学校教育

Q21:大学入試問題をニュースサイトに掲載したいのですが

:こんちは。あっしは、有名新聞社で記者をやっている者です。地方支局勤務のときに、地元の県庁職員の高給ぶりをスクープしたのが公務員バッシングの世論の流れで評価されて、いまは東京本社の記者にのし上っています。「高給」とは言っても、年収1千万円台プレーヤーのあっしには程遠いのですが(笑)

 ところで、今年もセンター試験を皮切りに大学入試シーズンが到来したので、終了した大学入試の問題を新聞に載せることがあります。センター試験は何面も割いて掲載しますが、個別の各大学についてまでは紙面のスペースがないので、新聞社のニュースサイトに掲載するのがここ数年の通例となっています

 あと最近は、英語のリスニング問題が普及していますよねえ。そこで紙面ではできないネット版の長所を生かして、リスニング問題の朗読の音声を流そうかと考えました。これを上司に伝えたところ「音声をネットで流すのは、著作権法上まずいだろう」と言われました。

 この上司が言ったことは本当なのでしょうか?どこがどうまずいのか、いいのか、教えてください。

==========================

:1千万円プレーヤーか。公務員バッシングより先に、自己反省してマスコミバッシングしろよ。あと記者クラブ制の問題もな。「しばり」とか「解禁日」とか「ラテ」(カフェラテのことではないw)とかの業界用語を使って、国民様に対する情報統制をしているくせによー。

 質問だけどなあ、音声を流すどころか、入試問題を掲載すること自体危ういものだぜ。

 入試問題は基本的に各大学が作成するので、問題文自体は大学が著作権を持つ。したがって、ほとんどの場合は大学の許可をもらってネットに問題文をアップすれば特に著作権侵害になることはない。これは文章であろうが、リスニング問題のような音声であろうが特に問わない。この少子化の時代にあっては、大学はお前らマスコミに宣伝してもらいたいという弱みを持っているだろうから、そう邪険にはしないだろうしな。

 しかし、入試問題で大学以外の第三者が作成した著作物(文章、音声など)を利用している場合にはちょっと待ったーってことになる。国語や英語に出題される小説や論説はその典型例だ。これらは大学ではなくそれぞれの作品の著作権者(小説家など)が権利を持つため、大学からOKをもらっただけでは足りない。

 えっ、同じ入試問題に載っているんだったら一緒じゃないのかって?だがなあ、同じペーパーに書かれていても、著作権法上は別々の著作物が並んでいるに過ぎないので、著作物ごとに判断すべきということになる。それに大学も小説文や論説文については、お前らと同じ著作物の利用者の立場で原則として許可を得ないと使えないはずである。ただ、著作権法上、入試問題に利用する場合には必要な限度で無断で使えると規定されているので(法36条1項)、使えるだけのことだ。事前に許可を求めに行ったら、入試の内容が漏れるからなあ。勘違いしないで欲しいのは、この規定が適用されるのは入試を行う学校であって、その問題を試験終了後に利用する者には適用されない。大学入試の過去問を掲載して出版していた赤本は過去にその点を著作権者から指摘されたことがあるぞ。

 俺たちゃ大手マスコミ様は報道の自由という国民の知る権利のために、何でもかんでも映像や文章を使える著作権法上の特権があるはずじゃないかって?それは勘違い野郎のホザキとしか言いようがねえな。

 確かに著作権法41条では「時事の事件の報道のための利用」について著作権を制限する特別規定がある。それによれば、①当該事件を構成するものや、②当該事件の過程において見られ聞かれる著作物については、事件の報道に伴って利用できるとしている。入試であれば、センター試験会場の○○大学の試験開始の受験生の様子を映した映像や、△△大学の入試の国語問題に流行作家の小説が出題され話題になったということであれば①に該当するだろう。また試験会場にたまたま絵画が飾られていてそれが映像に残った場合などは②に該当するだろう。この規定においては報道の方法を問わないので、新聞・テレビ報道だけではなく、インターネットで流す場合も適用される。

 では入試問題の掲載は、法41条で規定する「時事の報道する場合」であり、かつ「報道の目的上正当な範囲内」の利用といえるのか?

 この点、著作権法の立法担当者である加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、2006年)286頁では「時事の事件を報道する場合というのは、客観的に判断して時事の事件と認められるような報道でなければならず、著作物の利用が眼目であって、意図的に時事の事件と称して利用することは許されません」としている。その判断基準として、過去の記録的な価値ということではなく、その日におけるニュースとしての価値を持つかどうかの問題であるとしている。

 また「正当な範囲内」については、同書287-288頁で「報道するために本当に必要かどうか、著作物の本来的利用と衝突しないかどうかで判断」すべきとしている。

 そうするとだなあ、入試問題に掲載された小説の問題に関して「入試にミス発見!!」など何か事件を報道する場合はまだしも、単に受験生が答え合わせするのに便利にするためにニュースサイトにアップするのは時事の事件の報道とは言えず、また正当な範囲内の利用ともいえないので、法41条によって著作権制限の適用を受けるのは厳しいかもな。著作権のことを何も知らない小説家の作品が載ってるんだったらまだいいが、ある日突然芥川賞作家が「図書館の次はマスコミかい」とか言って著作権侵害訴訟を起こすかもしれないぜ。

 つうことで、まだ掲載準備中の大学があったら、ダッシュで掲載作品の著作権許諾をえることだな。「そんなことする時間はないし、他社に抜かれる~」と言われてもだなあ、著作権法上のいいわけにはならないぜ(笑)

Q10:公立高入試問題を情報公開請求される前にネットで公開したいのですが

:こんにちは。私は教育委員会事務局に今年配属された新人公務員です。

 役所に入って初めて知ったのですが、情報公開請求って、される方って多いのですね。それも、単に職員の裁量ではなくて、県の情報公開条例にしたがって行政処分として情報公開の開示決定をしないといけないと知って、少し驚きました。

 部署で多い請求文書としては、公立高校の入試問題があります。件数的に多いので、結構大変です。請求があるたびに入試問題をコピーしないといけないし、上司や情報公開担当部署に説明して決裁をとらないといけないし。

 こんなに多いのなら、いっそのこと、入試問題をインターネットにアップロードして、請求される方の手間を省いたほうが、情報公開度を上げていいのでは、と考えるようになりました。

 でも入試問題は、普通の行政文書とちがって、小説とかエッセイのような小説家の文章が載っていますよね。こういうものを小説家の方々に断らないで情報公開請求のためにコピーしたり、インターネットにアップすることってできるのですか?教えてください。

==========================

:おっす!情報公開制度って、ほんとは行政に対する市民の監視や行政の民主化・透明化を目的としているが、ほとんどがマスコミの取材活動やマニアックな市民の道楽に使われていて、悲しいことだな。入試問題の情報公開請求だって、てめえの子どものために私的につかっているだけだしな。

 さて、Q8の暇人が平日の昼間から国の審議会に傍聴に言って、議事録や配布資料を即日ネットにアップすることについては、著作権法的には厳しいと書いたが、お前のような行政の職員が情報公開条例に基づいて開示決定を行う場合は別だ。

 具体的には著作権法42条の2により、情報公開条例の規定により著作物を公衆に提供・提示することを目的として同条例で定める方法により開示するために必要と認められる限度で、当該著作物を利用することができると規定されている。

 したがって、情報公開請求に基づいて請求者に対して開示決定された入試問題を閲覧するために複写し、またその複写物を提供することは、同規定により著作権者に断りなく行うことができる。国語の入試問題のように、小説家の作品が掲載されていても、それは同じだ。

 では、請求される前に予めインターネットに入試問題をアップすることはどうか。情報公開制度は請求者の開示請求及びそれに対する開示決定により行われるのが基本である。したがって、情報公開を目的としていても、予めネットにアップすることについて、著作権法42条の2は適用されない。原則に戻って、著作権者の利用許諾が必要となる。もちろん、県の職員が作成した問題文については、職務著作(著作権法15条)として県がネットのアップロードについて決定することができる場合があるだろうがな。

 なお、入試問題に小説家等の他人の著作物を利用することは、著作権法36条1項により許諾が必要ないと規定されている。いちいち許諾を得ていたら、問題が漏洩しちまうからな。だが、その入試が終わった後に過去問題として利用することまでこの規定で許されているわけではないので、その際は原則に戻って、許諾が必要となる。

 前にも言ったよな。許諾がいらないというラッキーな思いをするには、条件があるんだって。同じ入試問題でも、条件を満たさない利用については、著作権法36条1項という権利制限規定は適用されないわけだ。

 「ふんじゃあ、過去入試問題の活用ができなくなるよー」っていう悲鳴が聞こえてきそうだ。しかしこれについては、東京私立中学高等学校協会の有志が中心となって「著作権利用等に係る教育NPO」が、平成16年12月から小説家の団体である社団法人日本文藝家協会との間で運用している「私立中学高等学校における包括的な補償金制度」による過去入試問題の著作権処理が参考になるだろう。

*参照:文化審議会著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第3回)議事録・配付資料1-2

 つうことで、役人には大変だが、入試問題をアップするときは権利関係をよく確認しないといけないな。情報公開制度を超えて過去問を活用したいと考えたときは、地道な著作権処理・運用を行うんだな。

Q7:大学の学内共有サーバーにソフトを溜め込みたいと言われているのですが

:タイゾーさん、はじめまして。ぼくはとある地方の国立の理系大学で仕事をする、しがない事務職員です。毎日、天才と思い込んでいる研究者どもから膨大な研究費要求をはじめとした無理難題を押し付けられ、発狂しそうな毎日です。

 さてさて、とある日のこと、事務室にある研究室のメンバーがやってきて、教授から「学内のそれぞれの研究室にあるソフトウェアをみんなで共有して研究環境を飛躍的に改善したいので、でかいサーバーを買ってくれ」と言われました。うちの研究員が作ったものだけでなく、市販ソフトも入れたいとのことです。

 そこで「先生、そんなのまずいですよ。某国立大学なんて、違法ソフトをコピーしたということで著作権団体から裁判所から処分をくらっているんですよ。」と言ったところ、

「けしからん!それは憲法で保障された大学の学問の自由を侵害するものだ。第一、ソフトウェアを作った技術者は大学で使われることに誇りを持つはずであり、文句を言うわけがない。クレームを言っているのは、裏で儲けている著作権団体だけであって、真の権利者であるクリエーターの意向に反している」と、理系人特有の屁理屈で反論されました。

 さらに、教授の後ろにいた助教が「大学のような教育現場では、教育のために使うのであれば、ソフトウェアのような著作物をコピーするのは例外的に許されているんですよ」と言われました。

 研究者のやつらが言っていることは本当なのでしょうか。辞職願を書くか、ソフトウェア著作権団体のBSA(ビジネス ソフトウェア アライアンス)に不正として通報するかで悩んでいる今日このごろです・・・

==========================

:辞職するくらいだったら、先にBSAに通報して謝礼をもらった方が得だぜ(笑)

 あんたが教授たちに言った裁判所の処分とは、次のことだよなあ?

 リリース記事 2005/09/15 中国地方の国立大学に証拠保全を実施(BSAウェブサイト)

 これは、てめえんとこの教授どもと同じように、大学でアドビやら一太郎やらを「違法」にコピーしたところ、裁判所の手入れが入ったというものだ。教授たちが言うように、コピーをすることが憲法上保障されるとか、著作権法上例外的に許されている、というのであれば、この「中国地方の国立大学」とやらが、BSAからの証拠保全請求に屈することはなかったはずだ。それではどの点が違法だったのか?

 大学の研究のためにコピーすることが、憲法上の学問の自由(憲法第23条)で保障されるか?研究自体は保障されるだろう。だが一方で、コピーのもととなるソフトウェアを創作した者は、著作権という財産権を有し、憲法第29条第1項で保障されることになる。ここで2つの憲法上の権利が対立することになるが、その場合は人権相互の抑制均衡が働くことになる。学問の自由と言えども、「公共の福祉」に服して権利が制限される場合があるということだ。どうしてもコピーを禁止する著作権法の規定が憲法違反だと教授どもが主張するなら、著作権者から差止請求されたときに憲法訴訟を起こすことだな。

 次にゴマスリ助教が言っていた著作権法上の例外だが、おそらく著作権法第35条第1項(学校その他の教育機関における複製等)のことを言っているんだろうなあ。

 だがなあ、Q6でも言ったように、この権利制限の適用を受けてラッキーな思いをするには条件がある。この場合は、次の条件を満たす必要がある。

1.学校その他の教育機関において

2.教育を担任する者及び授業を受ける者

3.その授業の過程における使用に供することを目的とする場合

4.必要と認められる限度

5.当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数、態様に照らし著作権者の利益を不当に害することがないこと

 大学で教授が行うという点では、1,2の要件を満たすだろう。だがなあ、大学での研究自体は授業じゃないよなあ。少なくとも、大学内の教員、研究員が自分の研究のために利用することは授業ではない。また、学内共有サーバーにソフトウェアをインストールして学内の研究者が使えるようにすることは、5の要件を満たさない。ソフトウェアは、一台につき一つずつインストールして利用することを想定して販売されることが通常だからだ。

 よって、ソフトウェアを学内サーバーにインストールしてみんなで使えるようにするには、ソフトウェアの著作権者の許諾を得なければならない(ここがポイント。逆に言えば、許諾さえゲットすれば、済む話ではある。結構忘れがちだが…)。

 なお教授が「ソフトウェアを作った技術者は大学で使われることに誇りを持つはずであり、文句を言うわけがない。」と言っているが、これは民事法上の契約で言えば、単なる許諾の推測であって、著作権者の意思表示は何も表示されていない。許諾の意思が表示されていないのに勝手に利用すれば、著作権法上違法と言うことになる。確かに著作権は事後許諾がOKではあるが。

 著作物の利用ではそんな「作ったやつは利用してよいと思っているはずだ」という思い込みが横行しているが、それは片思いの女性に「あの子は俺のことを好きなはずだ」と考えて行動するのと等しいだろう。

 つうことで、以上のことを教授たちに言ってみろ。それでもだめなら、BSAに通報するか、転職するか、省庁への転進希望を出して何十年か後に大学理事として学内規律を正してくれや。

Q5:卒業式でのビデオ撮りをやめさせたいのですが…

:はじめまして。私は教師生活25年で、とある高校で校長をやっております。

 さて我が校でももうじき卒業式を挙行する予定ですが、毎年頭を痛めるのが、君が代斉唱と日の丸掲揚です。上からの通達でどちらも実施しないとなりませんが、組合に入っている教員たちからブーイングが起こり、ボイコットされるので、なかなか実施できません。さりとて実施していないことが発覚すれば、上から懲戒処分を食らうは、保守系マスコミや右翼から叩かれるのは目に見えています。

 発覚さえしなければいいのですが、そこで困ったのが親のビデオ撮りです。ハンディカム片手に生徒の晴れ姿を撮るのはほほえましいのですが、卒業式のシーンの中で、何を飾っているいないか、何を歌ったのか歌っていないのかが分かってしまうからです。それに噂によると、マスコミが各校の卒業式を取材し、親から録画ビデオを入手しているとのことです。校長の裁量権によりビデオ撮りを禁止することも考えましたが、親から反発を買いそうです。

 しかしよく考えてみれば、卒業式では音楽を演奏し、生徒が歌を歌い、また生徒の顔などが撮られることから、著作権法上の問題がありますよねえ。そこで著作権法を理由に卒業式のビデオ撮りをやめさせることができるでしょうか。宜しくお願いします。

==========================

:学校の管理職が、組合対策でヒーヒー言っているなんて、幻滅しちゃうねえ。。。

 あのなあ、結論から言うとなあ、親たちが家で子どもの記録を後で見るために撮影する分には、特に問題はない。こういうのが私的複製という例外規定にあるんだということは、Q4「映画盗撮」でも言ったよな。

 まず、卒業式では誰に著作権が発生するのかを整理しよう。

 演奏する音楽については、作詞家と作曲家の著作権が問題となる(君が代自体については、既に著作権が切れている)。ピアノの演奏や歌の斉唱については、ピアノを弾いている先生や歌っている生徒に実演家としての権利(著作隣接権)が発生する。生徒の顔が映ることについては、特に著作権は発生しない。これは肖像権という一般民事法上主張される権利であり、判例で認められたものであって、著作権法の規定にはない権利である。

 では、当初は家で観るために撮影したビデオを、マスコミに渡した場合はどうなるのか。その場合は、複製の目的が個人的・家庭内を超えるものとなり、もはや私的複製とは言えないので、原則どおり、権利者の許諾がなければ撮影できないことになる。

 それでは、校長であるお前は、作詞・作曲家や先生・生徒に代わって(マスコミにビデオが渡る可能性があり)著作(隣接)権侵害であることを理由に、撮影を禁止することはできるか。

 それはできない。なぜなら、著作権侵害は親告罪で権利を持つものしか主張できない(著作権法第119条第1号、第123条第1項)、お前は著作権法上、何も権利を持っていないからだ。著作権侵害の可能性がある、あるいはマスコミに報じられて学校運営が混乱する可能性があることを理由に撮影を禁止するのであれば、素直に校長裁量で決定した方がいいだろう。

 あんたの苦しい立場は分かったが、著作権をそのように規制法と扱って、己の命令を正当化するためのスケープゴートにはして欲しくないな。著作権とは、創作者を尊重し、文化の発展の恩恵を互いに享受するための権利なのだから。その意味で、文化庁の著作権教育事業や、著作権イベント「実践!著作権」を見習ってほしいものだな。