図書館

『ピリ辛』が国立国会図書館で読める!!

 オッス!タイゾーだあ。久しぶりだなあ。4月になっても、お前ら元気かあ?

 実はなあ、このたびお前らがウェブでご愛読している『ピリ辛著作権相談室』が、ココログ出版から刊行されたんで、ご報告するぜ★

 この本の書誌事項・内容の該当頁は次のとおりになっているから、よく見てくれ。学者先生方や、知的財産法専攻の院生どもは、このブログを参照して論文を書くときには、恥だと思わずに、著作権法第32条第1項をちゃんと遵守して、脚注で出典をちゃんと明示しろよな(笑)

タイゾー著ピリ辛著作権相談室 ―著作権フリーライターが日本国民に捧げる、渾身の著作権格闘記』(ココログ出版、2009年)

CONTENTS:2-4頁
よろしくな!:5頁
Q1:ラブ・メールをブログに載せたんだけど…:6-7頁
Q2:著作権登録して大儲けをしたいのですが:8-9頁
Q3:星の王子さまの新訳本ブームの背景:10-11頁
Q4:映画盗撮って何ですか?:12-14頁
Q5
卒業式でのビデオ撮りをやめさせたいのですが…:15-16頁
Q6:公立図書館で職員が減らされているのですが…:17-20頁
Q7:大学の学内共有サーバーにソフトを溜め込みたいと言われているのですが:21-23頁
Q8:国の審議会の情報公開を進めたいのですが:24-27頁
Q9:台湾人の著作権って、日本で保護されるの?:28-30頁
Q10:公立高入試問題を情報公開請求される前にネットで公開したいのですが:31-32頁
Q11:愛娘の写真がネットにアップされたのですが:33-35頁
Q12:著作権ってどうしたら放棄できるの?:36-38頁
Q13:星の王子さまってフランスでは著作権があるの?:39-42頁
Q14:プロポーズでラブソングを歌ったのですが:43-46頁
Q15:バーチャルアイドルに自作の歌を歌わせたいのですが:47-48頁
Q16:通信回線速度が遅い動画配信は著作者人格権の侵害なの?:49-51頁
Q17:著作権規制特区を提案したいのですが:52-54頁
Q18:JIS規格って著作権で保護されるの?:55-59頁
Q19:みんなのモナーが企業に独占されそうなのですが:60-62頁
Q20:図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…:63-67頁
Q21:大学入試問題をニュースサイトに掲載したいのですが:68-70頁
1万アクセス突破だぜ!!:71-75頁
Q22:議員立法の資料をウェブにアップしたんだけど…:76-79頁
Q23:激安DVDの映画をネットにアップしようと思うのですが:80-83頁
Q24:ログインとパスワードが必要なウェブサイトにファイルをアップしても大丈夫?:84-87頁
Q25:新司法試験科目の著作権法の傾向と対策を教えてください:88-96頁
Q26:神社の露天商がBGMのCDを流していたんだけど…:97-100頁
Q27:平成20年度新司法試験科目の著作権法の問題解説をしてください:101-110頁
Q28:公立図書館で特許手続に必要な文献のコピーを入手したいのですが:111-116頁
Q29:生演奏のピアノバーで歌ったのですが…:117-120頁
Q30:審議会議事録メモをブログに掲載したら、勝手にコピペされていたのですが:121-123頁
Q31:国会事務局に情報公開請求したいのですが…:124-131頁

Q32:公立図書館から映画DVDを借りたいのですが…:132-136頁
Q33:図書館の海賊版所蔵資料を廃棄しろと言われたのですが…:137-143頁
Q34:正義のヒーローのコスプレをしたんだけど…:144-146頁
Q35:タレントデビューしたらブログを閉鎖しなさいって言われたんだけど…:147-149頁
Q36:ユーザーフレンドリーな音楽著作権管理会社を作りたいのですが…:150-156頁
Q37:著作権譲渡のおいしい投資話が来ているのですが…:157-162頁
Q38:店内でテレビをつけていたら、WTOに提訴するぞと言われたのですが:163-168頁
Q39:100%正しい著作権の答えがほしいのですが…:169-173頁
Q40:朝刊のスクープ記事が、他紙の夕刊にも掲載されていたのですが…:174-178頁

 我ながら、よくもこんなに書いたと思うぜw。

 この『ピリ辛』Book版を読みたいという奇特な奴は、国立国会図書館で保存・閲覧提供中でだから、暇なときに行ってみることだな。同館での書誌事項は次のとおりとなっている。

請求記号  AZ-615-J30
タイトル     ピリ辛著作権相談室

: 著作権フリーライターが日本国民に捧げる、渾身の著作権格闘記
責任表示        タイゾー著
出版地           [東京]
出版者           ココログ出版∥ココログ シュッパン
出版年           [2009]
形態              179p ; 19cm
全国書誌番号  21545113
個人著者標目  タイゾー
普通件名        著作権 -- 日本 ∥チョサクケン -- ニホン
NDLC             AZ-615
NDC(9)           021.2
本文の言語コード jpn: 日本語
書誌ID            000010002758

 また、平日の昼間から国会図書館に来館する暇のない奴は、同館の遠隔複写サービスを利用して、取り寄せることができる。全頁の複写は著作権法上、俺様の気分次第の許諾がなければ受け付けてもらえないが、前記の目次を参照して、読みたい部分を特定すれば、著作権法第31条第1号の範囲内で複写してくれると思うぜ。

 一応前もって言うが、俺様は『ピリ辛』の全部分の複写を許諾する気分にはないぜ(爆)。

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Q39:100%正しい著作権の答えがほしいのですが…

:こんにちは。私はITベンチャー企業の経営者です。子どものときからパソコン好きだったのが高じて会社を立ち上げたのですが、でっかい組織の歯車になるよりもずっとやりがいがあると思っています。

 これからやろうとしている事業としては、インターネットを通じたコンテンツ送信サービスを考えています。規制がいっぱいある地上波放送に比べると、チャンスがいっぱいありそうですからね。ところがベンチャー仲間から聞いたところによると、著作権の規制がたくさんあって何も知らずに事業を始めると著作権者から苦情が来ると聞きました。

 もちろんコンプライアンス重視なので法を守って事業をしたいと思っていますが、何が正しくてどうすれば100%確実に訴えられることなく、しかもコストをかけずにビジネスができるのかを真剣に考えています。特に著作権法では、私的に使う場合などには無断で利用できると聞いたことがありますので、そういう制度を十二分に活用したいと思っています。

 そこでお願いなのですが、どこに著作権法のことを聞けば確実な答えがもらえるのでしょうか?裁判は絶対いやなので(この前通知が来た裁判員候補者も拒否したいくらいですw)裁判所には聞けず、また余計なお金は払えないので弁護士にも聞けませんが、やっぱ所管省庁なのでしょうか?それとも著作権法学者や電話相談室などでしょうか?ぜひ教えてください!

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あるわけねぇ~だろ!(爆)。てめえのような甘ちゃんが多いんだよな。ネットの掲示板で著作権のスレッドを見ても、教えて君ばかりだしよ。今回は著作権に関して示される見解の意義や生かし方を考えてみよう。

 そもそも論として、お前が言っている「100%正しい著作権の答え」とはいかなる場面で効果を発揮するのか?規制行政に飼いならされた世間の大方のやつらは、所管省庁に「あ~、それは大丈夫ですよ」って答えてもらって、それをてめえに文句をいう奴に対して、水戸黄門の印籠のごとく「○○省(庁)は俺が正しいと言っている」と誇らしく主張して、自分の思い通りに事を運ぼうと期待しまくっている。

 だがなあ、このブログで何度もなんどもしつこく言っているように、著作権法は行政規制法ではない著作権はあくまでも私権であり、著作権行使による文句の矛先は所管省庁(文化庁)ではなく、権利者に向けなければ問題は解決しない。「政府規制の問題であれば、政府ないしは官庁が自己の有する権限を手放せば済む場合も多いが、著作権の場合は、著作権という私権の内容をどのように再構成するか、あるいは既得権となっている著作者・著作権者の権利をいかに制限するかという問題」というわけだ(中山信弘「著作権法と規制緩和」西村あさひ法律事務所西村高等法務研究所編『西村利郎先生追悼論文集 グローバリゼーションの中の日本法』(商事法務、2008年)386頁)。したがって所管省庁(文化庁)に電話して、自分が有利に進めたい著作権の質問事項について「愛していると言ってくれ~!(むかし、そんなドラマがあったなあ…)と求愛するが如く、電話に応対しているやつに「イエス!」と言ってもらえるまで粘るのは無意味というものだ。まして「それはケース・バイ・ケースで、裁判しないと分かりませんねえ…」と回答されたときに「ざけんじゃねぇ、俺が裁判できるわけねーだろ!!」と逆ギレするのは愚の骨頂というべきである。

 ここで「裁判しないと分かりません」と書いたが、どういうことなのか?これは正に憲法で規定する三権分立の問題だろう。国家の立法・行政・司法の権限のうち、立法権は国会(日本国憲法第41条)に、行政権は政府(同第65条)に、司法権は裁判所(第76条)にそれぞれ属している。したがって著作権に限らず、自分の身に起こっている揉めごとを相手方との交渉ではまとめきられず、国家に公的に介入してもらって解決したい場合には、弁護士を雇うなど身銭をきって裁判に臨む必要がある。

 国家の権限が三権に分かれている結果として、それぞれの機関の見解が異なることがありうる。その典型例が、映画「シェーン」事件最高裁判決(最判平成19年12月18日民集第61巻9号3460頁)だろう(吉田利宏・いしかわまりこ「法令読解心得帖 法律学習はじめの一歩 第25回 法律の解釈権」法学セミナー第649号[2009.1]58-61頁)。この事件は、映画の著作物の著作権保護期間(著作権法第54条第1項)を公表後50年から70年に延長した「著作権法の一部を改正する法律(平成15年法律第85号)」は平成16年1月1日から施行されることになっていたが(同法附則第1条)、同法附則第2条において「改正後の著作権法(次条において「新法」という。)第54条第1項の規定は、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従前の例による。」と規定されていたことから、改正前の規定によれば平成15年12月31日には著作権が存在するが平成16年1月1日は著作権が消滅している昭和28年公表の映画の著作物の保護期間も20年間延長されたのかどうかが争点となった。

 この点、原告からは次のように、平成15年法改正における文化庁、内閣法制局の立法作業経緯、国会の立法者意思から見て、20年間延長していると主張している(東京地裁平成18年10月6日判決(平成18(ワ)2906)12頁)。

「 平成15年4月に,内閣法制局第2部において,著作権担当の参事官が担当の部長に,本件改正法における映画の著作物の著作権保護期間についての経過措置の内容を説明することになっていたが,文化庁は,その説明のための資料として,「平成15年法改正法制局第2部長説明資料」と題する書面(以下「本件資料2」という。)を作成し,実際に,内閣法制局第2部では,著作権担当の参事官が本件資料2を示して担当部長に説明を行った。本件資料2には,「第54条の映画の著作物の保護期間延長の規定が来年(2004年)1月1日に施行される場合,本年(2003年)12月31日まで著作権が存続する著作物については,12月31日の午後12時と1月1日の午前0時は同時と考えられることから,『施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存するもの』として保護期間が延長されることとなる」と明確に記載されているが,本件資料2に記載された「映画の著作物の保護期間についての経過措置」の原案がそのまま第156回国会において「著作権法の一部を改正する法律案」として提出されていることから,内閣法制局が平成15年12月31日の午後12時と平成16年1月1日の午前零時は同時である,すなわち,昭和28年に公表された映画の著作物は,改正著作権法の適用を受けると考えていたことは明らかである。
 そして,上記「著作権法の一部を改正する法律案」が第156回国会による審議を経てそのまま成立していることから,立法者である国会も,平成15年12月31日の午後12時と平成16年1月1日の午前零時は同時である,すなわち,昭和28年に公表された映画の著作物は,改正著作権法の適用を受けると考えていたことも明らかである

 少し補足すると、著作権法などの法律案を政府が作成して国会の審議にかける場合、各省庁が法律案原案を作成した上で、内閣法制局からその内容が憲法に違反しないか、他の法令に抵触しないかなどの法令審査を受ける必要がある。上記の主張にあるように、参事官や部長のOKをもらう必要があるわけだ。この審査を通過すれば事務次官等会議、閣議決定を経て国会に提出されることになる(内閣法制局ウェブサイト「法律ができるまで」参照)。したがって、保護期間の延長について昭和28年公表の映画の著作物も保護期間延長の対象になるという見解は、法制局審査を通過したことから、正式な政府解釈であるということができる。

 しかし上記最高裁判決では「『この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例による』と定めているが,これは,本件改正法の施行日において既に保護期間の満了している映画の著作物については,本件改正前の著作権法の保護期間が適用され,本件改正後の著作権法の保護期間は適用されないことを念のため明記したものと解すべきであり,本件改正法の施行の直前に著作権の消滅する著作物について本件改正後の著作権法の保護期間が適用されない」「本件映画を含め,昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は,本件改正による保護期間の延長措置の対象となるものではなく,その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅したというべきである。」として、保護期間の延長を否定した。

 このような裁判所の判決については批判もあり(作花文雄「映画『シェーン』事件知財高裁判決―引き続く混迷の様相」コピライト2007年5月号51-64頁、同「『シェーン』事件最高裁判決の残した課題」コピライト2008年2月号40-48頁)、また「『小津安二郎作品の保護期間をつなげるために法改正するんです』と、私は何百人もの国会議員に説明した」としこのような本来の法改正目的が国会質問されなかったことを嘆く声もある(岡本薫「特別講演 『WIPO新条約と利用可能化権の創設』(抄)」『2007年度 ALAI JAPAN国際研究大会講演録~シンポジウム「権利の制限と3-step-test」』(ALAI JAPAN 事務局、2008年)20-21頁)。しかし、立法者意思についてはあくまでも一つの解釈の材料、根拠という位置づけであり、司法判断を受けたものではない政府解釈については裁判所で誤ったものであると判断されることがある旨の指摘がなされているところである(杉浦正樹「最近の著作権裁判例について」コピライト2007年2月号20頁)。

 一方で過去の裁判例では、図書館等の複製に係る著作権法第31条で規定する著作物の単位が争点となった多摩市立図書館複写拒否事件(東京地判平成7年4月28日判時1531号129頁)や、北朝鮮・台湾の国民が作成した著作物が日本の著作権法で保護されるかどうかを争った北朝鮮テレビ放映事件(東京地判平成19年12月14日 平成18(ワ)5640 平成18(ワ)6062(「Q9:台湾人の著作権って、日本で保護されるの?」、「1万アクセス突破だぜ!!」参照)などではいずれも文化庁の見解を採用しており、政府解釈と司法判断の関係については注意する必要があるだろう。

 以上のように、著作権の解釈に対する評価は、私人間の交渉、行政との関係、裁判所との関係など、場面によって異なるといえるだろう。したがって、著作権に関する「正しい答え」を所管省庁、著作権法学者、電話相談室などの誰かに寄りかかって解決することはできないだろう(そういう奴に限って、期待する結果を得られなかったときに責任をなすりつけようとするんだよな)。要は自分が主体となって、どの機関を利用するかをケース・バイ・ケースで考える必要があるというわけだ。場合によっては、身銭を切って弁護士に法律相談する必要もあるだろうな。

 自分で何とか考えたいと改心した奴は、著作権法を解釈するための「よりどころ」として、①裁判所の示した見解、②政府の見解、③著作権法の立案作成者の見解、④著作権法の学者の見解、⑤権利者団体から示された見解、などに沿って、結論を導くことも考えられる(南亮一「マイクロフィルム及び電子媒体の著作権問題 第12回(最終回) 著作権の解釈を行う方法について」月刊IM Vol.48 No.2[2009.2]19-22頁)。確かに、このように法解釈の見解をリサーチして、それによって問題を解決することは、ある程度は有効であり、恣意的な出鱈目解釈よりはずっとマシだろう。しかし、やはり他人の権威を笠に着ていることに変わりはなく、新しい問題や、図書館の問題のようにまともな裁判例がなく、多くの法律家から放置されている領域については、有用ではないおそれもあるだろう。

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Q33:図書館の海賊版所蔵資料を廃棄しろと言われたのですが…

:こんばんは。私はとある大学図書館に勤務する者です。このブログに時々登場する公立図書館とは違って利用者が限定されているため、言いがかり的なクレームは少ないですが、利用者のレベルが高いため、学術論文のデータベースの整備や、当大学の研究者の機関リポジトリ(institutional repository; 大学、研究機関が主として所属研究者の学術論文等の研究成果を収集、蓄積、提供するシステム。機関が主体となって、収録する文献の種類や範囲を決める。科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会『学術情報基盤の今後の在り方について(報告)』(2006年)72-73頁の構築などで忙しい日々です。

 当館でも小説は収集しているのですが、ある日のこと、本学に所属しない、ある高名な文学賞を受賞したことがあると名乗る初老の男性が怒った感じで利用者入口にやってきました。何でも当館が著作権を侵害している資料を所蔵しているので、その廃棄を求めに来たということです。

 さっそく事務室に御案内し、上司と2人で話を聞きました。男性曰く、

「私は、名門高校を学生運動で中退した後、大検で有名大学に入学し、作家としての道を歩むまでの自伝を綴った『俺って、何様?』を書いた。ところが最近、バラエティー芸人の野郎が、暴走族で捕まって高校を中退した後、大手芸能プロダクションのスクールに通って芸人になるまでの過程を著した自伝『ワテって、なんやろ?』を出版した。タイトル、筋書き、内容があまりにも似ており、また自分をおちょくった感じで書かれていて著作者としての人格権も侵害されているので、その芸人とプロダクションを相手に著作権侵害訴訟を起こした。それと並行して全国の図書館にどれだけ所蔵しているか、インターネットの所蔵検索システムで調査している。その結果、この大学の図書館にあることが分かった。ぜひその本を廃棄して欲しい。」

とのことでした。

 その男性の気持ちは分かりましたが、当館には図書館としての資料保存の責任があります。それにもし要求どおりに廃棄すれば、「船橋市西図書館図書廃棄事件最高裁判決」(最判平成17年7月14日民集第59巻6号1569頁)で示されたように、今度は廃棄をした(本当に著作権侵害をしたかどうかも分からない)資料の著者から人格的利益を侵害したという理由で訴えられかねません。正に「前門の虎、後門の狼」といった状況です。

 そこで上司からは「御事情は分かりましたが、当館では資料保存義務があり、また裁判所のように著作権を侵害しているかどうかを判断することができません。当館の内規で、裁判で著作権侵害が確定した場合か、当事者で話し合いがついてから廃棄を決定することになりますので、それらのいずれかが決まってから、再度お越しください。」と伝えました。

 すると男性は「そんなチャライ内規なんて関係ないねぇ。裁判の判決がなくても、著作権を侵害しているのは一目瞭然なんだよ。書いた人間が言っているんだから間違いない。あんたら、著作権侵害の書籍であることを知ってしまった以上、そのまま資料を持っていたら著作権侵害になるんだよ。言うこと聞かないと、今度はこの図書館を訴えてやるからな!」と半分脅し気味に大声を出しました。

 このまま書籍を利用者に提供した場合には、本当に著作権侵害の責任を問われるのでしょうか?まだ著作権侵害であるかどうかを確信できない状態なのに。ぜひ御教示ください。

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:オッス!また図書館ネタか。ニュース、学会や、(既に大失敗した新会社法や新信託法の制定に続けと言わんばかりに)著作権「規制」緩和(著作権を規制と考えている時点で、既にデンパだが…)の象徴として企業やお抱え弁護士が情熱をこめて論じているフェアユース議論において、図書館はほとんど話題に上らないが、著作権の本質に迫る上では意外と重要かも知れねえぞ~

 著作権侵害した資料による図書館サービスって、まさに「Q27:平成20年度新司法試験科目の著作権法の問題解説をしてください」で解説した平成20年の新司法試験の知的財産法の問題(第2問・設問3)を地で行っているよな。もっとも、「平成20年新司法試験論文式試験問題出題趣旨(11-12頁)の中では、これから論じる、みなし侵害(法第113条第1項第2号)の論点には触れていないがな。ただ法学セミナー編集部編『新司法試験の問題と解説2008』別冊法学セミナーno.198(2008年)の356頁に書かれている模範解答例(駒田泰土上智大准教授が解説)の中では、ちゃんとみなし侵害の論点が書かれているぜ!

 小説家のおっさんが言った「著作権侵害の書籍であることを知ってしまった以上、そのまま資料を持っていたら著作権侵害になるんだよ」という脅しは、いま言った著作権のみなし侵害規定が適用されるのではないのか、ということだろうな。法第113条第1項第2号では、著作者人格権、著作権等を侵害する行為によって作成された物を、情を知って、頒布し、若しくは頒布の目的をもって所持、輸出、輸出目的で所持した場合には当該著作者人格権、著作権等を侵害する行為とみなすと規定している。このうち特に問題となるのは「情を知って」とは何をどこまで知った場合をいうのかということである。

 この点著作権法立法担当者の加戸守行氏は、法113条1項1号の著作権侵害作成物の輸入行為については故意・過失の有無を問わずに著作権侵害とみなされるのに対して、同項2号の頒布行為については、「ひとたび権利侵害によって作成された物であればそれを取り扱う人が全部権利侵害とすることには問題がありますので、『情を知って』という要件を付加した」と説明している(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、平成18年)654頁)。

 その上で、「情を知って」の内容については「権利を侵害する行為によって作成された物であるということを知りながら頒布し、又は頒布する目的で所持することでありまして、誰が、いつ、どこで、どのようにして作成したかということまでも知っている必要は」ないとだけ説明している(加戸・前掲654頁)。もしこのとおりだとすると、図書館側は、著作権者と名乗る者が著作権侵害を主張した場合には「情を知って」しまったことになり、著作権侵害を確信できないため廃棄を保留したい場合に訴訟等を提起された場合には、ぶっつけ本番で裁判所の判断(真に著作権侵害なのかどうか)にしたがって廃棄するかどうかを決せられることになるだろう。

 ただこれでは図書館側は、やっかみ程度の著作権侵害の主張に対しても正面から対応せざるを得なくなる状態になり、かつ廃棄資料の著者からの人格的利益の主張のリスクにも晒され、図書館運営を正常に行えない可能性が高くなるだろう。この点、中山信弘氏は、みなし侵害規定が刑事罰も課せられていることを勘案した上で、「単に侵害の争いがあるとか警告を受けたというだけでは情を知っているとまではいえないだろう」としている(中山信弘『著作権法』(有斐閣、2007年)509頁)。

 なおプログラムの著作権を侵害する行為によって作成された装置の頒布等について差止請求した裁判例(システムサイエンス事件(東京地判平成7年10月30日判時1560号24頁))においては、「『情を知』るとは、その物を作成した行為が著作権侵害である旨判断した判決が確定したことを知る必要があるものではなく、仮処分決定、未確定の第一審判決等、中間的判断であっても、公権的判断で、その物が著作権を侵害する行為によって作成されたものである旨の判断、あるいは、その物が著作権を侵害する行為によって作成された物であることに直結する判断が示されたことを知れば足りると解するのが相当である」と判断して、差止請求を認容している。

 この判決をもって、作成行為が著作権侵害であることについての判決確定、仮処分決定、中間的判断等の裁判所による公権的判断があったことを知らなければ、「情を知つて」には該当せず、みなし侵害規定は適用されないという見方が考えられる。しかし、上記判決は、著作権侵害の確定判決がなくても、別件高裁決定の告知を受けた時点において「情を知っ」たという要件を満たすことを述べたに過ぎず、著作権侵害に係る公権的判断がなければみなし侵害規定が適用されないと考えるのは早計だろう。

 思うに、加戸氏が述べているように、頒布行為について「情を知って」要件が付加されたのは、作成物の流通過程に係る人々を全部権利侵害とするのを防ぎ、そのうちみなし侵害と評価するに値する者についてだけ罰則を含むみなし侵害規定を適用することを目的とする。

 そうするとだなあ、頒布行為の流通に係る奴らというのは、いわば著作権侵害作成物の管理人的な地位にあると言えるだろう。そいで、取り扱っている最中に著作権侵害であることを認識した場合には著作物の利用を中止し、侵害作成物の流通を食い止めるべきである。一方で、管理人として著作権侵害状態を知ったにもかかわらず著作物利用を継続した場合には、みなし侵害規定が適用されると解するべきである。

 法第113条第1項第2号と同様の規定としては、国外頒布目的商業用レコードの輸入(いわゆる還流レコードの逆輸入)に関するみなし侵害規定(法第113条第5項)がある。この規定においても著作権等の侵害とみなされるためには「情を知つて」が要件となるが、その内容については「日本における販売を禁止されるレコードであるということを知っていたという意味でありますから、実質的には、これは日本における販売を禁止している旨の表示がその商業用レコード、音楽レコードにあった、あるもの、それを輸入する行為というものが該当する」との政府答弁がなされている(第159回国会・衆議院文部科学委員会議録第23号・平成16年5月28日・4頁・素川政府参考人答弁)。例えば、音楽CDで平井堅の「SENTIMENTALovers」には、ソニーからのライセンスを受けて台湾で生産されているものがあるが、ジャケットには「日本販売禁止(この作品は指定諾地域での限定発売を条件に権利者から許諾を受けています。従って日本での発売は禁止されています)」と記載されている。この記載があるCDを輸入する場合には「情を知つて」輸入したことになる、というものである。輸入する奴はこの記載を見れば国内販売禁止CDであることが分かるし、また通常の注意を払えばそのように認識できるということだな。実務上においても、権利者が関税定率法に基づいて、音楽レコードの還流防止措置を行使するために税関に申し立てる際には、「日本販売禁止」といった表示がなされていることを示す資料を提出しなければならないこととされている(『還流防止措置を行使するに当たっての実務上の留意事項等について(通知)』(平成16年12月6日付け16庁房第306号社団法人日本レコード協会会長あて文化庁次長通知)、加戸・前掲662-663頁)。そのような表示がなければ入者等が「情を知つて」を行っていることについて立証することは困難だしな。

 同じことが、著作権侵害作成物の頒布等行為についても言えるだろう。著作権侵害の確定判決、仮処分命令等の公権的判断をはじめ、当事者間の侵害の有無の合意、その他違法作成物の管理人として著作権侵害により作成されたとの善管注意義務を果たさずに通常であれば侵害物と認識できる状況にある場合には「情を知つて」いたということになるだろう

 「情を知つて」という文言を素直に読めば、事実の認識の有無だけが問われそうだが、前述した中山氏の説明にあるように、著作権侵害に係る単純な事実(著作権侵害のでっち上げ、言いがかりなど)の認識を「情を知つて」から排除するには、利用者に注意義務を課して判断せざるを得ないだろう。

 なお本件でクレームを訴えているおっさんは自分の小説と内容が似ていると主張しているが、完全なデッドコピーではないことから、複製権侵害ではなく翻案権侵害(法第27条)の問題となるだろう。すなわち複製とは「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」(法第2条第1項第15号)をいうが、既存の著作物に新たな創作性が付加されても元の著作物の内面に具体的に存する思想・感情の具現物が利用されている限りにおいては、原著作物の権利者の翻案権が及ぶことになる。そのような翻案行為の認定は、「基本的な構成やストーリー、プロットの類似性の認定、及び原著作物へのアクセスの可能性、並びに著作物の享受者が被告著作物から原告著作物の存在を感得し得るか否かという観点から判断される。」という説明がある(作花文雄『詳解 著作権法(第3版)』(ぎょうせい、2004年)214頁)。この認定に関連する裁判例としては、名古屋地裁平成6年7月29日判決判時1540号94頁(「NHK大河ドラマ・春の波濤」事件)〔内面的表現形式の維持の観点〕、東京高裁平成8年4月16日判決判時1571号98頁(「テレビドラマ・悪妻物語/妻たちはガラスの靴を脱ぐ」事件)〔基本的内容の同一性の観点〕、最高裁平成13年6月28日判決判時1754号144頁・判タ1066号220頁(「江差追分」事件)〔原著作物の本質的特徴の感得性の観点〕などがある。このような翻案権侵害により作成された違法著作物であることについて「情を知つて」という要件を満たすには、単なる複製権侵害(デッドコピー)の場合よりもハードルが高くなると考えるべきであろう。

 以上から本件においては、図書館として本件書籍が著作権侵害作成物であること(無断で翻案したことを加味した上で)の判断について善管注意義務を払っていれば(小説家の言い分が単なるやっかみのレベルである場合など)みなし侵害規定は適用されず、小説家の主張が著作権侵害作成物であることを十分に根拠付けるものであるにもかかわらず、利用してしまった(利用者に対する書籍のコピー提供、館外貸出し)場合には、著作権侵害作成物であることについて「情を知つ」たことになり、翻案権侵害(法第27条)とみなされることになるだろう。

 補足すると、仮に所蔵資料が海賊版でみなし侵害規定が適用されるケースでも、資料の館内閲覧については著作権は及ばない。したがって、資料が海賊版かはっきりしないときに図書館が無難にやり過ごしたいと考える場合には、ほとぼりが冷めるまでコピー・館外貸出利用だけを停止することも考えられるだろう。

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Q32:公立図書館から映画DVDを借りたいのですが…

:こんにちは。私は週末に近所の公立図書館を利用するOLです。はやりのベストセラーや文庫本を図書館でチェックして、気に入ったものを借りたら、通勤電車の中で読破するのが日課となっています。音楽CDも借りちゃうことがあります。

 図書館では最近は本だけでなくDVDも充実してきて、個人ブースでDVD映画を鑑賞することが多くなりました。ハリウッドものだけでなく、私が好きなイギリス・フランス・フィンランドなどのヨーロッパ映画も多くて満足しています。しばらくは週末にそのような感じでDVDを利用したのですが、そのうち自宅でじっくり観たくなってきました。それにたまに遊びに来る彼と一緒に、まったり鑑賞できますしね。

 そこで図書館のカウンターの方に貸出の申込をしました。そうしたら司書の方から「申し訳ございません。そのDVDは著作権の関係からお貸出しできません」って言われてしまいました。邦画やアメリカの映画では借りられるものが多いのに、私が選んだものが借りられないのは残念でした。

 でも、本は借りられるのに、なんでDVDは借りられるものがあったりなかったりするのですか?司書さんがおっしゃっていた著作権の関係ってどういうことなのでしょうか?教えてください!

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:またまた公立図書館か。最近は行っていないが、退職した団塊の世代のたまり場になっていると思ってたぜ。今までの図書館関係の質問はコピーの問題が多かったが、今回は資料の貸出しの問題だな。

 資料の貸出しについても、もちろん著作権が及ぶ。どういう権利が及ぶかっていうと、図書・雑誌や音楽CDについては、貸し出すことについての貸与権(法第26条の3)が及ぶ。これに対して映画DVDのような動画が含まれる著作物については頒布権(法26条)という貸出しだけでなく、資料をどこに流通させるかまでコントロールできてしまうと権利が著作権者に与えられる。なんでこんな強力な権利が認められたのかというと、映画業界の配給制度(新作映画フィルムの貸出し・譲渡を封切館→2番上映館→3番上映館→…名画座というように上映館のグレードによって転々流通をコントロールする商慣習)を前提に現行著作権法を制定したからであると言われている。図書・雑誌・音楽CDと映画DVDを借りられるかどうかの違いの基本はこの点にある。

 では公立図書館で利用する場合はどうなるのか?この点は次のようなものとなる。

 まず図書・雑誌・音楽CDについては、①公表されたもので、②営利を目的としない貸出しで③貸与を受ける者から料金を受けない場合には、公立図書館は著作権者の許諾がなくても、不特定多数の市民の者ども(公衆)に貸し出すことができる(法38条4項)。役所を含めた非営利団体がレンタル料を取らなければ、たいがいの貸出しはスルーってことだわな。

 では映画DVDについてはどうか。①公表されたもので、②貸与を受ける者から料金を受けないだけでなく、③政令で定める視聴覚教育施設その他の施設が行うもので、かつ④著作権者に相当な額の補償金を支払わなければならないと規定されている(法38条5項)。③でいう政令で定める視聴覚教育施設とは、(1)国又は地方公共団体が設置する視聴覚教育施設(2)図書館法第2条第1項の図書館(公立図書館など)、(3)その他文化庁長官が指定するもの(現在はなし)と規定されている(著作権法施行令第2条の3第1項)。

 ここで注意が必要なのは、映画DVDの貸出しについては相当な額の補償金の支払いが必要だが、裏を返せば補償金さえ支払えば、図書館側は著作権者の許諾がなくても利用できることを法律上では意味する。しかし現実にはそうはなっていない

 どういうことかって言うと、さっきの著作権法38条5項の補償金規定は昭和59年の著作権法改正で規定されたものであるが、補償金を支払って利用するためには、当然補償金をいくらにするのかを決めなければならないわけだ。それは誰が決めるのか?もちろん担当省庁ではない。当事者が話し合いをして決めるわけだ。

 この点、当初の交渉状況については、「文化庁の指導をうけて〔筆者:この辺りからしてお上依存主義が見え隠れするなw〕、[筆者注:昭和]59年9月、権利者団体(映像文化製作者連盟、以下「映文連」と略す、日本ビデオ協会、以下「ビデオ協会」と略す、日本映画製作者連盟)、以下「映連」と略す」、利用団体(全国視聴覚教育連盟、以下「全視連」と略す、日本視聴覚教育協会、日本図書館協会)等が第1回懇談会を開催、以後利用団体側は全視連を窓口として権利者団体と交渉を継続してきた。…時間がかかったのは、「ビデオソフトの館内利用は貸与に相当するか否か」双方の見解の対立によるものであったといわれている。」(JLA著作権問題委員会「著作権法ビデオ問題をめぐる最近の動向」図書館雑誌80巻7号(1986年)412頁)と書かれているように、当初から難航していたようだ。

 そんでもって、図書館界の代表団体(なのかどうかは怪しいところもあるが)である日本図書館協会は、現在次の方針で貸出用映画ソフト(DVD、ビデオなど)を供給する運用を行っている(日本図書館協会著作権委員会編『図書館サービスと著作権 改訂第3版』(日本図書館協会、2007年)122-124頁)。

Ⅰ:日本図書館協会ルート(NHK、ワーナー・ブラザース、ソニー・ピクチャーズ、ポニーキャニオン、朝日新聞社、バンダイビジュアル等)〔昭和63年10月より開始〕
権利者側との協議整わず、合意を得られなかったことから、(社)日本図書館協会(映像事業部)が映画の著作物の著作権者と直接交渉し、個人視聴のための貸与に関し、許諾によって著作権処理をする(『AVライブライリー 著作権処理済みタイトル一覧表』)。
★施行令2条の3の施設のほか、大学図書館・専門図書館・学校図書館等(法38条5項が適用されない施設)も含め、一括許諾
★同協会を通じて購入すると、「個人視聴用貸与承認」と表示されたシールが送付され、ビデオソフトに貼付し、貸出用に利用提供

*参照:日本図書館協会映像事業部「著作権処理済映像資料の提供について」

Ⅱ:日本映像ソフト協会ルート(松竹、大映、東宝、日活、東映)〔平成5年よりカタログ送付〕
(社)日本映像ソフト協会が、公共図書館向けに、「補償金処理済みビデオソフト」のカタログを発行
★各図書館が直接販売会社に発注
①補償金額が、各映画会社・ビデオソフトごとにまちまち(図書館側と権利者側の補償金額の合意が整っていないため)
②法38条1項による上映等を禁止または要許諾

*参照:(社)日本映像ソフト協会ビデオコピライトQ&A「Q 11. 公立の図書館で司書をしていますが、ビデオソフトの貸し出しを考えています。著作権処理をきちんとしたいのですが、その手続きを教えて下さい。」

 ここであれ?って思うのが、「著作権処理済ソフト」とかって称しながら、「貸与承認シール」とか「館内上映制限」とかと言って、著作権者にお伺いを立てないといけない体制になっていることだ。さっき説明したように、法38条5項による補償金は、金さえ払えば著作権者の許諾は必要ないが、現実の運用ではこの法律の規定は崩壊し、許諾ベースで処理、つまり法38条5項という著作権制限規定がないのと同じ状態になっているということだ。こういう問題を著作権契約のオーバーライド問題という。

 こんなこと言うと「著作権の制限規定って法律で決められているんだから、ちゃんと守らない著作権契約は無効になるんじゃないの?」って思うかもしれないが、そんなことを言っていたらほとんどの著作権契約は無効になっちまうぜ。

 例えば、東大名誉教授の中山信弘氏が「契約で著作権法に書いてある事と違うことを締結できるわけです。契約でやってしまえ何でもできるのか。換言すれば、著作権法の中の条文は強行法規かどうかという事を、議論しなければいけないのではないのか。…これからは契約でどこまで著作権法が決めているルール、あるいは価値というものをオーバールールできるかという、そちらの議論が大事なのではないかと思います。」と発言されたところ、現行著作権法の草案を作成した加戸守行氏は「本来、著作権者の権利があって、そこを制限しているんだから、制限されたものについて利用者側が、その規定を援用することは可能ですけど、別に援用しなくて、制限事項に該当する事項であっても、あるいは疑わしいと思えば著作権者の了解を取ってお金を払ったっていい事なのです。著作権は本来、そんなものだろうと私は思います。」と述べている(加戸守行ほか「座談会 著作権法制100年と今後の課題」ジュリスト1160号(1999年)26-27頁)。

 残念ながら、著作権業界の伝統的な考え方は加戸氏の言っていることに近いと言わざるを得ない。このことを考えると、企業やユーザーのやつらが「著作権法改正して、著作権者の利用許諾を不要にして、補償金処理だけで使えるようにすべきだ」という主張がいかに無意味であるかが分かるだろう。いくら著作権法改正をして利用許諾を不要にする著作権制限規定を置いても、コンテンツをゲットするときに著作権者からいろんな条件を付けられてそれに屈したら何の意味もないからな。「はいはい、ボクちゃん、キラーコンテンツをゲットするためなら、逆立ちだって何だって言うこと聞きます!著作権制限規定なんか何にも主張しません。」って具合にな(爆)。今話題のフェアユース規定を置いたって同じことだぜ。

 ちなみに慶応義塾大の小泉直樹教授は著作権の権利制限規定について「教育目的の複製利用とか、点字、図書保存、これらについては、契約によってひっくり返すということは、少なくともなるべくあってはいけないんじゃないか。そもそも、そういう契約というのが、現に世の中にあるのかは存じませんが。」(小泉直樹「"契約で決めておけばよい”か?」著作権研究32号(2005年)54頁)と述べているが、図書館職員や図書館利用者は「はーい、はーい、ここにありますよ~。映画ソフトの貸出し問題がありますよ★」って主張してもいいくらいのことだと思うぜ!

 著作権法の学者先生方には、フェアユースの理論を議論する前に、日本図書館協会の常世田理事の「わたしたち図書館が補償金を払うための受け皿を、権利者側がつくらなきゃいけないのです。ところが実は権利者側がそれをつくっていないんです。・・・個々の契約で個別の商品についてさまざまな許諾を権利者側は図書館に対して与えているという状態です。せっかく著作権法があるのに、それが活かされてないんですね。仕方がないので、日本図書館協会ルートという、いちいち権利者と許諾契約を結んで、これとこれは図書館に置いて個人貸し出ししていいですよという仕組みをつくったということなんです。」(JLA第16回視聴覚資料研究会・平成19年10月31日 事例発表座談会 「合併に伴う視聴覚業務への影響」その③ 質疑応答 15頁)という現場の悲痛な声に耳を傾けてほしいぜ!

 ちゅーことで、残念ながら図書館業界の弱腰(というか、現場の図書館職員で今の貸出システムが著作権法ではなく契約で決まっていることを認識しているやつがどのくらいいるか知らんが)によって、図書館利用者が映画ソフトの種類によって借りられたり借りられないという事態は当分の間続きそうだわな。

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Q28:公立図書館で特許手続に必要な文献のコピーを入手したいのですが

:タイゾーさん、はじめまして。私はとあるメーカーに勤務する研究員です。普段は商品開発にたずさわっております。

 商品開発の部署では、特許取得に向けて仕事をすることがときどきあります。そんなときは、特許権をゲットするために、会社がお世話になっている弁理士さんに出願書類を書いていただいて特許庁にオンライン経由で特許出願します。その後、特許庁の審査官が素直に特許査定をすれば特許権が登録され、見事に特許権をゲットできるという流れになります。

 先日もある商品に係る発明について特許出願をし、その審査の結果を今か今かと待っていたところ、審査官から出願書類のうち明細書(特許法第36条第3項)で引用された非特許文献(特許公報以外に掲載された文献すべて。論文、書籍、パンフレット、マニュアル、新聞など)を速やかに提出しろという通知が来ました。要は、お前の発明は特許権ゲットの要件となる新規性・進歩性(特許法第29条)などを満たすかどうかをあやしいから、もってこいということです。

 発明を見る眼がない審査官だなあと思いつつも、求められた資料は孫引きしたものでしかも購入がほぼ不可能な資料だったので、ネットで調べてその資料を所蔵する公立図書館にコピーをもらいに行くことになりました。

 図書館に着いたら早速、複写申込書を書いてカウンターでコピーをお願いしました。その資料は論文集に所収されたもののうちの一編だったのですが、審査官からの指示で全頁コピーする必要がありました。その旨記入したところ、窓口の司書さんから「図書館では著作権法上、一つの著作物の半分までしか複写できません」と言われてしまいました。

 「えっ、他の利用者と違って個人的な調査研究が目的なのではなくて、国の指示で必要なんですよ」と反論したのですが、「私たちも複写したいのですが、著作権法上の規制がありますので…」という理由でその日は全頁のうち半分のコピーしかできませんでした。

 せっかく足を運んだのに無駄足になってしまったのですが、本当に著作権法上、非特許文献を公立図書館で全部分を複写することはできないのでしょうか?また図書館でコピーできないのでしょうか?国の手続でやっていることなのにできないなんて納得行かないので、宜しくお願いします。

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:特許出願か。今回はQ2の町の発明家のじじぃと違って、出願だけでなく審査請求の段階まで進んでいて、さすがに企業ということだけあってまともなようだなあ。

 さて回答だけど、結論からいうと特許手続で提出する非特許文献を全ページ複写しても著作権侵害にはならないということで、あんたに対応した図書館員は著作権法について誤った説明をしたことになる。「半分しかコピーできません」という説明は、公立図書館等において調査研究を目的とする図書館利用者の求めに応じてコピーする場合(著作権法第31条第1号)のことを言っていると思われる(なお、「半分」というのは同号中の「一部分」を図書館の運用で判断しているものである)。

 「Q22:議員立法の資料をウェブにアップしたんだけど…」でも多少説明したが、特許庁が行う特許審査の手続で必要となる場合には、必要と認められる限度で複写を行うことができる著作権法第42条第2項第1号)。この規定は平成18年改正(平成18年法律第121号)により新たに設けられたもので平成19年7月1日から施行されている。あんたに対応した司書さんはこれを知らなかっただけかもしれないなあ。この規定があるおかげで、著作権法第31条が適用される公立図書館等だけでなく、同条が適用されない企業図書館などのいわゆる専門図書館(特定の限定された目的をもつ各種の組織体によって、その所属構成員を利用対象として、組織体の目的実現に必要な施設として設置される図書館」(日本図書館協会図書館ハンドブック編集委員会編『図書館ハンドブック 第6版』(日本図書館協会、2005年)6頁))でも必要な範囲内で複写できるということになる。

 もっとも、多摩市立図書館複写拒否事件(東京地裁平成7年4月28日判決、著作権法判例百選[第3版]No.78)でも著作権法第31条第1号について「一定の要件のもとに図書館において一定の範囲での著作物を複製することができるとしたものであり、図書館に対し、複製物提供業務を行うことを義務付けたり、蔵書の複製権を与えたものではない。・・・この規定をもって、図書館利用者に図書館の蔵書の複製権あるいは一部の複製をする権利を定めた規定と解することはできない。」と判示しているように、同号の複製の主体を公立図書館等と位置づけた上で、著作権侵害を問われないとしているに止まるものだ。図書館利用者は同規定によっていわば「たまたまラッキー」な思い(法律的には反射的効果)をしているだけであり、積極的に著作権法に基づいて権利を主張することはできない。したがって、図書館側が複写をすることについて「メンドクサー」「そんなことをする知恵も勇気も金もありません」ということであれば、利用者のコピーの要求を断ることはできる。

 では図書館側が特許手続のための非特許文献を利用者のために複写することについて乗り気である場合はどうか。一著作物の全部分を複写することは可能か?

 この点、著作権第42条第2項を厳格に解釈して「著作物の利用者自らが…著作物を複製することができることを規定しているだけであり…これを根拠に、図書館等が図書館資料である著作物全部を複製して図書館等利用者に交付することができると解するのは困難ではないでしょうか。という見解がある(早稲田祐美子「Q&A 図書館等の複写と42条(他の制限規定)との関係」コピライト566号(2008年6月号)57頁)。だがこれには、さすがの俺様でもちょっと待ったー、って思うぜ。

 公立図書館等での利用者の求めに応じた複写が著作権法第31条第1号に基づき一著作物の一部分の範囲内で行うべきという原則がうざったいと思って、図書館内でのセルフコピーを利用者を複写の主体と捉え私的複製(同法第30条第1項)だから著作物の全部分を複写できるという言い逃れはカラオケ法理によって封じられるという話は「Q20:図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…」でしたよな。上記の論者もこの脱法行為を気にして、著作物の利用者が直接複写する場合に限定しているのかもしれねえな。

 だがなあ、図書館内で利用者が自らの調査研究目的で図書館資料をセルフコピーするのと、利用者が特許手続で提出するためにこの資料をコピーするのとでは意味がちがうのではないだろうか。

 つまり、前者は著作権法第31条第1号の複製の主体は図書館等であっても、調査研究を目的とする図書館利用者への提供が目的であるから、権利制限のメリットは利用者がゲットすることになる。一方で利用者が図書館資料を館内でセルフコピーすることについて利用者を主体として私的複製と法的に構成する場合も、利用者がコピーを使う目的で複写しており最終的にメリットをゲットするのは利用者だ(むしろこっちの方が、複製主体とメリットを受ける者が一致するから、理屈の上ではストレートでスッキリする)。こんな場合には、実質的に同じ目的であるにもかかわらず私的複製だから全部分複写OKとすれば、法31条で図書館資料の複製について要件を定め権利保護と利用のバランスをとったことを無意味にすることから、カラオケ法理を援用して、利用者のセルフコピーを実質的に支配する図書館を複製の主体と構成することは合理性があるといえる。

 一方で、特許手続のために行う非特許文献の複写は図書館利用者が著作物を利用する目的ではない。平成18年法改正の前に出された「文化審議会著作権分科会報告書」12頁(平成18年1月)でも述べているように「知的財産法の柱である特許法において,特許要件を満たしたものでなければ特許を与えないという非常に強い公益的な要請があり,的確・迅速な審査手続の確保の観点から非特許文献の複製について,権利制限を行うことが適当である」ことによる。図書館で非特許文献をゲットできないばかりに、新規性・進歩性がないことを確認できず、くだらない発明にまで特許を与えかねないということだな。なおこれに対しては、特許手続は出願人の私利私欲でやっているだけだから私的複製と変わりねーだろーという突込みが予想されるが、複製した著作物は直接的には特許審査のために用いられることから、あてはまらないだろう。

 したがって、法第42条第2項第1号に基づき特許手続を目的とした図書館資料の複製の主体は法第31条とは異なり図書館利用者であり、直接コピーする図書館側はここでは図書館利用者の手足を見るべきだろう。つまり法31条に基づくセルフコピーでは図書館側が主体で利用者がその手足でコピーしているのとは逆のパターンであるということになる。よって、特許手続に必要な範囲内であれば一著作物の全部分を複写しても著作権侵害を構成しないといえるだろう。それに、もし上記の論者の言うとおりであるとすれば、特許の出願人は非特許文献を購入しない限り複写できないということになり、そもそも論として法目的を達成することはほぼ不可能に近いだろう。これは特に著作権法第31条が適用されない企業図書館等で非特許文献を複写する場合と対比すればよりハッキリする。この複写は図書館や同施設の利用者の調査研究のために行うものではなく、特許審査という行政手続であり公益性の高い行為に利用されるものであり、複写場所である施設の性質は権利制限の要素ではないからだ。

 直接利用者が複写しなければ法第42条第2項は適用されないという論者の発想は、著作権の権利制限規定は著作権侵害訴訟における抗弁(言い訳)だという考え方が根強いことを裏付けるものだろう。特に侵害訴訟の当事者をお客とする弁護士さんにとってはな。権利制限規定を根拠に権利を主張することもできず、権利制限規定を根拠に身を守るしかない利用者はボクシングのサンドバック状態なのかも知れねえな。

 しかしカラオケ法理などによって著作権侵害の範囲を拡張する代わりに、著作権の権利制限規定の適用範囲を必要以上に縮小すれば、その副作用として「録画ネットやMYUTA等と関係すると思います…やり過ぎると権利制限規定に全く大穴があいてしまって空洞化してしまうことがあるのではないか」ということになってしまうだろう(奥邨弘司「第Ⅱ章 今日的主題 1 著作権の間接侵害」『法的環境動向に関する調査研究 著作権リフォーム -コンテンツの創造・保護・活用の好循環の実現に向けて- 報告書』(財団法人デジタルコンテンツ協会、平成20年3月)25-26頁)。権利制限の脱法行為は許されないが、利用目的に応じて、利用の主体の法的構成を柔軟に考えることは必要だろう。

 なお図書館現場においては、国立国会図書館が国立国会図書館資料利用規則第31条第2項第2号ハにおいて「行政庁の行う特許、意匠若しくは商標に関する審査、実用新案に関する技術的な評価又は国際出願(特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律(昭和五十三年法律第三十号)第二条に規定する国際出願をいう。) に関する国際調査若しくは国際予備審査に関する手続」の場合には図書館資料を用いて複写を行うことができるとしている。

 つうことで、図書館現場でも徐々に新しい規定に基づき運用されていくのだろうが、著作権の権利制限規定の本質論はまだまだ開拓の余地がありそうだな。著作権法学会の2008年度研究大会のテーマはフェアユース・権利制限規定であったようだが、いくら法改正で新たに権利制限規定を熱い期待をこめて設けたとしても、権利制限自体の本質や効果をまともに議論しないまま置いた場合には、窓を全開にしたままバルサンを焚いたときと同じように、マヌケな結果となることだろう。

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Q27:平成20年度新司法試験科目の著作権法の問題解説をしてください

:こんばんは。Q25で質問した新司法試験受験生です。やっと試験が終わって、ラリホー状態です。
 知的財産法もちゃんと受験しました。それにしても、タイゾーさんがヤマをはっていたカラオケ法理は見事に外れましたねえ(笑)。でも、また著作者人格権の改変の問題が出ましたね。
 法務省のウェブサイトに新司法試験の問題が公表されましたので、早速ですが解説していただけないでしょうか?よろしくです!

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:試験おつかれだったなぁ。ヤマについては予想通りはずれたが(爆)、出題範囲が狭いせいか、問題の傾向は定着している感があるな。また登場人物が何人も出ている事例問題となっている。では問題を見てみるぜ。

〔法務省ウェブサイト平成20年度新司法試験選択科目17頁より引用〕
知的財産法
【第2問】
以下の事実関係を前提として,後記の設問に答えよ。
【事実関係】
 北国のA市で生まれ育った甲は,子供のころから小説家になることを夢見て,中学生及び高校生の時に計30編の小説を執筆し,文学に関心を持つ友人と一緒に作成していた同人誌に掲載した。当該同人誌は,中学校及び高校のクラスメートに無料で配布された。甲は,高校卒業後,上京して作家となり,多くの有名な小説を発表した。
 甲がA市に住んでいたころに書いた小説は世間から注目されていなかったが,甲のファンである乙は,多大の労力と時間を掛けて,それらの小説が掲載された同人誌を収集した。そして,乙は,それらの小説の中から,甲の文学的才能を示すものと評価した15編の小説を選び,その選んだ小説を,甲が作家になった後に執筆した各小説との関連性の観点から分類して収録した「A市時代の甲小説集」を作成し,出版した(以下「乙書籍」といい,これに収録された15編の小説を「乙書籍収録小説」という。)。もっとも,乙は,乙書籍収録小説について,甲が執筆したそのままの形で乙書籍に収録したのではなく,誤記と思われる数か所の送り仮名を変更し,また,今では余り用いられず多くの人にとって意味が分からなくなった数個の言葉を同様の意味を有する現代語に入れ替えた。
 丙は,乙書籍を読んで,乙書籍収録小説に感銘を受けたが,甲が若いころから有していた文学的才能を明らかにするには,乙書籍の並べ方は適当ではないと思い,乙書籍収録小説を並び替えて収録した「甲青少年期作品集」を作成し,出版した(以下「丙書籍」という。)。丙は,乙書籍における乙書籍収録小説をそのまま丙書籍に収録したが,乙が乙書籍収録小説に変更等を施したことは知らなかった。
 A市立図書館は,乙書籍及び丙書籍を購入し,それらをA市民に貸し出している。

〔設問〕
1. 甲は,乙に対して,どのような請求をすることができるか。
2. 甲は,丙に対して,どのような請求をすることができるか。
3. 甲は,A市に対して,どのような請求をすることができるか。
4. 乙は,丙に対して,どのような請求をすることができるか。

 ぱっと見、小説家の作品をマニア2人が勝手に編集・出版して、それを公立図書館が貸出しているというものだ。しかし作品や編集物の改変をするなど、細かい論点(地雷)がごろごろしている。これをいかに見逃さずに拾い上げて書くかにより、運命が決まるだろう。それさえ気をつければ、特に深い知識を身につけなくても試験会場で貸し出される法文を利用さえすれば合格答案は書けるだろう。

 では、各設問を見てみるぜ。

設問1について
 乙が小説家の甲に無断でその作品を出版したことについては、複製権(法第21条)の侵害になるのはすぐに分かるよな。なお乙が編集したこと自体については、甲との関係では特に問題とならない。これは丙との関係で問題を設定しているから、設問4で考えればよい。なお編集著作物は翻訳、脚色等によって創作された二次的著作物(法2条第1項第11号)とは異なることから、編集著作物の作成が翻案権(法第27条)の侵害ということにはならない。また、そのように違法に作成した乙書籍を出版し流通に乗せていることから、譲渡権(法第26条第1項)の侵害が成立する。
 第2段落の「もっとも」以下についてほとんどの受験生は気づいたと思うが、これは著作者人格権の問題だ。小論点としては(1)「誤記と思われる数か所の送り仮名を変更」と(2)「今では余り用いられず多くの人にとって意味が分からなくなった数個の言葉を同様の意味を有する現代語に入れ替えた」の2つが考えられる。改変であるため同一性保持権(法第20条)の問題になるが、その例外である同条2項、もっと言えば同項第4号でいう「やむを得ないと認められる改変」に該当し適用されるかどうかによって、甲が乙に何らかの請求ができるかどうかが決まる。「やむを得ないと認められる改変」に当たるかどうかについては、「Q16:通信回線速度が遅い動画配信は著作者人格権の侵害なの?」で既に触れたよな。まず同一性保持権の立法趣旨は「当該著作物としての同一性を維持することにより、著作者の表現しようとしている思想・感情や当該著作物に対する(通常有すべき)心情、当該著作物を通じて受けるべき社会的評価などの著作者の人格的利益を保護するためのものである」(作花文雄『詳解 著作権法 第3版』(ぎょうせい、2004年)391頁)ことを忘れてはならない。そして法第20条第2項第4号が適用される例としては、①複製の技術的な手段によってやむを得ない場合(絵画印刷技術、音楽の録音技術など)、②演奏・歌唱技術の未熟等によってやむを得ない場合(練習不足、あがってしまった場合など)、③放送の技術的手段によってやむを得ない場合が挙げられている(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(2006年、著作権情報センター)176頁)。
 同項の適用に関する学説(厳格適用すべきかどうか等)としては、上野達弘・立教大准教授(「著作物の改変と著作者人格権をめぐる一考察(一)」民商法雑誌第120巻第45748-779頁、同「著作物の改変と著作者人格権をめぐる一考察(二・完)」民商法雑誌第120巻第6925-969頁等)などが詳細な論文を書いているが、司法試験ではそこまでのレベルのものを書く必要はないだろう。
 上記の(1)のケースについては、誤記と思われる送り仮名の変更であることから、上記の作花論文が指摘する著作者の著作物に対する心情や社会的評価を特に侵したり低下させるものではなく、小説の同一性を損うものではないだろう。誤記であることからその修正は機械的に行えるものであり、著作者にとっても予測されることだろう。しかもオリジナルはまともな編集を経ていない素人同人誌だしな。法第20条第1項第1号では、学校教育の目的に関してではあるが、用字や用語の変更等の改変を認めている。これとの並びで言えば、(1)についても「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」に該当するだろう。
 では(2)のケースはどうか。一見して(1)と同じように考えられそうだが、今ではあまり使われない言葉を現代語に入れ替えることは誤記と異なり、機械的にできるものではないだろう。例えば「国」という字について「國」を使うことにこだわる人がたまにいるが、多くの人が意味が分からない言葉を使うことに著作者がこだわり小説を書いているのであれば、その字体をそのまま使うことが、それこそ、その同一性を保持することが著作者の人格的利益と言えるだろう。そうすると勝手に現代語に替えることについては法20条第1項第4号は適用されず、著作者人格権を侵害したということになる。 
 なお、同人誌に掲載された小説であることから、ひょっとして公表権(法第18条)の問題かもしんねえーと思ったやつもいるかもしれねえが、「当該同人誌は,中学校及び高校のクラスメートに無料で配布された」というくらいに多数者のために作成され頒布されたことから、「その性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物」が作成・頒布されたといえ、著作物の発行に該当し(法第3条第1項)甲の同意を得て公表された状態といえるから、公表権侵害を否定しておけばよいだろう。なお、この論点は、設問3でのA市立図書館の貸出しにも影響するから要注意だ。試験委員の受けを狙って、公表権侵害を認めてみるのも、おつなものかも知れねえがな。

 ちなみに、有名サッカー選手が中学時代に書いた詩を勝手に出版したことについて公表権侵害が成立するかどうかが争われた中田英寿選手サクセス・ストーリー無断出版事件(東京地判平成12229日判時171576頁(平10(ワ)5887))においては、「公表権の侵害は、公表されていない著作物又は著作者の同意を得ないで公表された著作物が公衆に提供され又は提示された場合に認められる(著作権法一八条一項)。
 本件詩は言語の著作物(同法一〇条一項一号)であるから、これが発行された場合に公表されたといえる(同法四条一項)ところ、右の「発行」とは、その性質に応じて公衆の要求を満たす程度の部数の複製物が作成され、頒布されたことをいい(同法三条一項)、さらに、「公衆」には、特定かつ多数の者が含まれるとされている(同法二条五項)。
2 これを本件についてみるに、証拠(乙一、四)によれば、本件詩は、平成三年度の甲府市立北中学校の「学年文集」に掲載されたこと、この文集は右中学校の教諭及び同年度の卒業生に合計三〇〇部以上配布されたことが認められる。
 右認定の事実によれば、本件詩は、三〇〇名以上という多数の者の要求を満たすに足りる部数の複製物が作成されて頒布されたものといえるから、公表されたものと認められる。また、本件詩の著作者である原告は、本件詩が学年文集に掲載されることを承諾していたものであるから、これが右のような形で公表されることに同意していたということができる。」と判示しているぜ。

 そいじゃー、そんなことをした乙に対して甲は何を請求できるのか?複製権・譲渡権侵害と同一性保持権侵害の両方から見てみよう。
 複製権・譲渡権侵害については、著作権侵害という不法行為に基づく損害賠償請求権(民法第709条)、出版販売により不当に利得した利益の返還請求権(民法703条)のほか、出版の差止請求権(法第112条)を行使できる。
 同一性保持権侵害については上記のほか、勝手に改変された書籍を出版されたことについての著作者の名誉声望回復、訂正等に適当な措置を請求することができる(法第115条)。
 したがって、本問では甲は乙に対して、不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求、差止請求、名誉回復等措置を請求できるということになる。

設問2について
 これも設問1と同様に、丙が小説家の甲に無断でその作品を出版し流通させたことについては、複製権(法第21条)と譲渡権(法第26条第1項)の侵害になるのはすぐに分かるよな。むしろ問題になるのは、「今では余り用いられず多くの人にとって意味が分からなくなった数個の言葉を同様の意味を有する現代語に入れ替え」て収録した(著作者人格権を侵害した)乙書籍をそのまま丙書籍に収録して出版したことについて、著作者人格権侵害を問えるのかという問題だろう。丙自身が改変したわけではないが、違法に改変されたものを使っているんだから、問題文を読んでいる俺たちも、ちょっと引っかかるというか、気になるよなあ。
 これはまさに、侵害とみなす行為をしたのかどうか(法第113条)の問題だろう。同条第1項第2号で、著作者人格権を侵害する行為によって作成された物を情を知って頒布し、又は頒布の目的をもって所持する行為については、著作者人格権を侵害する行為とみなす旨、規定されている。

 同項では第1号は海外から海賊版を輸入した場合のいわゆる水際作戦に適用されるものだ。これに対してこの第2号は国内で海賊版を頒布した場合に適用される。第1号で輸入するときに海賊版であることを知ろうが知るまいが、過失があろうがなかろうが問答無用で侵害行為とみなされるが、第2号のほうは侵害行為によって作成された物であることを、「情を知って」頒布若しくは頒布の目的を持って所持等すれば侵害行為とみなされることになる。
 ここで「情を知って」という要件が出てきたが、その意味は「頒布、所持する物品が権利を侵害して作成されたものであるということを知っていれば足りる」とされている(加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、平成18年)654頁)。そのため、物品の購入時に海賊版であることを知っているときはもちろんのこと、入手後に権利侵害物品と知ってその後頒布した場合も権利侵害とみなされる。 

 そうすると本問では、丙は「乙が乙書籍収録小説に変更等を施したことは知らなかった」ことから、情を知って頒布したとはいえず、みなし侵害規定は適用されず、著作者人格権(同一性保持権)侵害には当たらないこということになろう。
 したがって、本問では甲は丙に対して、複製権・譲渡権侵害に関して、不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求、差止請求を行えるということになる。

設問3について 
 今度は公立図書館(を所管するA市)が相手だ。(平日の昼間から毎日図書館にやって来れるくらいに暇な)市民のために無料でいいことやっていると普段思い込んで仕事をしている図書館員どもにぜひ解いてほしい問題だよな。誰か今年の新司法試験を受験した図書館員(司書)はいないかなあ~。
 A市立図書館の著作権法上の利用行為について見てみると、購入した乙書籍と丙書籍をA市民に対して貸し出しており、複製物の貸与により公衆に提供していることから、貸与権が働く利用行為(法第26条の3)といえる。
  ここで公立図書館だからって反射的に「非営利・無料・無報酬の書籍の貸出し⇒(つまり)⇒著作権法第38条第4項の適用⇒(だから)⇒著作権者甲の許諾なく貸し出してもだいじょーぶ★⇒設問4へ」っていう展開をすると、「バイバーイ、また来年~!」って答案採点中の試験委員が胸の中でつぶやく声が耳に焼きつくぜ(笑)。それに「Q20:図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…」で取り上げた「土地宝典複写事件」判決東京地判平成20年1月31日〈平成17年(ワ)第16218号〉最高裁HP掲載)で「著作権法38条4項は,貸与権との関係を規定したものにすぎず,複製権との関係を何ら規定したものではないのであって,ましてや,貸出を受けた者において違法複製が予見できるような場合にまで,貸出者に違法複製行為に関して一切の責任を免れさせる旨を規定しているとは到底解することはできない」と判示されているように、同項は貸出利用について権利制限をしているだけであって、それ以外の著作権法上の利用行為や違法行為についてまで免除しているわけではない。
 ここはもうちょっと、図書館という具体例から引いて考えよう。この問いでは本文で、著作権者甲に無断で乙と丙がその小説を収録した書籍を出版したと書いている。つまり海賊版だわなあ。海賊版は何も中国などの海外で製作したビデオだけではないぞ。そして、この海賊版対策でよく使われるのが、設問2でも説明したみなし侵害規定(法第113条第1項)だ。

 なお、じゃあA市は著作権侵害だーって言いそうになると、「えー、図書館はビデオの海賊版と違って、お金儲けのために販売していませんよー。市民の皆さんのためにいいことやっているんですよー」っていう図書館員どものホザキが聞こえそうだがw、法第2条第1項第19号の頒布の定義規定をよく見てほしい。同号では、頒布について「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」と書いてある。つまりだなあ、無料で貸しても、それが海賊版の書籍だったらアウト!!っていうことを言ってるんだわな。
 そこで本問について見てみると、A市立図書館は乙書籍と丙書籍を購入した上で市民に貸し出している。そこで、貸し出すまでの間に同図書館(の職員)がこれらの書籍が乙・丙のそれぞれによって甲に無断で出版されたものであること、また乙が収録小説の中の「多くの人にとって意味が分からなくなった数個の言葉を同様の意味を有する現代語に入れ替えた」ことと丙書籍がそうやって作らされた乙書籍をそのまま収録したことについて知った場合には、乙書籍・丙書籍のそれぞれに関して、前者について複製権侵害、後者について同一性保持権侵害とみなされるということになる。
 したがって本問では甲はA市に対して、A市立図書館が乙書籍・丙書籍の無断出版を貸出し時までに知った場合には法第113条第1項第2号により複製権侵害とみなされるので、それぞれの著作権(複製権)侵害に関して、不法行為に基づく損害賠償請求・差止請求を、乙書籍・丙書籍の無断の現代語入れ替えについて貸出し時までに知った場合には同号により同一性保持権侵害とみなされるので、それぞれの著作者人格権(同一性保持権)侵害に関して不法行為に基づく損害賠償請求、名誉回復等措置を請求できるということになる。一方で、これらの事情について知らなかったときは、A市図書館が乙・丙書籍を非営利・無料・無報酬で貸し出していれば(図書館実務ではこれが通常だと思うが)、はじめに言った法第38条第4項が適用され、甲の貸与権は制限されるので、甲はA市に対して何も請求できない。

 図書館員どもの著作権法の関心といえば31条(図書館での複写)やせいぜい38条(非営利・無料・無報酬の上演、貸出等)についてのものだが、それらについてだけでなく著作権法制度全体の本質を勉強する必要があるというわけだな。31条の適用についてのマニアックな知識を所管省庁や研修会で質問する暇があったら、文化庁の著作権テキスト全体を読んでろっつーことだわな。

設問4について
 最後に、無断出版野郎の乙が偉そうにも、海賊版仲間(?)の丙に対してなんか請求できねえかって問題だ。
 一見ずうずうしい主張で何も請求できそうになさそうだが、こういう問いが出るということは、乙は何か著作物を作成していないかを考えてみよう。本問では一応乙は乙書籍を作成しているので、これについて著作権を主張できるのかが問題となる。

 そうするとだなあ、事実関係の第2段落で、最初に乙が甲の小説に関して「多大の労力と時間を掛けて,それらの小説が掲載された同人誌を収集した」と書いている。この点についてはこのブログで何度も書いているように、いくら「ぼく、がんばったよ!」と叫んで創作性のない行為をしても、著作権の取得は認められない。アメリカの電話帳訴訟で有名になった、いわゆる「額の汗理論」というやつだな。
 次に、やはり第2段落には「乙は,それらの小説の中から,甲の文学的才能を示すものと評価した15編の小説を選び,その選んだ小説を,甲が作家になった後に執筆した各小説との関連性の観点から分類して収録した」と書いてある。これについては、乙書籍収録小説という編集物を作成するのに、甲の小説という素材の選択と乙書籍に収録する際の配列において、「甲の文学的才能を示すものと評価」するという行為を伴い、乙書籍は編集著作物(法第12条第1項)として創作性を有するものと認められることから、乙書籍収録小説の選択・配列の創作性の範囲内で乙は著作権を有するといえる。ちなみに、 乙は甲の小説を勝手に集めて、甲に無断で出版したわけだが、このように個々の素材を無許諾で編集物に収録したとしても、その素材の著作物の権利を侵害したという問題はあるが、編集著作物としては別途保護される(作花・前掲117頁)ことから、乙が乙書籍について著作権を主張することは可能な状態と言える。

 そんでもって、丙は乙書籍収録小説を乙に無断で並び替えて丙書籍を作成・出版している。この点、英字新聞の日本語要約版の発行が編集著作物の翻案権侵害(法第27条)であるかどうかを争ったウォール・ストリート・ジャーナル事件東京高判平成61027日知裁集2631151頁(平5(ネ)3528では、「控訴人文書が被控訴人新聞の翻案であるか否かは、控訴人文書が被控訴人新聞に依拠して作成されたものであるか否か、その内容において、当該記事の核心的事項である被控訴人新聞が伝達すべき価値のあるものとして選択し、当該記事に具現化された客観的な出来事に関する表現と共通しているか否か、また、配列において、被控訴人新聞における記事等の配列と同一又は類似しているか否かなどを考慮して決すべきものと解するのが相当である。」として、素材の核心的事項が共通しているために、編集物の内容が感得し得るような場合に翻案権侵害が認められるとしている。乙が甲の作品から選択した乙書籍収録小説を核心的事項であると捉えれば、たとえ丙がこの収録の順序を並べ替えたとしても選択小説が共通している以上、丙がこれらを出版利用していることから、編集著作物としての乙書籍の著作権を侵害しているといえるだろう。

 また、無断で並び替えていることから編集著作物の創作性の中核である配列の同一性を変更したということで同一性保持権侵害ともなる。

 したがって、乙は丙に対して、乙書籍の著作権(翻案権・譲渡権)侵害と著作者人格権(同一性保持権)侵害について、不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求、差止請求、名誉回復等措置を請求できるということになる。

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 ちゅっーことで、以上今年の分の問題解説をした。前にも言ったように、おれは場末のフリーライターなので、合格発表後に公表される「問題の趣旨」とこの解説の内容が違ったからと言って、損害賠償請求~って言っても無駄だからな(笑)コメントでの議論は歓迎するがな。

 そんじゃあ、受験生はせいぜいラリホー(もしかして就職活動?)することだな

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Q20:図書館内で自由にセルフコピーをさせているのですが…

:はじめまして。私は都市部のとある公立図書館で司書をしている公務員です。たまたま図書館と著作権についてヤフーで検索していたら、このブログのQ6を見つけたので、図書館の著作権問題について質問させていただきます。

 公立図書館でコピーをする場合には著作権法31条によりある一定の条件でコピーをすることが例外的に認められているのは知っていますが、当館の利用者から図書の一部分(半分)しかコピーできないのにおかしい、コンビニでセルフコピーをしても全部分のコピーが認められるのに、時代遅れでお役所的な仕事であるとのクレームが多数ありました。

 そこで考えに考えた末、図書館の図書・雑誌のコピーは利用者が個人的に使用する目的で行われるのであるから、著作権法30条1項による私的複製によるコピーということにしようと考えつきました。これだったら複写の量の制限はありません。当館はあくまでコピー機の場所貸しをしているだけという立場に立ち、コピーは利用者とコピー機業者の間の問題であると処理することにしました。

 早速実施したところ、利用者からのコピーについてのクレームはなくなり、職員も利用者も万々歳という状況になりました。ところがそれから1年経ったころ、わが市のウェブサイトの「市民なんでも目安箱」に、当館で行っているコピーサービスは著作権侵害であり直ちにやめるべきであるとの意見が寄せられました。

 この意見に対しては、コンビニでセルフコピー機を便利に使える時代になったのに、著作権法31条は図書館利用者の利便性を阻害する時代遅れのものであるため、来館者の声を反映させて著作権法30条による複写とみなし、時代に順応した措置を行った旨回答しました。

 これに対して意見提出者から、コンビニでのコピーは100%持込み資料であるのに対して、図書館でのコピーは図書館資料を使うものであり、著作権侵害を助長する許されない行為であるとの再意見が出されました。

 一方のクレーマーを処理したと思ったら、またクレーマーが出てきて苦慮しておりますが、この「目安箱」への意見提出者の言っていることは本当なのでしょうか。よろしく御教示ください。

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A:図書館員って憧れる人が多いけど(特にインテリなのんびり系の女性に)、実際は仕事のメインがクレーマー処理っつーのも因果なものだなあ。平日の昼間からノコノコやって来る客はまともに税金も払ってねー奴が多いのにな。せめて入館料は取った方が社会貢献のためだぜ。にもかかわらず「図書館無料利用の原則は憲法で保障された人権である」という意見が図書館業界誌に載っているのを見たことがあるが・・・。

 質問だけど、「目安箱」のクレーマーが言っているとおり、あんたの図書館は著作権法上危ない橋を渡っているといわざるを得ないな

 個人利用目的で図書館のコピー機で図書館資料をセルフコピーする利用者に着目した場合、著作権法上次の2つの法的構成が考えられる。

【1】図書館が主体として著作権法31条に基づき複写を行い、利用者が図書館の手足として複写を行う考え方(『大学図書館における著作権問題Q&A(第5版)』1頁、附録3(国公私立大学図書館協力委員会大学図書館著作権検討委員会、2006)参照)

 この場合には、図書館は次の5つの要件を満たす場合に限り、利用者に著作権法31条の範囲内(図書館資料の一部分に限り複写可能等)セルフコピーを行わせることができる。

①図書館及び文献複写のために利用者の用に供する各コピー機について、管理責任者(及び運用補助者)を定める。

②コピー機の管理責任者は、司書またはそれに準じた者とする。

③図書館は、各コピー機の稼働時間を定めて掲示する。

④ コピー機の管理責任者は、管理するコピー機による文献複写の状況を随時監督できる場所で執務する。

⑤図書館は、コピー機の稼動記録を残す

【2】図書館利用者が複写の主体として個人利用目的で著作権法30条1項に基づき複写を行えるとする考え方

 なお、コンビニ設置のコピー機のように、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合には原則として私的複製から除かれるが(著作権法30条1項1号)、文書又は図画の複製に利用する場合には暫定的に適用除外されている(附則5条の2)。

 これら2つの考え方のポイントは、複写の主体をどのように捉えているかである。セルフコピー機で作業しその成果物を取得するのが利用者であることを考えれば、【2】の考え方が自然であろう。あんたの図書館もそう考えてんだろ。しかしそうするとだなあ、著作権法31条で複写の要件を定めている意味は何なのか、ということになろう。この【2】の法的構成については出版社ひつじ書房・松本功氏など)や著作権管理団体(日本複写権センター「オピニオン/図書館におけるコピーサービス」コピライト477号(2001)67頁-68頁)など)が批判をしている。

 この批判に対しては、あんたが「目安箱」で反論したように著作権法31条なんてセルフコピー機がない時代の古い規定だと言われそうだが、そうすると逆に、こんなに大量複写が可能になった時代に、(コピー機があまりなかった立法当時(昭和40年代前半)を前提にした)著作権料無料の複写を図書館(及びそれによってコピーをゲットできる利用者)に認めること自体がおかしいと言われかねないな。実際に現行著作権法を制定した加戸守行氏は図書館も一定の料金を払うべきであり31条自体が要らないと述べており、またその上司であった佐野文一郎氏に至っては「31条なんていうのは、かなり著作権思想の普及にとっては悪影響を与えているでしょうね」とまで言っている(加戸守行ほか「座談会 著作権法制100年と今後の課題」ジュリスト1160号(1999)25頁)

 では【2】の考え方を採った場合、図書館利用者は著作権法上堂々とセルフコピーを無限に行え、一方で図書館はクレームが減って、両者ともに「わたしはハッピー、あなたもラッキー」というWIN-WIN状態になるのだろうか。

 ところがどっこい、その場合でも個々の利用者のセルフコピー全体の複写の主体を図書館と捉え、複製権侵害と認定される可能性がある。その根拠となるのがカラオケ法理だ。この法理は、物理的な利用行為の主体とは言い難い者を、「著作権法上の規律の観点」を根拠として、①管理(支配)性および②営業上の利益という二つの要素に着目して規範的に利用行為の主体と評価する考え方であり、クラブ・キャッツアイ事件(最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁)において採用されたものとされている(上野達弘「いわゆる『カラオケ法理』の再検討」紋谷暢男教授古稀記念『知的財産権法と競争法の現代的展開』783頁(発明協会、2006))

 この法理を利用者のセルフコピーに適用した裁判例として、最近「土地宝典複写事件」判決東京地判平成20年1月31日〈平成17年(ワ)第16218号〉最高裁HP掲載)が出された。この事件は、土地宝典という法務局備付けの「公図」に旧土地台帳の地目・地積等の情報を追加して編集したものを法務局が利用者(主に不動産・金融機関関係の業者)に貸し出した上、同局内にある民事法務協会(法務局の天下り的な財団法人)が設置するコインコピー機で複写させることが、土地宝典の著作権侵害行為に当たるかということを争ったものである。

 この点裁判所は、コインコピー機の直接の管理者であり多数の一般人に土地宝典の複製行為をさせ利益を得ていた民事法務協会を侵害主体と認定すると同時に、法務局が同協会にコインコピー機の設置許可を与え、同設置場所の使用料を取得し、同コピー機が法務局が貸し出す図面の複写にのみ使用され、さらにコインコピー機の設置場所についても直接管理監督していることを考慮して、土地宝典の複製を禁止しなかった法務局は民事法務協会とともに複製権侵害の共同侵害主体であると認定している。さっき書いたカラオケ法理の①、②の要件を満たしているということだな。

 この判決を踏まえると、おまえの図書館も、コピー機業者にコピー機の設置許可を与え、そいつから設置使用料を徴収していれば、カラオケ法理によって図書館が各利用者の複製行為の主体と認定され、著作権侵害!!という判決をされるおそれがあるということだな。

 なお本件では、コピー機利用者は複数の公的申請の添付書類として土地宝典の写しの提出が求められ、あるいは他の書類に代えて土地宝典の写しを提出するなど業務目的で行っていることから、著作権法30条1項の私的複製とは認められていない(だからこそ、本件ではコピー機設置者の民事法務協会も、コンビニがセルフコピー機で複写されるのとは異なり、著作権侵害の主体と認定されたのだろう)。またコピーされているのは「土地宝典」という特定の著作物であり、様々な図書館資料を所蔵している図書館でのセルフコピーとは状況が異なる。

 しかし前者については、先に述べたクラブキャッツアイ事件ではカラオケの楽曲を直接歌っている客は著作権法38条1項により著作権侵害とならない(演奏権制限)ことからカラオケ法理が考えられたように、同法理が適用される場合には直接の利用者が著作権侵害であるかどうかを問わず「著作権法上の規律の観点」からその利用者を支配する間接的関与者が著作権侵害の主体と認定される。また後者については、本件事案では土地宝典という特定の著作物の著作権者(株式会社富士不動産鑑定事務所)が訴えた事案であるが、確かに図書館では多くの著作物が所蔵されており、またその中には館内で複製利用されずに貸出しをされるものがあるため、特定の著作物の著作権者が図書館を訴えることは本件に比べ困難であろう。しかし日本複写権センターのような複製権管理団体が行えば複製権侵害された著作物の特定はある程度緩和され、またどれだけ館内複写されて損害が発生したかという損害額の認定については著作権法114条の5の適用(あるいは類推適用)によりクリアーされる問題であろう。

 つうことで、Q6でも述べたが、法律上の無難さをこよなく愛する役人マインドからすれば、利用者のセルフコピーについて「そんなの関係ねぇ!」と言ってられないつーことだな。まあ、一民間人に過ぎない俺様の戯言など、ほとんど無視されるんだろうがな。

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Q18:JIS規格って著作権で保護されるの?

:おはようございます。私は石油精製会社の石油プラントで配管の保全をしている技術者です。普段は、海っぺりの工業地帯で石油コンビナートの高い鉄塔に登ったり、配管工事をしたりしています(最近は若い人の間でこういう現場を「工場萌え」という人もいるみたいですね)。過去に爆発事故で亡くなった同僚もいるので、安全第一を心がけています。

 さて、配管をするときには、それぞれの製品の材質、形状などを知るために、国家規格であるJIS(日本工業規格)の規格票を見ることが多いです。JISは業務の上で不可欠な技術文書です。仕事をするうちに、このような規格は自分の職場だけではなく、全国にいる同業の技術者が事故を未然に防ぐために知るべきではないのかと考えるようになりました。

 そこで、いまある自分の個人Webサイトのコンテンツに、JISの石油分野の規格票を掲載しました。念のために、著作権法上の問題がないか確かめるべく日本図書館協会著作権委員会編『図書館サービスと著作権 改訂第3版』(2007年、日本図書館協会)を読んだところ、「国または地方公共団体が定めるものについては、法13条2号が適用されるものと考えられますから、国が制定した」国家規格のJIS規格については「自由に利用することができると思われます」(同書23-24頁)と記載されていました。また「ただし、規格の解説や、国、地方自治体または独立行政法人以外の者が作成したその外国語訳については当てはまりません」(同書24頁)と書いてありましたが、規格票の解説を掲載するつもりはありませんので、特に問題はないと考えました。

 ところがJISをWebサイトで公開してから3ヶ月したころ、メールで匿名の方から「おれが作った規格を勝手にインターネットに公開するのは著作権侵害だぞ!」というクレームが来ました。その人によりますと、業界の利害関係者としてJIS原案を自主作成し日本工業標準調査会に審議・答申されて制定された規格については、原案作成者に著作権が帰属されるとのことです。また、JISはISO(国際標準の一つ)をもとに制定していることがあるが、ISO本部は規格が著作権であることを主張しており、JISに著作権を認めなければ世界の潮流に反すると説明していました。

 この匿名の方が言っていることは本当なのでしょうか?宜しく御教示ください。

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:オッス!石油コンビナートか。この前羽田空港の搭乗口の辺りに座っていたら、ひ弱そうな(にもかかわらず、最近は「制服」のように茶髪にしているんだよなw)若者たちが窓から見える、白煙を上げている京浜工業地帯(川崎)の石油コンビナートの鉄塔を見て「萌え~萌え~」と言っていたが、現場の大変な話を聞いたことがある俺様にとってはまっぴらだな。あんたを少し尊敬しちゃうよ。

 質問についてだけど、JIS規格は経済産業大臣が制定する、つまり国が作成するものだが、Q8でも言ったように著作権があるものとないものがあるので、それが今回問題になるな。Q16と同様に技術的な問題になるので、専門用語を解説しながら説明するぜい。

 JISについては工業標準化法(昭和24年6月1日法律第185号)で規定されている。この法律では、日本工業規格(JIS)を「主務大臣により制定された工業標準」(法11条、17条1項)、工業標準を「工業標準化のための基準」(同法第2条)、工業標準化を「鉱工業品の種類、型式等、工業標準化法第2条各号に掲げる事項を全国的に統一し、又は単純化すること」(同法第2条)としている。

 この工業標準化の意義は自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化してしまう「もの」や「事柄」について・・・技術文書として国レベルの「規格」を制定し、これを全国的に「統一」又は「単純化」することであると言える」と説明されている(日本規格協会編集「JISハンドブック 56 標準化」(財団法人日本規格協会、2002)389頁)。JISは工業標準化法に基づく手続によって制定される技術文書であり、その性格により①基本規格、②方法規格、③製品規格に区分される(日本規格協会・前掲文献 391-392頁)

 ではJISの制定プロセスはどういうものかというと「工業標準化法に基づき、主務大臣がJIS原案を日本工業標準調査会(以下、調査会という。)に付議し、調査会による調査審議を経て主務大臣に答申されたJIS原案を主務大臣が官報に公示してJISとして制定するものである。」と説明されている(日本規格協会・前掲文献 398頁)。主務大臣が制定するのであれば、著作権法13条2号の「国、地方公共団体、独立行政法人等の機関が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの」に該当し、権利の目的とならない著作物となりそうではある。

 ところがだ。先ほどの制定プロセスの説明文は次のように続く。「工業標準原案(JIS原案)の作成は、これまでは工業標準化法第11条による国主導のJIS原案の作成が主であったが、民間団体等利害関係者の積極的な関与を促すため、平成9年に工業標準化法を改正し、工業標準化法第12条による利害関係者からのJIS原案の申出手続きが簡素化された(日本規格協会・前掲文献 398頁)。ぶっちゃけ言えば、国だけではJISを作りきれなくなったので、現場の民間企業も一緒に規格を作りましょう、ということだわな。

 こういうことに備えて、財団法人日本規格協会では「国内標準化支援業務」を行っているとのことである。具体的には、日本規格協会が「JIS原案作成公募制度」で募集し、企業などの原案作成団体が日本規格協会に原案を作成し、その後経済産業省産業技術環境局基準認証ユニット(日本工業標準調査会事務局)に提出の上、日本工業標準調査会(JISC)に付議し、答申を得るという運びとなっている。

 では、民間の原案作成者にはどのようなメリットが与えられるのか。この点、日本工業標準調査会『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書』(平成12年5月29日)は、民間主導のJISの原案作成の更なる推進を提言した上で、「我が国では、規格原案作成を専業として行っている民間団体はなく、規格作成・普及だけで独立に採算を立てられる状況にはほとんどないものと考えられる」ことから「今後規格作成における民間の役割を更に強化するためには、引き続き民間における規格原案作成を支援していく一方、民間提案((工業標準化法:著者追加)12条提案)に係る規格原案作成者に著作権を残す等、規格作成に係るインセンティブを高める方策を探る」としている。そして著作権を残さなければ「電子媒体からの複写は紙媒体からよりも容易であるため、著作権による保護がない場合には、規格原案作成者が想定していない者による規格販売等の可能性が増すこととなる」としている(同報告書44頁)。

 このJISにおける民間団体作成の規格の著作権法上の取扱いを明確にするため、平成14年に『日本工業規格等に関する著作権の取扱方針について』(日本工業標準調査会標準部会・適合性評価部会議決)が定められた。

 このようにしてJISC(経済産業省)は、著作権保護という「ご褒美」を原案作成者に与えることにより、JISを維持しようと考えたようだ。

 では、民間団体が原案を作成した規格については、役所が原案を作成した場合と異なり、著作権法13条2号は適用されず「権利の目的となる著作物」となるか

 確かに国の審議会などで利用される著作物の中でも、民間企業などの第三者が作成した資料があれば著作権の対象となることはQ8で説明した。しかし、JISでは原案をもとにして更にJISCという審議会で審議し答申され国の機関で取扱われ、その成果が国家規格たる統一基準として主務大臣により制定され官報公示されるものである以上、国が一般周知を目的として作成する広報資料、調査統計資料、報告書等(著作権法32条2項参照)とは一線を画し、法令・告示等と同様に権利の目的とならないと解するべきであろう

 仮に民間団体の原案が何の修正もなくJISCの審議を通過したとしても、主務大臣がJISを制定することから、民間団体は主務大臣(国)の手足として作成したに過ぎず、規格の著作者は主務大臣(国)と見るべきである。原案作成者に対する「ご褒美」は著作権保護ではなく、工業標準化制度上の補償金などにより別途処理する必要のあるものであろう。原案作成者の利益を保護するために電子媒体からの複製を抑制することを目的にするのであれば、地形図について測量法、海図・航空図について水路業務法で規制しているのと同様に、行政上の規制を課すことにより達成することも可能であり、あえて著作権法による保護にこだわる必要はないと考えられる(日本図書館協会著作権委員会・前掲書 147-149頁参照)。

 なお、ISO(国際標準化機構)がその規格について著作権を主張していることは『ISOの知的財産権保護に関する指針及び方針』(理事会決議 42/1996で承認・(財)日本規格協会国際標準化支援センター訳)で確認することができる。ISOは各国の代表が集まる非政府機関であるため、著作権法13条2号は適用されず、日本においても保護されると解される。もっとも、ISOの規格が主務大臣が制定するJISの内容に取り込まれた場合には、アイデアレベルのものはもちろんのこと、そのJISと別個の著作物と認識されない限り、JISとして扱われる限度で権利の目的となる著作物とはならないだろう(田村善之『著作権法概説 第2版』(有斐閣、2001年)257頁、加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、2006年)138頁参照)。

 こういうことを言うと「世界のほかの国はみんな著作権を認めているぞー」と言われそうだが、著作権国際条約であるベルヌ条約第2条(4)では「立法上、行政上及び司法上の公文書並びにその公的な翻訳物に与えられる保護は、同盟国の法令の定めるところによる。」と規定しているので、特に条約違反となるものではない。

 また、JISの規格票のうち解説については、「本体及び附属書(規定)に規定した事柄、附属書(参考)に記載した事柄、並びにこれらに関連した事柄を説明するもの。ただし、規格の一部ではない。」(日本規格協会・前掲文献 61頁)とされていることから、規格とは別個の著作物でありかつ主務大臣が制定したものではないことから、著作権は認められるといえる。

 民間団体が規格を制定する場合はともかく、主務大臣が国の統一基準を制定するというプロセスを経る以上、日本の現行著作権法で保護することは困難だろう。

 以上のことから、JIS規格本体については著作権の目的となる著作物ではないことから、インターネットにアップロードしても、原則として著作権侵害とはならないと考えられる

【参照】鳥澤孝之「国家規格の著作権保護に関する考察 ―民間団体が関与した日本工業規格の制定を中心に―」知財管理 Vol.59 No.7 [2009.7]793-805頁

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Q6:公立図書館で職員が減らされているのですが…

:とある地方都市の公立図書館の職員をやっております。お役所の中ではそれほどスポットライトが当たる部署ではありませんが、利用者の方々の反応や図書館が育っていくのを日々感じ、充実した日々を送っており、誇りをもって仕事をしています。

 ところが最近、行政改革のあおりを受けて、図書館が定員削減のターゲットになっております。役所の上層部によれば、図書館を丸ごと、館長も含めて指定管理者制度を利用して、ある大手の営利企業に丸投げする計画があるとのことです。

 ここでふと思ったのが、図書館資料のコピーについてです。うちの図書館では、セルフコピー(コイン式)ではありますが、利用者に複写申込書を記入していただいた上で、コピーの前と後に複写申込書やコピーの枚数を拝見して、著作権法第31条(図書館等における複製)の要件を満たして適法な複製であるかどうかを図書館職員が確認しております。

 この点を上層部に伝えたところ、「館長が公務員でなくても図書館法上の公立図書館であることは国にも認められている。だから図書館の建物の中でコピーをすれば何も問題はない。」と言われ、取り合ってもらえませんでした。

 しかし私は一抹の不安を持っています。この上層部の幹部が言ってることは正しいのでしょうか。お知恵を拝借してください。

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:公立図書館への指定管理者制度の導入か。この前、何年かぶりに近所の図書館に行ったら、職員がみんな大手書店のエプロンを付けていて驚いたなあ。棚にあった本を思わず買いそうになったよw おれも図書館のバイトでコピー取りをしていたが、本庁や教育委員会の幹部から見れば、図書館なんて楽な出先の仕事なんだろうなあ。確かに当たっている面はあるが。

 結論から言うとなあ、指定管理の状況にもよるが、あんたの幹部は「勇気ある決断」をしたと思うよ(爆)。あ、これは賞賛ではなく、皮肉なので、誤解なきよう…

 まず、あんたが言っている、著作権法第31条の適用要件(コピーを利用者に提供する場合)を確認してみよう。

1.図書館その他の施設で政令で定めるもの(図書館等)においては

2.営利を目的としない事業として

3.図書館等の図書、記録その他の資料(図書館資料)を

4.図書館等の利用者の求めに応じて、調査研究のために、公表された著作物の一部分(バックナンバーの雑誌の場合は一記事の全部)のコピーを1人につき1部提供する場合

 1の要件から確認するとなあ、これはコピー機が図書館の建物の中にさえあれば、それでよしというものではない。加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、平成18年)237頁(現行著作権法のバイブル的書物)によれば、「本条で「おいては」という書き方をしておりますのは、物理的な複製の場所が図書館等の施設内であることを意味しているのでは必ずしもなく、複製事業の主体が図書館等であることを必要とする意味でございます。」と説明している。つまり、「図書館その他の施設で政令で定めるもの」が複製事業の法律的・経済的主体であることを要することを意味する。

 あんたのお偉いさんが自信を持っているのは、東京の図書館をもっとよくする会の「指定管理者制度とこれからの図書館運営のあり方」で述べているように次の説明が国からされていることによるものだろうな。

 平成16年7月23日、文部科学省は、構造改革特区第5次提案に対する大阪府大東市の「指定管理者制度を活用する公立図書館の館長・専門的職員等の設置規制の弾力的運用」提案について、「現行の規定により可能」とし「指定管理者を活用する図書館においては図書館法13条第1項に定める館長の必置規定(図書館法13条第1項及び図書館の設置及び運営上の望ましい基準二(八)に定める専門的職員等の設置の規定)を弾力的に運用することとし、指定管理者となった者が地方公共団体の条例で定める範囲内で、全体的かつ包括的管理運営の実施を可能とする」と回答した。

※文部科学省の回答の内容については、山中湖情報創造館「指定管理者制度にもとづく公立図書館の運営について」を参照

 館長を含めて指定管理者に丸投げすることの図書館法上の疑義について、「東京の図書館をもっとよくする会」のサイトでも指摘されているが、所管官庁が「それでいいんだ!」って強行突破するのであれば、図書館法上の図書館(「図書館その他の施設で政令で定めるもの」の一つ)として、1の要件を満たすかも知れんな。

 だがなあ、委託先の営利企業が複写サービスの一切を行い、料金も収受している場合はどうだろう。つまり、2の要件を満たすのかということだな。

 この点、国立国会図書館は、複写委託の業者の対象から営利企業を除いている。平成14年の国立国会図書館法改正において、同法第21条第3項を「館長は、その定めるところにより、…複写に関する事務の一部(以下「複写事務」という。)を、営利を目的としない法人に委託することができる。」と規定した。

 その理由は「改正法の委託制度は、収受した複写料金を受託者に帰属させるものであるので、営利を目的とする法人が受託者として複写事務を行うことは、実質的に上記の著作権法第三十一条の要件を逸脱するおそれがあるからである。」と説明している(「国立国会図書館法の一部改正について(解説)」国立国会図書館月報495号23頁(2002年))。

 指定管理者の場合、「普通地方公共団体は、適当と認めるときは、指定管理者にその管理する公の施設の利用に係る料金(次項において「利用料金」という。)を当該指定管理者の収入として収受させることができる。」(地方自治法第244条の2第8項)とする。

 そうするとだなあ、営利企業が指定管理者となった場合、営利を目的とする事業として行っていることになり、著作権法第31条は適用されず、コピーにおいて原則どおり著作権者の許諾を得ないとならないという可能性があるというわけだな。

 現に営利企業にコピーの料金収受も含めて図書館運営を丸投げしている場合、著作権侵害続行中!!という可能性もあるわけだ(爆)。

 つうことで、法律を無難にこなしたい役人マインドからすれば慎重になれって、お偉いさんに言っといてくれや。

 こういうことを言うと、「著作権法改正!」とか「規制特区認めてくれ!」というバ…、いや、ご不安に思われる方々がいらっしゃるが(笑)、権利制限の法改正については国際条約(ベルヌ条約)の制約があり(同条約第9条(2))、また著作権を規制と言うのは、人の家に侵入するのを住人が止めた場合に侵入者が「おれの高級豪邸で一夜寝る夢を規制している」って言うのに等しいなw

*参照 社団法人日本書籍出版協会著作・出版権委員会『国立国会図書館における複写事務の委託に関する法律等の整備に対する意見について』(平成13年11月30日)

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