことで安心するのは100万年早いぜ(爆)

 そもそも論として、審議会資料をウェブにアップする前提としてサーバーへの複製が必要となるが、複製権(著作権法第21条)について著作権者の権利が働かないようにするためには、著作権法30条以下の権利制限規定が適用要件を満たす必要がある。この点藻前は特定少数の同志に対してだけ見られるようにしているから私的複製(著作権法第30条)と考えているようだな。どこの馬の骨だかに見せているのかは分からないが、場合によっては「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」に該当するかも知れねえな。

 だがなあ、いいーかあー、お前が言っている「ウェブサイトの閲覧にアクセス認証を要求する方法」によって著作権侵害にならないという物言いは引っかかるぜ。アクセス認証によって特定少数しか見られないようにすることによって、公衆送信権(著作権法第23条第1項)が働かないと考えているようだな。確かにアクセス認証機能により実際上は特定少数しか見られないから、「公衆によつて直接受信されることを目的」(著作権法第2条第1項第7号の2)としない送信と考えたくもなるわな。

 でもなあ、ここで注意が必要なのは、著作権法においては「利用」と「使用」は区別されるということだ。何が違うかってーと、著作権の権利が働くのは「利用」(著作権法第21条以下に規定される支分権が働くもの)に限られ、「使用」には権利が及ばないちゅーことだ。その「使用」の例としては、書籍を読む、録音物を再生して鑑賞するなどの行為が挙げられ、こういった行為については著作権を行使する対象とはならない(斉藤博「著作権制度における利益の調整」『知的財産法制の再構築』〔高林龍編〕(日本評論社、2008年)130頁)。そんなことについてまで一々著作権を行使された日にゃあ、ほとんどの個人ユーザーは破産しちまうしな。このように著作権を行使できるのは支分権に規定された権利だけであるということは、「Q14:プロポーズでラブソングを歌ったのですが」でも説明したよな。この点、ログインによるウェブサイトへのアクセスは著作権法上「使用」に該当するから、アクセスを制限することによって著作権法上の「利用」や権利の行使に影響を与えるものではない。

 つうことはだなあ、公衆回線(インターネット回線)に接続しているサーバーに資料をアップロードした以上、アクセス制限を言い訳にして著作権侵害じゃないぜ!、という言い逃れはできないということになる。これはmixiのようなSNSやログイン認証付きのeラーニングなども同じことだ。社内LAN間やパソコン同士でケーブルを結んで送信した場合のように、著作権法第2条第1項第7号の2でいう同一構内の送信に該当して公衆送信とはいえない場合は別だがな。

 それが証拠に、このようなアクセスコントロールを解除する行為(自由に視聴できるようにすること)も著作権侵害として取締ってくれという要望が、平成16年に日本映像ソフト協会などから文化庁に対して次のようになされている

平成16年著作権分科会法制問題小委員会(第2回)平成16年9月30日)

資料2-2(関係団体より提出された個票) pp.112-115

【概要】

私的使用のための複製に関する制限(技術的保護手段に係る事項を含む。)

「技術的保護手段」について、支分権対象行為を直接制限するものだけでなく、DVDビデオにおけるCSSのように、視聴可能な複製物を作成させないようにすることで複製を防ぐものもあるなど、その多様性に鑑み、その定義を見直す

 ここでいう「支分権対象行為を直接制限するもの」とは複製や公衆送信などの著作権に関わる利用をコントロールするものを言う。音楽CDやDVDにユーザが録音・録画できないように施されているコピープロテクションはその一つだな。現行著作権法は、このようなコピープロテクションを破って、録音録画することについては例え私的目的でコピーする場合でも通常は著作権者の許諾が要らない私的複製には当たらず、原則どおり許諾を必要とする旨規定されている(著作権法第30条第1項第2号)。さっきの日本映像ソフト協会の要望は、そのようなコピーコントロールだけではなく、専用のデコーダ(暗号解読機)や正規の機器を用いないとDVDなどの著作物等の視聴を行えないようにする、いわゆるアクセス・コントロールを解除することについても、著作権で取締ってくれや、ということだ。

 しかし立法担当者からはこのような技術への対応について「最終的には著作権等の対象とされてこなかった行為について新たに著作権者等の権利を及ぼすべきか否かという問題に帰着し、現行制度全体に影響を及ぼす事柄であること、流通に伴う対価の回収という面からは著作権者等のみでなく、流通関係者等にも関係する問題であり、更に幅広い観点から検討する必要があると考えられる」(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、2006年)60頁)として、平成11年法改正において規定を見送っている。つまり、アクセスコントロールの解除の禁止を著作権法で認めちまうと、さっき言った著作権法の「利用」と「使用」の概念を崩してしまって制度が混乱する、ってーことだな。斉藤博教授も「アクセス権を著作権制度の中に導入することは妥当でないと考える」と述べている(斉藤・前掲131頁)。

 このようなアクセス・コントロールは、すでに不正競争防止法において技術的制限手段の無効化機器等の提供行為を不正競争の一類型として規制していることから(不正競争防止法第2条第1項第10号、第11号、第7項)、それ以上欲張るんじゃねーよ、っていう状況といえるだろう。

 ちゅーことで、いったん一般のインターネット回線に接続するサーバーにファイルを蓄積して送信可能化状態にした場合には、著作物へのアクセスと著作権行使が法律上結び付けられていない以上、ウェブサイトのアクセスを制限したからといって著作権者からの突込みを防御できず、公衆送信として著作権の権利が働くってーことになるな。

Q23:激安DVDの映画をネットにアップしようと思うのですが

:こんばんは。ぼくは映画大好きな大学生です。大学サークルでシネマクラブに入っているのはもちろんのこと、名画の映画館に行ったり、BSテレビで好きな映画を観たり、ビデオレンタル屋でDVD映画を借りて、映画三昧の日々です。

 そんなぼくにとって、書店で売っている500円DVDは大きな味方です。この激安DVDのおかげでバイト代がふっとぶことがなくなりました。それが著作権保護期間の経過が理由であることは、このブログを読んで知っています。

 500円DVDを何枚も集めていますが、自分で観るだけでなく、映画ファンの人たちみんなで共有して楽しみたいという気持ちが沸いてきました。その手段として、ファイル交換ソフトウェアや"You Tube"などの動画サイトにアップしたいと思いました。元々、著作権が保護されないパブリック・ドメインを売りとしているのですから、ぼくがネットにアップしたりコピーしてもいいはずですよね。

 ところが500円DVDのパッケージをよく見ると細かい字で「この映画を無断で複製、公に上映、放送、有線放送その他公衆送信等に利用することは、法律により禁止されています」と書かれていました。

 「あれっ?」と思いました。なんで禁止されてるのだろうかって。そこでDVDの製作会社に何の法律により禁止されているのかを聞いてみました。

 「何の法律で禁止されているのですか?」と電話で聞いたところ、「日本の法律に決まっているだろ」と言われました。ハア?と思いましたが、続けて「ネットにアップロードしてパブリックドメイン作品を広めたいのですが」と言ったところ、「ダメダメ、それ著作権侵害だよ」と息巻いてきました。

著作権が切れたから、販売できたんですよねえ?

「あのねえ、企業がさあ、商業流通に載せた時点で権利が発生するの、当たり前でしょ?まずDVDとしてパッケージ化した時点で著作物を固定したとして著作隣接権が発生するんだ。第2に洋画にはオリジナルの字幕を付けているから、字幕の著作権が発生する。翻訳したら著作権発生するの、ぼく、分かる?」

「あのー、あの日本語訳は誤訳だらけなんで使わないつもりです。英語が得意なんで、オリジナルの字幕をアップするつもりですけど…」

「だめだめ、それ著作者人格権侵害だよ。勝手に映像を削ったり変えたりしちゃいけないんだよ

ということで、あくまで権利があるの一点張りでした。

 DVD会社が言っていることは本当なのですか?ぜひ教えてください。

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:500円DVDかあ。本屋に行くとよく棚においてあるよなあ。

 結論から言うとなあ、業者の奴には「人の褌(ふんどし)で相撲を取るな!!」と激しく100万回問い詰めたいとこだな(爆)。最近は、Q16で取り上げたようなIPマルチキャストの業者をはじめ、新しい流通形態で一発当てたいやつがたくさんいるんだがな。人様がつくった著作物を右から左に伝達しただけで金儲けをしようとする考え自体が浅ましいというものだ。以下、業者が言っていることを一緒に考えていこうぜ。

 「パッケージ化した時点で著作物を固定したとして著作隣接権が発生する」というのはどうか?これは一見、まともな答えのように思える。しかしその内容ははちゃめちゃであるww

 著作隣接権とは著作権に類似する権利として著作権法の第4章で規定されたものであり、①実演家の権利、②レコード製作者の権利、③放送事業者の権利、④有線放送事業者の権利の4つがある。DVD業者の奴が「著作物を固定」と言ったとこを見ると、②のレコード製作者の権利を取得していると思っているようだな。

 レコード製作者とは「レコードに固定されている音を最初に固定した者をいう」と規定され(著作権法第2条第1項第6号)レコードとは「蓄音機用音盤、録音テープその他の物にい音を固定したもの(音をもつぱら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)をいう」(同法第2条第1項第5号)と法律で決められている。つまり、生の音源をスタジオとかでレコーディングして音楽CDの原盤に焼き付けることを意味する。レコード会社の行為が典型的にそれに該当するだろう。あとは、音なら何でもいいわけだから、バードマニアのおっさんが山に行って小鳥のさえずりを録音したり、鉄ちゃん(最近は力を持ち始めたようだが。。。)が旅行して汽車の音を録音して出来上がった原盤についても、著作権法上の「レコード」を作成したと言えるだろう。

 その一方で激安DVDはどうかというと、レコードの定義規定のかっこ書きで「音をもつぱら影像とともに再生することを目的とするものを除く。」とわざわざ書いていることからして、映画はあてはまらないことになる。更に音を「最初に固定した」ことにならないとレコード製作者になれないわけであるから、既に映画会社が製作した既製品の音を録音したからと言って、レコード製作者にはなれるわけではないわけだな。

 では、業者が映画に付けた字幕を変えることは著作者人格権侵害になるのか?

 業者はおそらく、著作者人格権の一つである「同一性保持権」(著作権法第20条第1項)のことを言ってるんだろうな。これは、著作者はその著作物やその題号の同一性を保持する権利を有し、著作者の意(気分)に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない権利をいう。要は、映画の画像を勝手に変えちゃだめ、と言えるということだわな。業者は字幕をお前の日本語訳に代えることも著作物の改変だって、主張しているんだろうな。

 だがなあ、この主張も変な話だ。だって、映画自体は業者ではなくて、映画会社(または監督)が製作したものなんだから、てめえが作ったのでないものについても、権利を主張される謂れはないはずだからな。

 このような場面では、字幕と映画の著作物としての関係が問題になるが、一般に「歌詞と楽曲、小説と挿絵のように、本来は一体的なものとして創作され、利用されるものの、なお分離利用が可能であり、それぞれが独立の著作物となり得るもの」については結合著作物と言われる(作花文雄『詳解著作権法(第3版)』(ぎょうせい、2004年)183頁)。つまりだ、字幕について著作権を持っていても、それを貼り付けた映画についてまで著作権が及ぶわけではないと言うことだ。映画の字幕を改変することは確かに業者の同一性保持権が働くが、映画の字幕をお前の作ったものに代えることについて、業者は何も言えない。

 また、お前が映画の字幕を作成することについては、原則として映画の著作権者の翻訳権(著作権法第27条)が働くが、映画がパブリックドメインになっている以上、その心配はいらない。業者が字幕を作成できたのも、そのおかげなんだがな。

 ちゅうーことで、結論としては「この映画を無断で複製、公に上映、放送、有線放送その他公衆送信等に利用することは、法律により禁止されています」という映画のソフトに記載された文言は、業者が作った字幕以外の部分については意味のないものであり、あんたが作った字幕に代えることについては、少なくとも著作権法上は支障がないものであるということになる

 なお、古い映画の著作物の保護期間については、昭和45年までに適用されていた旧著作権法と現行の著作権法では規定が異なり、更に外国映画については第2次世界大戦の敗戦に伴う保護期間の戦時加算があることから、「公表から○○年過ぎたからパブリックドメインで自由に利用できる」と考えること(またはそのように宣伝される映画ソフトのキャッチコピー)は慎重を要するものだ文化庁『著作権テキスト 平成20年度版』22-25頁参照)。また映画に音楽が含まれる場合には、映画の著作物の著作者の著作権から除かれているため(法第16条)、その音楽の保護期間についても別途確認する必要があるだろう。

Q16:通信回線速度が遅い動画配信は著作者人格権の侵害なの?

:こんにちは。私は子どものときに某国営通信会社がスポンサーになっていた子ども向け科学TVアニメ『ミームいろいろ夢の旅』(日本アニメーション。1983年-1985年にTBS系列局で放映)で見た光ファイバー通信によるネットワーク社会に憧れて以来理系の学者を目指し、今は泣く子も黙るガリバー通信会社に勤務する通信技術者です。

 光ファイバーは設置コストが高いため、なかなか普及が進まず、日の目を見ることがありませんでした。しかしここに来てチャンスが来ました。総務省の情報通信審議会の第2次中間答申「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」(平成17年7月29日) (国立国会図書館WARP所蔵)が平成23年の地上アナログ放送の停波までに地上デジタルテレビ放送の中継局の設置が間に合いそうにないのに焦りを感じて、デジタル放送を難視聴地域までつなぐ方法として、IPマルチキャスト技術による地上デジタル放送の再送信を使うべしとしたのです。我が社では、このIPマルチキャスト放送は光ファイバーによって行われています。

 ラッキー、これで『ミーム』の世界のようにやっと光ファイバー通信で日常生活を送る時代がやってきたと思いきや、思わぬ横槍が入りました。我らガリバー企業に楯突く成り上がりの通信企業が、光ファイバーよりもずっと回線速度が遅いADSLでIPマルチキャストによる放送を行うというのです。こいつらは数年前にも、我が社の光ファイバーの設置がもう少し進むまでISDNサービスでしのごうとしたところ、ISDNよりも多少速度が速いADSLを激安で売り込み始めたため、仕方なく当方も人気アイドルを宣伝に使ってADSLのサービスを大幅に促進させ無駄な設備投資をしたという苦渋の経験があります。

 光ファイバーのほうが性能がいいのにと思っていたのですが、よく考えてみると、通信回線の速度が遅いということは動画が正常に見えない、つまり著作物としての動画が歪められるということになります。これって、著作者人格権の一つである同一性保持権の侵害になりますよねえ?今度通信企業の会合があったときに、このことをやつらに話してとどめを刺そうと思うので、よろしくお願いします。

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:技術バ…、ではなくて理系の技術屋さんか。技術屋さんは著作権を誤解している傾向がある一方で、言っていることが一般人によく分からないことが多いから、質問の内容を解説しながら回答するよ。

 IPマルチキャストというのは、コンピュータ・ネットワークによる送信のうち「複数の宛先を指定して1回データを送信すれば、通信経路上のルータがそのデータを受信して、次の複数のルータに自動的にコンテンツを送信する仕組み」であり、これを利用して回線を圧迫することなく効率よくコンテンツを配信するものを「IPマルチキャスト放送」という。その特徴としては、普通のインターネット放送がサーバーからオープンネットワークを通じて、つまりいろんな回線を通じて受信者に配信される(つまりどこの馬の骨とも分からない奴にどんなwebページを見ているのか盗み見される可能性もある)のと異なり、閉鎖的ネットワークを用いてコンテンツの配信を行うため、より安定的に配信されるとされている(文化審議会著作権分科会(IPマルチキャスト放送及び罰則・取締り関係)報告書(平成18年8月) 2.IPマルチキャスト放送と有線放送の現状)。

 同報告書では、IPマルチキャスト事業の例として、BBTV光プラスTV(現 MOVIE SPLASH)4thMEDIAオンデマンドTVを挙げている。

 ネットの回線速度については、質問の技術屋さんが書いている通りに、ADSLが最大速度50Mbpsであるのに対して光ファイバーは100Mbpsと言われており、光ファイバーによる配信が圧倒的に速い。

 それでは、回線速度が遅いADSLによるIPマルチキャスト放送で動画配信を行った場合に、動画が重いことが原因で配信が元の動画の動きより遅くなり、スムーズに流れない場合には、著作権法上の同一性保持権(第20条)の侵害となるのだろうか?

 同条第1項では「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」と規定している。動画の動きが回線速度の関係で遅くなるときは著作物の「改変」に当たりそうではある。

 しかし、同一性保持権の立法趣旨は「当該著作物としての同一性を維持することにより、著作者の表現しようとしている思想・感情や当該著作物に対する(通常有すべき)心情、当該著作物を通じて受けるべき社会的評価などの著作者の人格的利益を保護するためのものである」(作花文雄『詳解 著作権法 第3版』(ぎょうせい、2004年)391頁)。元の著作物と少しでも見た目が異なれば、何でもかんでも「著作権(著作者人格権)侵害=○○へ通報!!」という発想は、法的なバランス、そして常識に照らしても慎むべきだろう(企業間の技術の競争ではそうではないのかもしれないが)。

 この点、著作権法20条2項では同一性保持権侵害に当たらない改変を規定しており、そのうちの一つとして「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」(4号)が規定されている。この規定が適用される例としては、①複製の技術的な手段によってやむを得ない場合(絵画印刷技術、音楽の録音技術など)、②演奏・歌唱技術の未熟等によってやむを得ない場合(練習不足、あがってしまった場合など)、③放送の技術的手段によってやむを得ない場合が挙げられる(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(2006年、著作権情報センター)176頁)。

 IPマルチキャスト放送の動画配信における回線速度の問題もこの③に該当し、著作権法20条2項4号が適用されると考えてよいだろう。積極的に動画の表現の背景にある思想・感情に踏み込んであえて改変した場合はともかく、単なる技術上の問題による結果については同一性保持権の侵害とならない場合が多いだろう。これは、著作権法の保護の対象となる著作物が、特許法の保護の対象である発明(自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの)(特許法2条1項)と異なることの正に典型例である。

 つうことで、残念ながら、ADSLによるIPマルチキャスト放送を同一性保持権侵害を理由にやめさせることはできねーな。

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