フランス

Q13:星の王子さまってフランスでは著作権があるの?

:タイゾーさん、こんにちは。Q3Q4Q9で回答していただいた乙女です。『ピリ辛著作権相談室』を毎日読んでいたせいか、最近は著作権の勉強にはまりつつあります。今日は、Q3で回答してくださった星の王子さまの著作権の保護期間について再度質問したいと思います。

インターネットで、『読売新聞』「大手町博士のゼミナール 著作権の保護期間」(2006年11月21日付)を読んだところ、当時の文化庁著作権課長の甲野正道さんが「フランスなどでは著作権が保護されているサン・テグジュペリの『星の王子さま』などの作品が、日本では保護期間が過ぎたために自由に翻訳され、新訳本として出版されるケースが出ています」と発言されています。

これを読んで驚いてしまいました。フランスでは著作権者の許諾がなければ『星の王子さま』を翻訳できないのですか?日本でできてフランスではできないって、どういうことですか?ぜひぜひ教えてください。

P.S.こんどぜひ、いっしょに著作権のお話でもしながら、お茶でもしましょう。このブログに載せてもいいですよ★

A:オッス!著作権にはまるっていうのは、チャンスかもしれないぜ。これだけ著作権が話題になっているのに著作権を理解しているやつはめったにいないから、数年前なんて「この著作権法改正で輸入CDがストップする!」というデマを真に受けたバ・・・、ではなくて御心配性な方々が一流マスコミも含めて続出したぐらいだしな(爆)。普通のOLさんが会社幹部の前でこのブログの内容のレベルのことをスラスラ言ったら、ビックリするぜ。

質問に入るが、甲野課長が言っていることは本当だぜ。前にも言ったとおり、日本では著作権の保護期間は著作者の死後50年だが(著作権法第51条第2項)、フランスでは死後70年となっている(知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律第123条の1条第2項)。これは欧州委員会理事会指令の一つである著作権及び特定の関連する権利の保護期間を調和させる1993年10月29日の理事会指令」( COUNCIL DIRECTIVE 93/98/EEC of 29 October 1993 harmonizing the term of protection of copyright and certain related rights )第1条第1項で規定され、EU加盟国であるフランスもこれに合わせたことによる。

ここまで言うと、多少著作権を知っているやつは「あれ、ベルヌ条約では死後50年ではないの?」と思うやつがいるかもしれないな。確かにそれは正解であり(同条約第7条(1))日本もそれに従っているが、同条約では死後50年よりも長い保護期間を加盟国が立法で定めることを認めている(同条約第7条(6))ので、死後70年が条約違反ということにはならない

この点、1993年の保護期間の理事会指令の前文(5)では「ベルヌ条約に定める最低限の保護期間、すなわち著作者の生存間及びその死後50年は、著作者とその子孫の最初の2世代に保護を与えることを意図したものであり、共同体における平均寿命はより長くなっており、この期間はもはや2世代を保護するには不十分であるところにまで至っている」と書かれている。日本で保護期間延長論者が子孫に残すことを延長の根拠としているのは、この規定も関わっていそうだな。

それではフランスでは死後70年保護されるフランス人の著作物は、日本でも死後70年まで保護されるのか?

この点、ベルヌ条約第7条(8)では「保護期間は、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる」と規定している。つまり、死後50年だけ保護される日本においては、フランス人の著作物も同じ期間しか保護されないということになる。質問にあった甲野課長のコメントの通り、フランスでは著作権者の許諾がないと翻訳できないのに、日本では自由に翻訳できてラッキー、という状況が生まれるというわけだな。

その代わりに、同項ただし書きでは、「保護期間は、著作物の本国において定められる保護期間を超えることはない。」と規定されている。つまり、外国人の著作物の保護期間については、そいつの本国の保護期間が自国より短い場合は、その短い分だけ著作権を保護してあげれば足りるということだな。こういうのを、相互主義という。

だから、日本ではサンテグジュペリの作品を自由に翻訳できてラッキーと思っていても、フランスでは1945年9月10日に(認定)死亡したサンテグジュペリ*注や同じ時期に亡くなったEU諸国やアメリカの国民の作品が保護される一方で、同じ時期に死亡した日本人の作品はコピーされ放題ということになる

「保護期間は何がなんでも50年」とか「日本が率先して保護期間70年の先進国の潮流を止めよ」というのは勝手だが、著作物の最大の市場がEUやアメリカであることを考えれば、やみくもに保護期間について独自性を貫くのは、日本がこれから著作物を外国に輸出しようと考えるのであれば、将来に悔恨を残すことになるかもしれないな

たまに、みかん箱の上で必死にもの書きをしておまんま食い上げ寸前の俺様と違って、悠長なアーティストや作家が「みんなに使ってもらって、名誉だけ得られればそれで足りるから保護期間はいらない」とか言っている世間知らずがいるが、そういうやつはQ12で言ったように著作権を放棄すればいいのだから、保護期間の延長に反対する根拠にはならないだろうな。

保護期間を伸ばしたい著作者と伸ばしたくない著作者が対立したら、制度上は伸ばしておいて、伸ばしたくないやつや著作権を放棄したいやつは、個別に(後で権利の放棄を撤回できないように)公的な権利放棄の登録をして、みんなに使って欲しい、名誉だけで満足という思いを達成すればいいんじゃねーの。著作権の発生が無方式主義である以上な。

現にこの点について、文化審議会著作権分科会 第6回・過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(平成19年7月27日開催)において、上野委員が「もし保護期間を延長することになりますと、すべての著作者の著作物について一律に保護期間を延長することになりますので、自分の作品はどんどん使ってもらいたいというクリエイターさんの著作物の保護期間も延長されることになります。そのため、保護期間を延長してしまうと、そのような著作物がかえって利用されないことになってしまって不都合だというような声をよく耳にするわけであります。
 ただ、著作権というのはあくまで私権でありますから、財産権として自由に処分していいはずであります。ですから、そういうクリエイターさんは自分の著作権を放棄すればいいのではないかと思うわけであります。」と言ってるぜ。

P.S. お誘いありがとう。ちょっと考えておくぜ。

*注:サンテグジュペリがフランスのために死亡(戦死)したことが死亡証明書から判明する場合には、フランスにおいては著作権保護期間が通常より30年延長される(知的所有権法典に関する1992年7月1日の法律第123条の10条第1項)

【参考文献】

『欧州委員会理事会指令』〔駒田泰土訳〕(社団法人著作権情報センター、1996年)35-43頁

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Q3:星の王子さまの新訳本ブームの背景

Q:タイゾーさん、はじめまして。私は昨年4月に大学の仏文科を卒業して就職した24歳の乙女です。

この前、職場の休み時間にフランス語の資料を読んでいたら、職場の先輩から、「フランス語を読むんだったら、星の王子さまの翻訳もしたのかなあ?」「それの昨年の新訳本ブームって、著作権法によって作られたものだからねえ」っておっしゃっていました。

私は昨年、新潮社から出た「星の王子さま」の文庫本を買いましたが、確かに昨年はいろんな出版社から「星の王子さま」の本が出ましたね。そもそもフランス語の本の翻訳って、勝手にしてはいけないのですか?また先輩が言っていた、ブームが著作権法によって作られた、とはどういう意味なのか、教えてください。

A:新人さんに、薀蓄を垂れる先輩かあ。俺もそんな環境に身を置きたいものだな。

質問に入るけど、外国語作品の翻訳については、著作権者の権利の一つである翻訳権(著作権法27条)が働く(こういう利用の形態に応じて働く権利を「支分権」という)。だから「星の王子さま」を創作したサン=テグジュペリまたはその相続人の許諾を得る必要がある。でも、著作権は有体物(自動車、野菜、パソコンなど)とは異なり、永久に続くものではない。ある一定の保護される期間を経過すれば消滅する。これを「保護期間」という。

日本の著作権法では、著作者の死後50年経過したときに著作権が消滅すると規定されている(52条1項)。これはサン=テグジュペリのようなフランス人が書いたものについても適用されるんだ。日本国内ではね。

これを「星の王子さま」について単純に当てはめる。サン=テグジュペリが死亡したのは、1945年9月10日(認定死亡時)。著作権法では、保護期間の起算点は死亡日の翌年の1月1日から計算するので(57条)、1995年12月31日まで著作権が働き、その翌日の1996年1月1日から自由に使えることになる。出版社にとっては、著作権者の許諾を得なくてもベストセラーの翻訳本を出せるので、一大ビジネス・チャンスだよね。

でも新訳本ブームは、1996年には起こらなかった。それはなぜか?

その原因は著作権保護期間の「戦時加算」だ。戦時加算とは、日本が第2次大戦後の連合国軍占領状態から主権回復するためのサンフランシスコ平和条約の締結に当たり、太平洋戦争中で著作権を行使できなかった期間を戦時中の外国の著作物の保護期間に加算するというものである。太平洋戦争前から存在する著作物については、戦争開始時から平和条約発効前日まで、戦時中に発生した著作物については、著作権発生時から平和条約発効前日までの期間が加算される(連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律第4条1・2項)。

「星の王子さま」はどうかというと、創作されたのが1943年4月6日(初版発行時)と仮定した場合、フランスに対して平和条約が発効したのは1952年4月28日(昭和27年内閣告示第1号・外務省告示第10号(昭和27年4月28日官報号外第51号))なので、戦時加算期間は3310日となる。これを本来の保護期間終了時である1995年12月31日に足し算すると、最終的な保護期間終了時は、2005年1月22日ということになるんだ。よって、同月23日以降が翻訳が自由になる日になると一般的に解されている。かくて「新訳本ブーム」が起きたというわけだ。

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